猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第9話

『ヨーク戦記』

第9話 ある家族の引っ越し



「なあ、ガリュード。お前、今いくつだっけ?」
「は?今年で18ですけど……それが何か?」
「いや、別に深い意味はねえよ。ただその若さでヨークで1、2を争う騎士になるなんてすげえなあ、と思ってさ」
「……………」
「なんだよ、その警戒心全開の顔は」
「そりゃガリュードも警戒したくなるよ。フランが人を誉めるなんてめったに無い事だからね」
「お前にゃ聞いてないっての、プレーツ!!あ、ガリュード!!お前、今うなずいただろ!!」
引っ越し前のせいかやたらと殺風景な部屋に、三者三様の声が響く。
部屋の主であるガリュードと、訪問者のフランにプレーツ。
前線のアーキス砦へ出発する直前のわずかな時間、彼らはそんな会話で時間をつぶしていた。

「ったく……せっかく人が、強敵との戦いを控えた後輩を気づかってやったってのに……」
「はは、すいません、フランさん」
ふてくされるフランに謝りながら、ガリュードは自分の愛刀を背中に背負う。
通常サイズに比べかなり大型の片刃刀だが、別に重そうにしている様子もない。
「でもめったに無いと言えば、フランさんが『強敵』なんて言葉を使うのも珍しいですよね。ジグリムにはそんなに強い騎士がいるんですか?」
冗談まじりのガリュードの質問だったが、聞かれた方のフランは妙に真面目な顔でうなずいた。
「そりゃあいるさ。有名なところでは、バゼット・ファルモア、ハイディーヌ・ベルテス、クルト・カルネビーク……。どれも大陸有数の腕を持つ騎士達だぜ」
「提督の方でも、オルゼア・グロウスターを筆頭に、アシュリー・ミシュアル、ハウジ・グラーフ、リック・デルメールとか、強敵ぞろいだしね」
フランとプレーツの口から語られる個人名に、ガリュードの顔も真剣なものに変わっていく。
装兵機操者として、対ジグリム戦線に出るようになってから約3年。
ジグリムがアガルティア方面に主力を投入していた為もあって、彼は先に挙げた騎士や提督達と直接戦った事はない。
だが今回はこれまでとは違い、リンバーグが参戦している……それはつまりジグリムがヨーク側にも主力を投入する余裕ができる事を示していた。

「フランさん、これから俺と手合わせしてもらえませんか?」
「は!? い、今からか!? だってもうすぐ出発だぜ!?」
突然立ち上がったガリュードに、さすがに慌てるフラン。
一方、ガリュードの方はそんなフランにかまわず、出発用の荷物を両手に持つと重ねて頼みこんだ。
「まだあと1リス半(1時間)はあります。フランさん達の話を聞いてたら、急に体を動かしたくなったんですよ。それにアーキス砦に着くまでは、たいした訓練もできませんし」
「だ、だがなあ……何も出発前に疲れる事しなくてもよ……。そ、そうだ、エオリアに頼んだらどうだ!? あの元気が有り余ってる女なら、きっと喜んでつきあうぜ!?」
先ほどの発言を思いきり後悔しながら、フランが必死で矛先を変えようとする。
「エオリアさんなら、ミーナに用があるって言ってましたから無理です」
が、あっさりそう言われ、二の句がつげなかった。
「これはやるしかないね、フラン。せっかく後輩がやる気に燃えてるんだから、先輩として協力しなきゃ」
「この……他人事だと思って……。……はあ……なんでこうなったんだ、いったい……」
笑いをこらえながら「頑張れ」と肩を叩いてくるプレーツを恨めしそうに見ると、あきらめたように大きく息をはくフラン。
腰に佩いた愛剣がやたらと重く感じる彼だった。


「……っくしゅん!!」
「あれ?エオリアさん、風邪ですか?」
「う~ん、違うと思うけど……。どっかの美男子が私の噂でもしてるのかな?ね~~スノちゃん?」
同時刻、ミナリーの部屋。
恍惚そのものといった表情で、スノと呼ばれた小さな物体をぎゅっと抱きしめるエオリア。
だがその物体の方は、さかんにじたばたともがいており、なんとか逃れようとしているのが明白だった。
「エ、エオリアさん、そんなにしたらスノが苦しいですよっ……。ほら、こっちおいで、スノ」
エオリアが腕の力を緩めた一瞬の隙に、それはミナリーのもとへ一目散に駆け寄り、ぴょんと彼女のひざの上に飛び乗った。
「よしよし……」
「あ~~スノちゃん~~~」
ミナリーのひざの上で気持ち良さそうに頭を撫でられているそれを見て、名残惜しそうに涙目になるエオリア。
スノ、それがその白と茶色の毛皮に包まれた物体の名前。
いや、物体などと言うのは『彼女』に失礼だろう。
なぜならそれは一般的にはネコと呼ばれる生物であり、ヨーク軍総参謀長ミナリー・ジニア・エルフィスにとっての家族なのだから。

スノがミナリーの部屋に住むようになったのは、ちょうど半年前……彼女がロアファミリーと呼ばれるようになった直後の事だった。
ある日、仕事を終えて部屋に戻ってきたミナリーは、台所へ通じるドアの前で足を止めた。
誰もいないはずの台所の中から、何やらガタゴトと物音が聞こえたのだ。
『泥棒……?』
一瞬、エオリアかガリュードあたりを呼ぼうかと考えたミナリーだったが、銃の残弾を確かめると意を決してドアを開けた。
そこで彼女が見たものは、何処から迷い込んだのかわからない子猫が冷蔵庫の取っ手を相手に悪戦苦闘している……そんな光景だったのである。
その後、紆余曲折(という程のものでもないが)を経て、この迷い猫はミナリーの部屋の住人として認知される事になったのだった。

「うう、なんで半年も通ってるのに馴れてくれないのかなあ………」
「毎回毎回、思いきり強く抱きしめたりするからですよ……。ただでさえエオリアさんは……」
力が強いんですから、と危うく言いそうになって、慌ててミナリーは口をつぐむ。
恐る恐るエオリアの方を見たが、彼女の視線はひざの上のスノに固定されており、気にしてはいなかったようだ。
「こうなったらアーキス砦に着いてからが勝負ね。もちろんスノちゃんも連れてくんでしょ、ミーナ?」
「あ、はい、もちろんです。この子もわたしの大事な家族なんですから……ね、スノ?」
ミナリーが優しくのどをくすぐると、スノは嬉しそうに「にゃあ」と鳴いて指に擦り寄ってくる。
「あ~~いいな~~~。私だって家族なのに……なんでミーナばっかり……」
その様子を羨望の眼差しで見つめるエオリア。
思わず手を伸ばしそうになるが、突如何かを決意したようにぐっと拳を握りしめた。
「よ~し、決めた!!この大戦が終わるまでに、絶対スノちゃんと仲良くなってみせるからね~~!!」
まるで炎のようなオーラを発しながら、エオリアが高らかに宣言する。
テーマ曲が流れていないのが惜しいくらいの気合いの入りようだった………が。

「あ、あの……スノ、怯えてますけど……」
「え!?ど、どうしたの、スノちゃん!?」
蛇に睨まれた蛙のようにひざの上で固まっているスノに、自覚の無い蛇がこれ以上ないくらい心配そうな顔をする。
彼女達の間に親愛の情が芽生えるには、まだまだ時間がかかりそうである……。


「しかしまあ、ずいぶんきれいに片付いたもんだな、あの散らかった部屋がよ。つくづくミーナの力は偉大だな、おい」
「………言っとくが俺もちゃんと手伝ったんだぞ」
「どうせ90%はミーナがしたんだろ?でなけりゃ、こんなに手際よく引っ越しの準備が出来てるはずがないからな」
「……………」
ところ変わって、ロアの部屋。
ガルナの決めつけるような台詞に、不機嫌そうな顔でロアがそっぽを向く。
反論しなかったのではない、あまりに事実すぎて反論のしようがなかったのだ。
「ま、この際、無事に出発できるなら何でもいいさ。司令官の準備が遅れて延期にでもなったら、あまりに情けないからな」
「あのな、いくら俺でもそんなわけないだろ。来週にはヨークとアガルティアの同盟調印式があるってのに……」

ヨーク女王とアガルティア国王の間に行なわれる同盟調印式。
これによって両国は世界大戦における軍事同盟を結ぶ事となり、ジグリム・リンバーグ連合に対抗できる状況が整う事になる。
だが同時にこれはヨークの戦線参加を意味しており、ジグリムの矛先がヨークへも向けられる事は明白だった。
だからこそ調印式までに、主力を前線のアーキス砦に集結させる必要があったのである。

「調印式か……それが終わればいよいよジグリムとの戦闘開始だな。グロウスターの奴に7年前の借りを返してやろうぜ、ロア」
「借りねえ……だけどよ、いきなりグロウスター自ら出撃しては来ないと思うぜ?」
あまりにガルナらしい言い方に苦笑しながらも、そう冷静に判断するロア。
アガルティアと交戦中のジグリムとしては、弱小国であるヨークに対して
最初から最高司令官をぶつけてくるような事はしないだろうと、ロアは考えていた。
まずは他の指揮官、ただし十分に優秀な将を選んで、ヨークに侵攻させるだろう……。
そう説明したのだが、ガルナの返答は単純を極めていた。
「それなら奴が出てくるまで勝ち続けてやろうぜ。そうすりゃ元帥閣下たる者、黙ってるわけにもいかねえだろ?」
「……………」
あまりに単純な意見だったせいか、思わず「なるほど」とうなずきそうになるロア。
続けてある考えと共に可笑しさが込み上げてきて、不謹慎ながらも吹きだしそうになってしまった。
「な、なんだよ、ロア。俺がなんか妙な事言ったか?」
「いや、まるでフランかエオリアみたいな事を言うなあ、と思ってさ」
不審気に問いかけてくる親友に、ロアはなおも笑いをこらえたような顔でそう応えた。

「お、おいおい……冗談はよせよ、なんで俺があいつらと……」
露骨に嫌そうな顔をしたガルナが反論しようとしたその時、何の前触れもなく部屋のドアが開いた。

「ロア提督~~。そろそろ出発の時間ですよ~~!!」
「ちょ、ちょっと、エオリアさん。ノックくらいしないとダメですってば……」
「無駄だよ、ミーナ……。この人、俺の部屋にも無断で入ってくる人なんだから……」
「そういえば僕も昔被害にあったっけ……フランは?」
「………うるせえ……疲れてんだから話しかけんな、プレーツ………」

「…………それじゃ出発するか。ミナリー、艦隊の発進準備は?」
「あ、はい、いつでも発進できます、提督」
いきなりの乱入者達に唖然とした2人だったが、先に立ち直ったロアがこれ幸いとばかりに荷物を手に取る。
「……お、おい、ロア!!まだ話は終わって……!!」
そのままガルナが呼び止めるよりも早く、彼にしては機敏な動きで部屋から出て行ってしまった。
「あれ~~?どうかしたんですか、ガルナさん?」
「……なんか戦闘で勝ち逃げされたような顔してますね……」
残された男に容赦なく浴びせられる、エオリアの明るい声とフランの疲れた声のダブルパンチ。
『誰のせいだ』と怒鳴りそうになる声帯を、最後の理性で必死に抑えつけるガルナだった……。


こうしてロアファミリーを中心としたヨーク軍主力部隊は、慣れ親しんだ王都フラムエルクを出発した。
『貴方達に希望の風があらん事を……』
空に遠ざかっていく無数の艦艇を見つめるフォルティーナ女王の、心からの願いに守られながら……。

時に正統暦4050年、10月18日の事である……。


-続く-

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