猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第5話

『ヨーク戦記』

第5話 鳴動



「……………」
フラムエルクの中央司令室。
先ほど届いたばかりの報告書を見ながら、ロアは小さくため息をついた。
続けてミナリーに無言でそれを手渡す。
「……とうとう始まっちゃいましたね……」
ロアの表情からだいたいの見当がついていたのだろう、冒頭の部分を読んだだけで辛そうに呟くミナリー。
そこに書かれている内容は、要約すればただ一つ。
リンバーグ公国、アガルティア王国に対して宣戦を布告……その一点だった。
「これで世界大戦は避けられなくなったな……。急いでガルナ達に、この事を伝達してくれ、ミナリー。たしか今頃は哨戒中のはずだ」
「あ、はいっ」
ミナリーが通信士の方に走っていくのを見送りながら、そのまま司令室全体を眺めるロア。
『これから大変だな、まったく……』
今はまだ静かなこの司令室だが、まもなく凄まじいほどの喧騒に包まれるだろう。
それを想像するだけでうんざりした気持ちが湧き上がってきて、ロアはただ無言で首を振るのだった。

それから数日間、中央司令室はロアの想像した以上の喧騒に包まれていた。
正しい情報と誤報とが無差別に飛びかい、オペレーター達の悲鳴と怒声があちこちで発生する。
「何でもかんでもこっちへよこすな!!少しはそっちで処理してくれっ!!」
「無茶言うな、このバカ!!こっちだってまだこんなに仕事が残ってんだよ!!」
一例を挙げてもこんな感じであり、酷いのになると殴り合い寸前までいった者達も存在した。
その場の誰もが世界大戦の勃発を肌で感じ取っているらしく、通常の精神状態でいる事が難しかったのだ。
「この情報は破棄していいです。えっと、こっちは……もう少し検討します。………あ、はい、すぐにそっちも見ますからっ!!」
さすがのミナリーでさえ、次々と押し寄せる情報と書類の山を前に、疲れを隠せない様子である。
ちなみに最高司令官たるロアはというと、『ちょっと頭痛が……』と逃げようとしたところをガルナに捕まり、泣く泣く書類の山と格闘していた……。
……と、そんな地獄絵図の果てに、ようやくロア達が知る事ができた現在の状況……それは以下の通りである。


緒戦に敗北したアガルティア軍だったが、再びジグリム領に侵攻を開始。
対するグロウスター元帥率いるジグリム軍はこれを迎撃、国境付近を舞台に激しい戦闘状態に入った。
ややジグリム優勢と言える状態で戦況は進み、戦闘開始から10日余りが過ぎたある日、それは起こった。
今まで静観を保っていたリンバーグ公国が、突如ジグリムと同盟を結び、アガルティアに宣戦を布告
………同時に王都シャングリアに向けて侵攻を開始したのだ。
アガルティアにとってはまさに寝耳に水……ただちに主力部隊を王都へと帰還させる事になった。
そして退却の際、ジグリムの追撃により多数の被害を出しながらも、
かろうじてリンバーグよりも早く王都に帰還を果たしたのだった。
実はこの王都防衛成功の陰には、司令官であるハイルストーム元帥の脳裏に、
先日ロアに指摘されたリンバーグの危険性があった事が大きかった。
彼は万が一に備えて本国に残った防衛部隊に警戒態勢を取らせており、
そのおかげでリンバーグの王都侵攻の速度を弱める事ができたのである。

「とりあえずアガルティアは無事か………まあ最悪のケースだけは免れたかな」
ようやく落ち着きを取り戻した司令室で、ロアがお茶をすすりながら呟く。
ひさびさに飲むお茶はやや苦かったが、それでも疲れた身体を十分に癒してくれる。
「でも提督。なんでリンバーグは王都シャングリアに侵攻したんでしょう?
それよりもジグリムと共同でアガルティアの主力を攻撃すれば、勝算はかなり高かったはずなのに」
ミナリーがそう不思議そうに問いかけてくる。
現在ガルナ達は艦隊と装兵機部隊の点検を行っているので、司令室にいるロアファミリーはロアと彼女だけだった。
「ああ、それはたぶん、今後の主導権を得る為だと思う。シャングリアは王都であり、大陸の最重要都市だ。
 それを手に入れたとなれば、世界の盟主の座に大きく前進する……そう考えたんだろう」
そんなもの錯覚に過ぎないんだけどな、とロアは付け加えた。
「まあおかげで俺達にとっては幸いだったよ、もしアガルティアの主力が全滅でもしていたら、ヨークは完全に孤立状態になるとこだった」
その点ではロアは本心から安堵していた。
ヨーク一国でジグリムとリンバーグの両国を相手にするなど、どう考えても不可能だったのだから。
皮肉な結果だが、リンバーグの野心がアガルティアとヨークの命運をひとまずは救う事になったのである。

「……これからどうなるんでしょうね、世界は……。リンバーグ軍もとりあえずは首都ベルタへ撤退しましたけど、
とても戦争をやめる気配はないですし………」
不安と疲労が混じったようなミナリーの声。
戦争で両親を失っている彼女だけに、その声はロアの耳にはあまりに痛々しく聞こえた。
「……確実なのはアガルティアがヨークに同盟の要請をしてくる事くらいだろうな……その先はまだ……」
相変わらずこういう時にかける言葉が苦手ならしく、歯切れの悪い言い方をするロア。
彼ら2人に対して、至急会議室に来るようにと、大臣達から連絡が入ったのはそんな時だった。

「やれやれ、言ってるそばから来たようだな。あんまり顔を見たい連中じゃないが……」
「……本人達の前でそんな事言っちゃダメですよ?それじゃ、行きましょう、提督」
半ば本気で心配するように笑うミナリーに、ロアも苦笑に似た笑顔を返すと、ゆっくりと立ち上がる。
『しっかりしないとな……俺も……』
隣を歩く小柄な少女を見ながら、心の中でそう呟くロアの前で、司令室の出口が音もなく開く。

ヨークの進むべき道を定める事になる、通称『10月会議』はこうして始まろうとしていた。


-続く-

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