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ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第7話

『ヨーク戦記』

第7話 10月会議 後編



「……なるほど、事情はわかりました」
ヨーク女王、フォルティーナ・エル・イスターシュの声が会議室に響く。
先ほどまでの荒れた空気とはまるで違う、落ち着きと静けさが合わさったような空気。
その空気の中、ロアとミナリー、そして大臣達は、彼らの主君の言葉をじっと待っていた。
「会議中に感情的になってしまったロア提督にも非はありますが……この場合は大臣達の発言の方に、より大きな非があったようですね」
ロアから大臣達へと視線を移しながら、フォルティーナは明瞭にそう言った。
「どんな形であれ、家族は家族です……その絆を汚す資格は誰にもありはしません。以後、そのような発言は慎むように」
心に刺さるような、それでいて優しさが伴った女王の言葉に、先ほど「家族ごっこ」の発言をした大臣の顔が下を向く。
彼も不満はあったかもしれないが、目の前の女王から発せられる威厳と慈愛の前には、まともに具象化する事は不可能だった。
「ロア提督の方も、これでよろしいですね?これからはあまり乱暴な事をしてはなりませんよ?」
「はい………申し訳ありません、女王陛下」
心から恐縮しながら、ロアも頭を下げた。
まだ20代の若さながらヨークを完全に統治し、誰にでも慈愛の心を持って接する事ができるフォルティーナ女王。
そんな彼女をロアは敬愛しており、同時にヨークでただ1人の忠誠の対象でもあった。
もちろんそれは他のロアファミリーにとっても同様で、特にエオリアなどは以前に、
『もしヨークの女王がフォルティーナ様じゃなかったら、私はアガルティアとかジグリムとかに亡命してたかもね』
と、かなり危険な表現で敬意を表した事があったほどである。

「さて、それでは会議を再開しましょう。お手数ですが、もう一度今後の考えを聞かせてもらえますか、ロア提督?」
「あ、はい。まずはアガルティアとの同盟ですが………」
そう言うとロアは、先ほど大臣達に話したのと同じ説明を始めた。
もっとも先ほどに比べて、明らかに熱意と真摯さが増していたが、ロア自身はまるで気づいていなかった。
まあ、もし気づいていたとしても、大臣達に対して女王と同等の尊敬の念を持つ事など、とてもできなかっただろうが。
「………提督のお考えはよくわかりました。つまり我がヨークは基本的に防御を中心とする、という事ですね」
ロアの目を見つめたまま、フォルティーナ女王がうなずく。
「はい。もちろん攻撃する意志がまったくない訳ではありませんが……その際でも侵攻と言うより、攻撃的防衛と言った感じになると思います」
「消極的に見えるかもしれませんけど、こちらから攻め込むよりも、迎え撃つ方が勝算は大きくなります。もし攻勢に出るとしても、それからでも遅くはありません」
大臣達が反論してくる事を見こして、先にミナリーがそう追加する。
案の定、大臣の1人が不機嫌そうにしながらも開きかけた口を閉ざした。

「特に反対も無いようですね……。では基本方針は防御を中心にするという事で決定します」
女王のその言葉に、ロアもミナリーも安堵の息をついた。
彼らの考えたヨーク防衛戦略、それを成功させる為の大前提が何とか決定したのだ。
だがまだ完全に落ち着くのは早かった。
方針が決定した以上、次は当然具体的な防衛戦略を定めねばならず、それについてロアは気の重い提案をしなくてはならないのだ。
「それで次は具体的な防御態勢についてですが……提督のご意見は?」
フォルティーナがそう問いかけてくるが、ロアは即答できなかった。
これから自分が提案しようとしている戦略は、下手をすると敬愛する女王を危険にさらす事になるかもしれないのだから。
「……提督……わたしが………」
ロアの気持ちを察したのか、ミナリーが心配そうに小声で声をかけてくる。
が、ロアはそんなミナリーに小さく首を振ると、決意したように女王の方に視線を移す。
「……一つ考えがあります……ですが、これを実行するには女王陛下の許可が必要なのです」
「………? どういう事ですか、提督?」
不思議そうな顔で先を促すフォルティーナ女王。
ロアは一つ深呼吸すると、ゆっくりと言葉を紡ぎだした。
「我々はヨークの主力部隊を率いて、この王都を……フラムエルクを離れようと思うのです」

会議室は数秒間の静寂に包まれた。
ミナリーを除くその場の誰もが、ロアの発言の意味を正確に把握できなかったのだ。
「ど、どういう意味だね、それは!!?」
まず静寂を破ったのは、席の右端に座る大臣だった。
「そのままの意味です。フラムエルクとジグリムの国境とのちょうど中間点、そこに存在するアーキス砦に総司令部を移そうと思うのです」
そう返答しながら、ロアは女王の方に視線を向けていた。
彼の視線の先で、フォルティーナは少し驚いたような表情をしながら、じっと黙っている。
「ま、待ちたまえ、提督!! 君はこの王都を空にすると言うのかね!?」
「我ら……い、いや、女王陛下の身の安全はどうするつもりなのだ!?」
「だいたい半年前、それを批判したのは提督自身ではないか!!」
その代わりのように、大臣達が血相を変えて反論してくるが、ロアは今度は腹は立たなかった。
女王陛下の安全の事を言われると、正直不安が無いわけではなかったのだ。
「もちろん守備兵力は残します。大臣方の言うとおり、ここには女王陛下がおられますし、城下の治安も維持しなくてはなりませんので」
「それに半年前とは違って、今はアガルティアとの軍事同盟があります。ジグリムがアガルティア領を通って攻めてくる可能性はまずありません」
ロアとミナリーが続けて説明するが、大臣達は納得しようとしない。
蒼白な顔をしたまま、なおも言い返そうとしてくる。
「わたしも、ロア提督も、できれば今までどおりにこの城を拠点にしたいです。……でも今回の大戦はそれじゃダメなんです」
「しかしだね……!! どんな理由があろうと、そんな案を認めるわけには……」
理由を話そうとするミナリーをはねつけるように、大臣達が口をそろえた時、

「………続けてください、ロア提督、ミナリー参謀長」
今まで黙っていた女王が口を開いた。
その凛とした声に気圧されたように、大臣達もミナリーへの反論を止めた。
「我が国の総司令官と、総参謀長がここまで真剣に言うのです。私達はそれに耳を貸す義務があると思います」
そう言って穏やかな瞳でロアとミナリーの方を見るフォルティーナ。
それに促されるように一礼すると、ロア達は席を離れ、部屋の正面に貼られた世界地図の前に立った。
「最大の理由は……距離です」
「……距離?」
「はい、今回の大戦で我らがまず戦う事になるのは、ジグリムだと思われます。位置的にもそうですし、
リンバーグはアガルティアを相手にするだけで精一杯でしょうから」
言いながら、ロアが地図を指差す。
「そしてジグリムが攻めてくるのは、南の国境からになるでしょう。先ほどミナ……参謀長が説明したように、
北と東はアガルティアとの同盟のおかげで安全になりましたので」
もちろん100%安全とは言い切れないが、この場合はアガルティアを信じるしかない。
アガルティアにとっても、ヨークの陥落は自らの不利へと直結するのだから。
ちなみに西の海上ルートについては、ヨーク北西に存在する『ゾルゲの場』の影響で通信障害や磁気嵐などの発生が多発しており、現在の技術力では通過は困難だった。
そしてそれは当然、北へ向かうほど影響が強くなるので、西から直接王都を攻撃するのはまず不可能なのである。

「なるほど……南の国境から攻めてくる以上、ここフラムエルクからでは遠すぎる……という訳ですね?」
「はい、陛下。今までのように、短期的な戦闘ならそれでもなんとかなったのですが……この大戦は長期戦になると予想されますので」
女王の洞察力に感心しながら、ロアがそう応えた。
一度や二度の戦闘で決着が着かないなら、その度に遠く離れた王都へ戻るのは意味が無い。
艦隊や装兵機隊の移動には莫大な労力と物資を使うし、最悪の場合、王都へ戻ったばかりのところへジグリムが再侵攻してくる可能性もあるのだ。
そんな事を繰り返していたら、ヨークは戦う前に国力を消耗しきってしまうだろう。
「それに王都に近づけば、それだけ街や村が多くなります。それらを戦闘に巻きこみたくはないんです」
続けてミナリーが真摯な表情でそう伝えると、フォルティーナは黙って目を閉じた。
「……以上がこの案の理由ですが、この城の守りが手薄になるのも事実です。予想もつかない事態が起きないとは言い切れません。
………ですから判断は女王陛下にお任せします」
最後はしぼり出すような声で言うと、説明を終えるロア。
ロアもミナリーも伝えるべき事は全て伝えた。
あとは女王の判断を待つしかなく、それによって彼らの今後も決定するのだ。

「……………」
「……………」
ロア達も大臣達も一言も無く、女王の言葉を待った。
もしも女王が「否」と言っても、ロアもミナリーもそれを受け入れるつもりだった。
フォルティーナには王族の血統を次の世代に伝える事と、この王都フラムエルクを守る義務がある。
王族の責任としてそれを優先させたとしても、彼らには責める気などなかったのだ。
「……ロア提督」
長いような短いような時間の後、フォルティーナ女王の目がゆっくりと開き……青く澄みきった瞳がロアに向けられる。
そして………。

「……提督達に全てお任せします。この国の……ヨークの民を守ってあげてくださいね」

その言葉と共に、穏やかな微笑を浮かべるフォルティーナ。
「……はい……全力を尽くします……」
何の迷いもないその笑顔に、ロアもミナリーも頭を下げたまま、そう誓う事しかできなかった。


-続く-

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