猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第18話

『ヨーク戦記』

第18話 空の網 後編



午前10時37分。
包囲作戦『空の網』の完成と同時に、ロアは全面攻勢を指令した。
正面、背後、側面……計6方向からの一斉攻撃である。
例えるなら網の中の獲物に向かって槍を突きだすようなその攻撃は、瞬時にすさまじいまでの効果を上げた。
ソートレス空域に展開していたジグリム艦隊の外周部が、ほぼ全域に渡って爆発光に包まれたのだ。
もし真上から見れば、それは爆発によって作られる巨大なリングのように見えたに違いない。
「戦艦トリージ、航行不能!!」
「第2から第6部隊まで、被害甚大!!」
「だ、駄目です!! このままでは戦線を維持できません!!」
……無論それは客観的に見た意見であり、リングの中の者達はそんな事にかまっている場合ではなかった。
通信回線に飛び交う報告はもはや悲鳴と言う方が正しく、しかもその大半も無意味にこだましていく。
通信を送ったつもりでも、次の瞬間にはその相手が爆散してしまっているのだ。
「まさかこんな事になるとはな……全ては私のミス……いや、くだらない功名心のせいか……」
次々と撃墜されていく僚艦を視線に映し、グラーフは誰にも聞こえないような声で自嘲した。
同僚達の武勲に対して、ほんのわずかとはいえ感じた焦りの感情。
先人の功績に縁起を担ぎ、選択した侵攻ルート。
それがもたらしたものは、この現実だった。

先ほどオペレーターから知らされたヨーク軍別働隊の出現ポイントから、彼は全てを悟った。
廃棄された砦に艦隊を隠す。
気づいてみれば単純に思えるこの作戦だが、「廃棄されている」という先入観がグラーフの目を曇らせる結果となった。
それでも普段ならば、念の為に地上に偵察を派遣しただろう。
ロアの偽装も巧妙だっただけに気づくかどうかはまた別の問題だが、少なくとも注意力を割いた事は間違いない。

「らしくもない縁起など担いでおきながら、敵国内で注意を怠ったのでは、まさに本末転倒だな……だが――」
グラーフの眼光に再び光が宿る。
続けて自失から立ち直ったように、各所に指示を飛ばし、崩れかかる戦線を必死で支えていく。
「全艦、R-46エリアの敵艦隊に攻撃を集中。包囲網の一角を崩して脱出する!!」
その指令で息を吹き返したかのごとく反撃を開始するジグリム軍。
もはやこの戦闘に勝利は望めない……それならばせめて1人でも多くの兵士を無事に生還させる事が、司令官としての責務なのだ。

「提督、敵の攻撃が網の一角に集中しています。ちょうどガルナさんとプレーツさんの艦隊の連結点への攻撃です」
「ああ、さすがに的確だな。こちらも予定どおり、次の段階に移るぞ、ミナリー」
「了解しました。……両艦隊に連絡、無理に退路を塞がず、網の一部を解放してください」
エルクアーツからの通信を受け、ガルナとプレーツの艦隊が連結点の網を開く。
当然ジグリム軍はそこへ殺到し、次々に網の外へと脱出をしていく。
だがその歓喜もわずかな時間だった。
中軍にいたグラーフの旗艦ルービックが脱出したのとほぼ同時に、再びヨークの包囲網が一斉に動き始めたのだ。
「撃てっ!!」
ガルナの指令が飛び、先ほど開いた網の部分目掛けて砲撃が開始される。
脱出口へ向かって殺到していたジグリム軍だけに、これにはひとたまりもなく、全艦隊を真っ二つに分断されていった。
不幸にも網の中に残された艦隊は完全に孤立した形となり、1隻、また1隻とヨークの砲撃の前に沈んでいく。
まさに兵法の基本である「囲師は必ず欠き」(敵の逃げ道を完全には塞がず、逃げるところを討て)の完璧な実践であった。
もっともロアにせよ、ミナリーにせよ、そんな賛辞など嬉しいどころか、逆に心を痛めるかもしれないが……。


「………脱出に成功したのはどのくらいだ?」
ルービックの艦橋に、グラーフの重く沈んだ声が響く。
やがて蒼白な顔をしたオペレーターから、同様の声質で答えが返ってくる。
「約100隻程です……そのうち戦闘可能な艦は、約7割かと……」
予期していた答とはいえ、グラーフの両目が無意識に閉じられる。
包囲網の脱出と引き換えに、150隻もの艦艇と、それをはるかに上まわる数の部下を失ったのだ。
他に方法はなかった……例えヨークが故意に開いた網でも、それを承知で突破を図らねば全滅していたのだから。
だが彼は何も言わなかった。
そんなものは都合のいい自己弁護に過ぎない事を、彼自身誰よりもわかっていた。
……そして何より、まだ戦闘は終わってはいないのだ。
「ヨーク艦隊、陣形を再編!! 凸形陣で我が軍に向かってきます!!」
「……被害を受けた艦を優先し、順次退却!! 本艦を含め、戦闘可能な艦は後方に展開、敵を阻止する!!」
部下達を励ますように叫ぶと、グラーフは残存兵力を結集し、最後の応戦を開始する。
現時点で戦闘に参加している兵力は、ヨーク軍が約190隻、ジグリム軍が約70隻。
この圧倒的に不利な状況の中、ジグリムの……グラーフの奮戦は「グロウスターの右腕」の名に恥じぬものだった。
少しでも多くの部下を生還させるべく、文字どおり命をかけて指揮を続けていた。
それだけに序盤での彼の焦りを残念に思う声は、この先、ジグリムのみならず、多くの者から聞かれる事になるのである。
だが午後0時47分……そんな奮闘にもついに終わりが訪れた。
最後尾に位置する旗艦ルービックに、ヨーク軍の砲火が無数に突き刺さったのだった。

「……ジグリム旗艦、ルービックの撃沈を確認。残りの部隊もほぼ戦闘不能状態です、提督」
コンソールをじっと見つめたまま、ミナリーが静かに報告する。
ロアの返答はなかった。
『グラーフらしいな……』
会った事もない敵将に対して、内心でそう呟くだけだった。
部下を離脱させ、自分はこの敗戦の責任を取るつもりだったという事を、理屈ではなく悟っていた。
それが正しい事かは、ロアにはわからない。
ただグラーフはそれを選び、ロアは全力でそれに応えた……その事実が全てだった。
「人それぞれ……か」
「え?」
「いや、何でもない。それより残った敵に降伏勧告を発信してくれ、ミナリー。司令官がいなくなった以上、これ以上の戦いは無意味だから」
「はいっ、今すぐ」
その命令を待っていたかのように、勢いよくコンソールを操作し始めるミナリー。
専門の通信士と間違えるほどの速さと正確さで、あっという間に準備を整えていく。
「これでよし……っと。敵艦に向け、勧告を発信しま……」
その時、突然のオペレーターの大声がミナリーの声を遮った。
「レーダーに反応!! ワイト空域方面より、ジグリム艦隊が接近中です!! 数は……約100隻!!」


「やはり間に合いませんでしたか……」
ソートレス空域から離脱してくる敗残の群れを見ながら、その女性は艦橋の床をつま先で軽く叩いた。
ジグリム軍中将、アシュリー・ミシュアル。
27歳の若さながらアガルティア方面の副司令官を務める、ジグリム唯一の女性提督である。
当然、艦隊の指揮能力は高く、物静かな口調とは裏腹に大胆かつ効率的な指揮で有名。
ハウジ・グラーフがグロウスター元帥の「右腕」ならば、彼女は「左腕」と言ってもいい存在だった。
「ミシュアル中将。ようやくグラーフ艦隊と連絡が取れました……どうやらハウジ・グラーフ大将は既に戦死なされたようです……」
「………そうですか……それでヨーク軍は?」
「はっ。こちらに気づいたらしく、防御態勢を取りつつ部隊の再編を行っている模様。今ならば先手を撃つ事も可能ですが……」
「いえ、ここは退きましょう。我々の任務はあくまで、グラーフ提督に対し『伏兵に注意するよう促す事』と『手遅れの際の離脱援護』です。
それに敵は約200隻、こちらの兵力では各個撃破の対象になるだけです」
副官の女性に敗残兵の援護を指令すると、アシュリーは艦の真下に位置する砦を、スクリーン越しに眺める。
天井の空調から流れる風が、彼女の長く伸ばした茶色の髪をかすかに揺らした。
『元帥……やはり貴方の読みは正しかったようです……この場合は残念な事ですが……』

「ロア提督、増援部隊の旗艦を確認しました。戦艦フォーネス、アシュリー・ミシュアル中将の旗艦です」
「今度は「左腕」のお出ましか……あんまりいい展開じゃないな、この時期に現れたって事は」
「……グロウスター元帥の指令でしょうね……たぶん」
そう言ってロアとミナリーは顔を見合わせた。
250隻の大軍に加え、更に100隻もの増援をつぎ込んだ理由は、この場合は他にありえなかった。
正直いい気分はしないが、今回の『空の網』はグロウスター元帥に見抜かれていたと考えるのが正しそうだった。
それがここまで成功を収めたのは、ヨーク方面はグラーフに一任していた事もあり、状況を知るのが遅れた為……そう見るべきだろう。
グラーフに名誉挽回の機会を与えようと、なるべく余計な口を挟むまいと考えていたのかもしれない。
「敵の増援があと数時間早かったら、今回の作戦は失敗してたかもしれないですね……」
「ああ、完勝に見えて、実際はギリギリの勝ちだったわけだ。しかしまあ今思うと、この作戦をグロウスター相手に使おうとしてたのは、思い上がりもいいとこだったなあ」
ロアにしてみれば、いささか深刻に苦笑せざるをえない。
部下達の命を預かる司令官として、「読み違えました」では済まされるはずもないだけに。
司令官の失敗の先にあるものは、無残な敗北と、多くの部下達の死なのだ。
自分の思考と、今まで目の前で展開されていたその実例に、ロアは改めて責任の重さを感じる。
そしてそれは、自分の策で死んでいった敵将や敵兵に対しても同様なのだった……。

「今回も追撃は無しか……うまくいけばここでアシュリー・ミシュアルも叩けるってのに……」
「僕はロア提督に賛成ですよ。戦果は十分に上げましたし……それに相手はあの「左腕」です、勝てる保証なんかないですよ」
「心配性だねえ、お前は」
それぞれの旗艦の艦橋で、ガルナとプレーツが戦闘後の会話を交わす。
彼らの視線の先で、レーダーに映った敵艦隊の姿がゆっくりと遠ざかっていく。
「心配と言えば、僕はロア提督やミーナの方が心配ですよ。さっきの通信、勝ったとは思えないほど暗かったですからね……」
「今回は特に多くの敵兵が死んだからな……悩み多き司令官と参謀としては、複雑な心境なんだろうよ」
わざと呆れた声で言いつつ、ガルナが軍服の襟元を緩める。
それがわかっているからプレーツも何も言わない……ただ黙って言葉を受ける。
「………ま、あいつらはあれでいいんだ……その為に俺らがいるんだからな」
「そうですね……だいたい全員がガルナさんみたいに好戦的だったら、その方が危険ですし」
「おい」
根負けしたように呟いたガルナに、珍しくそんな冗談で応えるプレーツ。
同時に艦内に流れる『警戒態勢解除』の放送が、この会戦の終わりを全身に染み渡らせていった……。


正統暦4051年、2月27日の『ソートレス空域会戦』はこうして終了した。
ヨーク軍の『空の網』によってジグリム軍は、司令官ハウジ・グラーフ、そして約200隻もの艦艇を失った。
数字的にも人材的にも開戦以来最大の被害であり、この敗戦はジグリム全体に大きな衝撃を与える事となる……。


-続く-

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