猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第14話

『ヨーク戦記』

第14話 緒戦4 -乾杯-



「敵艦隊損傷率、推定60%を超えました。それに対してこちらは約15%です、提督」
夕焼けの空に浮かぶ、ヨーク軍総旗艦エルクアーツ。
てきぱきとコンソールを操作しながら、参謀長のミナリーが報告する。
「そうか、何とかこのままいけそうだな。それでも完全に崩れないのはさすがだが……」
その報告に一つうなずくと、司令シートに座ったままメインスクリーンに視線を戻すロア。
彼の言葉どおり、ヨーク軍の砲撃に押しこまれながらも、未だ整然とした艦列を保ったまま砲撃を返してくるジグリム軍。
すでに戦闘に参加している艦は100隻を割っているが、こちらが隙を見せれば逆転される危険性すら感じさせる。
先程のロアの策によって右翼部隊を壊滅させられたとはいえ、やはり敵将ハウジ・グラーフは一流の司令官という事だろう。

「提督、ガルナさんから通信です。攻勢に出る許可を求めてきてますけど……」
「……このまま防御、って伝えてくれ」
「……いいんですか?ガルナさんの言うとおり、今なら攻勢に出る好機ですけど……」
ロアの返事に遠慮しながらも、そう進言するミナリー。
「いや、このままでも敵はもうすぐ撤退するよ、ミナリー。これ以上の被害はジグリムにとっても避けたいだろうからな」
そんな参謀に向けて軽く笑うと、ロアは確信を持ってそう言った。
グラーフが一流の司令官である以上、間違いなく撤退のタイミングを計っているはずだった。
確かにこの敗北は痛いだろうが、ジグリム全体からすればそう深刻なダメージという程の事ではない。
だがこれ以上無理に戦えば、さすがに深刻に近いダメージを受けかねない……グラーフはそう冷静に判断するだろうから。
「それにこっちもあんまり無理はしたくないしな、余計な犠牲を減らす為にも……」
「……了解しました。ガルナさんにはそう伝えておきますね」
そう言うと早速、インカムを手に通信の準備を整えるミナリー。
ロアの位置からは見えなかったが、その表情は微かに嬉しそうだった。


「ふむ……これ以上の戦闘は無益だな……そろそろ潮時か……」
一方のジグリム旗艦ルービック。
司令官ハウジ・グラーフ大将は、ロアが予想したとおり撤退の準備に取り掛かっていた。
彼もまたロアの考えと同じ結論に達し、無謀な戦闘によって更なる被害を受ける事を避けたのだった。
やや違ったのはヨークがこの機に乗じて攻勢に出てくるのを恐れた事なのだが、これは敗勢の将としてはむしろ当然の事だろう。
「ヨークのロアファミリーか……この先、手強い敵になりそうだな……」
ヨーク方面司令官の身として、避けては通れぬ道……改めてグラーフはそう認識する。
事実、この先の大戦において彼はロア達と数度に渡り戦火を交える事になり、その度にその認識を強くしていくのである。
「……よし、全軍撤退を開始する。ヨーク軍の追撃に注意しながら、徐々に後退せよ。
 それと念の為、国境付近にも警戒を呼びかけろ……あとは……」
素早く各部署に指示を飛ばし、急速に撤退の準備を完成させていくグラーフ。
最後に自ら地上部隊への連絡を取る為に、クルトのバーウェルに向けて回線を開いた。
「はい、こちら装兵機バーウェル操者、クルト・カルネビークですが」
「旗艦ルービックのグラーフだ、カルネビーク大佐。残念だが今回は我らの負け戦のようだ、速やかに撤退にかかってくれ」
「了解、というか、すでに逃げてますんでご心配なく」
「………………」
「……あれ?もしもーし、回線不調ですか?グラーフ提督?」
「……いや、順調だ……無事に本国で会えるのを楽しみにしている……」
それだけ言って、通信回線を切断するグラーフ。
わずか3デオ(約1分)に満たない会話だったが、肩にのしかかる疲労がやたらと増した気がした。

「ジグリム軍、完全撤退!!」
オペレーターの声に一瞬遅れて、全艦に歓喜の声が響いた。
彼らヨーク軍にとっての世界大戦……その緒戦に勝利した瞬間だった。
この付近の地名から『アルミド会戦』と命名されたこの戦いは、結果的にはヨーク軍の完勝で終わった。
ジグリム軍の被害はおおよそで飛行艦艇90隻、装兵機70機。
対するヨーク軍は飛行艦艇20隻、装兵機20機に満たない。
この事実からもヨークの提督達の手腕と砲撃技術、そして騎士達の強さが際立っている事が改めて証明される事となった。
両国の修復・生産能力を考えても、ヨークの勝利は動かないだろう。
「うう~~!!ガリュードく~~ん!!なんであの時クルトくんを逃がしちゃったのよ~~!?」
「そ、そんな事言われても……」
「んだと!?クルトの奴が来てやがったのか!?なんで俺を呼ばねえんだよ、ガリュード!!」
「フ、フランさんまで……」
……もっとも、中には満足していない者達もおり、後にまで引きずる事になるのだが……。



「ロア提督、飲み物いかがですか?」
「ん?」
アーキス砦の広間、ささやかな祝勝会の会場。
勝利に沸く兵士達の笑い声がこだまする中、一人疲れた顔をしていたロアだったが、自分を呼ぶ声に慌てて振り向いた。
自分の目線の少し下で、いつもの制服姿のミナリーが両手にグラスを1つずつ持っている。
「あ、ああ、ミナリーか。ありがとう、もらうよ」
「………?」
ロアの好きなお酒の入ったグラスを手渡しながら、ミナリーの表情がわずかに曇る。
「あの、どうしたんですか……?せっかく緒戦に勝ったのに……元気ないみたいです……」
「え?そ、そんな事はないぞ、気のせいだよ」
「……………」
「………う……」
平静さを装いながら応えるロアだったが、なおも心配そうな目でじっと見上げてくるミナリーの前に、やむなく降伏の意志を固めた。
グラスの中身を一口だけ喉に流し込むと、困ったような顔のまま話し始める。

「別にたいした事じゃないんだ。ただ……まだ緒戦なんだなと思ってたら、ちょっと気が重くなってきただけだよ」
そう言ってロアは誰も気づかないくらい小さく息をつく。
緒戦……そう、まだ緒戦なのだ。
「まだまだこの先も戦いが続く事は間違いない……敵も味方も、多くの兵士が死んでいく。戦争なんだから当たり前なんだが……」
戦いたくないという訳ではなかった、戦う理由も自分なりに存在している。
女王陛下、ヨークの民、部下、友人、そして『家族』の為……。
それでもこの戦争が終わるまでに死んでいく人達の事を考えると、あっさりと割りきる事はできなかった。
自分で選んだ道とはいえ、やはり辛いと感じる時もあるのだった。
「乱暴な言い方だけど、いっそ違う世界から悪い怪物が攻めてきてくれた方が、よっぽど楽な気分なのかもな」
そこまで話すと、自分の台詞にロアは思わず苦笑した。
どうもあまりいい例えじゃなかったようだ。
もし実際にそんな事になったら、それはそれで別の苦労があるのだろうから……。

「……提督………」
ロアの言葉を黙ったまま聴いていたミナリーが、自分のグラスを持つ手に力を入れた。
表面の水滴が一滴、足元に落ちる。
「あの……わたしは軍に入ってまだ2年くらいですし、提督よりずっと戦いの経験も少ないですし……偉そうな事は言えないですけど……。
それでも……1つだけ自信持って言える事があります」
「……?」
「わたし、この国が好きです……。優しい人達がたくさんいる、この国が大好きです」
不思議そうな顔をしたロアに向かって、ミナリーは迷いの無い声でそう言った。
それは彼女が軍での2年間で、改めて気づいた事。
多くの辛い戦いと、より多くの優しい人達との出会いから見つけた、大切な真実だった。
「だから……戦えます。少しでもそんな人達の力になりたいから……」
両手でグラスをぎゅっと握りしめたまま、自分に言い聞かせるようなミナリーの声。
それに耳を傾けているうちに、いつしかロアの表情が普段どおりの穏やかな表情に戻っていた。
自分では気づいていなかったが、その顔は子供の成長を見守る親の顔に近かったかもしれない。

「すごいな、ミナリーは」
「え?」
「俺より、よっぽどしっかりしてるよ、お前は。俺なんかこんなに長く軍にいるのに、未だに愚痴ばっかり言ってるからなあ」
ロアがそう言って頭をがしがしと掻くと、ミナリーは慌てて首を振る。
「そ、そんな事ないです、こんな風に考えられるようになったのは、陛下や提督達に会えたからで……。
に、2年くらい前、最初の戦闘後に落ちこんでた時に『1人で背負いこむ事はないよ』って、提督に言ってもらえたからで……」
赤い顔をして早口で喋るミナリー。
手に持ったままのグラスの中身が揺れ、今にもこぼれそうになっていて危なっかしい。
「それにわたし、軍に入ろうって決めたのは、その……ええと……。と、とにかく、元気だしてください!!わ、わたしも頑張りますから!!」
結局、何を言おうとしたのか自分でもわからなくなったらしく、そう締めくくるヨークの参謀長。
やや大きくなったその声に周囲の兵士達も目を向けたが、さすがに遠慮したらしくすぐに今までどおり談笑を始めた。

『1人で背負いこむ事はないよ、か……そういえばそんな事を言ったっけな……』
珍しく慌てながらも自分を励ましてくれる参謀に優しい目を向けながら、ロアは先ほどの言葉を記憶の引き出しから探していく。
頭の中で、その時の記憶が徐々に思い出されてくる。
あれは確か2年くらい前、ミナリーが軍に入ってすぐに起きたジグリムとの戦闘……彼女の参謀としての初陣の時だった。
戦闘自体はそれほど大きな規模でもなく、ヨーク軍の完勝に終わったのだが、ミナリーの受けたショックは小さいものではなかった。
いくらわかっていたつもりでも、当時12歳の彼女にとって、実際に体験する戦争は重すぎるものだったのだ。
そんな彼女にロアがかけたのが、先の言葉だったのである。
『それが今じゃ俺の方が励まされてるんだからな……暗くなってる場合じゃないか』
2年前、自分がかけた言葉を思い出すうちに、ロアは不思議と心にかかる負担が減ったような気がした。
我ながら単純だ、と思わないでもないが、事実なのだからしょうがない。
だいたい参謀が頑張っているのに、司令官がいつまでも落ちこんでたらあまりに格好が悪すぎる。

「……ほら」
「……え?何ですか、提督?」
まだ少し赤い顔をしているミナリーに向かって、小さく笑いながらロアがグラスを持つ手を前に出す。
「乾杯だよ、よく考えたらまだ誰ともしてなかったからな。せっかく勝ったんだし、このくらいはしてもいいだろ」
「………あ……は、はいっ」
数瞬の後、ようやく理解したミナリーが、嬉しそうな顔でグラスを差し出してくる。
「それじゃ、とりあえず緒戦の勝利と……あとは……」
「……提督が元気になった事のお祝いに」
そう言うとミナリーはにっこりと笑う。
2年前から少しも変わらない、純粋な笑顔。
そんな笑顔にやや照れくさそうにしながら、ロアはグラス同士を近づける。
互いの『乾杯』の声と共にグラスとグラスが軽く合わさり、透明感のある音が小さく響く。
口の中に広がる芳醇な酒の香り。
ついさっきまではまるで気づかなかったその味を、今日初めて美味いと感じるロアだった。


-続く-

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