猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第19話

アガルティア南部、ジグリムとの国境付近。
世界地図上でポイント「TJ74886」と現されるそのエリアは、一般にはレクナ平原と呼ばれるエリアである。
この平原はアガルティア・ジグリム間の戦場として有名であり、今まで幾多の騎士達が戦い、そして倒れてきた地でもあった。
そう、今日もまた……。


「おいおい、まだやんの? もう勝負はついたんだから、退いてもらいたいんだけど」
土埃がたちこめる中、2体の装兵機が対峙している。
その内の1体……銀色の装兵機バーウェルからの呼びかけに、もう一方は機体を軋ませつつ立ち上がる。
「せっかくの申し出だが遠慮させていただく……このジェンド・ジン・キューバー、国王陛下より第5騎士団長を任された身。例え刺し違えようと、貴殿を……三強を討つ……!!」
肩口から吹き飛ばされた右腕と、各所の損傷にも怯まず、ジェンドの愛機レディルは残された左腕で剣を構える。
続けて最後の力を振り絞るかの如く、猛然と突進を開始した。
「……ったく……頭が固いねえ、アガルティアの騎士さん達は……」
その様子をモニターに見ながら、バーウェル操者クルト・カルネビークは右の掌にプラーナを集中させる。
握った操縦桿に熱が伝わり、それに同調してバーウェルの持つ剣がうっすらと光り輝く。
「!!」
ほぼ一瞬のうちに交差する両機……だが結果は対照的なものに終わった。
装兵機レディルの胸部を真っ直ぐに貫く細身剣。
敵味方の兵達が硬直する中で、アガルティア第5騎士団長の機体がゆっくりと地に倒れた……。

「『針冥』、いつもながらお見事です、カルネビーク大佐。隊長機を失って、敵は総崩れです」
「……ああ。後はお前らに任せっから、適当に追撃したら引き揚げてこいよな」
「了解しました。それと先程ですが、大佐に本国から通信がありました。ただちに首都ブランデンクロイスへ帰還するように、との事です」
「首都へ? おかしいな……ここんとこ俺は問題起こしてねえはずだけど……」
副隊長の報告に首をひねるクルト。
呼び出しというと、どうにも嫌な想像しか浮かんでこないのはいつもの事だが、今回は本気で身に覚えがなかった。
「いえ、今回は大佐だけではないようです。ファルモア中将やベルテス少佐、それに諸提督方にも同様の帰還要請があるようですから」
「へえ、あの2人もか? そりゃ珍しいねえ……」
「はい、三強を始め、我が軍の名将のほとんどが首都に集まるようです。私などには縁がない事ですが、それでも身震いしますよ」
そんな言葉を聞き流しつつ、クルトは自らの黒髪を軽く掻きまわした。
『首都に集合ね……誰か戦死でもしたかな』
さすがに口にはしなかったが、結果としてその不謹慎な想像は的中していたのである。


『ヨーク戦記』

第19話 首都に集う者達



ジグリム共和国首都、ブランデンクロイス。
アガルティアやヨークに比べて近代的な趣を醸し出す街並みと、軍服姿の兵士達が盛んに歩きまわる光景が特徴の首都。
その中心部に位置するジグリム軍総司令部にクルト・カルネビークが到着したのは、連絡を受けてからちょうど5日後の事である。
「いつ来ても華のない場所……なんでうちは女性士官がこうも少ないのかねえ……」
すれ違う兵士達(男)の敬礼に適当に応じながら、廊下を歩いていくクルト。
と、彼の愚痴を神が聞いていたかのように、見知った女性が前方を歩いているのが視界に入ってきた。
「お、ハーディちゃんじゃないの、おーい♪」
「………?」
さっきまでとは180度逆の陽気な声に、ハーディと呼ばれた女性が訝しげに振り向く。
肩の辺りで束ねられた銀色の髪と、北海の色をした瞳、そして1リーク(1,5メートル)に満たない小柄な身長。
その身長に不釣合いな巨大な剣が、小さな背中に背負われている。
どちらかといえば、サイズ的に人間の方が剣のおまけに見える……そんな女性だった。
「……カルネビーク大佐……何度も言いますが、私の名前はハイディーヌです……ハーディなんて呼ぶのはやめてください……」
と、やや小声で反論する通り、彼女の正式な名前はハイディーヌ・ベルテス。
まだ22歳と若いが、ジグリム三強の1人に数えられる女性騎士である。

「まあまあ、ひさびさに会ったんだから固い事言いっこなし♪どうだい、再会を祝してこの後ディナーでも」
「……せっかくですが遠慮しておきます……それに……まだランチも食べてません……」
「あ、相変わらずノリが悪いねえ……。それにまだそんなでっかい剣使ってんのかい?可愛い君には似合わないと思うぜ?」
そう言って視線を合わせようとするクルトだが、ハイディーヌはごく自然にそれを流した。
「………落ち着くんです……これ、背負ってると………」
「………あ、そ………」
予測のうちにあった回答だが、それでも二の句が告げなくなる。
そもそもこれから会議なのにこんな剣持ってくる必要はないのだが、あえてクルトはそこらは無視した。
「ま、まあそれはいいや、それよか聞いたぜ? アガルティアの第7だか第8だかの騎士団長を討ったんだって? 実は奇遇な事に俺も……」

「ふふ……お元気そうですね、2人とも」
「へ? ちょっと、今こっちは取り込み中……あ、ミシュアル中将♪ もちろんこのとおり元気ですとも、中将もいつもながらお美しい事で」
「……おはようございます、中将……」
突然背後からかけられた声に、クルトは嬉しそうな声で、ハイディーヌは静かな声で、それぞれ敬礼を返す。
同じく敬礼を返しながら、軍人とは思えない穏やかな微笑みを浮かべている女性、アシュリー・ミシュアル。
つい先日、ヨーク方面への出撃から帰還したばかりの女性提督である。
「私もお2人の武勲は聞いていますよ。アガルティアの騎士……しかも団長クラスを破ったとか。きっと近々、昇進の知らせがありますよ」
「……昨日、届きました……中佐に昇進との事です、私……」
「お、それはおめでとさん、ハーディ。もう一つ上がれば俺と同じだな」
「おかしいですね……貴方には届いてないのですか、カルネビーク大佐?」
アシュリーが不可解そうに問いかけるが、クルトは笑いながら髪をがしがしと掻く。
「はは……まあ、俺は問題児扱いですんで。あんまり昇進させちゃ、何かと害があると思ってるんでしょ、政府のお偉方は」
あっけらかんとした口調で語るクルトに、尋ねたアシュリーの方がやや険しい顔になる。
潔癖なところがある彼女だけに、政府の態度には感心していないようだ。
「そんな顔してると美人が台無しですよ、中将。俺は別に昇進しようとそうでなかろうと、知ったこっちゃないんですから。ただ……」
『貴方に誉めていただければ……』と台詞を続けようとした時、ちょうどタイミング悪く会議室の入り口に着く。
わずかにうなだれたように見えるクルトの様子に、それまで無表情だったハイディーヌが小さく笑ったように見えた。


……会議室。
ジグリム軍、最高幹部会議。
この国の名のある提督や騎士のほとんどが集まる、重要度特Aランクの戦略会議である。
その中で上座に座った1人の男の発言が、室内に緊張と驚愕の空間を発生させた。
発言の主はオルゼア・グロウスター。
ジグリム軍総司令官にして、現在ただ1人の元帥……一兵士から提督まで誰もが認める軍部のトップ。
65歳という年齢を感じさせない威風堂々とした姿と、胸に輝く無数の勲章。
そんな「軍人」や「名将」という単語の見本となるだろう男の口から発せられたのは、ヨーク方面における2つの重大な事件だった。
すなわち、ハウジ・グラーフ大将の戦死と、彼自身によるヨークへの侵攻作戦の発案である。

「元帥自らヨークに侵攻なさるのですか……? こう言ってはなんですが、小国のヨークにそこまでする必要はないと思われますが……。私かデルメール少将にでもお任せになり、元帥はアガルティアに集中なされた方がよろしいのでは……」
アシュリー・ミシュアルがそう発言する。
彼女は大多数の同僚と違い、グラーフの戦死を知っていただけに、てっきり自分あたりにヨーク侵攻の指令が下ると予想していたのだった。
「いや、ミシュアル中将やデルメール少将の艦隊は、つい先日も出陣してもらったばかりだ。兵士達にも休暇を取らせる必要がある。それに何よりわし自身が出向きたいのだよ、わしがもう少し早く伝令を出していれば、グラーフを死なせずにすんだかもしれんのだからな……」
無論、そんな感情的な理由だけではないだろうが、そう言われてはアシュリーは何も反論できなかった。
事実グラーフとの付き合いも長かった元帥にとって、今回の衝撃は自分の比ではないのだろう。
また疲労に関しても、ここしばらく後方指揮に専念していたグロウスターの部隊の方が、はるかに万全な状態なのだ。

「そうそう、ここは元帥に譲りましょうぜ、ミシュアル中将。アガルティアの方もこの前負けたばかりで、すぐには攻めてこないでしょうよ。カルネビーク大佐を始め、三強の方々も地上でちまちま頑張ってくれた事ですしねえ」
露骨に”ちまちま”を強調したその発言に、クルトの視線が険しくなる。
彼の視線の先で薄い笑みを浮かべているのは、リック・デルメール少将、28歳。
ここ数年で急激に台頭してきた、若手提督である。
地位に相応しいだけの能力を持った人材なのだが、提督の称号を誇りに思うあまり、地上部隊を蔑視する傾向があるのが欠点。
その高飛車な態度が気にくわないクルトにとっては、まさに良好の対極にある関係と言えた。
「ま、何とかと煙は高い所が好きって、昔から言いますからね……」
独り言にしては大きすぎる声で、クルトが呟く。
階級的にはリックの方が上なのだが、この場合そういう事を気にする彼ではなかった。
一方、隣席のハイディーヌはと言うと、相変わらず無表情のままである。

「2人ともその辺にしておけ……今は会議中だぞ」
クルトとリックの間の敵意が行動につながる直前、上座に近い席から響く、鋭く低い声がそれを抑えた。
バゼット・ファルモア、38歳。
ジグリム三強の筆頭にして、この国の騎士ではトップの中将階級を持つ男だった。
軍人らしい短髪と、隙のない軍服の着こなしからも判断できる通り、やたらと厳格な性格……だがそれだけに部下の信頼も厚い。
噂によれば幼い息子がいるそうなのだが、どうもワケ有りのようで、周囲の者はその事にはほとんど触れようとしない。

「……話を戻すが、本来ならこの時期の再侵攻は好ましくない。先の被害は大きく、アガルティアの動向にも注意せねばならんからな。そこで今回はヨーク国内のアーキス付近ではなく、国境付近……可能ならば自国内を戦場に設定するつもりだ」
渋々ながらクルト達が矛を収めると、グロウスターの話が再開される。
その話の中で「自国内」の単語が出ると、それぞれの顔に驚きの色が広がった。
「確かにそれならば補給や、アガルティア方面への対応も容易かと思います。ですが、防御を方針とするヨークがそこまで出てくるでしょうか」
全員を代表する形でアシュリーが問うが、もっともな疑問だった。
兵力で大きく劣るヨーク軍は国内を舞台に戦う事で、補給や地理上の有利を確立している……これまでの戦闘でそれは証明済みなのだ。
「それについては考えがある。上手くいけばヨークのほぼ全軍を、予定の戦場に集める事ができるだろう」
この時点ではそれ以上は語らず、すでに次の段階に意識を移すような表情を見せるグロウスター。
これまでの会議でも何度となく見たその表情は、周囲の将達に勝利への静かな自信を感じさせる。
威厳の質こそ違えど、ロアと同種の表情と言えるかもしれない。

「さて、作戦については後ほど説明するとして、先に今回の出征要員、そしてアガルティア方面担当としての残留要員を発表する。
それぞれ割り当てられた任務に応じて、最善を尽くす事を期待する」
グロウスターが書類を手に、次々と名前を読み上げていく。
1人、また1人と任務を与えられる度、敬礼と共に立ち上がるジグリム軍幹部達。
ヨーク方面出征軍は、総司令官及び飛行艦隊司令官にオルゼア・グロウスター元帥。
装兵機部隊の指揮官には、クルト・カルネビーク大佐、ハイディーヌ・ベルテス中佐、ジグリム三強の両者の姿もある。
そして残留部隊は、アシュリー・ミシュアル中将をアガルティア方面の臨時司令官として、バゼット・ファルモア中将達と共に本国の守りを任せる事となった……。

ヨーク王国とジグリム共和国。
両国の誇る名将同士の対決は、いよいよ目前へと迫っていた。


-続く-

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