猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

雷斗聖刃さんの投稿SS4

『ライブレード・ネクスト・ジェネレーション』外伝

   ―CROSS ROAD―


 ■ Chapter 4



「……レイアル・クローゼに、グリオール……それにバージオンまで……」

 アイ・テンノージは、聖霊機ビシャールの各種モニターに映る敵機の数と機種を素早く確認する。そして数瞬の後には、操者の精神と機体の運動性能の双方が高いレベルでシンクロし、全力戦闘が可能な域にまで引き上げられていた。
 正面だけを見据える彼女のその貌に、もはや涙の跡は見あたらない。それは、夥しい死線を潜り抜けた者だけが持ち得る、戦士の貌であった。
 優美なシルエットを持つエメラルド・グリーンの機体が、問答無用とばかりに飛来する数多の火線を、驚異的な集中力と抜群の反応速度で次々に回避していく。
 着弾した地面に紅蓮の閃光が華と咲き、舞い上がる土塊と大気を切り裂く爆音が、『殺し合い』という名の交響曲の幕開けを壮絶なフォルテシモで演出した。

(……にしても、マズったな。こいつら、まだ引き揚げてなかったなんてね……)

 アイは、高速回転する思考のほんの片隅で、『敵』がまだ残っている可能性を失念していた己の迂闊さを悔やんだ。もっとも、仮に索敵を行っていたとしても、光学遮蔽システムを搭載した相手を発見する可能性は限りなくゼロに近いことも理解はしていたが。
 ビシャールが、腰部にマウントされたゼイン・ライフルを連射する。だが、闇雲にトリガーを引くようなことはしない。あくまでクールに、そして正確に、ターゲットに照準を合わせていく。
 『玉砕』や『滅びの美学』などという言葉は、アイ・テンノージの辞書には存在しない。彼女は最初から、生き延びるためだけに、自分の持つ力の全てを出し尽くす覚悟を決めていた。そのためには、あれこれと余計なことを考えている暇はない。消息不明のクロビス達のことは無論気がかりだが、この際は後回しだ。
 この狂乱の交響曲は、ようやく第一楽章が始まったばかりなのだ。

 アイ・テンノージが、最初にこの『敵』の襲撃を受けたのは、今から半日ほど前のことである。
 この時、アイの『ビシャール』をはじめ、クロビス・カミリオンの『バルドック』、アーサー・ヌコモの『ドライデス』、そしてゲンズバリオレッド・ジン・メルセーヌの『ゼイフォン』の4機で編成されたリーボーフェン所属聖霊機小隊は、アガルティア王国内レクナ平原の北に位置する『エルニール』の砦に派遣されていた。ここ1ヶ月の間に、レクナ平原付近においてアガルティア王国軍の大小の部隊が何者かの襲撃を受けて全滅する事件が相次ぎ、これにゼ・オードの関与が疑われたため、その調査に来ていたのである。
 このエルニール砦は、ジグリム共和国との国境付近に位置しており、常時100機以上の装兵機が配備されている第一線級の防衛拠点である。加えて、この時はグェンバー・ジン・オルドハイル准将麾下の王国第三騎士団54機が砦に駐留していた。これは、表向きは騎士団の主導による定期軍事演習という名目であったが、内実は件の襲撃に備えての増援であることは言うまでもない。
 アイ達が調査を開始してから3日目の早朝。突如としてエルニール砦にS級戦時アラートが鳴り響いた。砦の最終防衛ライン直近に、所属不明の艦影がいきなり出現したのである。そして、間髪入れずその戦闘艦から射出された20機ほどの装兵機――いずれもジグリム軍特殊部隊仕様のカスタム機であった――が、未だ迎撃態勢の整わぬアガルティア軍に容赦なく襲い掛かったのだ。
 恐ろしいまでに完璧な奇襲、驚異的な速攻、圧倒的な火力――この2ダースにも満たない敵装兵機部隊の戦闘力は、尋常ではなかった。それは、ジグリム軍の一部が極秘に研究開発を行っていた『コード3』と呼ばれる強化人間による特殊部隊であったのだが、この時はまだアガルティア軍側には知る由もない。
 王国の誇る精鋭部隊が、紙切れのように薙ぎ倒されていった。第一波の攻撃で、エルニール常駐の装兵機のうち半数が、瞬く間に物言わぬ鉄塊へと姿を変えた。中には、自分の機体に乗り込む間もなく敵機に踏み潰された操手もいる。それは、戦いですらない、一方的な虐殺であった。
 だが、ここで転機が訪れる。マシン・トラブルで修理中のビシャールを除く3機の聖霊機が、いち早く機体を起動させ、味方が態勢を立て直す時間を稼ぐために猛然と反撃を開始したのである。彼らの活躍により、アガルティア軍もようやく部隊を再編することができた。そして、宿将オルドハイル指揮する第三騎士団を中核に、起死回生の反攻に出たのである。
 オルドハイルが最下級の兵卒として軍隊入りしたのは、彼がまだ十代前半の頃である。それ以降、彼は40年近くにわたって第一線に立ち続け、現在の地位にまで上り詰めた。『叩き上げ』という言葉がこれほど似合う武官も少ないであろう。常に実戦に身を置くことで会得した彼自身の剛剣もさることながら、揺るぎなき経験に裏打ちされた集団戦闘の指揮は、王国軍においても堅牢無比を謳われていた。
 彼はまた、装兵機部隊による集団戦術を数多く考案しているが、中でも特筆すべきものとして『ポジション・システム』がある。
 これは、装兵機3機を1チームとし、それぞれに攻撃担当の『ストライカー』、防御担当の『ディフェンダー』、支援担当の『サポーター』という役割を与え、三位一体となって敵に当たらせるというものである。騎士団長機を除く第三騎士団全53機のうち30機によって10個のチームが編成され、これらにはさらに10箇所の『ポジション』が割り当てられた。この『ポジション』の組み替えによって生まれるフォーメーションは無限であり、いかなる戦況においても即座に、そして柔軟に対応することが可能であった。しかも、チームを編成しない残りの23機は『リザーバー』と呼ばれ、遊撃や、チームの装兵機が損傷した場合の救助及び交代要員として逐次投入されるという盤石の態勢である。
 こうして、第三騎士団の騎士達は、『キーパー』――総指揮官であるオルドハイルは、自らのポジションをそう呼んだ――の号令の下に、一糸乱れぬ軍団戦を展開したのである。第三騎士団が、十一あるアガルティア王宮騎士団中最強と呼ばれる所以は、まさにこの『ポジション・システム』にあった。
 オルドハイルは、今度の『敵』が、個々の戦闘力はずば抜けているものの、互いに全く連携がとれていないことを見抜いていた。これに対して彼が行ったのは、何と一機の敵に対して全機で攻撃するという、凄まじいまでに徹底した各個撃破の戦法であった。言葉にすれば単純であるが、これを可能とするには、秒単位で変化する指揮官の命令を正確に理解し実行する各機の判断力と、チーム相互の完璧な連携、そして何よりも指揮官へ絶対的な信頼が不可欠であった。
 さしもの強化人間の駆る高性能機といえども、この怒濤の攻勢の前には為す術もなく、一機、また一機と槍襖の前に文字どおり粉砕されていった。後日アーサー・ヌコモは、この時の様子を「まるで一頭の巨大な竜が獲物を呑み込むかのようだった」と語っている。
 鋼鉄の竜の顎が5機目を引き裂き、このまま勝敗の流れがアガルティア軍側に傾くかと思われた、その時――誰も予期し得なかった『破局』が訪れた。
 『破局』は、黒い『妖精』の姿をしていた。
 全長およそ6リート(約9メートル)――平均的な装兵機の半分ほどのサイズしかない、小さな機体。薄い光を放つ背中のX字型コンバーターが、あたかも妖精の羽のように見える。
 何の気配も感じさせずに突然現れたその『妖精』に、誰もが呆気にとられた。
 それまで戦っていたジグリム軍装兵機は、火力も機動力も見るからに高性能を予想させる外観を呈していた。それに比べ、今、彼らの目の前にいる機体は、あまりに小さく、そして幻想的で、そもそも戦闘用のマシンであるのかどうかも疑わしい。
 だが、オルドハイル准将は――数多の戦場を生き抜いた歴戦の猛者だけは、この小さくて華奢な『妖精』の内に潜む、とてつもなく巨大な“何か”を正確に感じ取ったのであろう。彼は部下に鋭い警告を発して後退を命じると、『ディクシム』のプラズマ・ランスを構え、この新たに出現した『敵』に向かって己の持つ最強の技を繰り出した。
 技の名は『ダイオニック・ヴォライサー(雷虎の咆吼)』。その名のとおり雷の如き気合と共に撃ち出される必殺の刺突は、突進力と破壊力において王国総騎士団長レストの『デュバルナック・ライバー』を凌駕すると言われている。最大戦速で解き放たれた雷虎の牙が、過たず『妖精』を貫いた――誰の目にも、確かにそう見えた――瞬間。
 あり得ないことが起こった。確実に相手を捉えたはずのプラズマ・ランスが、すり抜けた――貫通したのではない、まるで実体のないホログラム映像のように素通りしてしまったのだ。
 そのままの姿勢で『妖精』の脇を走り抜けたディクシムの上半身が、コックピットを境にしてズルッと滑り落ちた。『妖精』の手には、いつの間にか巨大なナイフが握られていた……。
 その後は、再び破壊と混乱、そして恐怖が、戦場を席巻した。漆黒の『妖精』が続けざまに放った巨大なプラーナ・ウェーブがアガルティア軍装兵機を薙ぎ払うと、死と鉄塊が大量生産され、再度形勢は逆転した。勢いを取り戻したジグリム軍装兵機は、既に半壊滅状態にあったアガルティア軍の生き残りに襲い掛かり、あたかもゲームの得点を競うかのように撃砕していった。殺戮の再開である。
 この時、まだ砦内部の整備ハンガーにいたアイのビシャールは、ようやく修理が終り、エンジンの起動に成功したところであった。しかし、いざ出撃しようとしたその時、『妖精』の放ったプラーナ・ウェーブの一発がハンガーを襲った。そして、ビシャールは崩壊した建物の下に埋まり、アイはそのまま気を失ってしまったのだった……。

 だから彼女は、その後第三騎士団が、味方の退路を切り開くために最期の最期まで獅子奮迅の戦いをし、そして全滅したことを知らない。
 クロビス達が身を引き裂かれる思いで彼女の救助を断念し、生き残った僅か数機の装兵機のしんがりを守りながら退却していったことも知らない。
 気が付けば、周囲は無数の瓦礫と装兵機の骸で埋め尽くされていて。
 そして、現在――おそらくは第三騎士団はじめエルニール砦のアガルティア装兵機部隊を壊滅させ、この地獄のような光景を作り出したのであろう張本人達を相手に、絶望的な戦いを強いられている。
 だが――。

 続けざまに放たれる砲撃を紙一重で躱し、的確にゼイン・ライフルを撃ち返す。

 ――この圧倒的不利な状況下にありながら、彼女の瞳に諦めの色は無い。
 絶望も無い。
 焦りも無い。
 恐怖も、悔恨も、そして怒りすらも、既に彼女の内から消えていた。
 残っているのは唯、己の“生”に対する飽くなき執念だけである。

 斬り込んできたグリオールのプラズマ・ソードをグラディオスで弾き、振り返りざま背後のレイアル・クローゼに突きを放つ。

(絶望なら、もう十分に味わったわ)

 親友、そして、想い人――。
 自分にとって最も大切だったものは、全て失われた。
 呪いの言葉は吐き尽くした。涙など、とっくに一生分は流しただろう。
 だが、たとえどんなに抜け殻のようになっても、どんなに絶望の淵に身を投げようとしても――彼女の根底に眠る熱き魂が、溢れるような生命の輝きが、それを決して是とはしなかった。

(だったら、あたしは……生きるだけよ。あたしから全てを奪ったこの世界の中で、生きて、生きて、生き抜いて。そしてあたしは、叫び続ける……自分達が“存在”することの意味を。自分に出来る全てを尽くして、死んでいった人達の分まで……!)

 レイアル・クローゼのフォース・ビットから放たれた銃弾が機体をかすめ、装甲の表面を削り取る。地面を転がって距離を取ると、エメラルド色の装甲はさらに泥油に汚れた。

(死ぬもんか。あたしが死んだら、アルフォリナや……トウヤたちを憶えている人間が、いなくなる。あたしの思い出だけが……いいえ、この“あたし自身”が、あの子たちがこの世界に“今でも存在する”ことを示す、最後の証なんだから……!)

 爆風に吹き飛ばされそうになるのを、なんとか踏みとどまって堪える。

(お願い……アルフォリナ、トウヤ、カスミ……! あたしに力を貸して!!)

 大地を蹴り、傷だらけの聖霊機が飛翔する。

「死んでッ――たまるかあああああッッ――――!!」

 二門のゼイン・ライフルが轟然と火を噴いた。
 それは、彼女自身が放つ生命の咆吼だった。



To be continued...



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《あとがき》
 亜衣は、個人的に佳澄美の次に好きなヒロインです。挫折しても、押しつぶされそうになっても、絶対に立ち上がってくることを信じさせてくれる――そんな強さを持った女性だと思います。特に「母親」となったとき、これほど頼もしいお母さんはいないんじゃないでしょうか。
 なお、今回『エルニール砦』の設定を、Airさんの『ヨーク戦記』からいただきました。大感謝! それから『ポジション・システム』はもちろん、地球の某球技が元ネタです。やはり、こちらの管理人様への敬意です。もっとも、著者の当該スポーツに関する知識はド素人レヴェルなんで、ツッコミは無しの方向でお願いします(笑)。

 SS(投稿作品) 管理用2

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