猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第20話

『ヨーク戦記』

第20話 参謀の災難、司令官の受難



「…………遅い」
時計の針をじっと凝視したまま、ガルナ・ジン・ノーマが呟く。
彼がいるのはアーキス砦、中央司令室。
砦全体の約80%の機能を管理・統制する要所である。
だが13時20分現在、ここに本来いるべきはずの司令官、ロア・ジン・クランクハイトと、参謀長のミナリー・ジニア・エルフィスの姿はない。
仕事で王都フラムエルクに戻っているロアはともかく、ミナリーが予定の時間……13時になっても現れないのだ。
「遅刻なんてミーナにしちゃ珍しいな……。部屋を呼び出しても出ねえし、昼寝でもしてんのか……?」
毎日多忙なミナリーだけに、もしそうなら起こすのは悪い気もするが、さすがにそうもいかない。
ロア不在の間、交替で司令室の運営を任されているガルナにとって、引継ぎ相手の彼女が来ないのはやはり困る。
彼自身決して暇ではなく、この後も艦隊の訓練が待っているのだ。

「仕方ねえな……直接部屋に行ってみるか……」
そうガルナが立ち上がった時、入り口のドアが自動とは思えない勢いで開いた。
……かと思ったら、書類の束を抱えた少女が、水色のポニーテールを揺らしながら慌ただしく駆け寄ってくる。
「はぁ……はぁ……す、すいません……はぁ……お、遅くなりました……っ……」
ガルナの机の前に立つや、まずいきなり謝るミナリー。
よほど急いで来たらしく、息は乱れ、白と青を基調にした制服も全体的に着崩れしている。
「ま、まあ、これでも飲んでちょっと落ち着け。……で、何があったんだ? やっぱり寝坊か?」
ちょうど手元にあった、口をつけてないカラム水(スポーツドリンク)のボトルを手渡す。
「………はぁ………い、いえ、そうじゃないんです……。ちょっとエオリアさんとスノの事でいろいろあって……」
渡されたカラム水を飲み終え、ようやく呼吸が落ち着いたミナリーは、制服を直しながらゆっくりと説明を始めた。
それは今から0,7リス(約30分)ほど前、彼女の部屋での出来事。
当事者の名前は部屋の主のミナリーと、そこの住人、いや住猫のスノ、それにエオリア・ジニア・ウッドゲートの、計2人と1匹である……。

『あの、エオリアさん……わたし、そろそろ司令室に戻らなきゃいけないんですけど……』
『ええ~~?もう少しいいじゃない、せっかくスノちゃんと楽しく遊んでるのに~~。あ、そうだ、私が留守番しててあげるわ、この前みたいに』
『だ、ダメですよ……この前、どうしてもって言うから任せたら大変だったんですから……スノ、3日間も何かに怯え続けたんですよ、あの後』
『うっ……あ、あの時はその、ちょっとだけ可愛がり過ぎたって言うか……』
『ですから、今日はここまでです。また今度、わたしがいる時なら構いませんから』
『はあ……わかったわよぉ……仕方ないから留守番は諦めるわ。……じゃあね、ミーナ』
『はい、それじゃ……って、ちょ、ちょっとエオリアさん!! スノを連れてっちゃダメですってば!!』
『うう、気づかれた……。お願い、ミーナ!! 今日だけでいいから見逃して~~!!』
『そ、そんな事言われても……あ、待ってくださいっ!!』
『残念、ここで待ったら女じゃな……痛っ!!』
『だ、大丈夫ですか、エオリアさん? 部屋の中で走るから……ああっ!! お気に入りのカップが!! それに大事な書類も!!』
『あ、あのね……こ、転んで頭ぶつけた私の心配はどこへ……?』

「………つまり人さらい……じゃない、ネコさらいのエオリアが原因って訳だ……災難だったな……」
説明を聞き終えたガルナの顔に、同情の色が浮かぶ。
「いえ……何とかスノも書類も無事でしたし……」
疲労と申し訳なさとが同居した顔で応えるミナリーを見てると、とてもじゃないが遅刻を責める気にはなれなかった。
ついでに言うなら『お気に入りのカップ』とやらの末路についても、深く聞かない方が本人の為だろう。

「……それじゃ後はわたしが引き継ぎますから。本当にすいませんでした、ガルナさん」
「いや、気にすんな。そろそろロアも帰って来るはずだし、忙しいだろうが出迎えとかよろしく頼むな?」
「はいっ」
さっきまでとは一転して嬉しそうに応えるミナリーに、ガルナは内心で小さな満足を感じていた。
引継ぎのスケジュールを立てる際、ロアの帰還時刻とミナリーの勤務時間を、わざわざ同じ時間帯にしたかいがあったようだ。
最初は彼女の休憩時間にロアが帰ってくるようにしてやろうとしたが、それだと帰った事に気づかない可能性があったので変更したのだ。
『ま、このくらいは家族サービスって事で構わないだろ。ロアが喜ぶかはわからんが、少なくとも俺が出迎えるよかマシだろうよ』
司令室のドアの前で室内を振り返りながら、そんな事を考えるガルナ。
……そして約6リス(4時間)後の17時30分、ほぼ予定どおりの時間にロアがアーキス砦に帰還する。
ガルナのミナリーに対するささやかな配慮は、この時点ではとりあえず成功と言えた。

「戦艦エルクアーツ、収容完了。整備班は直ちに作業を開始してください。繰り返します、整備班は直ちに作業を開始してください」
砦内の収容施設に響く放送の中、ロアは2週間ぶりにアーキスの空気に触れた。
やはり密閉された艦艇内よりは遥かに落ち着く……解放感を味わいながら大きく伸びをする。
辺りを慌ただしく動き回る整備班達の顔も、戦闘中ではないだけにどこかリラックスして見える。
それを横目に中央司令室へと向かったロアを、室内でミナリーとエオリアの2人が敬礼と共に出迎えた。
「お帰りなさい、ロア提督。任務、お疲れさまでした」
「お帰りなさ~い、提督♪ ひさびさのフラムエルクはどうでした? 何か面白い事とかありました~~?」
笑顔は共通していても、それぞれ微妙に違った出迎えの言葉に、ロアの顔にも自然に笑みがこぼれる。
例えるなら、我が家に帰って来たような気分……そんな感じだろうか。
「ああ、ただいま、2人とも。それと留守の間、いろいろとご苦労さま。おかげでこっちも順調だったよ」
「え~と、これまでの戦況報告でしたっけ? でもさあ、わざわざ王都まで呼びつけるなんて、大臣連中も性格悪いわよね~~」
「あはは……別に嫌がらせの為だけにって訳じゃないと思いますけど……通信だといろいろ不都合もあるんですよ、エオリアさん」
用意しておいたポットから3人分のコーヒーを用意しつつ、ミナリーが苦笑気味に弁護する。
と言っても、彼女自身気づかぬうちに「だけ」をつけていたので、やや説得力に欠けていたが。

「そうだな、直接会った方が何かと便利なのは確かだし……たまにはいいさ。フォルティーナ女王のご様子も拝見できたしな」
ロアがそう言うと、ミナリーとエオリアが同時に心配そうな顔をする。
「……いかがでしたか、女王陛下のご病気の方は……?」
「フォルティーナ様、あんまりお身体が丈夫じゃないからね……特に大戦が始まってからはお疲れみたいだし……」
そんな2人に向けて、ロアは安心させるように笑顔を見せた。
「大丈夫、お元気だったぞ、陛下は。それどころか今は体調の方も良くて、ちょくちょく外出なさるので、侍女達が違う意味で心配してるそうだ」
つい数日前のフォルティーナ女王の顔を思い出し、今度は自然に笑顔になるロア。
開戦以来、久しぶりの謁見だったが、女王陛下は予想以上に健康そうだった。
今後の戦略や世界情勢の話から、他愛のない雑談まで、時に真面目な顔で、時に笑顔で応じてくれた。
特にアーキス砦での出来事(主にエオリアやフランが起こした騒動)に話が及ぶと、珍しく声を上げて笑い、ロアもつられて笑ったものだ。

「そうですか……よかった……」
「う~ん……何だか複雑だけど、まあいいのかな……」
ロアの話に、ミナリーは安心したように微笑み、エオリアは微妙に苦笑を浮かべる。
「はは、他にもいろいろあったぞ。3日目の昼にさ、陛下の気晴らしにと思って城内の庭園めぐりにお誘いしたんだが、その時な……」


-0,5リス(20分)経過-


「……そしたらその花を観ながら、陛下は楽しそうに笑ってな。お誘いしてよかったと、つくづく思ったよ……で、その後……」


-更に0,5リス(20分)経過-


「………でな、だから俺は言ったんだよ……って、どうした……? あ、こういう話はつまらなかったか?」
彼にしては珍しく話に熱中していたロアだが、少しだけ疲れたような顔をしている2人に気づき、喋るのを中断した。
「え……? い、いえ、そんな事はないですっ」
「う、うんうん、私も別に……ただ………」
「ただ?」
不審気にロアが聞き返す。
「え~と……どっちかと言うと、気晴らししてたのは提督の方じゃないかな~~とか思うんだけど……」
「わ、わたしもちょっとだけ……すごく楽しそうな顔で話してましたし……」
「う」
と、正確に一文字だけ口に出し、絶句するロア。
言われてみれば、途中からは陛下の事より自分の事ばかり喋っていた気がする。
おまけにいつの間にかやたら時間が経過しており、目の前に置かれたコーヒーは完全に冷めていた。
「……まだ一口も飲んでないんだが……ミナリー、悪いけどおかわりもらえるか?」
「ダメです。申し訳ないですけど、もう残ってないです、提督」
いつも通りの口調で頼んだロアだったが、即座にそう返されてしまった。
それは仕方ないとして、ミナリーの声に何となくトゲを感じるのは気のせいだろうか。

「ふ~~疲れた疲れた……っと、よお、ロア。ちゃんと時間どおりに帰ってきたようだな、感心感心………?」
訓練を終えて司令室に入ってくるなり、ガルナの神経が微妙に緊迫した空気を感じた。
「お、ガルナ、ひさしぶり。留守の間ご苦労さん」
同時に敬礼を返してくる3人。
ロア、ミナリー、エオリア……普段、こんな雰囲気を作り出す要素がない面子だけに、一段と不気味に思える。
「訓練お疲れさまでした、ガルナさん。今、コーヒー用意しますからちょっと待っててくださいね」
ガルナの不審をよそに、いつもと同じ笑顔でミナリーがそう話しかけてくる……すると何故かロアが「え?」と目を大きく開いた。
「……な、なあミナリー、さっきもう残ってないって言わなかったか……?」
「はい、言いました。ここの所、物資の補充とかが不十分ですし、1人1杯に節約してもらってるんです」
「そ、そうなのか? でも確かこの前………」
「残ってないったら、残ってないんですっ」
「りょ、了解」
親子ほどに歳の離れた少女にぴしゃりと言われ、反射的にうなずくロア。
2週間前、アーキスを出発する前に、たっぷり1ヶ月分は補充をしたような……そう思いつつも、仕方なく手にしたカップを口元へ運ぶ。
すっかり冷めたコーヒーは、いつになく苦い味がした……。

「あのよ……何かあったのか、エオリア? ミーナの奴、声にトゲがあるように聞こえるんだが……」
「あ、あはは……あの子も難しいお年頃だから……。ロア提督もそこいらをもうちょっと考えるように、ガルナさんからも言った方が……」
と、エオリアが言い終わるより早く、そんな時間は終わりを告げた。
最高レベルの緊急通信を知らせる、オペレーターの緊迫した声が、室内に響いたのである。

「哨戒中のプレーツ提督から援軍要請!! 南部国境のコルネリアス空域において、ジグリム艦隊と遭遇との事です!!」

正統暦4051年3月17日、午後18時35分。
『空の網』作戦以来、約半月ぶりにヨーク軍が動き出す。
だがこの出撃が予想外の事態をもたらす事を、まだ誰一人として気づいていなかった。


-続く-

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