猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第33話

『ヨーク戦記』

第33話 天才少女4 -才華、空に舞い-



15時08分。
ヨーク艦隊に襲いかかった突然の砲撃は、精神面と戦力面の双方において彼らにしたたかなダメージを与えた。
リック・デルメールの艦隊を破った事で高まっていた士気を急降下させるほどの砲撃の雨。
総旗艦エルクアーツですらその対象であり、艦橋をかすめるようにして無数の光線が軌跡を描く。
直撃しなかったのはこの場合単なる幸運と呼ぶべきだったろう。
一瞬とはいえ、もう1人の敵将から意識を逸らしていた事に、代理司令官の少女はつくづく自分の未熟さを思い知った。
 
その自己評価の正否はともかくとして、ミナリーに対するアシュリー・ミシュアルの戦術的判断は間違いなく正解であった。
彼女は猫の爪の威力を見とどけるやすぐに艦隊を小部隊に分け、味方の艦隊の爆煙を隠れ蓑にしつつ、風上である左方向へ移動。
リックの艦隊の退路を作ると同時に、自らの艦隊を絶好の反撃ポイントへと移動させたのである。
 
「本艦右舷前方、アシュリー・ミシュアル艦隊を確認。数は約50――それらが5、6隻単位に分散して砲撃してきます」
「こちらも反撃を開始。一斉砲撃後に後退して距離を取りますっ」
ミナリーの指令に合わせ、ヨーク艦隊からも反撃の砲火が一斉に放たれる。
――だが、数の上では2倍以上を数える砲撃も、そのほとんどが空しく宙を切り裂くだけだった。
計10隊にも及ぶ、5,6隻で構成される小艦隊。
それらが各艦隊ごとに距離を空け、一糸の乱れもなく連動して動き、ヨークの砲撃を巧みにかいくぐっていく。
当時、多くの評論家に『芸術』と評されたヨークの砲撃技術だが、この時のジグリムの艦隊運動もまた『芸術』と呼べるものだっただろう。
 
「敵、振りきれません」
「ねえねえ、どうするの、ミーナってばっ」
シェルミィの報告とエオリアの質問が混じりあいながらミナリーの耳に届く。
どっちから応えるべきかと迷う……までもなく、代理司令官は前者の声に応じて顔を向けた。
「……こちらの被害状況はどうなってます?」
「撃沈された艦を含め15隻が大破。いえ、たった今16隻になりました」
わずかな間を置いて返ってきた返答にミナリーは唇を噛む。
リック・デルメール艦隊を破った時点では115隻だったはずだから、この短時間に100隻を切ってしまった事になる。
このまま不利な後退を続けるべきか、それとも砲撃効果が薄い事を知りながらも反撃するか―――。
もうこれ以上のミスは絶対に許されない状況の中、ミナリーが選択したのはそのどちらでもなかった。
手元のモニターを凝視していた水色の瞳を急にメインスクリーンに移すと、更に勢いよくシェルミィの方に視線を移した。
 
「シェルミィさん、猫の爪はまだ残っていますか!?」
「―――はい、残り6発。全て使用可能です」
ほんの一瞬だけ不意を突かれたのか、一呼吸置いてから返ってくる返答。
それにうなずくと、ミナリーは間髪入れず「猫の爪、用意!!」と自分でも驚くほどの大声で全艦に通達する。
「ですが……これだけ分散されていては命中率は極端に低下します」
静かにだがはっきりとシェルミィが危惧を口にする。
自動操縦による無人艦の突撃だけに複雑な動きが困難な事が、猫の爪の最大の欠点である。
リック・デルメールの時は向こうも突撃態勢に入っており、軌道予測が比較的容易だったが、今回は条件が全く異なる。
今回の目標は10隊にも分散しており、しかも名将アシュリー・ミシュアルの指揮の下、完璧な艦隊運動を行っているのだ。
シェルミィ自身「猫の爪」使用時の予測計算は既に済ませており、その結果、命中率は限りなくゼロに近いと算出されていたのである。
 
だがミナリーの表情に焦りはなかった。
いや、あったのかもしれないが、少なくともそれは今の会話によって生じたものではなかった。
ベレー帽を頭に乗せた親友に向けてもう一度うなずくと、彼女は高圧的とは対極の口調で指示を出した。
「はい、ですから敵は狙いません。今から言うポイント目掛けて各2発ずつ撃ちこんでください。爆発が起きたらその隙に急速後退します」
 
 
この作戦は効を奏した。
分散するミシュアル艦隊の艦列の隙間に向けて突撃した6本の「爪」は、それぞれが互いを切り裂き合い、3ヶ所で同時に爆発を起こした。
何も存在しなかった空間に、突如咲いた光と熱の花。
実質的な被害は皆無だったといえ、その爆発の衝撃はジグリム艦隊を揺るがし、逆にヨーク艦隊に貴重な時間を与える事になった。
ジグリムの攻勢が弱まったのを見た彼らは、ミナリーの号令の下に一斉に後退し、驚異的な速度で陣形を再編。
これにより両軍は再び距離を置いて対峙する形となり、15時45分、数において劣るアシュリー艦隊は撤退を開始したのである。
 
「デルメール艦隊はユラ空域を離脱。ミシュアル艦隊もその後方を守る形で後退しつつあります、司令官代理」
追撃しますか、と言葉に出さずに問いかけるシェルミィに、ミナリーは別の言い方で応えた。
「完勝、させてはくれませんでしたね……」
その言葉から追撃の意思がない事を悟り、シェルミィはコンソールから顔を上げ、メインスクリーンへと視線を移す。
約50隻のアシュリー・ミシュアルの艦隊が、分散した状態から徐々に集結し、再編されつつゆっくりと後退していく。
強かった。
遠ざかっていくアシュリーの艦隊を見ながら、ミナリーは改めてそう思う。
リック・デルメールの艦隊が戦線離脱し、戦力の大半を失った状況にもかかわらず、あれだけの反撃をしてくるとは。
全体的には勝利したとはいえ、アシュリー個人に対しての敗北感に近い気分が、ミナリーの表情を微妙に曇らせていた。
 
「も~~ミーナってば何そんな暗い顔してんのよ~~。勝ちは勝ちなんだから、もっと喜ばなきゃダメじゃないの」
などと軽く落ち込んでいると、呆れたようなエオリアの声が耳に届き、慌てて顔を上げる。
見るとエオリアだけではなく、ガリュードもシェルミィも、更には艦橋要員の大半がこちらの様子を困ったような顔で眺めている。
「あ、え、えっと……す、すいません、て、敵の完全撤退を確認次第、アーキス砦へ帰還しますっ」
「…………」
まばたき2回分の時間の後、自分の返答がかなりズレていたことに気づく。
と言うか、どうして謝っているのだろう、自分は。
 
「はあ……あのね、ミーナ。そんな事を言う前に、もっと言わなきゃいけない事があるでしょ?」
「言わなきゃいけない事、ですか……?」
「そう、司令官として絶対に言わなきゃいけない事」
見当がつかず真顔で問いかけるミナリーに、エオリアはもっともらしくうなずいた。
「いい? 私達は勝った。最後にちょこ~~っと反撃されたけど、それでも勝った。ジグリムを追っ払ってヨークを守った。そうでしょ?」
「は、はい、まあ……」
エオリアの言葉に圧されるように、代理司令官の少女がこくりとうなずく。
「だったらほら、もっとこうみんなの士気を高めると言うか、歓喜を爆発させると言うか、それっぽい言葉があるでしょ? ね?」
ガッツポーズに似たゼスチャーをまじえ、熱心に訴えるエオリアの姿に、相変わらず怪訝な顔でミナリーが考えこむ。
やや離れて見ていたガリュードだけが、エオリアの意図に気づいて小さく苦笑した。
要するに彼女は祝杯を上げるような感覚で、ミナリーに音頭を取ってもらいたいのだろう。
例えるなら、学校を卒業した学生達が一斉に学帽を空に投げるように。
 
「だから~~。例えばこう、1、2、3で一斉に……」
「……あ、そうですね。確かに大事な事言うの忘れてました」
焦れた女性騎士が仕方なくヒントを出そうとした直後、ようやくミナリーが申し訳なさそうに小さく笑った。
「うんうん、やっとわかってくれたわけね♪ よ~し、じゃあ司令官らしく、びしっと締めちゃってね、びしっと♪」
期待に満ちた瞳で何やら構えると、くいくいとガリュードに手招きするエオリア。
こほん、と小さく咳払いすると、ミナリーは艦橋全体、そして旗下の艦隊全体に向けて、笑顔でこう伝えた。
 
「皆さん、本当にお疲れさまでした」
 
金髪の女性騎士の転倒する音が、豪快に艦橋に響いた。
 
 
「あいたたた……もう、この子ってばめちゃくちゃ頭良いくせに、時々やたらとボケた事言うんだから……」
16時35分。
打った腰を未だにさすりながらエオリアがぼやく中、ヨーク艦隊はユラ空域を離脱しアーキス砦への帰路についていた。
損傷した艦も多く、やや行軍速度を落としてはいるが、明朝にはアーキスに到着する予定である。
「はは、もう少しミーナの性格を考えるべきでしたね」
第三者的なガリュードの論評にエオリアの頬がふくれる。
しまった、と本人も言ってから思ったが、一度口から出た言葉はもう戻る事はなかった。
「……ガリュードくん、帰ったらケーキおごりね」
「何でですかっ!!」
 
「……お静かに願います」
必死で自らの無実を訴える青年騎士だが、シェルミィの静かな声がその叫びを制した。
微かに咎めるような口調に、2人の騎士の目が自然にベレー帽の少女に向き、続けて彼女の視線を追う。
3人の視線の先で、ついさっきまで指揮を取っていた少女が、シートにもたれかかるようにして穏やかな寝息を立てていた。
「あらあら……静かだと思ったら眠っちゃってたのね。ふふ、穏やかな寝顔しちゃって~~」
「緊張の糸が切れたんでしょうね……」
無理もない、とガリュードは多少の痛々しい気分と共に思う。
ロアが病に倒れた事に端を発する一連の事態に、最も疲労を強いられたのは間違いなく彼女だろう。
艦隊の出撃準備、実戦の指揮、戦後の処理……そこから生じる責任のほとんどをこの細い肩で背負ってきたのだ。
これでもし補佐役のシェルミィがいなかったらと思うと、青年騎士は心の中に冷たい霜が降りるのを覚えた。
 
「これを」
そんなガリュードの内心に気づかず、当のシェルミィはというと、どこから出してきたのか一枚の毛布をエオリアに差し出す。
まるでその役目を家族の手に任せるかのように。
彼女の意図を察したエオリアが毛布を受け取り、すうすうと寝息を立てる少女にそっとかける。
「……お疲れさま」
起こさないように小さく、本当に小さくささやいた言葉。
エオリアに続いて同じようにささやくと、シェルミィに向けて笑顔で小さく頭を下げるガリュードだった。
 
 
一方、敗者の方は勝者ほど穏やかな時間を過ごしてはいられなかった。
会戦の後半において一矢報いたとはいえ、全体的には戦力の3割以上を失い、敗走を余儀なくされたのだ。
完全にしてやられた形となったリック・デルメール少将を筆頭に、彼らの心理的ダメージは決して小さくなかった。
「敗北は残念ですが、いずれ借りを返す機会は訪れます。その時の為にも、残った部隊を無事に本国に帰す事に全力を尽くしてください」
さすがに憔悴した表情をモニターに見せるリックに向けて、アシュリーは穏やかな威厳でそう告げる。
短い会話の後、灰色に戻った画面から顔を離した彼女に、副官のシエナが被害状況等の報告が大量に書かれた書類を差し出した。
 
「負けてしまいましたね」
渡された書類に目を通しながら、ふとアシュリーが自嘲寸前の表情で呟く。
その一言がきっかけとなり、シエナは開戦前から積もっていた、もう1人の提督への不満を爆発させるように声を荒げた。
「ミシュアル中将は負けてはいません!! 最初から中将が指揮を取っていれば……!!」
「シエナ」
「いえ、言わせてください!! 現にミシュアル中将はあの劣勢の中、あと一歩で逆転するところまで……」
「デルメール少将の部隊に先鋒を任せたのは私です。そういう意味では私も責任は同じなのですよ」
副官にではなく、むしろ自らに向けるかのような沈痛な言葉に、シエナの声帯の活動が停止する。
自分が感じている憤りなどとは比べ物にならないほどの複雑な感情の嵐が、アシュリーの内部で発生している事に気づいたのだ。
 
「それどころか私は、デルメール少将が敵を甘く見ていたのを知りつつ先鋒を任せました。もちろん勝算があると思ったからなのですが……」
そこで一息つき、彼女らしくなく精彩を欠いた声で言葉を続けた。
「……実際の所、もっともらしい理由を並べ立てて、自分が嫌な役目を他人に押しつけただけなのかもしれません。敵の司令官を務める少女と、ミナリー・ジニア・エルフィスと戦いたくなかったのは事実ですから」
アシュリーの表情に今度ははっきりと自嘲の影が浮かぶ。
会戦序盤、リックの艦隊から『援護の必要無し』と返信があった時、自分は心のどこかで安堵したのではなかったか。
これで自分の手を汚さずにすむ、と心のどこかで狡猾に考えたのではなかったか――。
 
「―――もし……もう一度戦う事があったら……その時はどうなさいますか?」
尊敬する上官が語る内心に言葉を失っていたシエナの口から唐突に発せられた問い。
シエナ自身何を言っているのかわからない、浮遊感に似た感覚の中で発せられたその問いかけに、アシュリーは逡巡する事なく答えた。
「私が討ちます」
 
 
……正統暦4051年5月27日。
ユラ空域を舞台にしたヨーク、ジグリム間の会戦は、ミナリー・ジニア・エルフィス率いるヨーク軍の勝利で幕を閉じた。
両軍の司令官が共に女性、しかも15歳と27歳の若さであった事から、後の歴史家達の多くが自らの目を疑った会戦。
そして戦闘前から戦闘後まで様々な要因が絡み合い、もつれ合いながら終結した、歴史学的に考察しがいのある会戦であった。
 
 
-続く-

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