猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第24話

『ヨーク戦記』

第24話 コルネリアスの戦い4 -重圧-



3月19日、23時20分。
初日の戦闘を終えたロアは、総旗艦エルクアーツの司令官室のベッドに倒れこんだ。
ヨーク、ジグリム共に夜間の戦闘を避け、夜明けまでの時間を補給と休養に回した為、一時休戦状態になっていたのだった。
全身にのしかかる強烈な疲労……だがなかなか眠りは訪れない。
原因は自分でもはっきりと理解できる。
初日の苦戦からくる精神的負担が、疲れているはずの心身に安息を許してくれないのだ。
参戦した飛行艦艇215隻中、撃沈された艦は43隻。
多かれ少なかれ損傷を受けた艦に到っては、その約2倍。
これはヨーク軍にとって、ロアが艦隊の指揮を取るようになって以来、最大の被害であった。
「……振り回されたな、完全に……」
ベッドに倒れこんだまま、ロアが呟く。
敵将グロウスターの戦術に対する感嘆と悔しさが混じり合った声。
同時に脳裏にゆっくりとその戦術が……昼間の戦いが思い出されてくる。


……13時15分。
かろうじてガルナの部隊を救出し、態勢を立て直したヨーク艦隊。
数の上では200隻を割りこみ、不利ではあったが、その防御陣は相変わらず強固さを保っていた。
それに対してジグリム艦隊は、オルゼア・グロウスターの指揮の下、陣形を左右に伸ばし凹形陣を展開。
数で劣るヨーク軍を半包囲しようとするかのような動きを見せる。
もちろんそれを察知したロアも即座に対応を指示、自軍の陣形も左右に展開し、半包囲を阻止しようとする。
戦況は2度目の大きな変化を見せ始めた。

「ロア提督、ジグリム艦隊の陣形が元に戻っていきます。どうやらこちらの動きに気づき、半包囲をあきらめたみたいですが……」
不安混じりの声が参謀長のミナリーから発せられる。
「……ああ、いやにあっさりしてるな……気味が悪いくらいに……」
応えるロアの声もまた同様だった。
対応としては、自軍もジグリム軍も決して間違ってはいない行動のはずなのだが、どうにも釈然としないのだ。
「なんせあのグロウスターだからな……何を企んでるのやら……」
そんな風に呟きながらスクリーンを見つめるロアに、心配そうな横顔を向けるミナリー。
先刻、グロウスターの策にかかった時も感じた事だったが、彼女が最も信頼している提督の様子がどうもいつもと違うのだ。
必要以上に敵将を……ジグリム最高の名将、オルゼア・グロウスターを意識してしまっているような……。
思いすごしだと信じたい一方で、どうしてもその不安が心から消えないのも事実だった。
そんな中、再びジグリム軍が動き出す。
しかもつい先ほどと同じように、左右に陣を伸ばして半包囲を狙った動きである。

「また半包囲……?」
「みたいですね……提督、今度は仕掛けますか? 中央突破を狙うか、あるいは左右どちらかを集中して攻める手もありますけど……」
敵は左右に陣を伸ばしている為、必然的に中央が薄くなる。
そこを狙って突撃し、敵の艦列を真っ二つに切り裂く……もしくは片翼に集中砲火を浴びせ、包囲の完成を阻止する。
共に半包囲を破る手段として、歴史上何度も使われてきた戦術である。
「より効果が大きいのは中央突破だな。成功すれば状況は一気に逆転するが……」
「はい、中央は思ったより堅そうですし、危険もありますけど……突破できない事もないと思います」
コンソールの光点をチェックしていたミナリーが、ロアの方に顔を向けて進言する。
……だが司令官の表情は冴えず、そこから発せられた声も同様だった。
「……いや、もし失敗したらそこで終わりだ。あのグロウスター相手に賭けに出るのは危険だよ。さっきと同様、こちらも陣を左右に展開してくれ、ミナリー」
「……了解しました……」
それ以上、ロアの顔を正視できず、コンソールに向かいなおすと、すぐに各艦に指示を伝達するミナリー。
ロアの判断に異を唱えるつもりは全くなかった。
確かにもし中央突破に失敗すれば、半包囲どころか全方向から包囲され、殲滅される可能性は極めて高い。
その進言をした彼女自身でさえ、兵力で劣る今のヨーク艦隊にとって、最善の策とは思ってなかったのだから。
『でも……』
心の中でだけ、小さく呟く。
『そんな表情で指示を出す提督は見たくないです……提督は……ヨークの司令官、ロア・ジン・クランクハイト提督は……』
もう一度だけ、そっと振り向くと、ロアは相変わらずの表情でスクリーンを凝視していた……。

……結局、今回もまたジグリム艦隊はあっさりと半包囲を諦め、陣を元に戻していった。
対するヨーク艦隊も安堵の息と共に陣を戻すが、それも一時の休息に過ぎなかった。
その後、同様の事がこの後7回も続き、その度にヨークの兵士達は緊張感に満ちた対応に追われる結果となったのである。

「元帥、ヨーク軍の動きがやや鈍くなってきております。時間も夕暮れが間近ですし、頃合かと……」
「うむ、そろそろだな……作戦、第2段階へ移行する。各部隊は予定通り行動、敵艦隊に雨を降らせてやれ」
ジグリム軍総旗艦バレンシアから、全部隊へ向けて通信が飛ぶ。
数にして、ちょうど10回目の半包囲行動。
だがその速度と圧力はこれまでの比ではなかった。
総司令官オルゼア・グロウスターの号令に合わせ、全ての艦が飢えた肉食獣のような獰猛さで、ヨーク艦隊に襲いかかっていった。

「ジグリム軍、急速接近!!」
一方の総旗艦エルクアーツの艦橋に、オペレーターの叫びが響く。
どこか『まさか』という意味が込められたような声に続き、ロアが指揮シートから立ち上がる。
「全艦、展開急げ!!」
「ダメです!! 間に合いません!!」
間髪入れず参謀の席から報告が返ってくる。
彼女の言うとおり、ヨークの艦隊運動は一瞬遅れた。
これまでの9回にも及ぶ半包囲への対応からくる疲労。
そして一定のリズムに慣らされてしまった事により、強烈な緩急をつけた攻撃に対し反応が遅れたのだ。
「さっきまでのはこの布石か……全艦、後退しつつ反撃!! 同時に衝撃に備えろ!!」
ロア自身、困難な命令だと自覚しつつも、それ以外命令の出しようがなかった。
同時に敵将グロウスターの意図に気づかなかったうかつさに、思わずデスクについた掌を握りしめる。
守備を固めるこちらの防御心理を読みきり、完璧なまでにそれを利用してきたのだ、敵は。
その間にもジグリム軍は凄まじい速度で接近し、16時38分、ついにヨーク艦隊を半包囲下に置く事に成功したのである。

「全艦、一斉砲撃」
その命令を待ちかねたかのように、ジグリム艦隊から一斉に砲撃が開始される。
砂漠のスコールを思わせる勢いでヨーク艦隊に降りそそぐ、光と熱の雨。
その雫の一つ一つが死と破壊を生み出していく。
「前衛部隊、被害甚大!! 防御陣、各所で崩壊!!」
「両翼も損傷艦多数!!」
ヨークの各艦に飛び交う状況報告は、ほとんど悲鳴に近い。
さしもの強固な防御陣も、前方に加え左右からの同時攻撃の前には、陣形を維持する事は不可能だった。
総旗艦エルクアーツもまた砲撃を受け、轟音と共に艦橋が大きく揺れた。
「……く……っ……」
とっさに体勢を立て直し、転倒を免れるロア。
慌てて参謀の席に目をやると、ミナリーもコンソールに両手をつきつつもかろうじて体勢を保っていた。
「大丈夫か!?」
「は、はい、わたしなら大丈夫ですっ。それより提督……っ!!」
安堵で一瞬気が抜けそうになるのを振り払い、ロアは全軍に急速後退を命令する。
予想以上のジグリムの猛攻に、反撃しつつ後退する余裕など完全になくなっていたのだ。
だが半包囲された状態からの後退は、戦術上極めて至難。
ましてや司令官のロアが精彩を欠く中では尚更だった。
急速後退の最中も止む事なく続く、ジグリムの、オルゼア・グロウスター元帥の精密かつ苛烈な攻撃。
この時、両翼のガルナ、プレーツが巧みな連携で防御を行わなければ、ヨーク軍は壊滅的な被害を受けていただろう。
それでも被害は深刻であり、ヨークはこの日、先に述べたように全軍の5分の1にあたる43隻の艦を失ったのである。

「……だいたいこんな感じだ、部隊の被害は。……これ以上は、正直ヤバイぜ、ロア」
「……ああ、わかってる。そっちも疲れただろうし、敵の動向に注意しつつ今のうちに休んでくれ」
通信が切れると同時に、モニターが灰色の画面に戻る。
それに目をやったまま、艦橋の誰にも気づかれないよう、疲れた息をつくガルナ。
もっとも他の艦橋要員達も、誰一人そんな事に気づかないほど疲れていたが。
『どうも今回はおかしいな、ロアの奴……。柄にもなく敵のプレッシャーに圧されてんのか……?』
そう考えてすぐ、気持ちはわかるが、と付け足す。
ガルナにしても、敵の……グロウスターの猛攻に対し、かつてないほどの戦慄を感じていたのだ。
『それもあるでしょうけど……ちょうどバイオリズムが低下してる時期なのかもしれませんね』
ロアの前に通信で話したプレーツ・ジン・ディスリードは、妙に真面目な顔でそう言っていた。
その時は冗談かと思っていたが、今思うとかなり本気だったのではないだろうか。
「……にしてもよ、よりによってこんな大事な時に低下する事ねえだろうが……頼むぜ、おい」
今度は実際に言葉に出し、片手で額を押さえるガルナ。
最後の愚痴混じりの一言は、親友に対してか、もっと別の何かに対してか、彼自身よくわかってはいなかった。


-続く-

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