猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

蓮の花さんの投稿SS19

『機動戦士ガンダムSEED DESTINY―――“Phantom pain”』

《Phase:03 ~青の闘士と緑の破壊者~》



 フェン・イーフウ少尉がこの基地にやってきてから、1週間が過ぎようとしていた。
「ちょっと休憩にしない?」
 格納庫に佇むスローターダガーのコックピット。
 ルミラスからレクチャーを受けながらシミュレーションを行っていたフェンだが、それが3時間も続いたため、さすがに疲労を感じた。
「そうですね。では、少しだけ」
 フェンとルミラスは基地内の自販機で飲み物を買い、ベンチに腰を下ろした。フェンは烏龍茶を、ルミラスは紅茶を、それぞれ手にする。 
「ふぅ……」
 ひと息ついて、フェンは天井を仰ぐ。前に居た基地の、染みだらけでくたびれた天井とは違い、頭上の壁は汚れ1つ無い。だが、フェンは生活感が漂っていた前の基地の天井の方が好きだった。
「見た目は前のダガーとそんなに変わんないのになぁ」
 以前の部隊で扱い慣れていたストライクダガーと、新しい搭乗機であるスローターダガーの類似点と相違点は、意外にフェンを手間取らせた。
「まだ出力を上げすぎですね。ストライクダガーより多少は加減しなくてはいけません」
「分かってはいるんだけどねぇ……どうも前の癖が抜けないわ」
 ぼやきながら、プルタブを空けて中身を啜る。
 飲み物が缶からフェンの口へ移る度、耳障りな水音が響き、ルミラスが咎めるような視線を向けるが、フェンは気付かない。
「それにしたってフェン。あなたの操作は少し乱暴ではありませんか?」
 まるでMSでサーカスでもやろうとしているようだと言いながら、ルミラスは当てつけ代わりに音を立てずに紅茶を飲む。
「以前のストライクダガー、相当傷んでいたのでは?」
「……なんで知ってるの?」
 真面目に驚くフェンに、ルミラスは肩で溜息をつく。
 フェンの操縦は、ひと言で言って荒削りだった。
 セオリーから外れた機動が多く、それこそサーカスでも見ているかのようで、近距離戦や乱戦に関しては有効な動き方かもしれないが、味方との連携が出来ず、何より機体に負荷がかかり過ぎた。
「あなたに合うMSは、アイギスの盾のように硬くないとダメですね」
「……そうかな?」
「そうですよ。どうすればあんなに乱暴な扱い方ができるんですか?」
 ルミラスの問いに、フェンは何かを思い出すように黙考した後、口を開いた。
「でも、シミュレーターではルミラスに勝ったよ?」
 バネ仕掛けの人形のように、金髪の少女は立ち上がった。
 中身の少なくなった缶が音を立てる。見れば手が触れている部分が握力で歪んでいた。
「それは! あなたのダガーがあまりに妙な動きをするからです! 普段通りに戦えば対処できます!」
 顔をトマトのように赤くして捲し立てる。急に動いたせいで缶の中身が零れてしまった。 
「そ、そうなんだ……」
 何となくその剣幕に圧されるフェン。
 とりあえずハンカチを取り出し、濡れてしまった手を拭くようにとルミラスに渡す。
 どもりながら礼を言いつつそれを受け取ると、いそいそと手を拭く。
「……とにかく、フェンはもっと常識的に動く事を覚えて下さい」
 咳払いをひとつ挟んで、そのように締め括る。
「……うん、分かった」
 常識的な動きというヤツがどういうものか分からないが、とりあえず頷いておいた。




生真面目なルミラスは、フェンが慣れない基地で不便に思っている事が無いかどうか質問し、フェンが分からないと言った件に関しては可能な限り答え、アドバイスを行う。
「……そういえば、制服の方は合ってますか?」
「え? ああ、ぴったりよ」
 身に纏った軍服を見下ろす。
 ファントムペインとて連合軍の一部には違いない。これまでフェンが着用していたものと全く同じである。
 ルミラスの言う通り、この基地にはフェンと歳の近い者が多く、若年者用の軍服はすぐに手に入った。新品の布地に袖を通す際、柄にも無くワクワクしたフェンである。
「まぁ、ルミラスのも普通だから意外でもないし、別に奇抜なデザインの軍服があっても困るし」
「当然です。服を弄りたいなら自分の服でやればいい。大事な軍服の丈を短くしたり、変なヒラヒラを付けたり、袖を無くしたり……何を考えてるんだか」
「ルミラス、特定の人物に対する愚痴になってるよ」
 フェンに指摘され、はっとして口を押さえるルミラス。
 こんな所に都合良く本人が現れるはずもないが、それでも他人に聞こえるような場所で誹謗めいた事を口にした自分を恥じているようだ。
「……失礼しました。今のは忘れて下さい」
 咳払いを1つ挟み、ルミラスは眼鏡を掛け直す。
「真面目だね。そこまで肩肘張らなくてもいいと思うけど」
「私自身、そう思いますが、昔からこういう性格なんです。それはともかく、以前も話した通り、そうした軍服の改造等が許されるのも我々の第81独立機動群の特権と言えるでしょう。優遇されている分、任務の重要度も……」
「優遇? そいつは違うんじゃないか?」
 やや皮肉めいな口調で会話に割り込んだのは、褐色の肌に眼鏡をかけた若い士官だった。フェンにも聞き覚えのある声だ。
「コーザ中尉……」
 ルミラスの声音には、ミューディーに相対した時と同様の響きがあった。
「確か……何とかバスターの?」
「ヴェルデバスター。シャムス・コーザ中尉だ」
 中尉という事は上官に当たるわけで、フェンは立ち上がって敬礼しようとしたが、シャムスは手で制する。
「そんな事しなくていいっての。ここは正規軍とは違うし、俺もそういうの好きじゃないんでね」
「最初の時、上官がどうのと言ってませんでしたか?」
「アンタの噛み付きっぷりが痛快だったんでね。“おいおい、俺は一応上官なんだぜ?”なんて思ったのさ。後、その敬語も出来れば止めてくれ」
 第一印象とは大分違うシャムスに、フェンは戸惑いを隠せない。ミューディーも気さくな振る舞いをしていたし、ファントムペインには2重人格が多いのかという考えまで浮かんでくる。
「コーザ中尉、何か御用ですか?」
 階級を殊更に強調するのは、あからさまな嫌味であろうか。
 しかし、シャムスは特に堪えた様子も無く、ニヒルな笑みを浮かべている。
「そうそう、ルミラスよ。俺達が優遇されてるって?」
「はい、規律が他部隊より緩いという点も……」
「だから、それは違うんだよ」
「どう違うのです?」
 喧嘩腰の態度を、ルミラスは改めようともしない。ミューディーの時もそうだったが、気真面目な性格のせいか、常に軽々しい振る舞いしていたり、小馬鹿にしたような話し方をする人間は好きではないようだ。
「ファントムペインってのはコーディネーターを皆殺しにする部隊さ」
 それまで、皮肉が混じりながらも陽気だったシャムスの声に、急に黒々とした翳が降りる。
「そんな名前で言わないで下さい。第81独立機動群です」
 どうやら横文字による呼び名を、ルミラスは気に入っていないようだが、シャムスは彼女の揚げ足取りを無視した。 
「ナチュラルより優れているコーディネーターを、ナチュラルの癖に狩る事ができる。つまり俺らは“普通の人間”とは思われてない」
 だから軍隊にあっても『正規の軍人ではない』と認識されている。だから本来なら『軍の規律』に引っ掛かる改造軍服も“認められている”のではなく“無視されている”という方が正しい。
「……要するに、どうでもいいってことかな?」
「そんなはずはありません!」
 いつになく強い口調で、ルミラスはベンチから立ち上がった。形の良い眉が吊り上がっている。可愛い顔が台無しだと、傍観者に徹していたフェンは横目にそんな事を考える。
「第81独立機動群は、コーディネーターと戦うために選ばれた戦士です! そんな扱い……」
「じゃあ、その選ばれた戦士とやらが敵はともかく、何で味方にも知られてないんだ? そういう部隊って、普通は宣伝とかに使うんじゃないのか?」
 ファントムペインがどのような集団であるか、実際にフェンもこれまで知らなかった。連合内部に、妙に強い権限を持つ独立組織があり、その下にある私兵集団だという話しか聞いていない。
「要するに俺達は道具さ。コーディネーターって化け物と戦うためのな」
「そんな事は……!」
 更に強く反論しようとしたルミラスを無視し、話は終わったと言いたいのかシャムスはどうでもよさそうな歩調でその場から去る。
 結局何がしたかったのか、後に残されたのは顔を紅潮させ、怒りで膨らんだ風船を胸中に抱えたルミラスと、呆気に取られたままのフェンが残された。



「ねぇ、ルミラス」
『何でしょう?』
 通信機からは、やはり不機嫌そうな声が聞こえてくる。
 ここ数日というもの、基地の制空圏内外で所属不明機の目撃情報がもたらされており、フェンとルミラスは訓練を兼ねた哨戒任務に出ていた。
 雪によって白く化粧された山岳地帯の中に基地は存在する。白に閉ざされた景色の中を飛ぶスローターダガーの黒い装甲は明らかに異質に思えた。
 地球連合軍の量産型MSストライクダガーのマイナーチェンジとも言えるスローターダガー。
 最大の差異である、背中のエールストライカーパックが機体の機動性能、稼働時間、航続能力を向上させており、兵器としての信頼性は向上したと言われている。
 ただ、ストライカーパックを装備した事で重量が増し、更に出力の強化によって生じた操作性の違いが、フェンに若干の違和感を持たせていた。それ以上に彼女にとって問題なのは、スローターダガーにはフェン自身がどうしても好きになれない物が備わっている事だった。
「まだ怒ってるの?」
『怒ってませんよ。元々、コーザ中尉はああいう人ですから』 
 どう贔屓目に見ても怒っているとしか形容できない声で、ルミラスは彼女の心にささくれを作る原因となった人物の名を出す。
 やれやれ、と肩をすくめながらフェンは昨日の出来事を思い出した。
『道具だなんて……自分達の任務を何だと思ってるのよ』
 独り言のつもりだろうが、フェンにはしっかり聞こえている。
「気にする事無いって。中尉には中尉の考え方があるのよ」
 それをああいう形で他人に披露し、わざわざ怒りを買うようなやり方は関心しないにしても、だ。『そんなの納得できません! 第81独立機動群は、コーディネーターの脅威からナチュラルの人々を守る最精鋭です。それがあんな考え方するなんて』
 最精鋭の部隊が、どうしてこんな雪山に囲まれた基地でコソコソしているのか、とフェンは思ったが、口には出さないでおく。
 おそらくルミラスは自分で言っている事を純粋に信じ込んでいるのだろう。その辺りはやはり子供らしいと思うが、それは決して悪い意味ではない。むしろ――。
「そういうルミラスの真面目なところ、嫌いじゃないよ」
『からかわないで下さい!』
 ムキになるところも、また子供らしい。
 思わず口元がにやけてしまう。ヘルメットを被っているとはいえ、映像回線を開かれたら表情がバレてしまうので、とりあえず頬筋が落ち着くまで片手で隠しておく。
「うんうん、いいよルミラス。あなたは純粋なままでいてねぇ」
『フェン、馬鹿にしているのですか?』
「とんでもない。本心よ。妹の友達には、あなたみたいな娘がいいわね」
『フェン、その妹さんというのは……』
 ルミラスがそこから先の質問を言おうとした時だった。
 センサーが未確認の機影を捉える。
 つい先刻までの雰囲気は影をひそめ、緊張感に満ちた声が双方の通信機を飛び交う。
『2時の方向? こんな場所で……行きますよ! フェン』
「了解!」
 明快な声を返しつつ、それにしても、とフェンは思う。
 同じ人間なのに、任務の時はこんなに冷たい声になるのだな。


 
 意外に呆気なく、問題の機影は確認できた。
 ザフトのMS部隊である。
 大気圏内における空中戦を想定したAMF-101“ディン”と同じく大気圏内用の飛行MSで新型のAMA-953“バビ”による混成部隊。
 2人のスローターダガーは彼らに気付かれないよう、付近の鬱蒼とした森林地帯に紛れ込んだ。
『哨戒部隊でしょうか? 我々には気付いていないようですね』
 何かを待っているのか、ザフトの部隊は一定の範囲に固まっている。 
「どうする?」
『彼らに基地の存在を知られるのは不味いですね。出来ればこのまま帰ってもらいたいところですが』
 息を潜めて窺う彼女らの希望は、しかし一向に叶えられそうにない。
 ザフト部隊は相変わらずその場所を動かない。
「通信送って、増援を頼んだ方が良いかな」
『傍受の危険もありますし、今動けば、向こうもこちらに気付くかもしれません』
 我ながら迂闊だったと、ルミラスはスピーカーの向こうで舌打ちする。
『そもそも、何で彼らがこんな所に……?』
「あたし達を探してるって事は無いよね?」
『まさか……』
 ルミラスがモニターでフェンのダガーに目をやった時、一瞬その姿勢に思考が固まった。
 スローターダガーのビームライフルが、こちらに――つまりルミラスのダガーに向けられている。
『フェン……?』
 理解が示せない光景に、口元が半笑いになる。
 そんなルミラスの反応を他所に、フェンのダガーが引き金を引いた。
『何を……!』
 銃口から、鋼鉄をも一瞬で溶解させるビームが発射される。
 光の矢はルミラスのダガーの脇を通り抜け、こちらに狙いを付けていたディンに命中した。
『な……捕捉されていた!?』
「ルミラス! 逃げるよ!」
 離脱しようとするフェンのダガーを、ルミラスのダガーが制する。
『駄目です! 基地の存在を知られるわけにはいきません』
 ここで見つかった時点で、既に基地の存在を疑われているはずだが、口からは別の言葉が出た。
「でも、あたし達は2機だけよ? まともに戦えるわけないって!」
 ブースターの出力を上げ、その場から飛び退く。直後に2体の黒いダガーが立っていた場所にミサイルの雨が降り注いだ。
 舞い上がった雪が白い柱を描き、すぐに儚く崩れ去った。
『この状況では、どちらにせよ戦わねばなりません!』
 逃げるのしても、背を向けられる状況ではない。
「全くもう! まだこの機体に慣れてないのに!」
『私から離れないで下さい』
「そうする!」
 地上すれすれを高速で移動し、起伏の激しい場所へ入り込む。数の不利を補うためだったが、何故か敵部隊は機動力中心の編成にも関わらず、一気に包囲しようとはしない。
『やはり、私達を追い立てて基地の場所を探るつもりのようですね』
 2機のディンが、背中の6枚の羽を動かしながら10時方向から仕掛けてくる。
 連合兵士の間では『蚊トンボ』などという蔑称で呼ばれるディンは、マシンガンの銃口で狙いをつける。追い立てるのが目的ならば、照準は絞らないだろう。
(……っていうか、それじゃあたし達が狩りの獲物みたいじゃない)
 そんな事を考えて、状況の割に落ち着いている自分に気付いた。
 ディンのマシンガンが吼える。
 2つの火線が白い地面を抉りながら黒いダガーに迫る。
 機体を右に傾け、その慣性に身を任せて銃弾を回避。動きつつ、ビームを放った。
『きゃ……!』
 僅かに回避運動の遅れたルミラスのダガーが、迫る弾丸によろめく。被弾しなかったのは、やはり当てるつもりがなかったからだろうか。
 フェンが放ったビームが、ディンの左脚を撃ち抜く。
 予想外の反撃に、ディンのパイロットは驚いたらしく、一瞬、姿勢制御を忘れた。結果、重力に逆らえない鋼鉄は盛大に雪の中へと身を横たえる。
 もう1機のディンはルミラスが牽制で放ったビームを回避する一方で、フェンは機体を反時計回りに移動させつつ、倒れたディンにそのままトドメのビームを刺す。
「後ろ!?」
 スロットルを強引に上げ、風に煽られた凧のように飛び上がるフェンのダガー。
 刹那、ダガーが立っていた雪が煙と炎に変わる。飛来したバビのミサイルによるものだった。
 飛び上がった勢いをそのままに、頭上を旋回する2機のバビに向け、ろくに狙いも付けずに頭部バルカンを連射。
 変形して空を飛ぶ姿は水中のエイに似ているが、本物のエイは火砲やミサイルで武装などしていない。
 回避運動でその軌道を変え、遠ざかるバビ。それを視界の端で確認し、フェンは眼下のディンをモニターに収める。
「ルミラス! ディンにビーム!」
『あ、はい!』
 簡潔なフェンの言葉を、ルミラスが脊髄反射のような速さで実行する。
 フェンのダガーにほんの僅かに気を取られたディンは、正面方向から放たれたビームを、しかし寸でのところで上昇し、回避した。
「……逃がさない!」
 自然落下のエネルギーに加え、推進力を上方向へ集中。激しいGがフェンの体をシートに押し付ける。
 スローターダガーは腰にマウントされているビームサーベル発生装置を引き抜き、光の剣を生み出す。
 そのまま地面に激突する勢いで下降するフェンのダガーを、自身も他のMSからの攻撃を回避しながら見たルミラスは背筋を寒くする。
『フェン、危ない……!』
 だが、その言葉を発した時には、既にフェンは機体姿勢を地面と平行に保ち、ルミラスのビームを回避したばかりのディンをサーベルで背中から薙ぎった。  
 上半身と下半身、そして羽のパーツが四散し、雪の大地に降り注ぐ。
 ルミラスは唖然とした。
 いくら何でも、慣れない機体でここまで戦える人間がいるのだろうか。
(あれじゃ、まるで……)
 頭に浮かんだ考えを慌てて打ち消す。
(……そんなはずない)
 フェンがコーディネーターなどと、あるわけがない。
 思わず歯噛みする。足を引っ張っているのは自分の方ではないか。昨日まで自分がフェンにダガーの操縦をレクチャーしていたはずなのに、あまりに情けない。
 ルミラスの思考はほんの一瞬に過ぎなかった。
 しかしその一瞬が、彼女のダガーの背中を狙うディンに絶好の機会を与える事になった。
 爆発音。
 炎と煙と、白い絨毯に飛び散る鉄の破片。
 フェンがそちらにモニターを向けると、ルミラスを狙っていたディンの残骸と呆然と立ち竦むような彼女のスローターダガー。そしてそのダガーと同色のMS。
 ゴーグルをはめたようなダガーの頭部と違い、人間の目のようなカメラアイを持つ黒いMS。
「……ストライクノワール!」
 たった今、鉈に似た形状のビームサーベルでディンを切り伏せたノワールは、その“瞳”に似たカメラアイでフェンとルミラスのダガーをそれぞれ一瞥した後、ダガー以上に俊敏な動作でその場を飛び退く。直後に13発のミサイルが飛来する。
「……! ルミラスも動いて!」
『……あ!』 
 フェンの言葉で我に返ったルミラスが、頭部バルカンで弾幕を張りながら離脱する。
 4発が銃弾の餌食となって砕け散り、残りは雪の中に埋もれて爆発し、白い飛沫を吹き上げた。  ザフト部隊は新たに出現した黒いMSに最初は戸惑っていたものの、敵軍の機体と見るや、すぐに態勢を整える。
 だが、その間にスウェン・カル・バヤン中尉の駆るストライクノワールが、サーベルを背中のウィングに戻し、腰に装備された2丁のビームガンを抜き放つ。左手を斜め上空に、右手を真っ直ぐ9時方向に向けて引き金を引いた。
 ライフルにも劣らぬ出力で発射されたビームが、それぞれの標的を仕留める。2機のディンが致命傷を負い、活動を停止した。
 まるで昔見た西部劇のガンマンだな、と呑気に考えながら、フェン自身も機体を操り続ける。
 ブースターで高速移動するフェンのダガーに追いすがるバビがミサイルを発射。速度はそのままにダガーの右脚で地面を蹴る。バウンドするような軌道で位置を変えるダガー。標的を見失い、そのまま雪の地面に不本意な接吻を強いられたミサイルを尻目に、フェンは蹴った衝撃で回転した機体を制御しようとせず、仰向けに飛行してビームライフルを放つ。この間、2秒とかかっていない。
 ろくに照準していなかったせいか、ビームはバビの装甲表面を僅かに傷付けただけで上空へ飛んで行った。
 反撃しようと機首を振るバビの、傾けた機体の腹部に光の矢が刺さる。
『フェン、あまり1人で無茶をしないで下さい!』
「ありがと、ルミラス」
『いえ……』
 ルミラスの言葉を遮るように割り込んできたディンが、ショットガンから無数の弾丸を放った。
「まず……!」
 弾丸の大半はシールドで防いだものの、左脚の装甲と肩のセンサーが損傷する。加えて、今の銃撃を受け止めたせいでシールドが使い物にならなくなってしまった。元々はビームを防ぐためのコーティングがされていたので、至近距離から実弾を撃ち込まれては耐えられるはずもない。
 ライフルの照準もサーベルを抜くのも間に合わず、頭部バルカンで応戦するが、彼女の悪あがきを嘲笑うように微妙な間合いを保って銃弾をやり過ごすディン。   
 片脚が損傷し、無理矢理な扱いのせいでブースターが限界に来ている。ルミラスは別の敵と交戦中。ノワールはこちらなど眼中に無いかのように戦い続けている。
「またピンチになっちゃったじゃないの……」
 呻くフェンを救ったのは、凄まじい速度でディンに命中した大口径の弾丸だった。
 ビームで溶断するのと違い、衝撃で文字通りバラバラに砕け散ったディンの破片を踏みしめて、青いMSが現れる。
『こんな近くにいたのに気付かないなんて、よっぽど余裕が無かったのねぇ』
 撃墜したディンのパイロットに向けた言葉なのか、あるいは自分か。戦場にそぐわない落ち着いた声は、そのMS――ブルデュエルのパイロット、ミューディー・ホルクロフト少尉のものだった。
「ホルクロフト少尉……」
『ミューディーでいいわよ。ルミィの奴が足引っ張ったんじゃない? あの子、実戦になると空回りしちゃうから。それにしても、意外と強いのね? 見直したわ』
 ミューディーはフェンの返答を待たずに、ブルデュエルにビームガンを持たせて戦場に飛び込んで行った。
 3機のバビが、腹部の大出力ビーム砲を発射。巨大なフォークが青い闘士に襲い掛かるも、跳躍して目まぐるしい速度で方向変換を行い、無傷で切り抜けて反撃する。
 両手のビームガンが1機のバビを仕留め、離脱する残り2機の内、1機を肩のシールド内に仕込まれたレールガンで狙い撃つ。空中を縦横無尽に駆け巡るバビを、恐るべき精度と速度の巨弾が襲い掛かり、文字通り粉砕した。
 残った1機はブルデュエルを振り切ったものの、横合いからルミラスのダガーのビームが放たれ、急旋回して距離を取る。
 変形を解き、自由な手足を得たバビがビームライフルで応戦してくる。
 すぐさま移動し、ビームの閃光をやり過ごすダガー。しかし1度は距離を置いたバビは、今度は逆に前進し、ショットガンによる接近戦を挑んできた。
『く……!』
 どうにか回避したものの、着地に失敗して無様によろけてしまう。そこへ襲い掛かるバビのビームを、青いシールドが阻んだ。
 ビームの発射より一瞬早く、ルミラスの付近まで来ていたブルデュエルが、彼女のダガーを庇う形で立ちはだかっていた。
 ブルデュエルがビームガンを連射。
 光の短剣を無数に受け、離脱も反撃も出来ずにバビの機体が爆発した。
『全く、見てらんないよルミィ。ホント実戦に弱いんだから……』
 戦場の只中、呆れ返る声でミューディー。
 これまでのルミラスの振る舞いから、その事実はフェンにとって意外だった。
(あ、でも、言われてみれば……)
 金髪の少女が、どこか背伸びをしているような印象はあったし、実際にこの戦闘でも妙に動きが鈍いと感じていた。
『少尉……ありがとうございます』
 日頃から快く思っていない人物に助けられ、不本意そうなルミラス。
『しっかりしてよ? 新人の面倒見るのがアンタの役目じゃない』
『………』
『とはいえ、よく頑張ってるじゃない。ここはあたし達でやるから、あっちで立ち往生してる新人をどかしてもらえる?』
 ブルデュエルの頭部がこちらを向く。
 ノワールとブルデュエルの到着で、敵部隊の注意はそちらに集中しており、フェンのダガーを狙う相手はいなかった。
『……了解』
 ルミラスは、内心はどうあれ、とりあえず指示に従ってフェンの所へ移動しようとした時、ミサイルが飛来する。
 回避したダガーとブルデュエルの視線の先には2機のディン。マシンガンの銃口が殺意の輝きを帯びる。
『いい加減にしてよね。あんた達のお姫様は仕留めたんだから。いくら待っても無駄よ』
「お姫様?」
 妙な単語を聞き、フェンは首を傾げる。
 彼女の疑問を他所に、ブルデュエルは軽快な運動性を生かして銃弾の雨を掻い潜り、ビームガンと頭部バルカンでディンを牽制する。
「あ……!」
 その青い機体を頭上から狙うバビ。腹部のビーム砲が淡い輝きを帯びる。
「危ない!」
 フェンの叫びと同時に、スローターダガーの横を2本のビームが通り過ぎていき、そのままバビに突き刺さった。
 ビームの発射元には緑の甲冑を着たMS、ヴェルデバスターの姿があった。
『真打ちは最後に登場ってね』
 軽薄な物言いは、ルミラスを不機嫌にさせた原因の人物に間違いない。
「シャムス?」
 ミューディーの指摘もあって名前の方で呼んでみると、陽気な声が返ってきた。
『よう、どうやら無事のようだな。しかしおまえ、結構やるじゃんか。気に入ったぜ』
「……今度は賭けに勝てた?」
 フェンの苦笑混じり声に、やはり苦笑混じりの声が返ってくる。
『冗談は止めてくれ。今回はのんびり見てたわけじゃないからな』
 言いながら、左肩のビームランチャーでディンを狙い撃つ。ブルデュエルに気を取られていたディンは呆気なく四散する。
 新手に驚いたもう1機のディンを、ブルデュエルが脚部に装備していたビームサーベルを抜き、切り捨てた。
 鮮やかな連携に言葉も出ないフェンに、ルミラスが話しかける。
『フェン、あなた何者ですか? 慣れない機体であそこまで戦えるなんて……』
 巻き込まれないように移動しながら、フェンは首を捻った。
「うーん、あたしも夢中だったから何がなんだか……でも、基本はダガーと同じなわけでしょ?」
『そうだとしても、あんなサーカスみたいな戦い方……これじゃ私の立場が無いじゃないですか』
 後半から小声になっていった。
「そんな事無いって」
 苦笑して言いながら、フェンにはルミラスの気持ちが何となく分かった。
 フェンも昔、妹にあや取りを教えた時、自分よりも細やかで綺麗な指捌きで糸を操る妹を見て、そんな気持ちになったものだ。
 しかし、それだと今のは自分がルミラスの妹という立場になるのだろうか。そんなずれた思考をした時、乱戦を逃れた1機のバビがこちらに向かってきた。
 ミサイルやランチャーは撃ち尽くしたのか、変形もせずにライフルを乱射しながら突っ込んでくる。自暴自棄になっているようだ。
 フェンとルミラスが別々の方向へ跳ぶ。
 ルミラスが応戦すると、バビは弾かれたように軌道を変え、反撃のビームを避けて撃ち返す。
『きゃ……!』
 直撃こそしなかったものの、ライフルを持っていた右腕を失った。
「ルミラス!」
 ライフルを構えて援護をしようとするも、銃口からは光が出ない。
「エネルギーが!?」
 呻くと同時にブースターを最大にしてバビに突撃する。それに気付いたバビが、ルミラス機に向けていたショットガンをこちらへ構え直す。
 放たれる散弾を、失った盾の代わりに両腕でガードした。
 心臓が凍るような着弾音と激しい振動。
 咄嗟に軌道をずらして被弾を減らしたものの、スローターダガーの両腕は穴だらけになって使い物にならない。加えて頭部カメラにも命中し、映像が不鮮明になった。
「こんのぉ!」
 それでも構わず、フェンはダガーの操縦を続けた。
 パイロットの無慈悲なコントロールに、懸命に従うダガーは唯一無傷な右脚でバビに蹴りを放つ。銃や光線剣で武装した最新鋭のMSが行う攻撃方法としては、おそろしく原始的だった。だが、スローターダガーにはそれを有効活用する物が装備されている。
 ダガーの想定外の動きに驚くバビは、反応できずに蹴りを真っ向から喰らった。ダガーのつま先が、バビの装甲にめり込む。
 次の瞬間、フェンはトリガースイッチを押した。
 つま先から銃撃音。その正体は対人用の12.5ミリ機関砲である。フェンがどうしても好きなれないスローターダガーの武装だったが、他に手段が無かったので、かなり無茶な動作で使用した。
 対人用とはいえ、空中戦を想定して装甲が薄くされているバビに密着状態で発射したため、内部システムに致命傷を負わせた。
 だが、フェンのダガーも無理な体勢を取ったせいで右脚も損傷し、加減無しにブースターを使用したために勢いが殺しきれず、そのまま前方の雪原に突っ込んでしまった。
「…………!」
 ショットガンの弾に当たった時よりも凄まじい衝撃に、フェンは悲鳴も上げられないまま体のあちこちに痛みを感じた。 
『フェン! 大丈夫ですか!?』
 激しい耳鳴りの中、ルミラスの声が聞こえた。
「……ああ、無事だったの? 良かった……」
『良くありません! あなたが無事ではないでしょう! ああ、もう! なんて無茶な真似を!』
 MSに乗っていなければ地団駄を踏みかねない剣幕で怒鳴るルミラス。
 通信機による声しか聞こえないが、1度だけ見た、あの童顔で眉を吊り上げる表情はなかなか見物だった。それが見えないのが残念だと、呑気な事を考える。 
『スウェン、そっちは終わったー? こっちはフェンが華麗な跳び蹴りで締めてくれたわ。救援が必要だけどね』
『やー面白いものを見せてもらった。おまえ、益々気に入ったぜ』
 残った敵は全て撤退したのか、はたまた全滅したのか。どちらにせよ終わったと、フェンは痛みの中で安堵する。
『フェン! 聞いてますか!? MSはもっとスマートに扱うべきで……』
 ミューディーの呑気な口調やシャムスの陽気な声、そして突然始まったルミラスの説教を、ようやく治まってきた耳鳴りに感じながら、フェンはふと、横になった景色の中に佇む黒い天使を見つけた。
「……ノワール」
 騒ぎの輪に加わってこない黒い天使は、日が傾き、色が変わりだした空を見つめている。その空には――この辺りの空気がそれほど汚染されていないためか――ぽつりぽつりと星が顔を覗かせ始めていた。
『星、か……』
 耳鳴りと喧騒の中で、フェンはその呟きを確かに聞いた。
  



―――――to be continue

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玉井よしあき  

Phase:03感想

最初に言っておく。
普段通りに戦えば対処できるというルミラスのセリフにわざわざ相手に合わせてやる敵なんてないと突っ込んだ私は悪い人でしょうか。

前回のミューディーに引き続き、今回はシャムスがルミラスの先輩という形で登場しています。第81独立機動群は、コーディネーターと戦うために選ばれた戦士なのに敵はともかく、味方にも知られてない理由を丁寧に説明するというのはいいです。他の私が観た範囲の二次創作ではその矛盾に対する指摘が無いので好印象です。


今回はモビルスーツ戦でザフトはバビやディンが活躍しています。それに対して連合はスローターダガーだけでなく、ファントムペインのガンダムも総動員。ファントムペインのガンダム3機は強いです。量産機との強さが巧いこと描写されています。


>>アホキン
> そんなあだ名があるんだ(汗)

ありません。
私独自のキャラクターが勝手につけたあだ名です。続けて「金剛寺」っていってたような(笑)。

>ミューディー
 彼女の性格がこれでいいかどうかは不明。
私の好き勝手な想像(いつもの事です)

この場合はスターゲイザー本編の人物業者はかーなーりおざなりなのでいいと思いますよ。漫画ではスウェンに想いを寄せてる節があったりとまだマシレベル(元がアレだからな)でした。


> よく量産機を使ってフリーダムやジャスティスやミーティアを叩きのめしておりました(笑) 

私も量産機でフリーダムとジャスティスに挑みました。タイマンでは楽ですが時間はかかれど叩きのめせますがどうしても一対二に持ち込まれやられます。

> その証拠に最近ではバスターを愛用しております……

私も現在、バスターガンダムを使用しています。

2007/12/18 (Tue) 11:43 | EDIT | REPLY |   

蓮の花  

今更ですが(汗)

 とっても遅くなりましたが、SS感想まことに感謝でございます(_ _;)

>最初に言っておく
>かーなーり

 ……“ヴぇが”に”あるたいる”の緑の人?( ̄ー ̄; )


>わざわざ相手に合わせてやる敵なんてない

 そこがミューディーに『実戦が弱い』と評価される所以です(笑)


>丁寧に説明する
 実は自分にはかなり嬉しい褒め言葉だったりします(^^)
 あまりダラダラと長い説明文を書くのもアレですが、何の説明も無しに話を進めるのも自分的にはイカンと思ったので、長く(くどく)なり過ぎないようにバランス調整をするのですが、これが中々……


>私も量産機でフリーダムとジャスティスに挑みました
>私も現在、バスターガンダムを使用しています

 ぉぉ、何だか気が合いますな(笑)
 自分以外にもこんなプレイスタイルの方がいたとは……(^^;)

 今回の話でバビやディンが登場したのも、やはり連合VSザフトで愛用しているから、ちょっと贔屓したくなったからなのですよ(笑)

 掲載された玉井さんのSS感想、もう少しお待ち下さいm(_ _;)m
  

2008/01/01 (Tue) 20:19 | EDIT | REPLY |   

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