猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第31話

「風邪ぇ~~~!!?」
エオリア・ジニア・ウッドゲートの大声が部屋の空気を震わせる。
彼女に続いてロアの部屋に駆け込んできたガリュード・ジン・ヴラッツェン、フラン・ジン・リーベルが互いの顔を見合わせる。
倒れていたロアをミナリーが発見してから、一夜明けた5月23日。
『ロア倒れる』の報告に、慌てて深夜演習から帰還した彼らの耳に届けられたのは、あまりに聞き慣れた単語だった。
その意味を理解すると同時に、大きく安堵の息をもらす3人の騎士。
最悪の事態まで考え、緊張していた分、反動で一気に気が抜けたようである。
 
「はあ~~、びっくりさせないでよ~~。ミーナったら今にも泣きそうな顔で言うから、もっと大変な病気かと思ったじゃない」
「まったくだ、あの慌てようだったらもっと重い病気じゃねえとなあ……」
「うう……すいません……わたし、すっかり動転しちゃって……」
エオリアとフランの言葉に、小さい身体を更に小さくするミナリー。
冷静に考えれば、エオリア達もかなり勝手な事を言っているのだが、今の彼女はそれに気づく余裕もない。
「まあ、よかったじゃないですか、ただの風邪で。そもそもミーナが早めに発見してくれたから、大事にならないで済んだんですから」
ガリュードがもっともな意見を述べる。
表情に少し苦笑が混じっているのは、エオリア達がミナリーの反応を面白がって、わざと苛めているように見えたからだ。
 
「で、お医者さんは何て言ってたの?」
「とりあえず最低でも一週間は安静にしてるように、って言ってました。意識は回復したんですけど、まだ熱が高くて……」
「あらら、じゃあけっこう重病なんじゃない。風邪って言っても甘く見れないわね……」
心配そうに説明するミナリーに、エオリアは心底意外そうな顔で驚く。
「考えてみりゃ数日前から、くしゃみしてたっけな。本人が何でもないって言ってたから特に気にしてなかったが……」
「俺達に心配かけまいと、わざとそう言ってたのかもしれませんね……」
天上に視線をやりながら呟くフランにガリュードがそう応じるが、これは好意的解釈の見本と言うべきものだったろう。
当時者たるロア自身、体調の悪さを自覚したのは、つい昨日の事なのだから。
 
「一週間かあ……もしその間にジグリムが攻めこんできたりしたら大ピンチよね~~」
ふとエオリアが冗談っぽく笑うと、即座に3人の視線が集中する。
「おいおい、不吉な事言うなよ、縁起でもねえ」
「そうですよ、今はガルナさんやプレーツさんもいないってのに……」
フランとガリュードのトゲのある視線、ミナリーの不安げな視線を同時に受け、一瞬目に見えて怯む女性騎士。
しかしすぐに気を取り直したように再度笑顔を見せて言った。
「いやねえ、深刻な顔しちゃって~~。漫画じゃないんだから、そんな偶然あるわけないじゃない♪」
 
……が、こういう場合、不吉な予想というものは当たるものである。
それから2日後の5月25日、8時55分。
国境警備隊より『ジグリム艦隊、アーキスに向けて侵攻開始』との緊急連絡が、ロア不在の中央司令室にもたらされたのだった。


『ヨーク戦記』
 
第31話 天才少女2 -その言葉にささえられて-



「ええっ!? わ、わたしがですかっ!!?」
ミナリー・ジニア・エルフィスの大声が部屋の空気を震わせる。
つい先日の光景を繰り返したかのようなシーンだが、場所と状況と登場人物が多少異なる。
場所はロアの寝室、状況は敵国の侵攻の真っ最中、そして登場人物はロア・ジン・クランクハイトとミナリー・ジニア・エルフィスである。
 
「ちょ、ちょっと待ってください、提督っ。わ、わたしにはそんな大役無理ですよ……っ!!」
ベッドに半身を起こしたロアに向かって、慌てふためいた声でミナリーが叫ぶ。
それも無理はなかった。
たった今、彼女の上司であるロアの口から、想像もしていなかった事を伝えられたのだ。
すなわち病床のロアに代わり前線の指揮を取る、臨時司令官への就任要請である。
艦隊発進の準備に多忙を極めていた彼女には、まさに寝耳に水の話だった。
 
「無理と言われてもなあ……。俺はこの有り様だし、ガルナもプレーツもいないし……お前に任せるのが一番だと思うんだが」
若干やつれた顔で、ロアが困ったように頭を掻く。
まだ熱も高く、本調子には程遠い自分が、冷静な判断を必要とする戦場で指揮を取る訳にはいかない。
ガルナかプレーツがいれば、どちらかに任せるところだが、どちらも王都フラムエルクに行っており不在。
更にタイミングの悪い事に、アガルティア西部からヨーク北部を襲った大嵐の影響で、アーキスへの迅速な帰還が困難な状況なのだ。
「だ、だってわたし、実戦での単独指揮なんかした事ありませんっ。そ、それに、うちには他にも提督はいるじゃないですかっ」
その事情は知りつつも、なおも決心がつかないでいるミナリーに、ロアは諭すような口調で語りかける。
 
「ああ、わかってる。だが今回は相手が悪い。敵の司令官についての報告、お前も聞いてるだろ?」
「……アシュリー・ミシュアル中将、と聞いています……」
ジグリム唯一の女性提督、アシュリー・ミシュアル。
故ハウジ・グラーフと並ぶ、オルゼア・グロウスターの片腕と呼ばれる女性。
27歳の若さにして既に多大な武勲を上げており、その手腕はジグリムのみならず、他の各国からも高く評価される名将である。
「しかも彼女に加え、リック・デルメールも参戦してるそうだ。他の提督連中には、さすがに荷が重過ぎる」
「でも……だからって、わたし1人じゃ……」
「補佐役としてシェルミィに旗艦に同乗してもらう。オペレーター任務は彼女に任せて、お前は指揮に専念すればいい」
ミナリーの心の表面に、安心と不安の混在した波紋が広がる。
シェルミィの存在はすごく心強い。だが同時に彼女の身の安全に対して、例えようのない不安が沸き起こる。
万が一、万が一の時は、自分だけじゃなく彼女まで巻き込んでしまうのだ。
それにもちろん他のたくさんの兵士達も……。
 
ロアもミナリーもそれ以上何も言えず、ただ無言のまま時間が過ぎる。
自分の心臓の音だけが聞こえる静寂の中、床に視線を落としているミナリー。
今まで感じた事もない巨大な重圧に、うつむいたままの少女の頬に冷たい汗が流れる。
無意識に助けを求めるようにロアの方に視線を上げた瞬間、突然一つの事実が頭の中で再認識された。
目の前の提督は……自分が尊敬する提督は今までずっとこんな重圧と戦ってきたのだ。
特に総司令官の座に就いてからは、それこそ一国の主にも匹敵する最大級の責任を背負ってきたのではないか。
なら……それなら参謀長である自分は……。
 
昔、ロアがまだ総司令官じゃなかった頃、ガルナとフランが酒の席で話していた事がある。
この先、もしも総司令官として自国の命運をかけた一戦に臨まなくてはならなくなった時、ロアはどんな反応をするだろうか、といった題材で。
どこがどうなってそんな話題になったのか、本人達にもいまいち不明だったが、とにかくそれを酒の肴として杯を重ねていく。
「そんなの決まってますよ、ガルナさん。『ああ、面倒な事になった……』って言うでしょうね、提督なら」
「ああ、言う言う」
「そんで嫌そうな顔をして、ぶつぶつ文句を呟いて、何度も逃げようとして」
「ああ、やるやる」
「それでも……最後にはきっとやり遂げてくれるんですよね、あの人」
そう苦笑するフランに、ガルナも小さく笑い、手に持った酒を一気にあおっていた。
偶然その話を立ち聞きしたミナリーは、2人のやりとりに何となく嬉しい気持ちになったものだ。
 
「……わたし、やってみます。勝ちます、なんて言えませんけど……負けないように頑張りますから」
司令官に視線を合わせたまま、ミナリーは小さいがしっかりした声でそう言った。
これが自分の責務なら逃げるのはよそう。自分の能力の全てを使って全力でやり遂げてみよう。
背中に背負うには重過ぎる荷物だけど、せめて投げ出す事だけはやめよう。
ヨークの総参謀長として、ロア提督の右腕として、胸を張れるようになる為に。
口に出す事なく無言の決意を固め、上官に向けて小さな手で敬礼するミナリーだった。
 
 
防衛作戦の打ち合わせを済ませ退出する間際、ロアはミナリーを呼び止めた。
振り向いたミナリーに視線を送りつつ、何か言い難そうに頭を掻いている。
「? どうかしました?」
「あ、ええとだな、その……くれぐれも気をつけろよ。それと……」
「?」
「……何て言うか……――すまない」
申し訳なさそうな声と共に、娘ほどの年齢の少女に頭を下げるロア。
それは司令官の顔ではなく、家族の一員としての顔。
だからミナリーも同じく、家族としての笑顔で応える。
「そう思うなら、これからはお風呂上がりにうろうろしないでくださいね。あと、ちゃんとお医者さんの言う事聞いて安静にしてるんですよ?」
ほんの少し悪戯っ子の表情で笑うミナリーに、ロアは面目なさげにもう一度頭を掻く。
仲の良い親子のようなやりとりに、ロアもミナリーも一瞬とはいえ戦闘前の不安や緊張を忘れていた。
 
 
……こうしてヨーク軍が出撃準備を進めている頃。
彼らに敵対する陣営の司令官は、いささか単純ならざる心境の中にいた。
「ミシュアル中将……何か心配事でもおありですか?」
ヨークの空を進む艦隊の中央部、戦艦フォーネスの艦橋。
自らの副官を務める女性士官の声に、アシュリー・ミシュアルは空を眺めていた視線を艦内に戻した。
「……そう見えましたか、シエナ?」
「はい、失礼ながら……。やはり今回の出撃の事ですか?」
再度問いかけてくる10代後半の副官に、アシュリーはやや困惑したように微笑む。
内心を顔に出していた自分の未熟さと、付き合いの長い副官の明敏さに感心する思いが混在する表情だった。
「そうですね……心配事とまではいきませんが、少々気になる事があるのも事実です。この出撃には解せない点が多いですから」
 
急遽数日前に決定された、ヨーク領アーキス砦への侵攻作戦。
そのきっかけとなったのは、ジグリム政府からの一方的かつ半強制的な出撃要請であった。
現状況下での出撃要請を不審に思うオルゼア・グロウスター元帥に対し、ある政府高官は自信たっぷりにこう告げた。
『現在、アーキスでは司令官ロア・ジン・クランクハイトが病に倒れ療養中であり、他の主な提督も不在との事だ。
これは信頼に足る情報なので、安心して出撃してもらいたい』
肝心の情報の出処も教えず、何が安心なのか、と、グロウスターは表情を歪める。
例え情報が正しかろうと、兵士達が向かうのは戦場であり、安心などとは最も縁遠い場所であるものを。
 
とは言え、既に政府が決定した事に反抗する訳にもいかず、大至急艦隊発進の準備を整え、5月24日の深夜にはそれらを全て完了。
アガルティア方面より帰還していたアシュリー・ミシュアル中将、リック・デルメール少将に出撃を指示したのである。
 
「グロウスター元帥が見たところ、その政府高官の態度に嘘や不安は感じられなかったようです。よって、ひとまずは正しい情報と見るべきなのですが……それはそれで謎が残りますね……」
そもそも軍の諜報機関でさえ気づかなかった事を、何故政府は知る事ができたのか。
外部の何者かが教えたのなら、誰が、何の目的で教えたのか。
長く伸ばした艶やかな髪を空調に揺らし思案にふけるアシュリーに、控えめにシエナが意見を具申する。
「罠の可能性はないでしょうか。『ロアが病気』と偽情報を流して、我が軍を誘き寄せる作戦では……」
「……いえ、それは無いでしょう。先のコルネリアスでの傷痕が残るヨークに、自分から仕掛ける余力はないはずです」
と、言ってからアシュリーは自分の言葉に違和感を覚え、続けて小さく呟いた。
「もっともそれはジグリムにも言える事ですが……」
 
今回の参加戦力は飛行艦艇150隻。
決して少ない数ではないが、ここ最近の攻勢に比べると規模の小ささは否めない。
この事実が今回の出撃が計画的なものではなく、急遽決定したものだという事を証明している。
コルネリアス会戦でヨークと同程度の被害を受けたジグリムにとって、本来なら現時点での侵攻などありえない話なのだ。
 
 
「先行するリック・デルメール少将の艦隊より通信が入りました。旗艦プランゲットからの直接通信です」
翌、5月26日、9時43分。
通信士官からの報告に、アシュリーは指揮卓に備え付けられた専用モニターを起動させる。
灰色の画面がジジッと点滅し、赤い髪をした青年の顔が映し出された。
「お待たせしました、デルメール少将。いかがです、そちらの様子は」
「退屈なくらい平穏ですよ。あえて不穏な部分を挙げるなら、ユラ空域に展開するヨーク艦隊を確認した事くらいですかね」
落差の大きい発言と共に不敵な笑みを浮かべる青年、リック・デルメール。
近年急激に台頭してきた28歳の青年提督であり、攻撃的な性格そのままに攻勢において真価を発揮するタイプの将。
艦隊戦至上主義のあまり地上部隊を蔑視する傾向がある等、問題も多いが、提督としての手腕は軍部で高く評価されている。
なお三強のクルト・カルネビークとは自他共に認める犬猿の仲である。
 
「……ユラ空域と言うと、位置的にアルミド空域よりアーキスに近いですね。敵の陣容は判明していますか?」
「数は飛行艦艇が130から140隻、装兵機用の輸送艇及び地上部隊は確認されていません。それと傍受した通信によれば、敵司令官はミナリー・ジニア・エルフィス。例の情報の通り、ロアを始めとする主な提督は不在の模様です」
「そうですか、やはり……」
例の情報が正しかった事を意味する報告に、アシュリー・ミシュアルは小さく納得の意を示すが、その表情は暗い。
本来ならジグリムにとっては喜ばしい報告のはずなのだが、むしろ望まない展開になったとでも言いたそうな顔である。
シエナにはその理由が理解できたが、リックの手前もあり口には出さなかった。
 
「本音を言うとあの情報が正しくてがっかりしましたよ。どうせなら名将との誉れ高いロア・ジン・クランクハイトと戦いたかったものを」
明らかに拍子抜けした感のあるリックの声が、モニター越しにアシュリーの耳に届く。
無意識のうちにいくつか話を聞き流していた事に気づき、冷静な彼女らしくもなく少し慌てる。
「しかも人材がいないとはいえ、あんな子供を司令官にしてくるとは……。ヤケになったのか、我らを甘く見てるのか、どっちなのやら」
が、リックの方はそれに気づいた様子もなく、口元に冷笑を浮かべながら肩をすくめた。
 
「油断は禁物ですよ、デルメール少将。敵は弱冠14歳でヨークの総参謀長に選ばれたほどの天才少女です。単独指揮のデータこそありませんが、司令官としての力量もかなりのものと見ておく方がいいでしょう」
自信過剰気味に思える部下の発言を、やんわりとたしなめるようなアシュリーの口調。
『敵』と口にした時に垣間見せた沈痛な表情が、今の言葉がリックだけでなく自分自身にも向けられていた事を示している。
まだ15歳の少女を敵として認識し、かつ全力で撃ち破らなくてはならない事実。
それがどれほど苦い任務でも、戦場である以上、そして自軍の兵士達の為にもためらいは許されないのだ。
リック・デルメールとは理由こそ違えど、アシュリーもまたロア・ジン・クランクハイトと戦う方を望んでいた。
言い方を変えればミナリー・ジニア・エルフィスと戦いたくなかったのである。先ほど副官のシエナが思った通りに。
 
通信を終え、リックは旗艦プランゲットの指揮シートにどっかりと身を投げ出した。
今まで会話していたモニターは既にオフになっており、無機質な灰色の画面が鏡のように彼の顔を映している。
そこへ視線をやったまま、舌打ちと共に短く吐き捨てる。
「……天才だかなんだか知らねえが、しょせん14,5歳のガキだろうが……」
そのままシートを軽く倒し、首の後ろで手を組みつつ天上を見上げる。
自らの勝利を微塵も疑っていない、覇気と野心に満ちた瞳だった。
 
 
5月27日、8時13分。
アルミド空域とアーキス空域の中間点、ユラ空域に展開するヨーク艦隊135隻。
総旗艦エルクアーツの艦橋で、ミナリーは次々に入ってくる状況報告に緊張の度合いを高めていた。
「ユラ空域内に侵入したジグリム艦隊、こちらに向けて前進を開始。有効射程距離到達まで、最短で約0、5リス(20分)」
「数は150隻。前衛にリック・デルメール、後衛にアシュリー・ミシュアル」
「各艦、防御フィールド展開完了。部隊間のフィールドバランスも問題なし」
その一つ一つに応じながら、自分がいつもより緊張している事を改めて自覚するミナリー。
いつもと違う司令官用の指揮シートから眺める艦橋は、慣れ親しんだはずのそれとはまったく違う場所にすら見える。
投げ出さないと決意したはずなのに、頭では理解しているはずなのに、いざ戦闘が近づくと身体が勝手に震えてくる。
はっきりと聞こえる心臓の鼓動、知らないうちに掌にじっとりと滲んだ汗。
こんな事で自分は部下の人達に安心感を与えてやる事ができるのだろうか。
この席の本来の主、ロア提督のように……。
 
まとわりついてくる不安を振り払うように立ち上がると、普段自分が座っている席に視線をやる。
自分よりはるかに落ち着いた様子でコンソールを操作しているシェルミィの姿が見え、何だか無性に情けない気分になってくる。
「参謀長、いえ、司令官代理。どうかなさいましたか?」
「あ、その……ご、ごめんなさい、何でもな――」
視線に気づいたシェルミィに慌てて謝った瞬間、
 
「スキありっ!!」
「え? ……きゃあぁっ!!!!」
いきなり背後に気配を感じたかと思うと、何者かに制服の上から胸を掴まれ、思わず大きな悲鳴をあげる。
艦橋どころか通路にまで響く大声に、その場の全員が発生源に注目する。
そんな視線などおかまいなしに満面の笑みを浮かべる金髪の女性騎士と、少し離れてあっけにとられた顔をした青年騎士がそこにいた。

「エ、エ、エオリアさんっ!!? な、な、な、何するんですかっ!!!」
飛び跳ねるように手から逃れ、胸を押さえながら顔を真っ赤にしてミナリーが叫ぶ。
「何って、可愛い妹の成長具合をチェックしてあげたんじゃない♪ ふむふむ、私のハンドセンサーによると、73~74ってとこかな~~?」
「な、な、な、な………」
何ですか妹って、何ですかハンドセンサーって、だいたい何でここにいるんですか、ガリュードさんまで一緒に。
そう言おうとしたが、あまりの混乱に全く言葉にならなかった。
 
「……お二人ともどうしてこちらに? てっきりアーキスに残っているとばかり思ってましたが」
口をぱくぱくさせている司令官代理に代わって、シェルミィが冷静に問いかける。
彼女とミナリーに交互に視線を移し、エオリアは「よく聞いてくれました」とばかりに胸を張る。
「もちろんミーナの司令官デビューの応援に、よ♪ こんな大事な時に大人しくお留守番なんかしてられないってば」
「驚かせてごめん。出発前、ミーナがやたら緊張した顔してたから、どうしても気になってさ。こっそり乗せてもらってたんだ」
「あ、ちゃんとロア提督の許可はもらってるから心配しないでね~~」
エオリアの笑顔とガリュードの照れくさそうな顔。
ようやく多少なりとも事態を理解し、ミナリーの心臓の鼓動が収まってくる。
 
「で、どう? ちょっとはリラックスできた?」
「え?」
そこで初めて司令官代理の少女は、自分の心臓の鼓動が落ち着いている事に気づく。
まだ緊張はしていたが、それでもさっきまでのように追い詰められた感じはしない。
モニターに表示される情報の一つ一つも、全てはっきりと理解できる。
そんな彼女の様子ににっこりと微笑むと、エオリアはミナリーの両肩に手を置いて、同じ高さに目線を合わせる。
「いい? 前にガリュードくんにも言ったけど、戦うのはミーナ1人じゃないんだからね。何でもかんでも1人で背負いこむ必要ないのよ?」
 
姉、あるいは母親をイメージさせる優しい声に、既視感の衣がミナリーを包みこむ。
それは3年ほど前の初陣の時、ロアがかけてくれたのと同じ言葉。
初めての実戦のショックに打ちのめされた心を、優しく癒してくれた言葉。
自分はその言葉にどれほど救われ、どれほどささえられてきただろう。
そして今また、あの時と同じように笑顔でそう言ってくれる人がいる。
 
記憶の中の言葉が鮮明さを増し、自分をささえてくれている多くの人の存在が実感となって全身に、心に広がる。
気がつけば背中に背負った荷物が軽くなっていた。
ただの錯覚かもしれないけど、甘えた思い込みかもしれないけど、本当にそう思えた。
「……ありがとう、ございます……」
あふれ出る感情に反比例して言葉が出てこなくなり、ミナリーはやっとそれだけを口にする。
返す言葉もまたあの時と同じ。
この場にいる人と、この場にいない人に向けて。
ありったけの心をこめて。
 
 
8時37分。
総旗艦エルクアーツのオペレーターが、ジグリム艦隊のレッドゾーン侵入を告げる。
エオリア、ガリュード、シェルミィが見守る中、司令官代理の少女が指揮シートで姿勢を正す。
そのままそっと瞳を閉じ、小さくひとつ深呼吸。
視界から全ての物が消えていても、はっきり感じる事ができる、エオリア達の、大切な人達の存在。
緊張を上回る、安堵に似た感覚が集中力を高め、頭の中をクリアにしていく。
数瞬の後、再び瞳が開かれ、それと全く同時にシェルミィの声が静かに鼓膜に届いた。
「射程、入りました」

「攻撃……開始っ!!」
控えめだが凛とした声が艦橋に響く。
ミナリー・ジニア・エルフィスにとって、生まれて初めての開戦指令。
メインスクリーンを見据える、強く真っ直ぐな視線の先で、無数の光の矢が空を切り裂いていった。
 
 
-続く-

 SS(二次創作)管理用

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