猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第27話

『ヨーク戦記』

第27話 コルネリアスの戦い7 -未だ見えぬ帰結-



3月21日、コルネリアスの戦いは3日目に突入。
ヨーク、ジグリム両軍の激闘は、艦隊戦、装兵機戦共に、未だ勝敗が決する事なく続いていた。
どちらが有利かと問われれば、誰もが回答に窮したであろう互角の展開。
特に艦隊戦は2日目後半におけるヨークの大反撃によって、それまでのジグリム有利の形勢は完全に崩れ去った。
名将オルゼア・グロウスターすら完全に裏をかかれた、ロア・ジン・クランクハイトの起死回生の一策。
これによりジグリム軍は50隻を超える損害を出し、両軍の参加戦力はヨーク軍133隻、ジグリム軍140隻と一気に互角になったのである。

一方、地上……コルネリアス平原の2日目の戦闘は、やや静かな戦いであった。
主な原因と言えばジグリム軍中佐ハイディーヌ・ベルテスの一時的な戦線離脱だろう。
彼女の装兵機ユニフィアが初日の戦闘で損傷し、その応急修理に思いのほか時間がかかったのだ。
三強の1人を欠いた状態で、ヨークの騎士達との戦闘は得策ではない。
同じく三強に名を連ねるクルト・カルネビーク大佐はそう判断し、2日目は全面的な衝突を避けたのだった。
だがそれはあくまでも一時の小康状態にすぎなかった。
明けて3月21日、ユニフィアの修理完了を合図に、両軍は溜めていた力を解放するかの如く、激しい戦闘を再開したのである。
 
 
斬撃音と爆発音が同時に響く。
ジグリム装兵機部隊の先鋒として突撃してきた1機の装兵機によって、ヨークの装兵機が次々に斬り倒されていく。
通常の装兵機の半分ほどのサイズの機体、装甲を難なく斬り裂く巨大な剣……他と間違えようのない、「彼女」の愛機だった。
「ユ、ユニフィア!! さ、三強のハイディーヌか!!」
そう叫んだヨーク兵士の標準装兵機オーリスに向けて、ハイディーヌの斬装刀が唸りをあげて襲いかかる。
反射的に受け止めようと繰り出した剣が一撃で砕け、機体もろとも後方へ弾き飛ばされる。
衝撃に一瞬呼吸が止まり、目前に迫るユニフィアを視界に捉え、兵士は死を覚悟した。
だが彼の機体に斬装刀が振り下ろされる事はなかった。
左から猛スピードで突進してきた真紅の装兵機が、ユニフィア目掛けて勢いそのままに斬りかかってきたのだ。

「こらぁ、ハーディ!! やめなさいってば!!」
「……え?」
振り向いた彼女の視線の先に映る、ヨーク騎士エオリア・ジニア・ウッドゲートの愛機ガーネティア。
その大気を斬り裂くような高速の一撃を寸前で回避し、ハイディーヌは遠心力で反転しつつ斬装刀を繰り出す。
……が、それもまた空を斬る。
直撃すれば確実に両断される破壊力の斬撃だったが、エオリアの反応速度は直撃どころか、かすり傷すら許さなかった。

「やっほ~~♪ ひさびさだけど元気してた? って、相変わらず大きな剣使ってるわね~~そんなの振り回して、腕痛くならないの? それにほら、やっぱり可愛くないわよ、それ♪」
「…………」
互いの一撃を避け合った所で、エオリアが回線越しに一気にまくし立てるが、返事は帰ってこない。
「……あれ? もしかして忘れちゃったの? 私よ、私、エオリア・ジニア・ウッドゲートだってば~~」
「……知ってる」
ユニフィアの操縦席に響く不満気で悲しげな声に、今度は短いながらも応じるハイディーヌ。
彼女にしてみればさっきのも無視した訳ではなく、エオリアの言葉が途切れなかった為、返事をさせてもらえなかったのだが。
「うう、よかった~~。てっきり忘れられちゃったのかと思って、お姉さん悲しくなったわよ~~」
そんな彼女の心も知らず、一転して嬉しそうなエオリアの声が届く。
戦場でこんな陽気に話しかけてくる人、忘れたくても忘れられない……とは、あえて口には出さなかった。
「さ~て、安心した所でひさしぶりに一騎討ちしよっか。一昨日はうちのガリュードくんをイジメてくれたみたいだし、そのお返しも、ね?」
「……イジメ……?」
珍しくきょとんとした顔をしつつも、エオリアの剣気に反応したハイディーヌは斬装刀を構える。
一瞬の静寂の後、ガーネティアから放たれる抜刀術『紅風』の真空波……迎え撃つ斬装刀との衝突に大気が震えた。
 
 
「おーおー……盛り上がってんなあ、あいつら」
乱戦を駆け抜けてきたフラン・ジン・リーベルが、羨望と感嘆の混じった視線を戦場の一角に向ける。
激しいながらも、どこかに華麗さすら感じさせる剣撃を応酬する2機の装兵機。
エオリアのガーネティアと、ハイディーヌのユニフィアが、彼の視線の先で激闘を繰り広げていた。
一撃の破壊力で圧倒的に勝るハイディーヌに対し、微妙に距離を取りつつ攻撃の後のわずかな隙を狙うエオリア。
共に高機動型の装兵機を駆る両者の対決……片方は力、片方は技に比重が傾いているが、ほぼ互角の勝負を展開している。

「『津波』の射程距離だが……あの位置だとエオリアまで巻き込んじまうな……」
2人の戦闘を遠目に眺めつつ、いかに加勢するべきか悩むフラン。
彼の技の一つ、『広域刀法・津波』は、高めたプラーナを剣に集め、そこから放つ波動によってその名のとおり広域を破壊する技である。
それだけに多数の敵を撃つのには格好の技だが、一歩間違えると周囲の味方にまで被害を及ぼすのが欠点だった。
「万が一、当てちまったらシャレになんねえし……やっぱ多少不利でも接近戦しかねえか」
「うんうん、その方が賢明だねえ」
「!?」
突然だった。
フランが接近戦の判断を下すのを待っていたように、通信回線に若い男の声が割り込んできたのだ。
「その声……クルトか!!」
妨害電波の影響で乱れるレーダーを最初からあてにせず、フランは素早くモニターに視線を走らせる。
彼の後方60リーク(90m)の地点……ちょうど爆煙で死角になっていた位置に、銀色の装兵機が剣を構えているのが見えた。

「わざわざ話しかけてくるなんざ、随分と余裕じゃねえか。俺が『背後からは卑怯だ』とか言うとでも思ったのか?」
「まさか。単にお宅がどんな行動を取るか興味があっただけさ。実際、撃ちそうだったら、その隙に仕留めるつもりだったし」
フラン・ジン・リーベルの装兵機ザリデアと、クルト・カルネビークの装兵機バーウェルが近距離で向かい合う。
付近には他の装兵機の姿はなく、両者共に目の前の機体のみに神経を集中していた。
「俺は味方を巻き込む気はねえよ。それに……上手くハーディだけに命中しても後が怖え」
「はは、同感同感。絶対、後で殺されるよな」
本人が聞いたらどちらも無事では済みそうにない会話の最中、両機がゆっくりと歩を踏み出す。
少しずつ詰まる間合いと高まる緊張……それが限界に達した時、弾けるようにして同時に剣が繰り出され、双方に火花を飛び散らせた。
そこから始まる激しい剣撃の応酬。
同時に行われているエオリアとハイディーヌの戦闘に優るとも劣らない、高レベルの一騎討ちが戦場の一角に展開される。

「―――くたばれっ!!!」
気合いと共にフランが放つ『狭域刀法・飛沫(しぶき)』……プラーナの粒子を飛沫のように弾けさせながら、彼の剣が高速で振り下ろされる。
その粒の一つ一つが破壊力を持ち、例え斬撃自体を受け止められてもダメージを与える、接近戦用の必殺技。
回避しきれず剣で受け止める形となったバーウェルに向けて、無数の光の飛沫が襲いかかる。
だがそれらの粒子は、クルトの愛機に届く事なく、ことごとく弾き返された。
バーウェルの剣に集中されていたプラーナが瞬時に拡散したかと思うと、薄い膜状に変化して飛沫から機体を防御したのだ。

「!? 形状変化だと!?」
「そ、プラーナ・コントロールの応用だよ……っと!!」
驚愕に一瞬動きの止まったフランに、今度はクルトの『針冥』が、超高速の突きが唸りをあげて襲いかかる。
「くっ!!」
的確に胸部の中心を狙ったその一撃を、フランはプラーナの残光を纏った剣で受け止める。
『針冥』の貫通力の前には無意味だと知りつつも、もはやそれしかなかったのだ。
続けて襲いかかる強烈な衝撃――剣が砕かれ、フランの愛機は内部の操者もろとも貫かれた……はずだった。
しかし実際には、大きく跳ね飛ばされたものの、ザリデアはおろか受け止めた剣さえも無事である。
プラーナの形状変化という高度なコントロールを行った為、本来剣先に集中するはずのプラーナの出力が大幅に弱くなったのだ。

「ありゃ……やっぱまだここまでは無理か。もうちょっとで完成なんだけどな……」
悔しいのか悔しくないのか不明な口調で呟き、クルトが追撃をかけようとする。
しかし突如として操縦席に鳴り響いた警報が、その意図を妨げ、彼の視線を強制的に上方に移動させた。
「んなっ!?」
そんな素っ頓狂な声を上げ、クルトの視線が凍りつく。
その黒い瞳に映ったのは、モニターを埋め尽くすような巨大な物体。
各所を破損し炎と煙を噴き上げつつ落下してくる、ジグリム所属の飛行艦艇だった。
「!!」
フラン、エオリア、ハイディーヌもまた同様に事態に気づき、一瞬言葉を失う。
そして4人の騎士達の驚愕が消える間もなく、大地を揺るがす衝撃と轟音と共に、巨大な艦艇は地面に墜落した。
 
 
「ロア提督、先ほど撃沈した敵艦艇ですが……軌道予想のとおりコルネリアス平原中央部に墜落したようです」
「……よりにもよって地上戦のど真ん中だな」
「前もって地上部隊には警告を送っておきましたけど……向こうも混戦のようで全員に伝わったかどうか……」
11時37分、ヨーク軍総旗艦エルクアーツの艦橋。
参謀長のミナリー・ジニア・エルフィスが心配そうな視線をモニターの一つに向ける。
本来、戦艦が地上戦の位置に落ちる事などありえない事である。
その危険性を考慮して、地上と上空の位置が重ならないように、あらかじめ慎重に座標を調整しているのだから。
つまりそれだけ戦況が混戦になっている事の証明だった……先ほど彼女が言ったとおりに。
「大丈夫、戦艦なんかに潰される連中じゃないさ、うちの騎士達は。こっちはこっちの事に集中した方がいい」
彼にしては気の利いた台詞を言うと、ロアは今後の戦況の推移に思案を巡らせる。
現在は両軍共に距離を置き、小規模な攻撃を繰り返しつつ攻勢の機会をうかがっている状態だが、はたしてここからどう動くか。

もし俺がオルゼア・グロウスターなら……と、ロアは考えてみる。
両軍の戦力はほぼ互角、勢いで言えばヨークの方がやや有利なこの状況。
一方的な勝利は望み難い以上、このまま戦闘を続けても無駄な消耗戦に突入しかねない。
ならばヨークに一定の損害を与えた事で満足して、どこかで収拾をつけたい所だろう。
増援を要請するという手もあるが、アガルティア方面の状況も予断を許さない現状では、できればそれは避けたいはず。
現に今朝方入った情報によれば、グロウスターの不在を知ったアガルティア軍が、ジグリムへの侵攻を準備しているという。
当然ジグリム側もその気配に気づき、嫌でもそちらに兵力を多く割かざるをえない。
留守を守るアシュリー・ミシュアルやバゼット・ファルモアが簡単に敗れるとも思えないが、少なくとも増援が来る可能性は激減したのだ。

「わたしも提督に賛成です。あとは……リンバーグがどう動くか、ですね」
「ああ、そこがどうにも難しい所なんだ。もしリンバーグがジグリムを援護するとなると、また状況は大きく変わってくる」
ミナリーに自分の考えを伝え、そこから生まれた更なる問題にロアが思わず頭を掻く。
もし今グロウスターの留守にアガルティアがジグリムに侵攻しても、リンバーグの増援があれば苦戦の度合いが増すのは間違いない。
そうなればこちらにもジグリムの増援が来る可能性が出てくるのである。

「だが……多分その心配はないと思う。これまでの例からも、ジグリムとリンバーグは信頼関係で結ばれているとは考えにくいしな」
「お互いがお互い、自分達の戦力は温存したいと思ってるみたいですから。特にリンバーグの方は」
やや苦笑気味のロアの言葉に、ミナリーもまた似たような微笑で応える。
敵のささやかな不協和音にも最大限につけこまなくてはならないのが、彼らの、小国のヨークとしての立場であった。
「さてと、それじゃ敵が退きやすいようにこっちから退いてみるか。被害も大きいし、負傷者も多い。無駄に時間を使いたくない」
「……了解しました、提督」
再び真剣な雰囲気に戻った司令官の声を受け、ヨーク艦隊はゆっくりと後退を開始する。
もちろん予想外の事態に備え、万全の態勢を保ったままで。

「ヨーク艦隊、後退していきます。追撃なさいますか、元帥?」
「……いや、せっかく向こうから退いてくれたのだ。ここはご厚意に甘えるとしよう」
ジグリム軍総旗艦バレンシアのメインスクリーンに映るヨーク艦隊。
その後退を認めた副官の問いに、オルゼア・グロウスターは答え、同時に今朝方送られてきた通信文を机に放り投げた。
「アガルティアがジグリム本国を狙う動きを見せた今、ここに長居するのは得策ではない。最悪の場合、退路を断たれる恐れもある。……リンバーグが突然盟友意識に目覚めでもすれば別だが」
そう冷静に説明しつつも、最後に付け足すように同盟国に対する皮肉がグロウスターの口からこぼれ出た。
「確かにそうですが……敵将ロアの事です。撤退すると見せて、また何か仕掛けてくるのでは……」
「この状況でそれはまずありえん。ヨークとしては、いや、ロア・ジン・クランクハイトにしてみれば、我々を撤退させればそれでよいのだ。あの男の戦略は我がジグリムを滅ぼす事ではないし、おそらく滅ぼせるとも思ってはおらんよ」
だからこそ手強い、と心の奥で追加し、ジグリム軍最高司令官は小さく嘆息する。
ロアがグロウスターの心理を的確に予測したように、彼もまたヨークの司令官の心理を的確に予測していた。
現在の国力・兵力差でジグリム本国を攻略できると考えているなら、ロアなど恐れる必要はなかった。
今回実感として感じた戦術レベルでの能力だけではなく、戦略レベルでも高い能力を有しているからこそ、彼は恐るべき敵と言えるのだ。

「しかし改めて思いますが、ジグリム、ヨーク、アガルティア、リンバーグ……どれも単純ならざる状況の中におりますな、元帥。それぞれの力の振り分け方一つで、どのようにも戦況が変化するのですから」
「全くだ。この大戦の帰結、見通すのは容易な事ではない……我が国だけの悩みではないがな……」
指揮シートに腰を降ろし、何度か首を振ると、グロウスターは全軍に撤退を指令する。
いずれまた戦う日が来るか、それともこれが最初で最後になるか……。
未だ終わりの見えない大戦を生きる者としての奇妙な共感の念をこめ、彼は遠ざかっていく敵旗艦の姿を静かに見つめていた。
 
 
「……ひどいな、これは……」
地上、コルネリアス平原に、ガリュード・ジン・ヴラッツェンの声が風に乗って静かに響く。
彼の眼前には墜落した艦艇によって生まれたクレーターが、まるで地獄への入り口のように巨大な口を開けている。
そしてその周囲に散らばる、敵味方、何機かの装兵機の残骸……砕け散った破片の一つ一つが墜落の衝撃を無言で伝えてくる。
「エオリアさん、フランさん!!」
こみ上げる不吉な予感を振り払うかのように、ガリュードが僚友の、家族同然の仲間達の名を叫ぶ。
が、通信機からは何の返答もなく、ただ重々しい沈黙だけが耳に痛みをもたらす。
「……冗談でしょ、2人とも……」
沈黙に耐えかねたガリュードが小さく呟いたその時、突然レーダーに装兵機の反応が出現した。

「クルト・カルネビーク……それにハイディーヌ・ベルテスか……」
一瞬の期待が即座に緊張へと切り替わる。
反応を追って振り向いた先に存在したのは、ジグリム三強の駆る装兵機、バーウェルとユニフィアだった。
こんな時に……と舌打ちしながら、ガリュードのドルファーが剣を構える。
「おいおい、ちょっと待った、俺らは戦う気はないってば。撤退命令が出たんで、これから帰るとこだよ。お宅らもそうだろ?」
「……それなら何の用でここに?」
クルトの声に剣を下げながらも、ガリュードが問い返す。
無論最低限の警戒は解かず、いつでも戦闘態勢に入れるよう神経を研ぎ澄ませた状態である。

「……信用ないねえ、俺って……せっかくいい事を教えに来たってのに……」
「?」
「エオリアさんとフランを探してるんだろ? あの2人なら多分、この先の……B-13エリアの辺りに飛ばされてるはずだよ。
無事だとは思うけど、念の為、早く行ってやった方がいいぜ、ガリュード君」
言いながらバーウェルの剣がその方向を指し示す。
無意識に敵装兵機の剣の先を見たガリュードの視線が戻るより早く、ジグリムの両機は戦場を離れていく。
遠ざかっていく2機の背中に向けて、何か言おうとしたガリュードだったが、結局、疑問も感謝も言語化できなかった。
軽い混乱に戸惑う頭を数回振ると、ヨークの青年騎士はB-13エリアへと向かう為、いつも以上の力をこめて操縦桿を強く握った。
 
 
「……何か言いたそうだな、ハーディ」
部隊の合流地点への移動の最中、奇妙な視線を感じたクルトがモニターに向けて話しかける。
彼の視線を受けて、ほんの少し考えた後、ハイディーヌは静かに口を開いた。
「……何故わざわざ教えたんです……? 敵ですよ、ヨークは……」
こちらを真っ直ぐに見つめる北海の色の瞳に、ジグリム三強の青年騎士はさり気なく視線を逸らす。
もっとも、本人としては自然に逸らしたつもりでも、周囲から見ればあまりに露骨だったが。
「……なんつーか、ほら、自分だけが知ってる情報って、無性に人に教えたくなるだろ?」
「答えになってません」
視線を逸らしながら語るクルトの台詞を、ごく単純に、あっさりとはね返すハイディーヌ。
そんな彼女の態度に、あきらめたかのようにクルトは一つため息をついた。

「……特に深い意味はないんだけど……撤退命令が出た後まで、命の奪い合いをするのはどうも性に合わなくてさ。戦闘中には戦闘中の、戦闘後には戦闘後のやり方ってのがあると思うんだよね、俺としては……」
「…………」
「上に報告したければ構わないぜ。自分でも馴れ合いかな、と思わないでもないから」
説明後も相変わらず無表情な同僚にそう言ってから、本心とはいえ少し卑怯な言い方だった事に気づく。
やがて返ってきた返答は、予想どおりと予想外の2つの意味を持っていた。
「……これも戦闘中の事じゃないですから」
予想どおりだったのは彼女の言葉、そして予想外だったのは彼女の表情。
モニターの中のハイディーヌの口元が小さく微笑んでいた事に、先ほどの戦艦の墜落以上の驚きを覚えたクルトだった。
 
 
正統暦4051年3月21日、15時10分。
ヨークとジグリムの国境、コルネリアスの空と大地に平穏が戻る。
3日間に及んだ『コルネリアス会戦』が、両軍の完全撤退によって終結の時を迎えた瞬間だった。
この会戦におけるヨーク軍の参加兵力は、飛行艦艇215隻、装兵機130機、対するジグリム軍は、飛行艦艇220隻、装兵機140機。
被害に目を移すと、ヨークは艦艇62隻、装兵機43機を失い、ジグリムもまた艦艇68隻、装兵機51機と、ほぼ互角の数を失っている。
この事から『コルネリアス会戦』は一般的には「引き分け」と言われる事が多い。
ただ、共に幹部に戦死者は出なかったとはいえ、両軍の被害は甚大であり、より正確には「痛み分け」と言うべきだろう。

とは言え、この結論には当時も現在も異論が存在し、ヨーク派とジグリム派に分かれ、それぞれの勝利を主張する声も多い。
それはある意味、ロア・ジン・クランクハイトとオルゼア・グロウスターのどちらが優れているか、その主張でもあった。
会戦を振り返ると、前半においてはグロウスターがロアを圧倒し、逆に後半においてはロアがグロウスターを圧倒した感がある。
戦略的に見れば、ヨークの防衛に成功したロアの勝利と言えない事もない。
だが長期的な観点で見ると、生産力で劣るヨークにこれだけのダメージを与えた事は間違いなくグロウスターの功績であった。
このような意見が果てしなく飛び交う為、両派の対立は容易に決着が着かず、数十年の月日を経て今日にまで到っているのだった。

……何にせよ、今回の会戦は両軍の最高司令官同士、初の直接対決という意味で、世界大戦史における重要な一コマとなった。
その事実だけは、ヨーク派、ジグリム派の双方が等しく認める、数少ない統一見解なのである。
 
 
-続く-

 SS(二次創作)管理用

0 Comments

Leave a comment

Designed by Akira.

Copyright © 猫々蹴球 All Rights Reserved.