猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第36話

「敗走中のアガルティア第九騎士団の速度が低下しています。これならば2リス以内には確実に追いつけますな、少佐」
「ああ、てっきり北上してムール樹海方面に逃げこむかと思っていたが……連中、最短距離で王都に向かう方を選んだようだな」
「これ以上惨めに逃げ回るのは騎士の誇りが許さなかったのでしょう。今更誇りも何もないと思いますがね」
砂煙を上げつつ異国の地を突き進む、15機余りの装兵機部隊。
スピーカー越しに聞こえる嘲るような言葉に、少佐と呼ばれた男が同意の笑みを浮かべる。
彼らの機体に描かれたジグリムの国旗が誇らしげに輝く中、獲物を追う猟師の如く、エルニール砦より敗走する敵騎士団を追撃していく。

「カルネビーク大佐は深追いするなと言っていたが……こんな機会を逃すなど慎重を通り越して馬鹿のする事だ」
先日、三強全員を投入して行われたエルニール砦攻略戦。
彼らが所属するジグリム軍は半日余りの戦闘で第十一騎士団長を討ち取り、砦も完全に占拠するという大戦果を上げた。
その余勢をかって、第九騎士団を中心とする敗残兵を追撃する事、ちょうど2日。
そろそろ物資も尽き始めようかという時になって、ようやく目標の獲物に追いつこうとしているのだった。

「はっ。しかも第九騎士団長クーロ・ジン・フロスティは先の戦闘で負傷中のはずですからな。今ならば討つのは容易いというものです」
「おいおい、その言い方だと俺が互角の条件では奴に勝てないみたいに聞こえるな」
「これは失言でした。なにせ少佐は先の戦闘でアガルティアの騎士を3人も討った方ですからな。あれは実にお見事でした」
「そういう事だ。騎士団長どもは三強に譲ったが、仮に俺が戦ってても結果は同じ――」
口惜しそうに言いかけたその時、通信機に別の部下の声が割り込んできた。

「前方2000リーク(3キロ)先に装兵機反応出現!! 数……1機のみ!!」
「1機だと? ――クーロのエンディーか?」
ジグリム軍少佐の頭にアガルティア第九騎士団団長の機体が浮かぶ。
現状でたった1機で挑んでくるとしたら、その可能性が最も高い。
大方、自らが命を捨てて時間を稼ぎ、その間に部下達を逃がすつもりなのだろう――そんな風に考えたのだ。
だが彼の予想は前提からして違っていた。
間を置かず「機種不明。データベースに該当するデータがありません」と部下からの2次報告があったのである。
「……アガルティアの新型か? だとしても、たった1機で増援……?」
不可解な事態への焦りと不安を振り払おうとするかのように、無意識に部隊全体が進行速度を速めていく。
そして彼らが疑問に答えを出す前に、それは目の前に現れた。
まるで陽光に輝く森の新緑を思わせる色の装甲と――それ以上に輝く銀十字の紋章が刻まれた装兵機が。

「あの紋章――」
悪い夢を見ているような表情で少佐が呟いたのと同時に、一瞬スピーカーからノイズが漏れ、直後に初めて聞く声がコクピットに響く。
まだどこか幼さを残した少年の声。数秒に満たない一言。

「アガルティアへようこそ」

それが彼がこの世で聞いた最後の声だった。
 
………。

……。

…。
 
「はい、こちらレジス。ただいま留守にしておりますので、御用のある方は後ほどおかけ直しください―――うお、冗談だってば。そんな通信越しに殺気送んなよ、ラピス姉ちゃん。―――ああ、クーロと第九騎士団は無事だよ。けっこう危機一髪だったけど、ちゃんと間に合ったぜ。―――そう。―――そう。でさ、俺としては本隊との合流前に、軽く三強の連中に一撃入れに……だから冗談だよ、了解、了解しました」

「……あー怖かった。何であの姉ちゃんは電波に殺気乗せれんのかね」
通信機の電源を強引にオフにし、レジスは装兵機バシリスのコンソールに脚を投げ出す。
開け放たれたハッチから入ってくる風がコクピットに新鮮な空気を送り込み、少年の銀色の髪を撫でていく。
少年。そう、彼はまだ世間では少年と言われる年齢だった。
顔立ちは凛々しさとあどけなさの中間といった感じで、身長も1リーク(150cm)程度と、まだまだ成長途中。
同年代の少年達に比べて多少引き締まった体つきだが、それも特別に筋肉質というほどのものでもない。
学校の制服を着ていれば、どこにでもいる普通の学生そのものに見えた事だろう。

しかし世間一般的に装兵機に乗った学生はいない。
ましてやそれを手足のように操り、ジグリムの装兵機部隊15機余りを1人で全滅させる事のできる学生など。

「……さーて、本隊来るまでどうするかなーー……」
暇を持て余したように呟き、ひょいとコクピットを飛び出すと、愛機の肩に腰を降ろす。
周囲に散らばる、先ほどまで装兵機だったものの残骸と、彼方に見える装兵機の砂塵。
追いついてきた部下達に向け軽く手を振ると、襟元に付いた聖位の紋章が陽光に反射して光を放つ。
アガルティア第七騎士団団長レジス・ジン・ユーエル、この時15歳。
学友ではなく、戦友に囲まれて日々を送る、少しばかり数奇な人生を送っている少年である。


『ヨーク戦記』
 
第36話 大国激突1 -アガルティア聖位-



「……間違いない。聖位騎士だ」
「マジすか」
「…………」
エルニール砦、中央第一司令室。
つい先日まで敵国の所有物であったその部屋で、3人の男女がモニターを凝視している。
外見も年齢もバラバラで、1人は厳然とした雰囲気を醸し出す30代後半の男、1人は前者とは対極に、口調からして軽そうな20代の青年。
そしてもう1人は1リーク(150cm)に満たない小柄な身体と、肩の辺りで束ねられた銀色の髪をした、一見すると少女にすら見える女性。
共通点を挙げるならば、全員がジグリムの軍服に身を包み、各自の愛剣を背や腰に装備している事だろう。
それぞれの名はバゼット・ファルモア、クルト・カルネビーク、ハイディーヌ・ベルテス。
ジグリム最高クラスの剣腕から、『三強』と敬意と畏怖をこめて呼ばれる騎士達である。

「あの銀十字の紋章を持つのは聖位騎士のみ。この砦が落ちた以上、遠からず出てくるとは思っていたが……予想よりも大幅に早いな」
「ですけどあんな装兵機は見た事ないですね。俺の記憶が正しければ、第一から第三の騎士団長のどの機体とも違ってますが」
やや深刻に思案するバゼットに向け、クルトがおどけた口調で問いかける。
レジスと遭遇した追撃部隊が全滅直前に送ってきた映像を見終え、三強の面々は灰色になったモニターを前に対応を協議していた。
誰が言い出した訳でもなく、ごく自然にそうなっていたのだ。
「だとすればこれが第七騎士団長の機体だろう。噂に聞く、若き第七騎士団長レジス・ジン・ユーエル……」
「……神童……アガルティアの超新星……史上最年少聖位騎士……」
以前に教えられた情報を思い出すように、今まで黙っていたハイディーヌが小さく呟く。
その北海の色をした瞳から内心をうかがう事はできなかったが、少なくともいつものように無関心という訳ではないようだった。

「ま、第一であれ第七であれ聖位が出てきたって事は、本気でここを奪還する気ですよね。こっちも歓迎に出ますか、ファルモア中将?」
指を鳴らしながらのクルトの問いに、バゼットが重々しく首を振って否定の意を伝える。
「忘れた訳ではあるまい、カルネビーク大佐。我々に与えられた任務はこの砦を攻略、確保し、支配権を確立する事。攻略作戦を終えたばかりで本国との補給路も完全には整備されていない今、こちらからの出撃は避けるべきだ」
どこか自らに言い聞かせる口調で言い、続けてモニターを軽く拳で叩く。
「それにまさか敵も1人という事はあるまい。聖位騎士は全部で4人。他の3人、第一から第三の騎士団長も出てくるとみた方がいいだろう。奴らの実力は今更言うまでもなかろう、大佐?」
「……そりゃ、まあ」
嫌な事を思い出したようにクルトが肩をすくめる。
ふと逸らした視線が何か言いたそうなハイディーヌのそれとぶつかり、一瞬考えた後、彼は同僚の無言の問いかけに答えた。

「昔……つっても3年くらい前だけど、俺とファルモア中将は第一と第二の騎士団長と戦場で出くわした事があってさ。そん時にちょっとね」
「……戦った……?」
「ああ、しかもどっちも強いのなんのって。あん時は結局いろいろあって互いに退いたけど、もう少しやってたら危なかったかもね」
特に恥じる様子もなく、さらりと言ってのけたクルトだったが、バゼットの方もまた似たようなものだった。
苦笑寸前とでもいうべき顔でうなずくと、彼は瞳の中だけに強い意思をこめて呟く。
「そういう事だ。もう少し待てば本国よりの増援によって、砦の守備兵力も強化される。仕掛けるのはそれからでも遅くはない……」
 
 
「………みたいな事を考えているのではないかと」
エルニール砦から北に離れる事、約20キロに置かれたアガルティア軍本営。
明りを抑えた天幕の中で淡々とした口調でそう述べるラピスに、ソーラルは「お見事」と拍手の真似で応える。
「だけどそうなると面倒だね。流石に三強全員に砦にこもられるとなると」
「敵の増援到着までに落とすのは容易ではありませんな」
「……何だよ、ラピス姉ちゃん、この状況は。てっきりすぐに三強と戦えるとばかり思ってたのにさ」
困り顔で呟いたソーラルに続き、第二騎士団長のワイズが眉を寄せ、先ほど合流したばかりのレジスが肩をすくめる。

「ユーエル団長。いくら親しくともその呼び方はよせと言っているだろう。仮にも互いに聖位の称号を持つ者同士、部下に示しがつかんぞ」
そう咎めたのは当のラピスではなく、ワイズ・ジン・グロンキアの方だった。
ラピス・ジニア・ハムとレジス・ジン・ユーエル。
この両名は騎士団入団以前からの知り合いであり、年齢差は9歳と、やや離れているものの姉弟同然の関係だった。
ラピスの騎士団入団から4年後、後を追うように騎士団に志願したレジスは、わずか11歳にして入団試験をクリアし歴代最年少記録を更新。
以降、辺境地域の反乱討伐を中心に、王都警護、対ジグリム戦で武勲を重ね、15歳の時にはラピスと同格の聖位騎士に抜擢されていた。
「……言っとくけどラピス姉ちゃんがいたから騎士になった訳じゃないからな」とは本人の弁だが、信憑性については微妙な所である。

「だいたいお前は聖位騎士として、いや、それ以前に騎士としての自覚が足りなすぎる。我らに課せられた責務というものをお前は―――」
「まーた始まった、こんなとこまで来てお説教かよ。おっさんこそ何かにつけて自覚自覚とやかましすぎ―――」
そんな若き第七騎士団長と、厳格な第二騎士団長のある意味不毛な口論を遮断したのは、第三騎士団長の静かな声だった。
「……策、聞いていただけますか?」
静かだが凛とした声に2人の口論がぴたりと止まる。
それをどこか面白そうに眺めていたソーラルが、表情を改めると同時にラピスに向き直った。

「……あんまり長引かせる訳にはいかないよ、ラピス?」
注意をうながす、と言うよりは、あえて確認をするといった口調。
総団長に軽くうなずくと、ラピスは3人の聖位騎士に均等に視線を走らせ、短く答えた。
「3日以内に終わらせます」
 
 
―――翌日、7月8日。日の出の時刻になっても分厚い雲に覆われた空の下、アガルティア騎士団が動き出す。
レジス率いる第七騎士団が、目の前のエルニール砦を無視する形でジグリム本国方面への侵攻を開始したのである。
この事は当然ジグリム軍の知る所となり、司令官バゼット・ファルモア以下、即座に対応策を求められる事態となった。

「いかに聖位騎士がいるとはいえ、第七騎士団のみ、たった50機程度の戦力で本国に侵攻するはずがない。となると、目的は地上の補給線の寸断、国境の監視施設の破壊辺り……そして最大の狙いは無論、我らを砦から引っ張り出す事、だな」
「出てきて戦え、さもなくば国境付近で一暴れしてやる、って事ですか。嫌がらせにも程がありますね、ったく」
「やっかいではあるが地上の補給線の方はまだいい。この砦には大規模な艦隊港湾施設はないが、それでも空輸で補給は受けられる。問題は国境の方だな。あまり派手にやられると今後に響く。本国の方でも動揺が広がるだろう」
モニターに表示された戦略地図を見ながら、バゼットとクルトが意見をかわし合う。
ハイディーヌだけはモニターを見てはいないが、これは身長の低さが災いし、壁のモニターを見上げ続けていると首が痛くなるからである。

「しかしこの見事なまでの迅速さ。我らが砦にこもる事など最初から想定済みだったか」
モニターから視線を外したバゼットが短く唸る。
彼の予想では、アガルティア軍は騎士らしく、まず正面から堂々と戦闘を挑んでくるものとばかり思っていた。
それを巧みにかわしては焦らし、増援到着を待って一気に攻勢に出るつもりだったのだが……。
まさか一度も仕掛けてくる事なく、初っ端から本国方面を狙うとは完全に予想外であった。

「……やはり無視はできんな、国境に着く前に止めるぞ」
しばしの思案の後、三強の2人に向かってバゼットはそう言い、クルトも「仕方ないっすね」と肩をすくめる。
「で、誰が行きます? ここの守りもありますし、全軍出撃って訳にもいかないですよね」
「わかっている。そもそも全軍で出撃しては奴らの思うつぼだ。ここは遠距離攻撃中心の部隊を組み、距離を取って攻撃をかける。そしてある程度被害を与えたら、全速で砦に撤退。膠着状態に持ち込むのが理想だろう」
アガルティア騎士団、しかも聖位騎士のレジスが率いる第七騎士団に対し、この条件でまともにぶつかるのは分が悪い。
増援到着までの戦力確保を最重要とする以上、このバゼットの判断は2人にも正しく思えた。
……が、それとは別にクルトはどうにも嫌な悪寒を覚えていた。
何かに、何者かに高みから全てを見透かされているような、そんな不快な感覚。
それを振り払おうと一つ大きく息を吐いた彼の視線の先で、バゼットがハイディーヌの方に視線を向けた。

「確か中佐の部下には遠距離攻撃の秀才がいたな。直ちに彼女を中心に30機ほどの部隊を編成し、第七騎士団を追撃させよ」
「……了解……」
短い言葉と共に敬礼するが、ハイディーヌはその場を立ち去ろうとはしない。
不審に思ったバゼットがたずねると、彼女は表情を変えぬまま聞き返してきた。
「……私も……出ていいですか……?」
「それは構わんが……中佐の機体は遠距離攻撃に向くまいに」
「そうそう、接近戦はしない予定なんだから、ここでのんびり待ってれば? 俺とティータイムでも過ごしながらさ」
バゼットとクルトが立て続けに言うが、それも無理はない。
事実、彼女の愛機ユニフィアは斬装刀を中心にした接近戦用の機体であり、中・遠距離攻撃用の兵装は一切搭載していないのである。
「……念のため、です」
そう呟くハイディーヌの表情からは、相変わらずその内面を読み取る事はできない。
しかし後に振り返ってみれば、この時の彼女は何か不吉なものを感じていたようであり、結果としてそれは正しかった。
国境へ向かう第七騎士団を猛追する事、数時間。
遠距離攻撃の射程に捉えようとしたその時、予想だにしなかった事態が彼女達を襲ったのである。
 
 
「信じられない、なんて射程距離……!! 剣技であんな事が本当に可能なの……!?」
装兵機の操縦桿を握る少女の手が小刻みに震える。
少女はハイディーヌの部隊の一員であり、無口な彼女の数少ない話し相手でもある、ユカリ・ゲルド中尉。
ハイディーヌより3つ年下の19歳にして、ジグリム屈指の砲撃用装兵機操者との呼び声も高い。
接近戦を得意とするアガルティアの騎士達にとって、剣の届かない距離からの正確な砲撃は、忌々しく、同時にまた恐れるべきものでもある。
ユカリを中心とする後方支援攻撃と、ハイディーヌを中心とする近距離直接攻撃。
それらの完璧な連携によって、彼女達はこれまで幾多の武勲を上げてきたのだ。
しかし今、彼女の培ってきた経験の全てを覆すような光景が、恐怖というリアルな感覚を伴って目の前に広がっていた。
 
「敵機より高レベルのプラーナ、再度発生!!」
「敵、未だこちらの射程距離外!! 反撃不――」
部下の叫びが途中で爆発音に取って代わる。
彼女らの前方、約4キロ先に位置する新緑の色をした装兵機――その刀身から放たれた光によって胸部を撃ち貫かれ、爆散したのだ。
先ほどのユカリの言葉どおり、およそ騎士のものとは思えない射程距離……だが砲撃用の兵器ではない。
モニターに限界まで拡大された敵装兵機の映像と、その刀身から発せられる眩いほどのプラーナの光が、その事を示していた。

まるで流星を想起させる光の矢。
アガルティア第七騎士団団長、レジス・ジン・ユーエルの長距離攻撃『フォーリングスター』。
そう名付けられた技の名さえ、自分達を襲う技の名さえ知る事なく、次々と機体ごと撃ち貫かれていく兵士達。
あまりにも想像からかけ離れたその光景に、ユカリは怒りを覚える暇すらなく、必死で防戦の指示を出す。

「全員、急いで拡散!! 密集していたら狙い撃ちに――」
指示の直後、モニターに広がる強烈な光。
敵の狙いが自分に向けられていた事に気づいた時には、既に光の矢が彼女の眼前に迫り――。
思わず目を閉じた瞬間、その刹那、黒い影が光と機体の間に割り込んでくるのが少女の瞳に映った。
「……ハーディ隊長!!」
目が開くと同時にユカリは全てを理解した。
上官の愛機ユニフィアが装備する巨大剣、斬装刀……鈍く輝くその刀身が光の矢を弾き飛ばし、自分を護ったのだと。

「……さがってて」
そう短く告げるやいなや、ハイディーヌは斬装刀を持ち直し、愛機ユニフィアを前方に向け一気に加速させる。
途中、無数に襲いかかってくる光の矢を、時に避け、時に斬り払い、凄まじい速度で目標に迫る。
それを見てフォーリングスターでの迎撃を諦めたのか、新緑の色をした機体が剣を構え直し斬撃の態勢を作る。
動と静。
対照的な2つの機体が瞬時に交差し―――爆発音と表現してもよい金属衝突音が戦場一帯に響き渡った。

「……流石に速えな、しかも重い。三強の名は伊達じゃねえって事か、ハイディーヌ・ベルテス」
「……その機体、確か……」
操縦桿を通じて伝わる、今の衝撃を噛みしめながら睨み合う両者。
その片方、レジスの駆る装兵機バシリスの通信機に、ノイズと共に若い女性の声が入ってくる。
「……あなた……超新星……?」
いきなりの問いかけにレジスが無言で眉を寄せる。
それを肯定と取ったのか、一呼吸の後、ハイディーヌの斬撃が大気を斬り裂いてバシリスを襲う。
明確な殺意と静かな怒りの込められた、上段から頭部を狙った強烈な一撃。
さしものレジスも回避が間に合わずに剣で受け止めるが、斬撃のあまりの重さに無数の亀裂が地面に走る。
「この野郎――って、女か。まだ何にも言ってねえだろっ!!」
両手の痺れを怒りで抑えこみ、レジスが反撃に転じる。
受け止めたままの斬装刀を弾き返し、ハイディーヌの視界から消えたかと思うと、次の瞬間には右側面から刃が唸りをあげて突き出される。
ギリギリの所で機体を捻って回避したかに見えたハイディーヌだったが、装甲の一部に亀裂が走り、砂埃を立てて大地に落ちる。
その様子をそれぞれの表情で眺め――直後、両者のプラーナが一気に高まり、至近距離から更に愛機を踏み込ませた。

「……我らも援護しますか?」
「……あの中に割り込めとでも言うのか?」
20歳そこそこに見える若い騎士の問いに、年配の騎士の方が呆れ声で応える。
彼ら、第七騎士団の団員達が遠巻きに眺める先で、レジスとハイディーヌを中心に暴風が巻き起こっていた。
大陸最強の攻撃力とさえ言われるユニフィアの斬装刀が、操者もろともバシリスを両断しようと何度も襲いかかる。
が、対する15歳の騎士団長も負けてはいない。
白刃を煌かせる長剣を縦横無尽に振るい、強度で上回るはずの斬装刀を相手に互角に渡り合う。

「……やる……」
「そっちも……なッ!!」
一瞬前まで互いの機体があった空間を斬り裂き、続いて凄まじい音を立てて剣と剣が激突する。
超重量の斬撃に流石に圧されるレジスだが、巧みに愛機バシリスを操り、手首の捻りで衝撃を吸収――。
そのまま機体を強引に倒しながら横薙ぎにユニフィアの脚を狙っていく。
「……っ……!!」
操縦席を襲う衝撃にハイディーヌの顔がわずかに歪む。
もう一瞬でも反応が遅れていたら、確実にユニフィアの脚は膝から下を切断されていただろう。
だがそれでも右の脚部の装甲が斬り裂かれ、内部の複数の配線がスパークして火花を散らした。

「浅いか。だけどこれで――」
舌打ちしながらも優勢を確信し、再度の攻撃を仕掛けようとしたレジスだが、不意に感じる違和感にコンソールに視線をやる。
見ると機体の状態を示すパネルの一部、先ほど斬装刀を受け流した手首の部分が赤く表示され、損傷を訴えていた。
まだ剣を振るうには影響はなさそうだが、先ほどと同じように斬撃を受け流すのは恐らく不可能だろう。
互いに一部損傷した機体を睨み合いながら、次の一撃を繰り出すタイミングを計るハイディーヌとレジス。
そしてまさに今、両者が動こうとした瞬間、それを抑えるかのように一発の信号弾が空に打ち上げられ、白い光を炸裂させた。

「……あれは……」
「……ちぇ、合図か」
共に呟くと、ハイディーヌは小さく首を傾げ、一方のレジスは部下達に向けて短く通信を送る。
それを受けて第七騎士団が左右に展開していくのに合わせ、レジスのバシリスが後方にさがっていく。
事態の変化を訝しがる女性騎士の耳に、通信回線越しに少年の声が届いた。
「ラピス姉ちゃんの命令なんでね。わりーけど一騎討ちはここまでにさせてもらうぜ、三強」
 
 
「……第三騎士団のラピス・ジニア・ハム? そんな……いつの間に……」
同時刻、ユカリ・ゲルド中尉は青ざめた顔で、自分達の背後に現れたそれらを見つめていた。
ハイディーヌとレジスの一騎討ちの間隙を使い、損害を受けた部隊の再編をしていたユカリ達。
そんな彼女達の退路を塞ぐようにアガルティア騎士団が、しかもエルニール砦を窺っているはずの第三騎士団が展開していた。
雲の狭間から射す陽光を受けて銀色に輝く装兵機の壁。
その整然と統率された集団の中で一際目立つ、純白の機体。
アガルティア第三騎士団団長、ラピス・ジニア・ハムの愛機、装兵機マドゥーラ。
兵器というにはあまりにも優美な――まるで芸術作品のような印象を与えるその姿に、一瞬ユカリはここが戦場である事さえ忘れていた。
 
 
-続く-

 SS(二次創作)管理用

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