猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第26話

『ヨーク戦記』

第26話 コルネリアスの戦い6 -虚々実々-



3月20日、14時00分。
停滞しつつあった戦況に大きな変化が訪れた。
これまで防戦一方に立たされていたヨーク艦隊が、突如として全兵力を挙げて攻勢に出たのだ。
エネルギーの残量を使いきるかのような、凄まじい数の光線が無数に空を切り裂き、敵艦隊に襲いかかる。
それは完全に優勢を保っていたはずのジグリム艦隊が、一時後退を余儀なくされるほどの突然の大攻勢だった。

「驚きましたな、元帥。まだヨークにあれほどの余力があるとは……」
「うむ……確かに見事な砲撃だ。だがいささか無謀とも言えるが……」
ヨークの整然とした砲撃を見やりつつ、ジグリム軍総司令官オルゼア・グロウスターはそう冷静に論評した。
表情からも特に焦りは感じられず、それが旗艦バレンシアの艦橋要員に安心を与えている。
例え一時的に意表を突かれても、最終的にはジグリム有利の戦況は変わらない。
彼は確信を持ってそう予測しており、だからこそ動揺する事なく指揮に専念できているのである。
だがそれだけにヨークの思惑には無心ではいられなかった。
名将と言われるロアが、何を意図してこの攻勢を仕掛けてきたのか……それを早急に判断する必要を感じていた。
まさかこのまま逆転できると考えている訳ではあるまいが。

「……退くつもりか……?」
「……は……?」
グロウスターのそんな呟きに、副官が奇妙な顔で応える。
「ヨークの事だ。本気で逆転を狙う訳でもなくこれほどの攻勢に出た理由は、撤退の為のカモフラージュかもしれん」
そう言って鋭い視線をメインスクリーンから戦術用コンソールへ移す。
敵艦隊を表す無数の光点。
攻撃しつつ前進を続けるその速度が、先ほどに比べ微妙に低下している。
その事により、やや押され気味だった自軍とは、必然的に距離が遠ざかる事になる。
「このスペースを利用して、これ以上の被害を受ける事なく後退する……ヨークの立場からしても、納得できる手ではあるな」
「ならば敵の前進が止まるのに合わせ、今度は我が軍が攻勢に出るのがよろしいかと。ここまできて、みすみす逃がす手はありますまい」
副官の進言にうなずきつつも、グロウスターは何やら思案する表情でスクリーンを見つめる。
その間にもヨーク艦隊の進撃速度は低下し、徐々に陣形を縮小させて後退準備を整えていく。
これ以上距離が開けば追撃は困難……頭と視野の両方でそれを理解したグロウスターは、ついに追撃の決断を下した。
「全艦、後退を止めて急速前進。半包囲態勢に移行しつつ、敵を追撃に移る」

「……ジグリム艦隊、こちらの後退に合わせて追撃を開始しました。予想どおり半包囲態勢です、ロア提督」
「よし……ここからだな」
参謀の報告を合図に、ロアが各部隊に向けて次々と命令を発する。
緊張から微かに掌に汗を滲ませてはいたが、何の迷いもない声で。
この会戦が始まって以来、総旗艦エルクアーツの艦橋に本来の活気が復活しているのを、艦橋要員の誰もが感じていた。

「ヨーク艦隊、後退しつつ更に陣形を縮小。密集態勢を取っています」
「間もなく有効射程距離に突入。各艦、砲撃準備よし」
一方のジグリム総旗艦バレンシア。
逐次もたらされるオペレーターの状況報告に耳を傾けていたグロウスターが、ふとヨークの陣形に疑問を感じた。
後退の際に密集態勢を取るのは、別に不思議な事ではない。
艦を集中させて強固な陣を築く事によって、被害を最小限に抑える方法は、撤退における有効手段の一つだからだ。
だが……。

「……そうか、読めた」
数瞬の後、鋭く呟いた司令官は、怪訝そうな顔をする副官に向き直った。
「わしは敵の狙いが退却だと思っていたが、それは逆だったかもしれん。おそらくロアは我らに対して反撃を狙っておる」
「反撃……? しかし現にヨークは密集態勢で防御しつつ後退をしておりますが……」
「あれは防御の為に密集しているのではない。攻撃の為に紡錘陣を取っているのだ」
グロウスターの言葉に副官のみならずオペレーター達も驚愕の表情を浮かべる。
「密集したまま退却すれば半包囲追撃しやすい。そうして我々を誘い、薄くなった中央をカウンターで突破するつもりなのだろう」
そう簡潔に説明すると、グロウスターは再び思案を巡らせる。
ヨークの意図が読めた以上、半包囲追撃を中止して通常の形で追撃すべきか……。
だが今陣形を変更すれば、策を見抜かれた事に気づいたロアは、そのまま退却を選択するかもしれない。
それでも今回の会戦自体はジグリムの勝利だろうが、ヨークを完璧に破る絶好の機会を逃すのは惜しいのもまた事実だった。

思案の末、グロウスターは決断した。
この機を逃さず、ヨークに致命的なダメージを与える……その為にロアの策を利用する事を。
つまり策に乗せられたように見せかけて、半包囲態勢のまま、ヨークの中央突破を誘う。
そしてヨークが自軍の本隊に迫った瞬間、両翼の部隊を急速に移動させ、前後左右から完全に包囲、殲滅する。
半包囲追撃から縦深陣への高速移行……それがジグリム軍最高司令官の考案した作戦だった。

「なるほど……しかしかなり高度な艦隊運用ですな。もし各艦の足並みが一歩でも乱れれば……」
「確かにそうだ。だが我が軍はそれだけの訓練を積んできていると思うのだが……違うかね?」
作戦の説明を聞き終え、やや危惧する顔をした副官に、司令官はそう冗談混じりにたずねる。
返ってきた答えは、言葉ではなく敬礼だった。
日々の厳しい訓練を乗り越えてきたからこそ、この部隊はジグリムの最精鋭と呼ばれている……それを再確認するような敬礼だった。
こうしてジグリムの作戦は始動し、両翼を大きく広げた半包囲態勢のまま、密集するヨーク艦隊を追撃する。
グロウスターが予測したとおり、ヨーク艦隊は退却しつつも巧妙に陣形を変化させ、紡錘陣による反撃態勢を整えていく。
徐々に両軍の距離が縮まり、それにともないジグリムの艦列が最大限に伸びた瞬間、ヨークが動いた。
半包囲態勢の為、薄いU字型に展開するジグリム艦隊……その中央部分を目掛けて、一斉に突撃を開始したのである。

「全艦、最大戦速!!」
「中央部、後退!! 両翼は直ちに包囲にかかれ!!」
両軍それぞれの旗艦に、それぞれの司令官の声が響く。
その指令に応えるべく、片方は高速で突撃し、もう片方はその前に包囲しようとする。
ヨークの突撃も速かったが、ジグリムの艦隊運動も負けずに速かった。
グロウスターの指揮の下、高度な陣形変化を完璧にこなし、ヨーク艦隊を包みこむように縦深陣を構築していく。
「縦深陣、間もなく完成。計算結果でもマイナス16の差で、我が軍の速度が上回ります」
「……勝ったか」
ディスプレイに映る配置図を見ながら、グロウスターが大きくうなずく。
これでヨーク艦隊は袋のネズミ。
ロアの反撃を封じ、完全なる勝利を手中に収めた満足感が、漆黒の瞳に浮かび上がる。
だが……このネズミはただのネズミではなかった。
旗艦エルクアーツからもう一人の司令官の指令が飛び、先鋒部隊を任されたプレーツ・ジン・ディスリードが反撃の牙を突き立て始めたのだ。

「航空爆雷、全弾発射。目標、ジグリム両翼」
縦深陣を展開するジグリム艦隊の中央部。
旗艦バレンシアを含む本隊の正面に迫るプレーツ艦隊から、左右に向けて無数の爆雷が放たれる。
縦深陣が完成する直前に生じた、陣形が整うまでのわずかな空白。
そこを狙った絶妙なタイミングの攻撃に、ジグリム両翼は対応しきれず、まともに直撃を受ける事になった。
「!? 爆煙及び、高熱によりレーダー障害発生!! 索敵機能半減!!」
ジグリム各艦の回線が、同様の通信に満たされる。
光弾や光線と違う、爆雷の効果によって大量発生した煙幕がヨーク艦隊の姿を完全に覆い隠す。
「よし、今度はジグリム中央部へ突撃。両翼は無視して構わない」
そんな爆煙の中をプレーツの部隊はわき目もふらずに猛進し、グロウスターの本隊へと向かっていく。
旗艦フレスフォルンを先頭に、爆煙を切り裂くようにして突き進む艦隊から、一斉に無数の光の矢が放たれた。

思わぬ反撃にたじろいだジグリムだが、立ち直るのは意外と早かった。
即座に混乱から回復したグロウスターの冷静な指示が飛び、本隊からプレーツの艦隊目掛けて報復の光が襲いかかる。
未だ消えぬ爆煙に両翼の動きが半ば封じられているとはいえ、中央部隊の数だけでもヨークを抑える事は短時間なら十分に可能なのだ。
「……後はこの煙が収まれば問題あるまい。しかし爆煙による目くらましとは少々予想外だったな……」
プレーツ艦隊の勢いが弱まったのを感じ、グロウスターが指揮シートに腰を降ろす。
多少の反撃を受けたものの、依然自軍有利の状況は変わりない。
そう再確認しつつも、全軍に油断は禁物と伝えようとした直後、旗艦バレンシアの艦橋に強烈な衝撃が走った。
「は、背後より敵襲!! て、敵旗艦エルクアーツ及び、戦艦ベルネアを確認!!」
何事だと彼が叫ぶ前に、オペレーターの絶叫が響く。
さすがに今度は即座に混乱から立ち直れず、モニターを凝視するグロウスター。
そこに縦深陣の中にいるはずの敵艦隊を見いだした途端、再び轟音と衝撃が襲いかかってきた。

「全艦、一斉砲撃!! 敵に振り向く暇を与えるな!!」
「撃って撃って撃ちまくれ!! ここを逃したら勝ちはねえぞ!!」
エルクアーツとベルネアにロアとガルナの指令、と言うより激が飛ぶ。
縦深陣の中に閉じ込められていたはずの彼らの艦隊は、今やジグリムの背後に展開し、一斉に砲火を浴びせかけている。
先ほど先鋒としてプレーツ艦隊が突撃した後、後方に続いていたロア達の艦隊は高速で陣の下方をかいくぐり背後に回っていたのだ。
大量に爆煙を起こさせて索敵・通信機能を半減させたのも、全てはこの時の為だった。
「各艦、被害甚大!! 回避も不能!!」
無防備な背中を撃たれ、たちまち無数の艦が沈んでいくジグリム中央部隊。
それに呼応し、陣の中にいるプレーツ艦隊も再度反撃を開始した事によって、中央部隊は完全に挟撃される形となった。
しかも縦に長い縦深陣を展開していた事が災いし、両翼の部隊が本隊と合流するのには時間がかかる。
現在150隻を切り、敵に比べ50隻以上数で劣るヨーク艦隊にとって、これは逆転へのラストチャンスなのだ。

「……何とか上手くいったか」
「密集態勢による偽退却で半包囲を誘い、更に中央突破と見せかけて背後へ展開……。
さすがのグロウスター元帥でも見抜けませんでしたね、提督」
立て続けに指令を出しながら小さく息をつくロアに、ミナリーがそう確認するように話しかける。

単にジグリムに半包囲態勢をとらせるだけなら、わざわざ偽の退却を行う必要はなかった。
だがそれだけではこちらの狙いが中央突破にある事に気づかれ、半包囲を中止する可能性も高い。
だからこそ念入りに、ワンクッションとして偽の退却を演じたのだ。
あくまでグロウスターに、こちらの策を見抜いたと思わせてこそ、この作戦は成功する……言うなれば一種の心理作戦である。
もし通常の司令官ならば、ヨークが紡錘陣を取った意図に気づいた時点で、用心して半包囲をやめていたかもしれない。
それを利用する事ができるほど高い戦術能力を持ったグロウスター相手だからこそ通用する、まさに一発逆転の大勝負だった。

「まあ今回は大部分はプレーツの手柄さ。作戦なんて考えるより実行する方がよっぽど大変なんだからな」
「無事で会えますよね、きっと……」
あえて今はそれ以上は語らず、それぞれの任務をこなすべく司令官と参謀は動き出す。
艦隊運動の指示を飛ばし、状況を分析し、共通の目的に向けて最善を尽くしていく。
ヨーク有利の戦況は変わらないが、徐々にジグリムも態勢を整え、戦闘は苛烈さを増していく。
特に敵中に少数でとどまっていたプレーツ部隊の奮戦は見事の一言だった。
この部隊の存在があったからこそ、ヨーク軍は長時間に渡って挟撃をする事ができ、戦況を大きく優勢に進める事ができたのである。
だがそれでも数と位置の不利は否めなかった。
16時14分、彼の旗艦フレスフォルンの後方部に数発の光弾が直撃し、爆音と共に艦全体が大きく傾いた。

「機関部に被弾、火災発生!! Cブロックの補助機関も損傷!!」
「出力低下!! 高度を維持できません!!」
これまでか、と無言で呟くと、プレーツは戦線離脱を決意した。
既に部下達の艦もかなりの損害を出し、これ以上の戦闘継続は自殺行為という状態にまでなっていたのだ。
できればもう少し粘りたかったが、ここまでくれば後はロア提督達の本隊に任せても大丈夫だろう。
そう考え、部下の全艦隊に離脱指示を出すと、自身は副官に向き直った。
「不時着はできるか? 無理なら小型艇で離脱するしかないが……」
「何とか可能と思われます。ただ位置的にヨーク領ではなく、ジグリム領内になりそうですが」
コルネル村付近の森、との位置予測にうなずくと、青年提督は艦橋要員に厳命した。
「間違っても村には落とすな。極力周囲に被害を出さないよう、慎重に不時着してくれ」

かろうじて敵の砲撃から逃れつつ、フレスフォルンの巨体が森の中に降下していく。
その圧倒的な光景に、森の住民である鳥や動物達が一斉に逃げ出していく。
凄まじい音を立てて周囲の木をなぎ倒し、削り飛ばし、コルネル村名物の温泉の湯煙が見える辺りまで来て、ようやく停止した。
「機密データの抹消後、全員順次退艦。味方に向け救難信号の発信も忘れるな」
不時着の際の衝撃に艦橋要員達が顔をしかめる中、一人冷静なままのプレーツが素早くそう告げる。
指示を出しつつ自らも通信機を手に取り、総旗艦エルクアーツのロアに向けて無事を報告した。
任務を終え、次々に退艦していく部下達に続いて外に出る。
周囲に立ち込める土煙と少し先に見える湯煙……それらを見ていた視線が自分の艦に移った時、一瞬だけ複雑なものへと変わった。
と、そこへやや異質な視線を感じ、プレーツが後ろを振り返る。
彼の視線の先で、木の陰に隠れていた1人の少年、いや子供が慌てたように顔をそらした。

「……君は? いや、それより危ないからここへは近づかない方がいい。両親が心配するだろうし、早く家に帰るんだ」
年齢は多分5,6歳……多分コルネル村の子供だろうと、プレーツが語りかけるが、子供は逆にこちらに近づいてきた。
好奇心とあどけなさが同居した瞳で、フレスフォルンを見上げる。
「……おにいちゃん、だれ? これって、おうち……?」
「……僕はプレーツ・ジン・ディスリード、ヨークの軍人だよ。そしてこれは……」
ついそう説明しかかって、プレーツはやめた。子供の顔が「軍人」の辺りで既に「?」になっていたからだ。
「とにかく早くお母さんの所に戻るんだ。この辺りではまだ装兵機戦も続いて……」
「そうへいき!? ねえ、そうへいきがちかくにいるの!?」
プレーツの口から「装兵機」の単語が出た途端、子供の瞳が好奇心に輝いた。
たちまち「どこどこ!? みたいみたい!!」と騒ぎながら、キョロキョロと辺りを見回し始める。
「……装兵機が好きなのかい?」
「うん!! ぼく、おっきくなったら、ぜったい”そうへいきのり”に……”きし”になるんだ!!」
多少呆気に取られながらもプレーツが聞くと、子供は満面の笑みで大きくうなずく。
迷いも不安もない純粋な瞳……それが無性にまぶしく見えて、青年提督は子供の頭に静かに手を置いた。

「騎士か……頑張るんだよ」
この子にとって正しい台詞かどうかはわからなかったが、そう優しく頭を撫でてやるプレーツ。
騎士になるという事は、それだけ厳しい道を進む事になる……平凡でも普通に生きる方が、多分この子にとって幸せだと思う。
それでもこの時の彼は、目の前の子供の夢が叶う事を、確かに心から願ったのだ。
そして子供は嬉しそうにうなずいた。先ほどよりも更に大きく、はっきりと。
 
 
森の中での小さな邂逅。
別れ際に聞いた子供の名前を、後にプレーツは思い出す事になる。
グラード・バーグリーという、小さな小さな未来の騎士の名を。
 
 
-続く-

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