猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

蓮の花さんの投稿SS24

『機動戦士ガンダムSEED DESTINY――“Phantom pain”』

《Phase:08――part.Ⅰ ~招かれざる客と催しの変更~》



 その日は、朝から冷え込んでいた。
 元から寒い気候の場所ではあるものの、降雪のあった前日から一夜明けた今日は、顔を洗うのにぬるま湯を所望してしまう。
「何もこんな日にやらなくたって……」
 しかも早朝から起きる羽目になったフェンとしては、模擬戦の日程を組んだ人間を恨めしく思うのは当然の権利だと主張したい。
 欠伸を噛み殺しながら、ボナパルトの格納庫を見渡すフェン。
 外が灼熱地獄だろうが極寒地獄だろうが、この地上戦艦の設備ならば快適な室内温度を保つ事だって出来るだろう。
 或いは何階層もぶち抜いた構造に問題があるのか。一応は“屋内”にいるのに、これでは日の光が受けられる外の方が幾分かマシに思える。
「格納庫じゃなくて、冷蔵庫よこんなの……」
 手摺りに氷柱でもあれば、冷凍庫と表現しているところだ。
「少尉、何か仰いましたか?」
 近くで作業していた整備要員が話しかけてくる。直前までけたたましい音が鳴り響いていたので、フェンの不平は聞こえていなかった。というよりは、フェンが騒音時を狙って文句を言っているのだ。
「……何でもない。それより、いつ終わるの?」
 鬱陶しげな視線を、目の前の機体へ向ける。
 模擬戦に備えての最終調整。
 搭乗予定者のフェンも呼び出され、コックピット周辺の整備に関するレクチャーやスローターダガーに搭乗していた際の機動パターンデータと戦闘システムの照合が必要だからだという話だったが、それにしてはほとんど放置されているような気がする。
「おまけに熱いお茶の1つで出さないわけだ」
 あてつけがましいその声も、大きな機械音に遮られた。
 新型MSに群がっている連中は、即席で選んだパイロットより手塩にかけた機械の方が大事らしい。その熱心さたるや、彼らの周辺だけ温度が違うのではと錯覚するほどだった。
 中身がドライアイスかと疑うほどの手摺りに寄りかかる。
 最新鋭機を収めた最新設備の楽園。まともな人間を排除にかかっているような冷徹な空間。その中で、フェンは1人溜息をついた。
 機種転換訓練。模擬戦までのスケジュール調整。
(ルミラスにもあの子にも会う暇が無い……)
 それが彼女の機嫌の悪さに拍車をかけていた。
 細い手摺りの上でバランス良く頬杖をつく。妹曰く『不器用な姉の器用な小技』だ。
(あっちの方は多分暖かいんだろうな。少なくともここよりは……)
 直線距離にして数百メートルも離れていない場所に思いを馳せる。既に機体の準備が終わっている模擬戦の相手は、早朝に起きる必要が無い。羨ましい事だ。
 しかしながら、フェンが考えているほど当の対戦相手であるスウェン・カル・バヤン中尉はのんびりしていたわけではない。
 規定通りの起床。規定通りの食事。規定通りの整備点検。
 全て規定通りの行動であった。
「我らがエースと期待のルーキーの一騎打ち! どっちが勝つか! さぁ張った張った」
 食堂や待機室の片隅で、そんな口上を捲し立てる者もいる。
「ひと昔前のコロッセウムじゃあるまいし……何考えてるのよ」
 憮然とした表情で、そんな彼らを睨みつけるカーチェ曹長が視界の端に映った。気のせいか、最近の彼女は少しばかり元気が無いように見える。とはいえ、それはスウェンにとって部屋の小物が多少違う位置にある程度の違和感でしかない。
 周囲の喧騒を他所に、冷ややかな瞳を持つ銀髪の青年。彼は今、その髪と対照的な色の機械兵を見上げている。
 漆黒の装甲を持つストライクノワール。
 本来の武装は既に模擬戦用の物に差し替えられている。後は開始時間を待つばかりで、整備員達も引き上げてしまった。ところが、予定時間を過ぎても一向に先方から連絡が来ない。
「……いつまで待たせるつもりだ」
「レディは待ち合わせに遅れるもんだ。気長に待とうや」
 笑い声を立てる整備兵達。
「申し訳ありませんでした。中佐の所へ行っていたので時間がかかったのです」
 絶対零度が形を得たような声は、ルミラス・カーチェ曹長のものだった。彼女も自機の整備中であったようだ。
「いや、別に曹長の事を言ったわけじゃ……」
「そうですか。それは失礼……ところで、結構長い休憩時間ですね。あっちはどうなっているのですか?」
 小さな顎で指し示した方向には、装甲が外されて内部骨格が剥き出しになったスローターダガーが放置されている。
「あれはフェンの機体ですよね? まさかあのままにしておくつもりですか?」 
 まるで噛み付くような言い方のルミラスに整備兵達は居心地が悪そうに顔を見合わせる。   
「いや、あれはオーバーホール中で、予想以上に部品の磨耗が激しくて……」
「だからあのまま放っておいたと?」
 可憐な声に険悪な靄がかかる。試験の点数が親に知られた子供ように、大の男達がたじろいだ。
 次の瞬間、吹き荒れる突風の如き罵声が叩き付けられる。
「常に装備を整えるのがあなた方の役目でしょう!? 予備機の整備を怠って負けでもしたら、第81独立機動群の恥ですよ! 大体……」
 誰かの手が肩に触れた。
 一瞬、激高した頭の温度が急激に下がる。
「その辺にしておきなよ。ルミィ」
 だが、聞こえた声の主はルミラスが期待した人物とは違っていた。
 振り返った先には、派手なメイクが特徴のミューディー・ホルクロフト少尉。  
「少尉……」  
「情けない声出さないの。フェンじゃなくてがっかりした?」 
「ち、違います! 香水の匂いに嫌気がさしただけです!」
 わざとらしく肩をすくめ、大袈裟に悲しみを表現するミューディー。
「酷い言い様ねぇ。この香水、高いのよ? あなたも女の子なんだから、こういうのに興味持ちなさいよ」
「必要ありません。戦争中の兵士がする事じゃないでしょう!」
「相変わらず真面目ね。そんなに頑固だと、フェンにだって嫌われちゃうわよ?」
 今度はルミラスがたじろぐ。
「な、何でここにフェンが出てくるんですか!?」
 血流が顔面に集中する金髪の少女を、ミューディーは微笑ましげな表情で、整備兵達は訝しく思いながら、それぞれ眺める。
 そんな彼らをやり取りをスウェンは、やはり視界の隅で捕えるだけで関心を示そうとはしない。
「照れちゃって、可愛いわね」
「いい加減にしてください!」
 ムキになって子供らしい叫び声を上げるルミラス。
 一方、別の場所で同じ台詞を言いたかったが、懸命に飲み込んだ人物もいる。それは基地の格納庫ではなく、ボナパルトの格納庫内にいるフェン・イーフウ少尉殿であった。
「すいません。もう1回だけシステムチェックのやり直しです!」
(もう1回だけって……これでもう4回目なんだけど……)
 もし、デストロイ開発に関わっていた人間がこの中にいるとすれば、連合軍に明日は無いとフェンは断言できる。
 “デストロイに匹敵する新型”とやらを開発した連中の手際の悪さにより、フェンは自分の忍耐力の限界に挑む機会を与えられていた。
 時刻は既に夕方と呼ばれる時間帯に差しかかろうとしている。
(ああ、駄目。もう限界……)
 ファントムペインに入ってから、周囲との違いに苛立ちを覚えていたフェン。内々に溜め込んだ黒い感情が泥濘となって心底にこびり付いている。彼女としては、そろそろその重さに耐えかねてきたところである。
 この辺りで1回、放出しても良いだろう。そして自室に戻り、休んだ後にあの少女の許へ行こう。
 呆気なく決心し、近くの作業員に怒鳴りつけるために息を吸う。
「――!」
 だが、フェンが声を出すのと全く同じタイミングで、けたたましい音が鳴り響いた。
「な、何だいきなり!」
 いきり立つ周囲の人間達。怒気が空転して開きかけた口をそのままにして立ち尽すフェン。
 ボナパルト内に響く音は同じ連合軍のものなので、何を示しているかは彼女にも理解できた。
「……敵襲?」
  
 

 ベッドから起き上がった少女は、鳴り響く警報とドアの外から聞こえる慌しい足音と声に、胸騒ぎを抱えていた。
 危機感を煽る音を発する警報は少女に充分以上に作用する。
 何か、良くないものが来る。少女の心に、恐怖が徐々に染み渡っていく。乾いた砂漠が水を吸い込んでいくかのように。
「お……かあさん……」
 震える声が喉から絞り出る。しかし、脳裏に浮かんだ面影は、何故かあの黒髪の女だった。
「どうして……」
 納得し難い表情で、シーツを握る指に力が込められた。

 
  
 フェンが己の忍耐力の限界に挑んでいる間に、いつしか空の色は変わっていた。
 血が混じったような色の空。その冷気を切り裂いて飛ぶ鉄の巨人。それに付き従う鉄の猟犬達。
 前者はザフト軍MS『ザクウォーリア』で、後者は地上用MS『バクゥ』
 ザクは、砲撃戦用装備“ガナーウィザード”を装着し、グールと呼ばれる飛行補助ユニットに乗っていた。バクゥ部隊はその後ろについて来ている。
 白い大地の上を進みながら、彼らは銃殺刑の兵列のように大砲を構える。
「目標の基地を補足……撃て!」
 小隊長の合図と共にザクの大砲から大出力のビームが、バクゥが背負う多層ランチャーからミサイルが放たれた。ほとんど同時に、基地側もミサイルや機銃掃射で招かれざる客を歓迎する。爆発音と共に基地の数箇所で黒煙が上がり、数機のザクとバクゥが直撃を受けて脱落した。
『MSは全機出撃! コーディネーターの連中を生かして帰すな!』
 奇襲を受ける形となった第81独立機動群だが、ほとんど混乱する事なく、各部署は落ち着いて対応を始めていた。彼らがこなしてきた過酷な訓練は伊達ではない。
 ルミラス・カーチェもまた、迫る脅威に毅然とした態度で立ち向かおうとしていた。否、本人はそのつもりだったが、周囲から見てそれが虚勢である事は明らかであった。
「大丈夫?」
 パイロットスーツに身を固めたルミラスの肩に、再びミューディーの手が置かれる。
「……はい」
 ぎこちない声。
 敵が基地に直接襲撃してきた例はこれまでに無い。慣れない状況に緊張しているようだ。
 フェンが近くにいれば空元気にせよ、もう少し気丈に振舞う事もできたろうかとミューディーは思う。
「おい、2人とも何してんだよ。早く行くぞ」
 シャムス・コーザに急かされ、2人は各々の愛機へと足を向けた。
 爆発による振動が足元と機器を揺さ振る。
 実態を伴った死が、彼らのすぐ近くへと迫っていた。
「コーディネーター……私達の敵」
 スローターダガーのコックピットに小柄な体を滑り込ませ、機体の起動準備をしながらルミラスは呟く。
 幼い頃から当然のように叩き込まれた反コーディネーター意識。自分達は空の悪魔と戦うために選ばれた戦士なのだと教えられ、それが当然だとこれまでは思っていた。
 苦々しい感情が少女の口元を歪める。その脳裏には医務室にいるあの少女とフェンの言葉。
 自分が正しいと思ってやった事が、フェンとの間に壁を作ってしまう結果を生んだ。それが彼女の意識にブレーキをかけるのだ。
『ミューディー・ホルクロフト。ブルデュエル、発進準備良し』
『同じくシャムス・コーザ。ヴェルデバスター、発進できるぜ』 
 通信機の声に意識を引き戻され、頭を振って余計な考えを追い出す。
(いけない。こんな事じゃ)
 今は目の前の事に集中しなくてはならない。
 フェンが言っていたようにコーディネーター全てが悪者で無かったとしても、この基地に攻撃している連中はその限りでは無いはずだ。
「ルミラス・カーチェ。発進準備できました」
 スウェン・カル・バヤン中尉のストライクノワールは演習用の装備になっていたため、すぐ出撃する事は出来ない。
 そこで、ふとルミラスは気付く。
「……フェンは?」
 彼女は今、ボナパルトにいる。それは分かっているのだが、フェンの乗機は装甲が剥がされた状態のままだ。今回は出撃を見合わせるしかないのか。ルミラスにとっては、彼女が同じ戦場に立たない事に安堵を覚えると同時に、小さくない不安を抱える事になった。
 一方でボナパルト内ではフェンが格納庫の端末で基地と連絡を取っていた。
『何度言われても同じだ。君のダガーは出撃できる状態じゃない。新型を使え』
「無茶な事言わないで下さい! まだまともに動かしてないんですよ!?」
 突然の襲撃に周囲の人間達が二十日鼠の如くうるさく動き回っているので、怒鳴り声を上げないとこちらの声が届かない。
『シミュレーターで基本操作は分かっているだろう。今は機体を選んでいられる状況じゃない。命令だ少尉』
 冷徹な、或いは無責任な命令にフェンが従ったのは、他にMSが残っていない事と、基地内にいる少女の事を思い出したからだ。
 爆音と震動をBGMにパイロットスーツに着替えながら、あの少女は大丈夫だろうかと焦燥感を抱く。こんな事で、約束を果たせるのか。
「メイ、大丈夫だよね?」
 遠く離れている妹に語りかける。他人から見れば無意味な問いかけでしかないだろうが、フェンにとっては幸運のおまじないだ。
「イーフウ少尉、基地のMS隊が出撃したようです。こうなれば実戦でコイツの性能を確かめて下さい!」
 若い技術者が激励する。
 フェンは胸中で肩をすくめる。真面目で真摯な態度は結構だが、ぶっつけ本番で得体の知れない兵器を動かさなくてならない人間の気持ちも少しは察して欲しいものだ。
「ありがと。精一杯の事はやってみる」
 一応は答えてから、フェンはMSへ向けて歩き出した。

 
 
 外に出た瞬間、ルミラスの鼓膜をけたたましい警告音が叩く。 
 2発のミサイルが無機質な殺意と共に彼女のダガーへ向かってくる。
 自動迎撃システムが作動し、ダガーの頭部に装備された砲門から銃弾が吐き出された。 
 1発目のミサイルが銃弾を浴びて爆発。その破片に接触し、2発目も四散する。
 愛機をすぐにその場から移動させるルミラス。直後、ダガーが立っていた場所に砕け散ったミサイルの破片が降り注いだ。
『敵はグールに乗ったザクタイプが5……いや7。バクゥタイプが6。更にその背後から増援を確認!』
 オペレーターの戦況報告に、ルミラスは発汗量の増加を自覚する。
 怖くはない。実戦など何度も経験してきた。今更恐怖など感じてどうする。
 胸につかえている何かを忘れるように、乱暴な手付きで操縦桿を握り直す。
 警告音が敵の接近を知らせる。左腕に装備した盾を構え、姿勢を低くする。直上をグールに乗ったザクが過ぎていった。別の味方に狙いを定めているのか、こちらには気付いていないようだ。
 ビームライフルで照準を定める。すると、向こうも気付いて機首をこちらに向けようとした。だが、こちらを対空砲座か何かを勘違いしていたのか。動きが鈍い。
「これで1機目!」
 命中を確信し、トリガースイッチを押す。
 銃口から放たれた光の矢は、無情にも僅かに狙いを逸れてしまう。   
「……く!」
 呻きつつ、反撃を予測して回避運動に入った。必殺であるべき一撃を外してしまったため、こちらの位置が相手に知れている。
 エールストライカーを装備したスローターダガーとザクウォーリアの場合ならば前者の機動性が勝るが、飛行補助ユニットの恩恵により、立場は逆転していた。
 照準を定めようとする敵の射線を掻い潜り、ブースター出力を上げて急上昇。
 補助ユニットに乗った状態であるため、上下の動きを捉えきれないザク。今度こそはと銃口を向けるルミラスのダガー。ところが、いつの間にか下から狙っていたバクゥが背中のミサイルランチャーを発射。直撃ではなかったが、至近の爆発で機体が失速してしまう。
(……やられる!)
 思わず目を閉じるルミラス。
 しかし、響き渡った爆発音は自分の機体が発したわけではなかった。
「あ……」
 グールが炎と煙を上げ、ザクを乗せたまま岩塊に突っ込んだ。バクゥは素早くその場から離脱していく。
 姿勢を整えて着地すると、通信機から陽気な声が聞こえてきた。
『何焦った動きしてんだよ。味方に撃たれても知らねぇぞ?』
「コーザ中尉……」
『後で奢ってもらうからな。お、またおいでなすった!』
 警告音。
 複数のグールが単眼の巨人を乗せて飛来した。
(落ち着いて……しっかりしなさいルミラス)
 自身に言い聞かせ、今度はすぐに回避運動が取れるような位置をキープする。
『そらよ!』
 シャムスの操るヴェルデバスターの両肩から無数のミサイルが放たれた。
 煙で螺旋模様を描きながら、次々と獲物を捉える機械の弓矢達。
 胸部にミサイルを受け、大きく仰け反りながら胴体が引き千切られるザク。
 羽を折られ、水平を保てないグールがザクを振り落とす。すぐにバーニアで姿勢制御し、安全に着地したものの、ルミラスが狙いすまして放ったビームに貫かれ、上半身が爆発した。
 ヴェルデバスターが肩のビームキャノンで続け様に2機を撃ち落すと、地上に降りていた1機のザクがビームトマホークを振りかざして向かってきた。砲撃戦の機体には接近戦が有効なのは確かだが、この時ばかりはザクのパイロットは判断を誤った。
『甘いんだよ!』
 機体を滑るように横へ移動させ、ザクのトマホークによる斬撃から逃れると、ヴェルデバスターは腰溜めに構えていたライフルから銃剣を展開。コックピットを貫かれ、ザクは動きを止める。
 だが、その一連の動作が隙となり、バクゥがレールキャノンで狙いを定めた。その砲口から弾丸が発射される寸前、横合いから突き刺さったビームが鉄の獣を絶命させた。
『お、サンキュ。ルミラス、助かったぜ』
「いいえ……」 
 普段から疎ましく思っている人間から気持ちの良い礼を言われ、戸惑うルミラス。
『援護してくれたのは初めてだな。珍しい事もあるもんだ』
「……私語をしている暇があるなら敵の迎撃を!」
『分かってる。ここらの敵は俺がやる。ルミラス、おまえはB区画に行ってミューディーを援護してやれ』
「りょ、了解」
 これまでの彼からは想像できない真面目な声に、ルミラスは弾かれたようにその場を離れた。
『そら、獲物の独り占めと行きますか!』
 遠ざかるヴェルデバスターからそのように聞こえた時、ほんの少しシャムスを見直していたルミラスはすぐ後悔した。
 だが、お説教するために戻るわけにも行かず、そのまま指示された場所へスローターダガーを飛ばす。警戒を怠らず、常に計器に目を光らせていると前方に無防備に立ち尽す巨人がいた。
 既に旧式化しつつあるザフトの量産型MS“ジン”が大型のビームランチャーを構え、基地の中央に鎮座しているボナパルトに狙いを定めていた。
「させない!」
 移動速度を落とさず、ルミラスのダガーはビームサーベルを抜き放つ。
 ジンがこちらに気付いて頭部を向けようとしたところを、脇を通り過ぎるように光の剣で胴を薙いだ。ルミラスを知る人間が見れば、その手際の良さに驚いただろう。
(やっぱり、狙いはボナパルトだわ) 
 以前、自分とフェンとで哨戒任務に出た時に敵部隊に接触したが、あの時既にこの基地の場所が特定されていたのだろうか。そこへ連合軍の切り札とも言えるデストロイを搭載した戦艦がいる。
(だから今になってここに攻めてきたの? でも、だったら……)
 コーディネーター達はデストロイの情報も掴んでいる事になる。
 そこまで考えて、ルミラスは苦々しい怒りを感じた。最終兵器にしては、情報管理が杜撰と言わざるを得ない。
(本当にこの戦争に勝つ気があるの?)
 だが、フェンの思考はそこまでだった。MSのものと思わしき爆発を前方に3つ確認する。
 味方機の識別信号を拾った。
 反応は3。内2機がスローターダガーで、残る1機はブルデュエルだ。
 ルミラスが駆けつけると、ミューディーのブルデュエルがビームサーベルでジンを両断したところだった。
『ルミィ、ちょうど良かった。こいつら、ボナパルトに攻撃するつもりだわ。手伝って』
「了解!」
 ボナパルトには今、フェンが乗っているはずだ。 
  


 近くで爆発が起きた気がする。
 激しい震動が、棚にある薬品類を床にばら撒いた。
「ひ……!」
 溜まらず、少女は身を屈めた。
 また爆発。今度は棚自体が倒れる。
 甲高い音はガラス戸が割れたのか、或いは自分の悲鳴か。それを確認する事すら今の少女には出来なかった。
 脳裏に蘇る光景。
 薙ぎ倒されるテント。
 血飛沫と肉片と化す周囲の人間。
 それらを生み出した黒い鉄巨人。
「やだ……」
 こんな所にいたら死んでしまう。
 次の爆発は少し遠かったが、少女に決心させるには充分だった。
 倒れた棚を乗り越え、医務室のドアに飛びつく。この向こうに行けば、きっと死なないで済むはずだ。錯乱気味の少女は、もどかしい手付きでドアを開け放った。
 
 
 
 ルミラスが放ったビームはジンには命中せず、ジンが持っていたバズーカを撃ち抜いた。
「……ち!」
 ルミラスの舌打ちにミューディーの声が重なる。
『武器を壊したなら上出来よ!』
 目の前にジンが背後から両断された。灰色のジンの向こうから現れたのは、青の装甲を持つブルデュエル。
 デュエルは素早く振り向き、そのまま背後から切りかかろうとしていたジンを、その手に持った実剣ごとビームサーベルで切り裂いた。
 ルミラスは仲間のスローターダガーの残骸を一瞥する。
「他の人は大丈夫でしょうか?」
『仲間の心配なんて珍しいわね。それは後で確認するしかないわ。とりあえずルミィ……』
「はい?」
『援護しなさい!』
 そう言い放ってブースターを全開にし、新たに出現した3機のザクへ突撃していくミューディー。
「少尉!」
 呼び止める声よりも早く、体が反応していた。
 ブルデュエルに当てないようにビームライフルを3連射。射撃を終えるとすぐにその場を離脱する。
 3機のザクは散開しようとしたが、両手のビームガンを連射しながら突進してくるブルデュエルにペースを崩される。
 光の雨から逃れた1機が体勢を立て直そうと踏みとどまった時、ルミラスのダガーが放ったビームがその右脚を奪う。
 2発目を撃ってとどめを刺し、ルミラスは他の敵機に意識を向けた。援護のためにライフルを構えるが、すぐにその必要は無いと感じる。
 激しいダンスのような動きでザクを翻弄するブルデュエル。予測できない動きにザクが対応する前に懐に飛び込んでサーベルによる斬撃を見舞う。
 上半身と下半身が永遠の別れを告げ、それを看取る事なくブルデュエルは肩のラックからナイフを取り出して真横に扇状に放つ。
 直後、その射線に着地する羽目になったザクに1本が命中。
 小さな爆発を起こし、ザクは小破。連射されるビームガンに息の根を止められた。
 フェンといい彼女といい、どうして機械の巨人をここまで動かす事ができるのか、ルミラスは不思議で仕方が無かった。だが、それを当人に聞いている余裕は無い。
 センサーが多数の機影を捉える。
「増援……」
『アイツら、やる気満々ね』
 新手が一斉に重火器による演奏を開始した。
 付近の岩塊を盾にやり過ごす2人。その脇を、吹き飛ばされた味方のダガーの腕が通り過ぎた。
『ちょっと不味いかな……』
 普段から飄々とした態度のミューディーの声に、焦りのような成分が混じる。
 このまま数に任せて攻められれば、いくらファントムペインとて持ち堪えられないし、ボナパルトの護衛もままならない。既にボナパルト自身も数度に渡り被弾している。大型戦艦だけあってMSの火器程度では簡単に沈まないだろうが、ダメージが蓄積すれば話は別だ。
 第81独立機動群たる自分達が、ここまできてコーディネーターに敗北するのか。ルミラスは悔しさで唇を噛む。
 その時、すぐ近くまで迫っていたザフトのMS群が色めき立ち、次々と爆発していった。
『どうやら、まだ終わりじゃないみたいよ。ルミィ』
「え……」
 計器が新たな味方の識別信号を捕らえる。
 GAT-X105Eという型式番号が表示された。それは間違いなく、スウェン・カル・バヤン中尉が駆る漆黒の天使、ストライクノワールのものである。
 ザフト部隊の頭上に現れたノワールは、まるでダンスでも踊るように、火線を掻い潜りながら次から次へとMSを撃破していく。
 ビームガンから連射される光の矢は、1弾の例外もなく標的に命中した。
 着地と同時に、背部の大型ブレードでジンを切り伏せる。そこへ背後からビームを撃ち込もうとするザク。しかし、ノワールはその場から突然宙返りし、左手からワイヤーアンカーを射出。ザクの腕を絡め取った。MSの重量を支える事の出来る強化ワイヤーとノワールの高出力スラスターに生み出される推力で引き摺られる鉄の巨人。
 仲間を助けようと、2機のバクゥが黒い天使に向けてミサイルを放った。
 何を思ったか、そのまま強引に着地するノワール。ザクは慣性がついてその場に倒れる。ノワールに迫る複数のミサイル。
 次の瞬間、ノワールはワイヤーで繋がった状態のザクを、まるでハンマー投げの要領で投げ飛ばした。
 味方が撃ったミサイルの射線上に放り出されたザクの運命は決まった。
 頭上で起こる爆発。常識外れの戦法を取るノワールに、周囲の敵MSも恐れを成したように近づけない。
「すごい……」
 一方、ルミラスも自分の立場も状況も忘れ、その光景に魅入った。スウェンの腕は知っているつもりだったが、これほどの事を平然とやってのけるとはさすがに思わなかった。
『ルミィ、ぼうっとしてるんじゃない!』
 ミューディーの叱咤にルミラスは我に帰る。
 気付けば、自分達のところへ敵MSの反応が複数近付いていた。 
 



―――――to be continue

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