猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第21話

『ヨーク戦記』

第21話 コルネリアスの戦い1 -遭遇-



……少しだけ時計の針を戻した、3月17日午後18時23分。
旗艦フレスフォルンの艦橋にて、ヨーク軍提督プレーツ・ジン・ディスリードは、ある決断を迫られていた。
彼の目に映るのは、前方の宵闇に展開する飛行艦艇の光。
哨戒任務の最中、ジグリムとの国境付近のコルネリアス空域にて、20隻程の敵艦隊と遭遇したのである。
「敵の様子は?」
「地上への装兵機部隊展開後は、依然として動きはありません。こちらの出方をうかがっている模様……。どうやら典型的な遭遇戦のようですね、ディスリード提督」
副官の青年がひとつ大きく息をつく。
報告によれば敵の戦力は飛行艦艇23隻、地上には装兵機が15機。
本格的な侵攻にしては少ない戦力だけに、これまでにも何度かあった、ヨーク領内への一撃離脱攻勢の可能性が高い。
その作戦行動中に、偶然こちらの部隊と接近・遭遇してしまった、というところだろうか。

「だとすれば、当然敵の方が動揺は大きいだろうね。ただこっちも艦艇15隻、装兵機10機と少ない……確実に勝つには少し足りないな。アーキスのロア提督に増援要請をするべきか……」
メインスクリーンを見つめたまま、プレーツが軽く首を捻る。
この戦力で戦闘に突入しても負けるとは思わないが、単なる遭遇戦であまり無理はしたくはなかった。
ジグリムに比べ軍事力・生産力で劣るヨークは、例え1隻、1機でも無駄にはできないのだ。
そうして少し考えた後、プレーツは決断した。
「……やはりここは慎重にいこうか。アーキスへ通信をつないでくれ」


「……増援要請、了解した。すぐに全軍で出撃するから、もうしばらく堪えてくれ。明後日には着くから無理はするなよ?」
「はい、その辺はご心配なく。しかし提督、全軍を出撃させてよろしいのですか?」
通信回線越しのロアの言葉に、プレーツがやや驚いた顔をする。
「ああ、今ならある程度の余裕はあるし、逐次投入だと敵にも増援を用意する時間を与える事になり、戦闘が長引くからな。ここはアーキスの全戦力で一戦して、とっとと引き揚げよう」
ロアの意図は明白だった。
通常、一撃離脱の作戦に大規模な増援を用意している事は少ない。
そこでこちらが威圧の意味を込めて大軍を動かせば、敵も勝算なしと見て撤退を選ぶ可能性が高いのだ。
「なるほど、確かに。敵も遭遇戦でそれほど無理はしないでしょうし……上手くいけば提督達の到着までに、退いてくれるかもしれませんね」
その説明に納得したプレーツは半ば本気で期待しつつ、ロア達の到着まで戦端を開かぬよう部下達に命令を飛ばした。

……だがその期待とは逆に、翌日になってもジグリム軍は一向に退く気配を見せなかった。
かと言って積極的に攻撃を仕掛けてくるでもなく、時おり微妙な前進と後退を繰り返すだけである。
「何を考えているんでしょうか、ジグリムは。見た感じでは、進むか退くか判断に迷っている感じですが……。もしかするとハウジ・グラーフの戦死の影響で、こっち方面の指揮系統が混乱しているのかもしれませんね」
対峙してから2度目の夜が来ても不可解な動きを続けるジグリム軍に、副官の青年が楽観的に呟く。
「…………」
一方のプレーツは無言のまま、じっとスクリーンを見つめている。
何かがおかしい。
頭の中で盛んに警報が鳴り響く。
自分達は何か大きな勘違いをしているのではないか……そんな疑念がどんどん強くなっていく。
しかしその疑念の正体に彼が気づくよりも早く、戦局は急激に動き出した。
翌朝の3月19日午前8時50分、ロアの部隊の接近を待っていたかのように、突如ジグリム軍が攻撃を開始してきたのである。

「今になって攻撃……? いや、考えてる場合じゃないな、全艦一定距離を保ちつつ砲撃開始」
相変わらず疑念はあったが、目の前の状況に集中すべく、応戦の指示を出すプレーツ。
両国の国境をまたぐようにして、少数ながらも激しい砲撃の応酬が開始される。
「アーキスからの増援は?」
「時間的にはもうそろそろのはずですが………」
そう副官が答えた直後、オペレーターの歓声に似た大声が艦橋に響く。
「後方よりレーダーに反応有り!! 識別信号、通信波、共に確認!! ロア提督の増援部隊です!!」
午前9時22分。
総司令官ロア・ジン・クランクハイト率いる、ヨーク軍増援部隊が戦場に到着する。
これによりヨーク軍の戦力は飛行艦艇215隻、装兵機部隊130機となり、ジグリム側を大幅に上まわる事になった。

「増援、感謝します、ロア提督。おかげで敵も少しづつ撤退を始めてますし、何とか狙いどおりになりそうですね」
「ああ、だがどうも不可解な事が多いな、今回は……。特に何で俺達の到着直前になって、わざわざ攻撃をかけてきたんだ?」
無事合流を果たし、互いの旗艦の艦橋でロアとプレーツが通信越しに疑問符付きの会話を交わす。
当初の戦略どおり、大軍の動員によって敵を撤退させたとはいえ、これまでに比べてあまりにも奇妙な戦いに心が落ち着かないのだ。
「まあ遭遇戦ゆえの混乱と考えられない事もないですが……」
その瞬間、何の前触れもなくロアの脳裏に不吉な閃光が走った。
遭遇戦。
今回の戦略の大前提であるこの事態が、もしも間違っているとしたら……?

「……そうか、しまった……!!」
そこから導き出された答えに、ロアは思わず唇を噛む。
隣で通信を聞いていたミナリーも気づいたらしく、顔色が少し青ざめて見える。
「全艦、警戒態勢を維持!! 特にレーダーに注意、どんな物でも見逃すな!!」
珍しく焦った声で指示を出すロア。
その緊迫した表情に、プレーツがはっとした顔になる。
「ロア提督……まさか……」
「ああ、そのまさかだ……来るぞ、たぶん”あいつ”だ」
それをきっかけに訪れる静寂。
レーダーを息を飲んで見つめているオペレーター達の頬に、冷たい汗が流れる。
最も若い1人が汗を拭ったのとまったく同時……最も年配の1人の、懸命に落ち着きを保とうとした声が響き渡った。
「前方、ジグリム領内より、艦隊接近!! 数……200以上!!」


「ふむ、ちょうど国境の真上か……できる事なら国内まで引っぱりたかったが、さすがに慎重だな」
ジグリム軍総旗艦バレンシア。
総司令官オルゼア・グロウスター元帥は、ヨークの大軍をスクリーンに認めたところで、慣れ親しんだ司令官席に腰を降ろした。
「敵艦隊は約200隻、装兵機部隊は約130機、間違いなくヨークのほぼ全軍ですな。主力のロアファミリーとやらも総出の模様です」
グロウスターの予想どおりにヨークの大軍が出現した事に、副官が感嘆の声で報告してくる。
彼の言葉を証明するように、入ってくる報告の全てが、前方に展開する部隊がヨークの主力である事を示していた。
総旗艦エルクアーツを始め、戦艦ベルネア、フレスフォルン等、次々にデータ照合の結果がモニターに表示されていく。
「最後の攻撃に対して追撃してこなかったのを除けば、ここまではまず成功と言えるか………直ちに地上の部隊にも出撃命令を。同時に攻撃兵装の最終チェック及び、砲撃準備」
元帥の命令を受け、各オペレーター達が一斉にコンソールを操作し始める。
現時点での作戦成功の高揚感が、彼らの動作をより律動的なものにしていた。

オルゼア・グロウスターが、ヨークを破るにあたり考えたのは、いかにして互角の条件を作り出すかという事だった。
これまでのようにヨーク国内への侵攻では、補給・地理上で不利になるのは避けられない。
そこでグロウスターは、国境付近……可能なら国内までヨーク軍を誘き出し、そこを戦場とする事を考案したのだ。
しかし先日の会議でアシュリー・ミシュアルが言ったように、防御を方針とするヨークがわざわざそんなエリアを戦場にする事は考えにくい。
小規模な戦闘なら可能かもしれないが、それではたいした意味もない。
ヨークが大軍を動かそうとする状況を作り、しかもこちらの策だと気づかせない……。
そんな困難な問題に対し、グロウスターが選んだ答えが『遭遇戦』を演出する事だった。
これならばロアは戦力の逐次投入を避ける為、大軍を一挙に動かす可能性が極めて高い。
あくまでも偶然の戦いであると印象づけ、戦略上最善の行動をとらせる……いわばロアの優れた軍事センスを逆手にとっての罠であった。

「出撃命令が来たぜ、ハーディ。元帥の作戦どおり、ヨークの主力がお出ましだとさ」
「……了解」
通信を終えたクルト・カルネビークの呼びかけに、ハイディーヌ・ベルテスが短く応える。
彼らの率いる装兵機部隊が隠れているのは、コルネリアス地方特有の深い森の中。
140機もの大軍なだけに隠れる場所は限られてはいるが、森の動物や植物達にとっては迷惑な話だろう。
「緒戦以来だな、ヨークと戦うのは。ガリュード君やエオリアさん、それにフランも来ているようだし……楽な戦いじゃないよな、やっぱ」
「……ガリュード……私の知らない人………」
「そっか、ハーディは戦った事なかったっけ。まだ若いのに強い騎士だぜ、君が負けるとも思わないけど、出くわしたら気をつけなよ。あ、何なら俺を呼んでもいいぜ、君の為なら例え戦場の何処にいても……って、聞いてるかい?」
前線に向かって進行しながら、会話を交わす両者。
ふとハイディーヌが無言になり、視線が右斜め前方に固定される。

「………あの煙………」
「ん? ああ、あれは煙と言うか湯気だよ。この辺りにコルネル村って小さな村があってさ、そこの温泉の湯煙さ」
「温泉……?」
「そ、温泉。どうだい、この戦いが終わったら一緒に……」
今回こそ脈アリかも……そんなクルトの期待は、次の一言で木っ端微塵に砕け散った。
「……前方に敵装兵機の反応……多数です……。それじゃ……ご武運を……」
「……へーい……」
敗因、タイムオーバー……彼は悔しそうにそう呟いたと言われているが、軍の公式記録には残っていない為、真偽のほどは不明である。


「これで状況はほぼ互角……。ロア・ジン・クランクハイト……ヨーク最高の名将の力量、見せてもらおうか」
緊迫した艦橋の空気の中、グロウスター元帥の声が静かに響く。
「7年ぶりだな……あの艦を見るのは。やはりオルゼア・グロウスターか……」
それとまったく同時に、やや緊張した声で呟くロア。
ヨーク軍総旗艦エルクアーツとジグリム軍総旗艦バレンシア。
互いの旗艦を瞳の先に映しながら、2人の名将はまたも同時に時計に目をやる。
ゆっくりと進む秒針が頂点にさしかかり、3月19日午前10時の始まりを告げた。


-続く-

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