猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第8話

『ヨーク戦記』

第8話 笑顔はぬくもりの先に



「ずるいですよね……わたし……」
会議も終わり、司令室へと続く廊下を歩いていたロアとミナリー。
ロアの後を一歩遅れるように歩いていたミナリーが、突然そう呟くとその場に立ち止まった。
「……? どうした、ミナリー?」
それに気づいたロアが、不思議そうな顔で足を止める。
彼の少し後ろで、うつむいているミナリー。
やがて消え入りそうな小さな声が、ロアの耳に届き始めた。
「わたし、今の会議ですごくずるい言い方しました……街や村を戦闘に巻きこみたくないって……。あんな事言ったら、フォルティーナ様は拒否できなくなるのは当たり前なのに……」
うつむいたままそう言うと、ミナリーは唇を軽く噛みしめた。
その姿に、ロアの心に痛みが走る。
大戦からヨークを守る為とはいえ、結果的にフォルティーナ女王に自分の考えを強要させてしまった……。
そんな後悔の思いが、ミナリーの心を重く沈ませているのが、痛いくらいに伝わってきた。
「だけどそれは事実だろ?だったらそれを伝えないわけにはいかない。もしミナリーが言わなくても、俺がその事を話してたさ」
本当にそうすべきだった――ミナリーに言い聞かせながら、ロアは本気で後悔していた。
もし自分が女王に伝えていれば、この子がこんなに辛い思いをする事はなかったのだ。
『まったく……何で俺はいつもこうなんだ……。もしかしたら、世界で最も参謀に苦労をかけてる司令官なんじゃないだろうか……』
そう思うと、つくづく自分が情けなくなる。
だがそれと同時に、ロアには確信できている事もあった。
少し迷った後、ロアは正面でうつむいているミナリーの肩にそっと右手を置いた。

「……提督……?」
驚いたような顔で、ロアを見上げるミナリー。
その細い肩に右手を置いたまま、ロアは静かに話し始める。
「なあ、ミナリー。陛下が今回の案に許可をくださったのは、強要されたからとか……仕方なくとか……絶対にそんな理由じゃない」
「………でも……」
「確かにミナリーの言葉も影響したかもしれない、でもそれはきっかけの一つにすぎないと俺は思う。
 陛下は……フォルティーナ女王は自分で考え、決断なされたんだ」
ロアの頭に先ほどのフォルティーナ女王の言葉が思い出される。
『ヨークの民を守ってあげてくださいね』
何の迷いもない笑顔で、女王はそう言った。
王族としての義務と責任、それらを十分に承知した上で、自分達に全てを任せてくれたのだ。
「………だから俺達は自分のやるべき事をしよう。女王陛下の気持ちに応える為にも……そうだろ?」
「…………」
言葉の代わりに、肩に置いた手に自分の手を重ねてくるミナリー。
そこから感じるぬくもりは、彼女の悩んでいた心をゆっくりと落ち着かせていく。
自分達のやるべき事。
まもなく発生する世界大戦という名の暴風から、ヨークを、そこに暮らす人々を守る事。
それがフォルティーナ女王の心からの願い。
そしてそれはロアやミナリー達の願いでもあるのだ。
「………はい」
小さく、だがはっきりとそう言うと、ミナリーはうなずいた。
重なった手のぬくもりを通じて、目の前の提督の心が伝わってくるような……そんな不思議で温かな気持ちに包まれながら。


「あの……ありがとうございます、ロア提督……」
再び並んで歩き始めながら、ミナリーが頭をぺこりと下げた。
「おいおい、俺は別にお礼を言われるような事はしてないって。元はといえば俺のせいなんだから」
それに対して、必要以上にぶっきらぼうに返事をするロア。
いざ冷静になってみると、ミナリーの肩に手を置いたり、ずいぶん照れくさい事をしていた事に気づいたのである。
もしもガルナやフラン、更にエオリアにでも見られていたらと思うと、悪寒すら覚える。
一方のミナリーはと言うと、ロアのそんな考えなど気づきもせず、申し訳なさそうな顔でわずかにうつむいていた。
「そんな事ないです、本当に……。でも……なんか提督に助けてもらってばかりですね、わたし……。さっきだって………」
「さっき?」
「はい、会議室で……大臣の方に、その……『家族ごっこ』って言われた時……」
「……ああ、その事か」
思い出したのか、ロアが照れ隠しのように頭をがしがしと掻く。
どうも今日の自分は、後で話のタネにされそうな事ばかりしている気がする。
だが、あの時の怒りについては、何の後悔もしていなかった。
『家族ごっこ』などと言われて怒らない方が、人としてどうかしているのだ。
例えあの場にいたのが、ガルナ達でもきっと同じようにしたと思うから。

「あの時、本当はすごく嬉しかったです。わたしの事を家族だって思ってくれてる人がいるんだなあ……って……」
「……ま、まあ、当たり前の事だしな……」
本当に嬉しそうにこちらを見上げてくる水色の髪の少女に対し、不器用に視線を逸らしながら、独創性の欠片もない台詞で応えるロア。
巷では英雄だの名将だのと呼ばれていても、こういう時はただの口下手な男でしかない。
一応、気のきいた台詞を考えてみてはいるのだが、なかなか思うように言葉にならないのだ。
『あいつの頭から戦略・戦術の知識を取ったら、あとに残るのは模型の知識だけだろう』とは、彼の親友ガルナの言葉である。

「……くす……っ……」
まるで『思考中』と書かれているかのようなロアの顔を見ながら、ミナリーは自然に笑顔がこぼれてくるのを感じた。
どんなに口下手でも、こんないつもどおりの提督の態度が、彼女にとっては何より嬉しかったのだ。
不器用だけど誰よりも優しい、ヨークで一番の提督。
そういうロアだからこそ、ミナリーは心から信頼し、できる限り役に立ちたいと思っているのだから。
『でも……たまには小説に出てくるような言葉も言ってほしいかな……』
そう考えている自分と、まだ言葉を考えているロアが何故かおかしくて、悪いと思いながらも、くすくすと口元を押さえて笑ってしまうミナリーだった。

「そう言えば、ロア提督はもう引っ越しの準備は終わってるんですか?」
「………は? い、いや、まだ全然……陛下に許可をもらってからしようと思ってたからな」
突然のミナリーの質問に戸惑いながらも、話題が変わった事にほっとしたような顔をするロア。
懸命の思考もむなしく、未だにまともな台詞が浮かんでいなかったようだ。
「あ、だったら、わたし手伝います!! 今日のお礼に、荷造りとか、お掃除とか、がんばってお手伝いします!!」
2つの意味で予想どおりのロアの反応に、ミナリーは嬉しそうにそう言った。
ここフラムエルクから、前線のアーキス砦への引っ越し。
考えこんでいる提督の為に持ち出した話題だったが、それ以上にミナリー自身が手伝いたかったのだ。
そしてロアの方もこの厚意を断るほど、感性に致命的な欠陥をかかえてはいなかった。
偶然と言われればそれまでだが、この時ははっきりとミナリーの気持ちを理解する事ができたのである。

「……そうだな……それじゃ、悪いけど頼めるか?」
「はいっ!!任せてください!!」
笑顔のままで、いつもよりも元気よく敬礼するミナリー。
提督への感謝の気持ちと、参謀としてだけではなく、家族としてできる事がある喜び。
そんな思いをいっぱいにつめこんだ、とびっきりの笑顔だった。


-続く-

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