猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第34話

『ヨーク戦記』

第34話 天才少女5 -I'm home-



ユラ空域会戦終了。ジグリム軍完全撤退。
 
代理司令官ミナリー・ジニア・エルフィス率いる艦隊からもたらされた勝利報告に、アーキス砦は歓喜の叫びに満たされた。
あの名将アシュリー・ミシュアルを、しかもロア無しで退けた――その事実は兵士達の心を昂揚させるに十分だった。
ミナリーとアシュリーという両軍のナンバー2同士の優劣において、自軍が相手を上回っている事が証明された気分になったのだ。
当の本人達には全く別の見解があったにせよ、兵士の心理とはそういうものである。
 
 
「―――お前の予想、当たったな」
「―――そうだな」
モニター越しに大きく息をつくガルナ・ジン・ノーマに続いて、ロアもまた大きく息をつく。
フラムエルク城とアーキス砦。
現在いる場所こそ違えど、彼らの待っていた報告は同じであり、それが自然に安堵の息をつかせていた。
「何だよ、ずいぶんほっとしてるじゃねえか。ミーナなら勝てるって、自信あったんじゃなかったのか?」
「……いや、それはそうなんだが」
やや意地の悪い問いに、ロアはベッドに半身を起こしたまま頭を軽く掻く。
「最初からアシュリー・ミシュアルと戦わせるつもりじゃなく、リック・デルメールのみに狙いを絞って迎撃させて、これを撃破。アシュリーの本格参戦前に会戦全体の流れを決定づける―――全部お前の思惑どおりに進んだんだろ?」
「……いや、それはそうなんだが」
数秒前と一字一句の違いもないロアの返答。
ついでに頭を掻く仕草まで同じだった。
 
その言葉と態度どおり、現在のロアの心境は安堵以外の何物でもなかった。
攻勢に優れたリック・デルメールが先鋒で来る事を予測し、「猫の爪」でトライデントを迎撃――。
今作戦におけるミナリーの勝利を疑ってはいなかったが、それはあくまで戦術理論上の事。
どんなに万全な策を用意したつもりでも、全く予想外の事態に対する不安は常に存在する。
極端な話、たった1発の流れ弾が旗艦の艦橋に直撃する事さえありえるのだ。
 
「しかしまあ、よくやったもんだよ、ミーナの奴。リック・デルメールだって決して弱くはねえってのに」
ロアの心境を理解したのか、単に追及に飽きたのか、ガルナが口調を変えて感心したようにうなずく。
それに続いてうなずきながら、ロアはベッドの脇に置いてあったお茶を一口すすった。
「本人の能力はもちろん、相性、とでも言うべきなのかな。シュミレーションでもミナリーは突撃してくる相手にはやたら強かったし」
「……そういやこの前もそうだったっけな」
つい先日のフランとのシミュレーションを思い出し、納得の表情でガルナが笑う。
フランと同列に見られたリック・デルメールにしてみればさぞ不本意だろうが、結果だけで見るならその見解は完全に正しかったのである。
 
「さて、何はともあれ、これで一段落か。お前の風邪の方も、その顔色なら完治までもう一歩って感じだしよ」
「……と、言いたいとこなんだが」
ややうかない顔でロアが親友の言葉を遮る。
「なんだよ。まだしばらくかかりそうなのか? そりゃ無理は禁物だろうが司令官がいつまでも……」
顔をしかめたガルナに向け「風邪の事じゃなくて」ともう一度遮ってから、ロアは表情を真剣なものに改めた。
 
「今回の一件、最初から何かがおかしいと思わないか? 俺が風邪で倒れた2日後にジグリムの侵攻があるなんてよ」
寝巻き姿に似合わない真剣な表情と声。
一瞬言葉を失ったガルナに向け、ロアは更に続けた。
「しかもお前やプレーツまで不在の時にだ。偶然にしちゃいくらなんでもタイミングが良すぎる……いや、悪すぎる、か、この場合」
「……じゃあ何か? 敵さん、こっちの事情を知ってて攻めてきたってのか?」
ガルナの声にも苦いものが混じる。
モニター越しに親友が示唆している事の重大さを理解したのだ。
軍の内部情報が漏れている――「んなバカな」と、笑って無視するには、それはあまりにも大きく、深刻な事態だった。
 
「……もし本当に情報が漏れたとして、いったい何処からだ? 極秘にしてあったんだろ、お前が倒れた事は」
「ああ、少なくともジグリムの侵攻が確認されるまでは、ごく少数の人間しか知らなかったはずだ。大半の兵士達が知ったのはその後だし」
アーキス砦ではミナリー、フラン、エオリア、ガリュード、それに医療班の医師達。
ミナリー達はもちろん、医療班の方も信頼に値する部下達なので、そこから漏れた線はまずないだろう、とロアは語った。
ちなみに盗聴の痕跡等、セキュリティに異常がなかった事は既に確認済みである。
 
「と、なると残るはフラムエルクの関係者か……って事は俺やプレーツも容疑者に含まれるな」
参ったな、といった感じでガルナの顔に苦笑が浮かぶ。
ロアとしても彼らを疑う気持ちなど微塵もないだけに、つられて似たような苦笑を浮かべた。
「もしお前らだったらそん時はお手上げだ。我が身の不徳を嘆くしかないな」
「あのなあ……あ、ちょっと待て。―――ああ、入っていいぞ」
冗談めかしたロアの言葉に何か言おうとした所で、ガルナの姿がモニターから離れる。
次に現れた時、彼の隣りにはたった今話題に挙がっていた黒髪の青年提督、プレーツ・ジン・ディスリードの姿があった。
 
「お取り込み中の所、申し訳ありません、ロア提督。アーキスに通信を送ったら、ガルナさんと会話中との事でしたので、こちらに」
「いや、気にしないでくれ。それよりどうだ、雨漏りしてる場所は見つかったか?」
敬礼と共にそう告げるプレーツに、ロアはやや暗号めいた問いを返す。
一つうなずくと、プレーツは複雑な表情で手にした書類に目を移した。
「はい、つい先ほど発見、拘束しました。容疑者の名はボーデル・ランドック卿、主に通信事務を総括する大臣の1人です」
「……なるほど」
予想していた答えの範疇だったのか、ロアの反応は小さい。
その分まで、と言う訳ではないが、今のやりとりの意味に気づいたガルナが顔全体で驚きを表した。
 
プレーツ・ジン・ディスリードが雨漏りの場所を――情報漏れの原因究明をロアより命じられたのは、ミナリー出撃の数時間前の事である。
まず彼は「ロア倒れる」の報告を受けた際の、フラムエルクの通信士官を中心に内密に調査を行った。
そして作成された人物リストの中から、あえて最上位の大臣に狙いを絞り、これを再度徹底的に調査。
その結果、大臣のランドック卿が酒場で酔ったはずみに、情報を周囲の客数名に漏らしていた事が、複数の証言により判明したのである。
本人の弁明によれば「悪気は全くなかった」との事であるが、厳しく責任を追求されて当然の大失態だろう。
 
「……なんとまあ」
それ以外に言いようがなく、ガルナは首を左右に振る。
ロアの方も似たような気分だったが、口に出しては冗談混じりに部下を労った。
「ご苦労さん、ほんと、よくこの短時間で犯人見つけてくれたなあ。提督辞めても食っていけるんじゃないか?」
「まあ、ちょっと偏見に基づいて、ですが」
プレーツの口元に苦笑が生まれる。
末端の兵士達でなく、真っ先に大臣を疑う辺り、この青年提督の思考法は間違いなく上官の影響を受けていると言えた。
とかく真面目な性格で知られる彼だが、ロアファミリーの一員としての要素を十二分に持っているのである。
 
 
「……ふう」
通信が終わり、再び枕に後頭部を埋めて、ロアは天上を見上げる。
もう熱はだいぶ下がっていたが、外的な要因からくる軽い頭痛を感じていた。
枕元に置いておいた薬をお茶で喉に流しこみ、先ほどのプレーツの言葉を頭の中でもう一度再生する。
『――ただランドック卿が漏らした情報がどういった経緯でジグリムに伝わったか、その点は今の所不明です。
その場にいた客からも情報を集めていますが、人の出入りの多い場所だけに……』
そう報告するプレーツに、後の処理はフラムエルクの捜査班に引き継ぎ、なるべく早めにアーキスへ帰還するようにと伝え、通信を終えた。
当然、事件の全容は気にはなるが、現時点ではこれ以上どうする事もできないと思われたのだ。
原因が判明した事で再発の防止につながる事だけでもよしとすべきだろう。
 
「………?」
そんな事を考えているうちに、いつの間にか眠ってしまったらしく、ロアが寝ぼけ眼で頭を掻く。
体調が予想より早く回復しているのか、頭痛もすっかり消えており、熱っぽさもほとんど感じない。
ひさびさの健康的な気分を味わいながら、ベッドからゆっくりと起き上がる。
念のため体温を測り、熱が平熱に戻っているのを確認してから、寝たきり状態だった身体を軽く伸ばす。
「健康万歳」
意味もなく呟くと、眠気のない状態をもてあますように、今後の行動を思案し始めた。
時計を見ると、明け方の6時51分。
ミナリーの帰還まで、まだ多少の時間があるはず。
彼女の労に感謝する意味でも、溜まった食器や服くらいは自分で洗っておく事にしよう。
ついでに何か簡単なものでも作って腹ごしらえするのもいい。
そう考え、ロアは寝巻きの上から上着を羽織ると、数日ぶりにまともな活動を開始した……。
 
 
……そして5月28日、8時10分。
歓呼の嵐の中、ミナリー・ジニア・エルフィス率いるヨーク艦隊がアーキス砦へと帰還する。
港湾施設から砦内に足を踏み入れた途端の歓声に、戸惑い8割、照れが2割といった顔で、ミナリーは背後の仲間達に視線を移す。
笑顔のエオリアに促され、困りながらも小さくお辞儀をすると、一段と歓声が強まった。
「わ、すごい歓声ね~~。ほら、ミーナ、いつまでも頭下げてないで、もっと手とか振って応えなきゃ♪」
「そ、そんな事言われても……わたし、こういうの苦手で……って、ちょ、ちょっと、やめてくださいってばっ……!!」
じれったくなったのか、エオリアが強引にミナリーの手を取って、ぶんぶんと兵士達に向けて振る。
その様子をそれぞれの表情で楽しげに見つめているガリュードとシェルミィ。
当の本人よりも、よっぽど嬉しそうな、そして誇らしそうな3人だったと、ある兵士は後に語った。
 
「……えっと、報告書は間違ってないし、数もあってるし……」
30分後、ようやく兵士達の輪から解放されたミナリーは、報告書を手にロアの部屋の前に立っていた。
目的はもちろん勝利報告であり、代理司令官としての最後の仕事である。
もう一度この部屋を訪ねる事ができたという、素直な喜びと安堵感の中、一つ深呼吸してからインターホンを鳴らす。
……が、内からの返事はなく、数度鳴らしてからドアのノブに手をかけるとやはり開いていた。
「……おじゃまします」
数日前と似たような状況に首を傾げつつ、控えめに一言告げて室内へ入る。
体調もかなりよくなったと、先ほど医療班から聞いていたのでそっちの心配は少なかったが、万が一という事もある。
そう考えながら寝室のドアをノックし、そっとドアを開けてみるが、ベッドにロアの姿は影も形もなかった……。
 
「………」
廊下の壁にもたれかかった体勢で、ミナリーが脱力したようなため息をつく。
あれから他の部屋を一つ一つノックし、呼びかけていったが、全ての部屋を廻ってもロアは見つからなかった。
見つかったものといえば、キッチンのテーブルに残されていたインスタントフードの容器だけ。
体調が回復した事を示す食事のあとが、安堵と、そしてもう一つの感情を少女の心に生みだしていた。
ちゃんと帰還報告はしたし、自分がそろそろ訪れる事は知ってるはずなのに、どうして部屋にいてくれないのだろう。
労いの言葉を期待してたという訳でもなかったけど、せめて部屋で待ってる事くらいしてくれてもいいのに――。
何となく胸にもやもやしたものが湧き上がり、それにともなって腕にこめられる力に、抱えこんでいた書類が抗議の悲鳴を上げる。
気づけば自分でも驚くくらいの大声で、この場にいない人に向けて呼びかけていた。
「……ただいま帰りましたっ!!!」
 
「……おかえり」
「わあぁっ!!?」
たった今部屋に響いた声が消える間もなく、気まずそうな声と、素っ頓狂な声が連続して響く。
真っ赤な顔できょろきょろと視線を動かす少女の瞳に、風呂場のドアから半身を出している男の、ロアの姿が映った。
「て、て、提督っ!? い、いたんですかっ!!?」
「あ、ああ、一応」
寝巻きに上着を羽織っただけの姿でロアがうなずき、ぎこちなく笑みを浮かべる。
「も、もう、いるならもっと早く返事してくださいよっ。てっきり留守なのかと思って大声出しちゃ……」
気恥ずかしさにまくしたてるミナリーだったが、その顔が唐突に軽く歪む。
彼女の表情の変化に気づいたのか、ロアの額に汗が滲み、やがて次の言葉によって頬に流れて床へと落下した。
 
「あの……なんか焦げ臭くないですか?」
「そ、そうか? どっかの部屋で、さ、魚でも焼いてんのかな?」
「………」
「………」
「……そこ、開けてもらえます?」
短い沈黙の後、ミナリーが穏やかだが拒否を許さない声でそう告げる。
笑顔というには圧迫感のありすぎる参謀の表情に、ロアは観念したように脱衣所へと続くドアを開けた。
途端に周囲に広がる焦げ臭さ。
ロアより先にその中へ足を踏み入れたミナリーは、奥のバスタブに隠されていた鍋やフライパンを発見し、思わず額を押さえた。
 
「……もしかして、これ見つからないように隠れてようとか思ってました……?」
「……面目ない」
真っ黒に焦げ付いたフライパンに同情の視線を送っている少女に、ロアは一歩引いたまま頭を下げる。
視線がこちらを向いていない分、ロアとしては余計に怖いものがある。
「あー……更に言うとだな」
これ以上の隠蔽は本気でやばい――深刻な身の危険を感じながら、脱衣所にある乾燥機のスイッチを軽く押す。
『ギイイィィ……』と明らかに異常な音が響き、数秒の間をおいて『ガクン――』と息絶えたかのように停止する乾燥機。
恐る恐るといった感じでミナリーが投入口を開けると、途端に大量の洗濯物が雪崩のように崩れ落ちる。
それをきっかけに、危うく雪崩に飲みこまれかけた少女を中心とする嵐が、脱衣所内に暴風を巻き起こした。
 
「何なんですか、これはっ!! こんなにいっぺんに詰め込んだら壊れるに決まってますよっ!! それにあのフライパンとかお鍋とかも、何をしたらあんな風に真っ黒焦げになるんですかっ!!! フライパンが泣いてますっ!!!」
耳鳴りがするほどの大声の直撃を受けたロアがたまらず仰け反る。
泣きたいのは俺の方だ、と内心で思ったが、もし口に出せば火に油を注ぐようなものだろう。
「ちょ、ちょっと落ち着け!! 俺にも言い訳くらいさせ――」
「あと台所にあったインスタント食品もですっ。あんなのばっかり食べてちゃ栄養が偏るって、前から何度も言ってるじゃないですかっ!!」
そっちは言い訳のしようもなく、ロアの口調がトーンダウンする。
それでも自身の名誉の為にも事情を説明しようと、身振り手振りを交えつつ、必死で頭を回転させていく。
 
「い、いや、その、確かに俺はインスタント好きだが、一応最初はちゃんと料理してたんだぞ。た、ただいきなり脱衣所ですごい音がして……」
「……それで料理してたのすっかり忘れて、ですか?」
はあはあと肩で息をしながら、ミナリーが呆れた顔で焦げたフライパンを見る。
「そ、そうそう、慌てて見に行ったら乾燥機がこう、壊れたエンジンみたいな音立ててやがってさ、ほ、ほんと慌てたよ、ははは、は、は……」
参った参った、と笑ってみてから、すぐに失敗だった事に気づく。
むしろ先ほどまでより、少女の水色の瞳の冷ややかさが増した気がする。
 
「い、言っとくがいつもはこんな失敗は……ないとは言わんが、ここまで酷い失敗はないからな。ほ、ほら、やっぱりあれだ。や、病み上がりってのは判断力とかいろいろ低下してるものだし……」
「……………」
「……………すまない、このとおり」
万策尽きたといった顔で、頭を下げつつ両手を合わせるロア。
最初から素直に謝っておくべきだった――今思えばまったくそのとおりなのだが、後の祭りというやつである。
インターホンが鳴った瞬間、反射的に隠れてしまったものの、自分の代理として戦ってきた少女に対してあんまりな行為だった。
そんな上官を前にしばし無言でいたミナリーだったが、やがて見かねたように「はあ」と息をついてから表情を和らげた。
 
「……帰ってきたって気がします」
「は?」
「あ、いえ、もういいですから、早くこれ洗濯しなおしましょう。それにキッチンの後片付けと、このフライパンも何とかしてあげないと」
首を傾げたロアから慌てて顔を逸らし、ミナリーは床に散らばった洗濯物をカゴに集め始める。
ちらりと横目に見えたロアの戸惑った表情に、こみ上げてくる可笑しさを必死でこらえながら。
5月28日、9時00分。
代理司令官の職から解放された彼女の次の仕事は、洗濯、掃除、食器洗い等、荒れた部屋の後始末という事になりそうである。
もっとも本人がどこか幸せそうなので、これはこれで「処置なし」とでもいうべきかもしれないが。
 
 
「な、なあ、ミナリー? やっぱりまだ怒ってるか……?」
「怒ってますよ」
 
背後で不器用にテーブルを拭いている提督の声に、エプロン姿の少女は食器を洗う手を止めずに応える。
口元に可笑しそうに笑みをたたえて。
帰ってきた――もう一度、改めて実感する喜びの中で。
世界最年少の総参謀長は、ヨークが誇る天才少女はこういう娘なのである。
 
 
-続く-

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