猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第30話

ヨーク軍総参謀長、ミナリー・ジニア・エルフィスの朝は早い。
午前5時30分にセットされた目覚まし時計が忠実に己の職務をこなし、けたたましく電子音を鳴り響かせる。
『ピピピピピ』と単調なリズムで繰り返されるその音が、少女の意識を強制的に夢の世界から引き戻す。
「……ん、うぅん……」
もぞもぞとベッドの上で小柄な体が動き、伸ばされた手が目覚ましのスイッチをカチッと切る。
「……おやすみなさぁい……」
シーツの中に手を戻し、誰に言うでもなく小さく呟く。
ゆっくりと意識がまどろみに包まれ、ふわふわとした心地よい眠気に身を任せていく……。
 
……いや、違う。
寸前の所で自分の間違いに気づき、ミナリーは慌てて枕元の時計に目をやった。
5時34分。
もう起きないと仕事に間に合わない時間だった。
なおも再度の眠りを求めて抗議の声を上げる体を何とかなだめ、ゆっくりとベッドに半身を起こす。
眠たそうにうっすらと開いた水色の瞳が、ベッドの上で寝そべる茶色いふわふわした物体を見つける。
「……おはよ、スノ……」
その声に耳をぴくっと跳ねさせ、飼い主と同じような眠たげな瞳で見上げてくる茶色い猫。
何度か目をぱちぱちと瞬かせ、スノは一つ小さくあくびをした。
 
朝は苦手だった。
シャワーを浴びようとバスルームへ移動しながら、ミナリーはつくづくそう思う。
嫌いという訳ではなく、むしろ朝の清々しい空気は大好きなのだが、起床の時だけは別だった。
なかなか頭がはっきりせず、完全に目が覚めるまでには、間違いなく常人の2倍は苦労をともなう。
しかもそれは朝に限らず、寝起きの際は毎回そうなのだ。
以前など、寝ぼけたままパジャマ姿で艦橋へ行ってしまい、ロアを含むその場の全員に大笑いされた事さえある。
「……うぅ……」
当時の事を思い出すと、あまりの失態ぶりに今でも赤面してしまう。
たった7隻の艦艇でヨークの命運をかけた作戦に臨んでいる状況下での失敗だけに、精神的な落ち込み度もひとしおだった。
 
そんないわく付きのネコイラスト入りパジャマを脱ぎ、きれいにたたんでから下着と共に脱衣かごに入れる。
バスルームに入りシャワーの蛇口をひねると、たちまち室内に熱と湯気が満ちていく。
適温に調整された熱いお湯を頭から浴び、全身に広がっていく心地よさを感じる。
歴史上最高の発明家は、きっとシャワーを発明した人。
眠気の残りが出て行くのと同時にはっきりしてくる頭の中で、ヨーク軍の総参謀長はそんな事を考えた。
 
「にゃあ」
シャワーを浴び終え、バスタオルで頭をふきながら寝室に戻ったミナリーを、スノが鳴き声と共に出迎える。
その頭を優しく撫でてあげてから、壁にかかった制服に手を伸ばす。
青と白を基調にしたヨーク軍女性士官用の標準制服。
まずワンピース風のインナースーツとストッキングを身に着け、続けて白い上着の袖に腕を通す。
その上から青いケープを羽織り、総参謀長の階級を意味する胸飾りでパチンと留める。
最も小さいサイズにもかかわらず、軍に入った当時はかなりだぶついていた制服だが、今ではとりあえず違和感はない……はずだった。
鏡を見ながらそう思うと、最後に下ろしていた髪を黄色いリボンを使ってポニーテールに束ねる。
 
「…………うん」
寝癖等、おかしな部分のない事を確認し、鏡の前で小さくうなずく。
本来、仕事に行くにはこれで全て完了なのだが、彼女の着がえはまだ完全には終わっていなかった。
引出しから何かを手に取ると、スノを連れていそいそと寝室を出る。
向かう先はキッチン。
冷蔵庫を開け、卵を中心にいくつか食材を取り出すと、手にしていたエプロンを素早く制服の上から身に着ける。
パジャマと同様、満面の笑みを浮かべたネコのイラストが描かれたピンク色のエプロン。
「ちょっとだけ待っててね、すぐご飯にするから」
イラストのネコとにらめっこしているスノにそう微笑むと、ミナリーは手慣れた手つきで卵を割る。
きれいに割れた卵から、中身が受け皿へと落下する。
皿の中には黄身が2つ。
今日はいい日になりそうな予感がした。


『ヨーク戦記』
 
第30話 天才少女1 -参謀長の多忙な1日-



飛び交う光線の光が、様々な色に空を染める。
時に赤く、時に白く輝く戦場の中、両艦隊は激しく砲火を応酬させる。
だが形勢は明らかに一方に傾いており、もう一方の艦隊を完全に包囲下に置き、次々と沈めていく。
「……降伏してください、フランさん。もう勝負はつきました、これ以上はもう……」
その優勢な側を指揮していた少女、ミナリー・ジニア・エルフィスが敵艦隊へと降伏を勧告した。
彼女の艦隊が120隻を残しているのに対し、敵はすでに10隻を切っており、もはや勝敗は決定的な状況である。
「ぐぐ……まだ終わっちゃいねえぞ、ミーナ……そっちの旗艦さえ沈めりゃ……!!」
そう叫ぶと、残り9隻の艦隊を率いる指揮官フラン・ジン・リーベルは、全軍に突撃を命じた。
言葉どおり、敵旗艦のみを目指し、真っ直ぐに突き進んでいく。
しかし彼の果敢な、あるいは無謀な突撃は、ミナリーの旗艦との距離を5分の1も詰める事はできなかった。
突撃を想定して待ち構えていた艦隊から放たれた一撃が、的確にフランの旗艦を捉え、空に巨大な火球が生み出された……。
 
 
「だーーーっ!!! また負けたーーーっ!!!」
絶叫と共にフランがキーボードに崩れ落ちる。
モニターを挟んだ反対側から、水色の髪を揺らしてミナリーが顔を出す。
「えへへ、これでわたしの3連勝です。約束どおり、今度ケーキごちそうしてくださいねっ」
にこにこと笑いながら、ミナリーは戦術シミュレーションマシンの電源をオフにする。
勝利を喜ぶ無邪気な笑顔に、観戦していた面々が次々に声をかけてくる。
「ミーナ、おめでと~~♪ やっぱり強いわね~~」
「お見事でした、参謀長」
「ほんとに完勝だったなーー。文句のつけようのないくらい」
エオリア・ジニア・ウッドゲート、シェルミィ・ジニア・グリークレム、ガリュード・ジン・ヴラッツェン。
3人の賞賛の言葉に、ミナリーは照れた顔で笑った。
「あは、ありがとうございます。でもちょっと誉めすぎですよ、今日は運が良かったんです」
「照れない照れない♪ この前だってプレーツやガルナさんとも互角に戦ってたじゃない。運が良いだけじゃ、ああはいかないわよ」
「うー……あくまでシミュレーションですから。やっぱり実戦じゃこうはいかないですよ」
困ったように照れながらエオリアに応えていたミナリーの口調が、少しだけ真剣なものになる。
どんなに見事な指揮を見せても、これは単なるシミュレーション、極端に言えばゲームにすぎない。
敵と味方、それぞれ多くの命をかけた実戦とは、精神的な負担がそれこそ天と地ほどに違う。
もし実際にガルナやプレーツと艦隊戦で争ったら、まず間違いなく自分が負けるだろうと、彼女は思っていた。
もっともそんな機会がこの先あるとも思えないが。
 
「おい、そこのミーナ、深刻な顔で考えこんでねえで、もう一戦勝負だ、勝負!! 今度こそ勝つ、絶対勝つ!!」
突然、反対側のモニターから聞こえる暑苦しい声。
それにミナリーが応えるより早く、エオリアが呆れた声をモニターの向こうにかける。
「ちょっとちょっと、まだやる気なの~~? もういい加減に諦めたら? どうせ連敗記録を更新するだけなんだし」
「んだと!? ……いいか、言っとくが俺がただ負け続けてたと思うなよ。そう見せかけて実は密かにミーナの攻略法を探ってたんだ」
「で、あったの?」
その質問に答える事なく、視線を逸らしてシミュレーションマシンの電源を入れ直すフラン。
低い起動音を上げ、モニターに設定画面が表示された。
 
「あの、すいません……わたし、そろそろ仕事に戻らないと……」
自分を無視して進んでいく状況に危機感を抱いたのか、ミナリーがおずおずと口を挟む。
「あ、じゃあ私がミーナの代役やるわ~~♪」
つかさずそこへ更に割り込んでくるエオリアの陽気な声。
対戦相手の変更にフランは露骨に不満な顔をしたが、結局ぶつぶつ言いながらもそれを受け入れた。
とりあえず勝てそうな相手との勝負を優先したようである。
「それじゃ勝負ね。場所は……うん、ここはやっぱりコルネリアス空域で♪ あ、艦隊数、ハンデつけてあげよっか?」
「言ってろ。こないだの模擬戦みたいに不意討ちはきかねえからな」
「む、不意討ちとは人聞き悪いわね~~。そっちがボケッとしてるからいけないんじゃない」
戦場、艦隊数等の設定を入力し終え、真剣な顔でモニター越しに向かい合う騎士2人。
シミュレーションスタートの文字が画面に浮かび、それぞれの艦隊が一斉に動き始めるのを横目に、ミナリーは部屋を出る。
その後に続いて退室しようとしたシェルミィの耳に、フランとエオリアの気合いとも怒号ともつかない攻撃開始の合図が響いた。
 
……しばらくの後、ただ一人観客として残っていたガリュードは凄まじい光景を目にする事になる。
戦闘開始時には共に200隻を数えた両者の艦隊。
それが終了時には、フラン軍は0隻、つまり全滅、勝利したエオリア軍もわずかに3隻と、まさに常識外の壮絶な結果。
彼らが提督ではなく騎士の道を選んだ事に、ガリュードは全ての兵士を代表して心から安堵した……。
 
 
夕方前。
日没の気配が徐々に近づいてきた15時50分。
中央司令室でデスクワークをこなしていたミナリーが、「うーん」と両手で大きく伸びをする。
彼女の机の上に山積みになった大量の書類。
その一枚一枚をチェックし、内容を検討し、サインを済ませる……アーキス砦の運営を支える重要な作業。
それがようやく一段落したところである。
 
「お疲れですか、参謀長?」
隣りで作業を手伝っていたシェルミィが、無表情の中に労わりの要素を浮かべて問いかける。
「あ、いえ、わたしなら大丈夫です。シェルミィさんが手伝ってくれたおかげで、いつもよりもずっといいペースで進みましたし」
「お役に立ちましたか?」
「当たり前じゃないですか。ここ数日、本当に助かってますよ。さすがは開発チーム期待の星ですねっ」
冗談混じりに笑うと、ミナリーは手元にあったポットから、2人分の紅茶をカップへとそそぐ。
ぺこりと頭を下げて、差し出されたカップを受け取るシェルミィ。
温かな湯気といい香りを漂わせるそれに口をつけてから、再びミナリーの顔に視線をやる。
「期待の星かはわかりませんが……しばらくは参謀長のお手伝いをさせて頂きます。上から帰還命令が届くまで」
 
今日は彼女らが再会してから4日後、そしてシェルミィの帰還予定日から2日後にあたる、正統暦4051年5月22日。
だが後方勤務部隊開発チームオペレーター、シェルミィ・ジニア・グリークレムは、未だここアーキス砦に滞在中である。
本来20日にはフラムエルクへと出発する予定だったのだが、彼女の上司からの連絡が当初の予定を変更させていたのだ。
彼女が担当し、現在建造中のヨーク艦隊新旗艦ユーリアル。
その最終チェックが予定より順調であり、完成に向けて幾分かの余裕ができたのが滞在延長の主な理由であった。
無論それだけではなく、別の理由も存在する。
完成に向け、実際に諸提督から運用データを取る必要が生じ、アーキス砦配属の提督達に協力を要請。
ガルナ・ジン・ノーマと、プレーツ・ジン・ディスリードがその任を帯び、急遽3日前にフラムエルクへと出発していた。
それによるアーキス砦の内部機能低下を考慮し、シェルミィが滞在を延長して内政任務に当たる事になったのである。
 
「わたしとしては、いっそこのままアーキス配属になってくれると嬉しいんですけど……」
仕事の事よりも、親友としての心情から、ミナリーは小声で呟く。
15歳にして軍人という特殊な職業に就く彼女にとって、同年代、しかも同性の友人を得る機会は少ない。
ロアファミリーの中で一番年齢的に近いのは19歳のガリュードだが、やはり異性である以上、女友達特有の関係とはまた違う。
温かな家族に囲まれていながらこんな事まで望むのは贅沢すぎるし、そもそも公私混同もいいところかもしれない。
そう心の中で反省しつつも、親友のシェルミィとまた離れ離れになるのも、ミナリーにとっては辛い事なのだった。
 
「お言葉はすごく嬉しいですが、おそらく難しいでしょう。ユーリアルが完成すれば、また次の仕事が待っていますので」
「……そう……ですよね、やっぱり」
寂しさを堪えるような参謀長の声に、シェルミィは手に持ったカップをそっと机に置く。
そして表情を変えないまま、数秒間何か思案していたが、ふと唐突にこう言った。
「料理を覚えようと思うんです」
「……はい?」
唐突過ぎる話の転換に、思いっきりきょとんとするミナリー。
そんな彼女に向けて、シェルミィはごくわずかに微笑みながら、静かに言葉を紡いだ。
「教えて頂けますか? 休日にでも」
「……あ……」
親友の言葉の意味を理解し、ミナリーの顔に笑みが戻る。
「も、もちろんですよっ、いつだって大歓迎ですっ!! 頑張ってお仕事終わらせて、ちゃんと時間空けておきますからっ!!」
中央司令室に響く、少女の嬉しそうな声。
音量的にはけっこうな大きさだったが本人は気づかず、周囲のオペレーター達も何も言おうとはしない。
15歳の総参謀長と16歳の開発チームオペレーター。
彼女らに課せられた責任の重さを知る者達にとっては、この程度の騒ぎなど十分に容認できる範囲だった。
ましてや見えるのは笑顔、聞こえてくるのは喜びの声。
悲しい顔や泣き声に比べれば、何十倍もマシではないか……。
 
 
19時過ぎ。
無事に仕事を終えたミナリーは進路を自室へと向けていた。
先ほどのシェルミィとの会話のせいか、足取りは軽く、疲れすらあまり感じてはいない。
「今日のお夕飯は何にしようかな……シェルミィさんに教える前に、もっともっとお料理のレパートリー増やさなくちゃ」
自分の食事とスノの食事を器用に同時に考えつつ、やや歩調を緩めて通路を歩いていく。
ああでもない、こうでもないと考えているうち、通路の分岐にたどり着き……そこで急にある事を思いついた。
 
「……そうだ、ちょっと寄り道して提督の所におじゃましてみようかな……昨日、今日とお休みで会ってないし……」
もし夕飯がまだなら、何か提督の好きなものでも作ってあげよう、そう決めると自室とは違う方向に通路を進む。
すぐに見えてくるロアの部屋。
ドアの前に立ち、小さく一つ深呼吸してから、インターホンを押す。
『ピンポーン』と微かに内側から聞こえる呼び出し音。
が、しばらく待っても返事はない。
もう一度インターホンを押すが、やはり内側からは何の応答もない。
「あれ? 留守かな……?」
またお風呂上がりに休憩室にでも行ってるんだろうか、と、ミナリーは真顔で危惧する。
 
「もしそうなら一言注意しておかなきゃ……」
そう思い、来た通路を戻ろうとしたところで、何かに肩を掴まれたかのように参謀長の足が止まる。
ほんのごくわずか……だが確かに部屋の中から物音が聞こえたのだ。
首を傾げながら、念の為ドアのノブに手をかけてみると、鍵はかかっておらず、部屋の明りが目に飛び込んでくる。
「ロア提督?」
奥に向かって問いかけるが返事は返ってこない。
先ほどの音が嘘だったように静まりかえった室内に、空調の音だけが低く響く。
ある種、不安にも似た奇妙な感覚に襲われ、躊躇いながらもミナリーは室内に足を踏み入れる。
その際「おじゃまします……」と言うのを忘れないのが、彼女の性格の一端を表していた。
 
「提督……?」
控えめに呼びかけながら、一つ一つ部屋をノックし確認していくが、ロアの姿はおろか、声すらしない。
やっぱり留守なのかもしれない。
どことなく安堵すると同時に、あまりの無用心さに小さくため息がもれる。
「もう、相変わらず無用心なんですから……――っ!!?」
呆れたように呟いた次の瞬間、ミナリーは心臓が止まりそうな衝撃と共に言葉を失う。
大きく見開かれた水色の瞳が、キッチンに、さっきは見えなかったテーブルの影に固定される。
そこにうつ伏せに倒れている一人の人物。
やや茶色がかった黒髪と、30代後半にしては若く見える横顔を苦悶の汗に濡らした男性。
アーキス砦における彼女の唯一の上司にしてヨーク軍の総司令官、ロア・ジン・クランクハイトその人だった……。
 
 
-続く-

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