猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

蓮の花さんの投稿SS27

『機動戦士ガンダムSEED DESTINY――“Phantom pain”』

《Phase:09――part.Ⅱ ~オモイノカタチ~》



 ルミラスは憮然とした面持ちで食堂の片隅を眺める。視線の先にあるのは、何やら楽しげに会話しながら食事を取るフェンのハルカの姿。
「ああしてるとこ見ると、仲の良い姉妹みたいだな」
 多少遊びの入った口調で言うのは、たまたまルミラスの後ろを通りかかったシャムスである。
「そうでしょうか?」
 対するルミラスの返答は不機嫌な感情そのものだった。
 一瞬、彼女のフェンに対する執着振りが噂になった一件を思い出し、からかってみようかと考えたが。
(ミューディーじゃあるまいし……)
 その場を去ろうとして肩越しにルミラスを一瞥する。少女の青い瞳には、どことなく嫉妬めいた炎が燻っているようにも見えた。迂闊に煽って自分にも被害が及ぶのは御免である。
(そういや……)
 ふと、過去の例を思い返す。
 食堂でのルミラスと言えば、食事が終われば大体の場合は読書を始め、周りを気にする素振りなど欠片も見せなかったはずだ。
(変わったな。アイツ……)
 それも今ルミラスが視線を送っている、あの黒髪の婦人士官の影響なのだろうか。それが良い事なのか、そうでないのか。シャムスには分からない。
 シャムスが背後で思考を転がしている事など知る由もなく、ルミラスは心の中に雑草が茂るような気分を味わっていた。
(何なのよ……) 
 最初の頃はフェンに対しても対弾装甲並に硬い壁を作っていたというのに、今では正反対の有様だ。その懐きぶりたるや、2人の体に磁石でも入っているのかというくらい常に一緒に行動している。シャムスが姉妹に例えるのはそういう理由もあった。
(そりゃ、助けてもらった感謝の気持ちっていうのも分かるけど) 
 むしろ、フェンにあそこまで世話を焼かせて態度が変わらなかった場合、ルミラスも黙ってはいない。だが、それにしたってあんな急に豹変できるものだろうか。
「かくして、団欒の場であるはずの食堂で少女は嫉妬の炎を燃え上がらせるのであった」
「ホルクロフト少尉、何か御用ですか」
 背後の声に座ったまま振り返るルミラス。その視線の先でミューディーが肩をすくめた。
「そんな険悪な目で見ないでよ」
「そのようなつもりはありません」
「相席は勧められなかったわけ?」
「お断りしました。私はお邪魔のようですから……って、少尉! 何が可笑しいんですか!」
 急に笑い出したミューディーに、ルミラスは食って掛かった。
「あはは……本当、あなた変わったわ」
「……は?」
「前より面白くなった」
 褒め言葉よ、と付け加えるミューディーに対し、何か言い返そうとルミラスが口を開きかけた時であった。
『イーフウ少尉、ホアキン中佐がお呼びです』 
 ルミラスの視線の先で、呼ばれた当人は不機嫌そうに眉をひそめていた。口が動いて何やらぼやいているのが見える。大方、憩いの場を邪魔された事に不平を鳴らしているのだろう。読唇術は使えなくとも、ルミラスにもそれくらいは分かる。
「あらあら、2人っきりの時間を邪魔されて機嫌が悪そうね」
「……そうですね」 
 珍しく、ミューディーとルミラスの意見が一致した。
「にしてもフェンってよく呼び出されるわね」
「例の新型の件ではないですか?」
 ワイバーンを実戦に投入したために受けた損傷は深刻とは言わないまでも、修復に時間を取られる状態であり、実戦データを基にしたシミュレーションの進行も芳しくない。
 傷付いた基地やボナパルトの修復、護衛部隊の編成、輸送ルートの確保等で多忙なホアキン中佐が、わざわざフェンを呼び出す理由と言えば他に思い当たらない。
 ところが15分後、2人の予想は裏切られた。
「一体どういう事なの!? ルミラス!!」
 怒鳴り声に近い大きさで呼ばれ、金髪の少女は一瞬だけ体を震わせてフェンを見る。
「な、何ですかフェン……」
 鬼のような形相で襟元を掴まれ、声が出せないでいるルミラス。そんな彼女を救ったのは横合いから伸びた手だった。
「はい、ストップ」
 はっきりとした声で制止が入った。
「……何よ、ミューディー」
 内包した怒気を表情に漲らせてフェン。
 ミューディーはどこか呆れたような、憂うような視線で2人を眺める。
「とりあえず、怒ってるのは分かったからさ。フェン、ちょっと場所を移さない?」
 シャドーに彩られた目配せで注意を促すと、ようやくフェンは周囲の目に気付いた。他の兵士達の、驚愕と不審の視線。そして何よりハルカの怯えたような、或いは悲しそうな顔が視界に入ってしまった。
「……分かった」
 渋々といった呈で手を離すと、ルミラスを整えながら呻く。
「いきなり、何ですか」
「ハルカちゃんの事について。中佐から興味深い話を聞いたわ」
 そう言うフェンの瞳は、一切の妥協やはぐらかしを許さない断罪者のようだった。



 フェンを呼び出したホアキン中佐は開口一番にこう言ったのである。
「訓練はいつから始めるつもりだ?」
 質問の意味が飲み込めず、フェンは眉をひそめる。
「もう基地にも慣れてきたのだろう? 怪我も完治したのだし、そろそろ君のプランを聞かせてくれたまえ」
 だが、フェンの反応を他所に中佐は話を進めていく。
 何やらこちらに話を促しているようなのだが、一体何を答えて欲しいのだろうか。
「どうした、イーフウ少尉」
「あの……中佐殿。自分には中佐が何を仰りたいのか……」
 突然何を言い出すのかとフェンは目で語ったが、中佐の厳しい眼光も同様の事を語っていた。
「何を惚けている。君が保護した少女だ。そもそも、我が部隊の候補生とするために保護したのだろう? 将来的にはデストロイのパイロット候補として……」
「な……!」
 あまりに急な話に、フェンは眩暈を覚える。だが下半身の筋力を総動員して姿勢を保つと、たった今聞いた事を脳内で整理した。
「あの子をデストロイに? そんな馬鹿な話……」  
「馬鹿な話? 私はカーチェ曹長からそのように聞いているのだが?」



「……で、そのまま飛び出してルミィの所に来たわけね?」
 ロッカールームに場所を移し、向かい合うフェンとルミラス。そして1歩引いた位置からは、ミューディーが2人を眺めている。
「あたしはそんな話、全然聞いてないよ」
 咎めるような口調と目つき。それだけで相手の皮膚を傷つけられそうだった。
 棘のようなフェンの視線を受けきれず、ルミラスは顔を背けている。それは今のフェンに対する恐れだけでなく、後ろめたさも伴っている事をミューディーは察した。
「……あなた、あの子を戦わせるつもりなの?」
 何も答えないルミラスに痺れを切らし、フェンは低い声で詰問する。
 ハルカをファントムペインに引き入れる。それは、彼女を被害者から加害者の立場に立たせる事になる。
「ルミラス、これって質の悪い冗談だよね?」
 フェンが乾いた笑いと共に訊いてきた。
 彼女らしくない陰気な笑みは、最終警告なのだろう。この後、ルミラスが答えれば厳しい糾弾の言葉が突きつけられるに違いない。
 ルミラスの胸中に絶望が波紋となって拡がって行く。いずれは知られると思っていたが、まさかあのハルカとかいう少女にあれほど入れ込むなど予想できなかった。
(つまり私は……フェンにとって2度目の裏切りをしたわけですか)
 1度目はキャンプ地での出来事。
 しかし今回は状況が違う。フェンとルミラス、1対1の問題である。 
 今度こそ許してもらえないであろう。
 観念の吐息を吐き出した後、ルミラスは平静に努めた声で答えた。
「……私が冗談を言う性格に見えますか?」
 嘘でも否定の言葉を期待していたフェンだったが、そのひと言で心の中の何かがひび割れた。
 手足が震え、口内が乾く。
 目の前にいるのは、本当にあのルミラスなのか。何か別の生き物が彼女の振りをしているだけではないのか。
「あの少女は我々と共にボナパルトへ同乗します」
「ルミラス……あなた……!」
 言いかけたフェンの言葉を遮り、ルミラスは続けた。 
「同艦にて適正検査の後、正式な候補生として……」
「ふざけないで!」
 力いっぱいに胸倉を掴み、拳を振り上げた。
「フェン……!」
 止めようとするミューディーだが、彼女の位置からでは間に合わない。ルミラスの方は覚悟していたように目をきつく閉じた。
 だが、いつまで経っても痛みや衝撃が来ない。
 訝しく思って瞼を開けるとフェンが振り上げた腕を、小さな腕が押さえている。いや、その腕の持ち主とフェンの身長差を考えると“ぶらさがっている”という表現の方が近かった。
 フェンは驚きを隠せない表情で妨害者の名を呟いた。
「ハルカちゃん……どうして」 
 腕を押さえるハルカの力は弱く、簡単に振り解ける。だが、必死の懇願を込めたハルカの眼差しはフェンの動きを止めるには充分であった。
「お姉ちゃん、やめて」
「でも! ルミラスはあなたを……!」
「……知ってたよ」
 フェンの言葉を遮るように発せられた、躊躇いがちなひと言。
「え!?」 
 驚いたのは、フェンではなくルミラスの方だった。 
 フェンも声を上げる事も忘れ、呆然とハルカを見ている。彼女の力が緩んだのを見計らってハルカは押さえていた腕を解いた。
 しばしの沈黙。
「どういう事なの?」
 問いかけたのはフェンでもルミラスでもなく、静かに3人を見守っていたミューディーだった。
 ハルカはおずおずと口を開く。
「……まだ医務室にいた時ね。偉い軍人さんが来て、あたしにそういう話をしてきたの」
 ホアキン中佐だ、とハルカ以外の3者は直感する。
『カーチェ曹長から聞いている。将来有望だそうだな』
 中佐はハルカに対してそう言ったという。
 最初は何の事か分からなかった。
 しかしその後の口振りから、どうやらこの軍人は自分を仲間に入れようとしているらしい事を悟る。
『コーディネーターにさらわれ、虐待を受けていた少女が自ら武器を取って立ち上がる……広報課が飛びつきそうなエピソードだな』
 言っている意味は分からない。ただ、こちらを髪の毛1本から足の爪先まで値踏みするように眺める軍人が不気味で仕方が無かった。
 ホアキン中佐がハルカに直接会っていたという事実にフェンはショックを受け、ルミラスは驚き、ミューディーは意外に思う。
(そんな素振り、全然見せなかったのに……)
 今の今まで気付けずにいた自分に、フェンは腹立たしさを覚える。 
「……最初、お姉ちゃんはそのためにあたしを連れてきたんだって思ったけど」
 フェンを見て、一瞬だけ微笑む。それは彼女に対する信頼を表す行為だった。
「お姉ちゃんと色々話して、この人はそんな事しないって分かったの」
 自分の事を守るだとか、妹の友達になって欲しいだとか、真顔で言ってたフェン。口下手なところはあるが、こっちが恥ずかしくなるくらいの正直者なのだと理解し、ハルカはフェンに心を許すようになった。
 ならば、カーチェ曹長とかいう人物が言い出したのだろうという結論に落ち着いたのである。
 ハルカと目が合い、ルミラスは後ろめたい表情を浮かべながら視線を反らす。
「どうして……?」
 フェンはルミラスを見据えて、静かに問いかける。
 金髪の少女は躊躇いがちに口を開いた。
「黙っていて申し訳ありませんでした」
 そして反らしていた視線をフェンに向け、どこか哀しげな光を宿す。
「……どの道、中佐はその少女を第81独立機動群の候補生にするつもりだったでしょう」
 救出された少女は即刻、専門の養成施設に送り込まれ、かつて自分達に課せられた過酷な訓練メニューに晒される。
 そこでルミラスはフェンが保護下に置いて教育するという、少々強引な理由付けを行う事で少女を基地に留め置いた。
「中佐を説得するには、それが1番確実な方法だったのです……あなたは自覚していないかもしれませんが、ハルカを助けた時のあなたは……」
 そこで口をつぐむルミラスを訝しく見つめるフェンの隣で、ミューディーが引き継ぐように繋いだ。
「その子を連れてきたばかりのあなた、見てられなかったのよ」
 何かに取り憑かれたようにハルカを気にするフェンは、まるで最後の命綱にしがみついているようにも見え、今あの少女をフェンから引き離せば、彼女がどうなってしまうか分からないとルミラスは危機感を覚えたのだ。
「フェン、私は言い訳をするつもりはありません。ですが、あなたのために出来る事が他に方法が思いつきませんでした」
 観念したように頭を下げるルミラス。
 そんな彼女を見下ろし、フェンは言われた言葉を反芻する。
(あたしの……ため?)
 脳裏に浮かんだのは妹からの手紙の文面。
『お姉ちゃんの事を心配している人がいるはずです。その人が何かを言っても、お姉ちゃんは煩わしいと感じるだけかもしれません』
 だが、そのように自分を気遣ってくれる人間の存在が、すごく貴重なのだという事を忘れないで欲しい――やはり妹は姉の性格をよく把握していた。
「お姉ちゃん」
 軍服の裾を引かれてフェンがそちらを見ると、ハルカが懇願を込めた瞳をしていた。
「ルミラスさんの事、叱らないであげて?」
「……どうして?」
 フェンが問いかける傍らで、ルミラスは思いもよらない人物に庇われて驚きを隠せない。
「ハルカちゃんは嫌じゃないの? 兵隊になるって事は……」
「嫌だったよ」 
 台詞とは裏腹にハルカは笑っていた。屈託の無い、何の打算も皮肉もない笑み。
「さっきも言ったでしょ? お姉ちゃんがあの青いMSであたしを助けてくれた時、すごくカッコイイって思ったの」
 コックピットの中で怯える自分に笑いかけてくれたフェンを見て、少女は思った。

 ――こんな風に強くなる事が出来れば、きっと大切な人が守れるはずだ――

「……だからね。今は嫌じゃないよ。それに」
 ほんの少しはにかんで言葉を繋ぐ。
「お姉ちゃんの側にいたいから」 
「それが……理由?」
 呆れ、それでいて少し照れた表情のフェン。そんな彼女の顔を覗き込むハルカの瞳は純粋さで眩しかった。
「あたしにとっては、大事な事だよ?」
 それはかつて、フェンがハルカの問いに対して言った答えでもある。 
「あ……」
 フェンは今更のように、ハルカが天涯孤独だという事実を思い出す。そんなハルカに自分は何をしてやれるのだろうと悩んでいたフェンは、意外なところで答えを見つけてしまった。
「あたし、平気だよ? 運動には自信あるし。だからルミラスさんの事、許してあげて?」
 無邪気に力こぶしなど作ってみせるハルカ。そんな少女にフェンが何も言えなくなった時、再びスピーカーから自分の名前が呼ばれた。
『イーフウ少尉。ボナパルト第2格納庫までお越し下さい』
 大事なところを邪魔する声の発生源を睨みつけるフェンは、そこでミューディーの姿が無い事に気付いた。ハルカの登場で自分がいなくとも大丈夫だと判断したのか。或いは気を利かせたつもりか。
「お姉ちゃん、行って? お仕事でしょ?」
 後は任せてと表情で語るハルカ。それがフェンには頼もしく思えた。
 
  

「あなた、あの子の事どうするの?」
 ロッカールームから出ると、入り口の横で腕を組んで壁に寄りかかっていたミューディーが呼び止めた。
「聞いてたの?」
「誤解しないでね。盗み聞きじゃないわよ?」
 自分は視界にいない方が良いと思い、離れた位置に移動しただけだと悪びれずに言い張る。
「どうするって、何を?」
「分かってるくせに……」
 様々な感情が入り混じって気持ちを整理できないフェンに、ミューディーはわざとらしい口調で説明した。
「ハルカって子。ファントムペインに入れるつもり?」
「まさか」
「でも、本人はその気でしょ? 第一、中佐がもう決めてるはずよ。今更拒否なんかしたら強制執行ね」
「強制執行?」
 それはハルカ本人の意思を無視し、すぐさま特殊施設に収容して検査の後に訓練と、洗脳教育が行われる事を意味する。
 ミューディーの話を聞き、フェンの顔が険しくなる。それは嘔吐感を堪えるのに似ていた。
「あなたが身柄を預かるって話だけど、いつまでもそのままにしとけないでしょう?」
 ハルカの適正の有無をフェンが判断する事もできる。だが、もし適正無しとした場合、ハルカはどこか知らない土地の施設に送られてしまう。
 フェンの側にいたいと言ったハルカの言葉に嘘偽りは無かったし、フェン自身もハルカと離れるのを拒む気持ちがある。
 しかし、このままファントムペインに入れれば、間違いなくハルカは被害者から加害者の立場になってしまう。それだけは絶対にさせてはならないと思った。
「まぁ先延ばしにできる問題じゃないけど、多少は時間も残ってるしね。それまでに決めときなさい。後、もう1つ聞いていい?」
「……何?」
「ルミィの事はどう思ってる?」
 その方が大事な用件だとばかりに、ミューディーは1歩踏み出して聞いてくる。
「どうっていうか……」
 今の自分がルミラスに対してどういう感情を持っているか。自分でもよく分からない。ミューディーの態度にはいい加減な答えを許さない雰囲気があり、フェンはどうにか自分の気持ちを言葉に置き換える。
「ルミラスがあたしに黙って中佐に話をしたっていうのは、許せそうにないよ。キャンプ地での事もね」
 例え彼女の行動が自分やハルカのためのものであっても、ハルカをこれ以上この組織に関わらせたくないフェンとしては当然の気持ちだった。
「でも、あの娘があたしの事考えてくれてたって分かって、ちょっと嬉しかったかな」
「……何それ?」
 心底呆れた表情を浮かべるミューディーに、フェンは苦笑しながら答える。
「自分でもよく分からない。確かにルミラスがやった事を全部許そうとは思わないけど、同時に感謝もしてるんだよ」
 思い返せばハルカの面倒を見る事ばかり考え、自分を心配してくれるルミラスに散々な事を言っていた。だが、それでも彼女は自分の事を見放さないでくれていたのだ。
「1番嬉しいのは、やっぱり根は優しい女の子なんだって分かった事」
「……真面目過ぎて手に負えないけどね」 
 ロッカールームまでは聞こえないように、小さく笑う2人。フェン自身は忘れているが、彼女は当初ミューディーを初めとするファントムペインの人間とは絶対にそりが合わないと考えていた。それがこんな風に一緒に笑い合えるのは、彼女自身が変わった証拠でもある。
「要するに、フェンはルミラスがやった事は許さない。でも嫌いになったわけじゃないと」
「そんな感じだよ。ルミラスの事は大好き。出来ればこれからも一緒にいたいと思ってる」
 嘘偽りの無い笑みを浮かべ、背を向けて歩き出す。
「じゃあ、もう行くね?」
「ああ、ごめんなさいね。呼び止めたりして」
 軽く手を上げて去っていくフェンを見送り、ミューディーはロッカールームの入り口を一瞥した後、
「……後は出る幕無し、か」
 と呟いてフェンと反対方向へと歩み去って行った。
 


 残された2人の少女は、無言のまま長椅子に並んで座っていたが、やがてルミラスの方が口を開いた。
「……まさか、あなたに庇われるとは思いませんでした」
「お姉ちゃんが人を殴るところなんて見たくなかったから」
 腰掛けた姿勢のまま足を揺らし、ハルカ。
 またしばらく無言の時間が続く。
 躊躇いながら、ルミラスが呟いた。
「私の事、恨んでいないのですか?」
「どうして?」
「この部隊に入る件です。あなたやフェンに何の断りも無しに……」
「もういいよ」
 ルミラスの台詞を遮り、ハルカは立ち上がった。
「さっきも言ったでしょ? あたしお姉ちゃんの側にいたいの。それに」
「それに?」
「ルミラスさんとも、仲良くしたいと思うし」
 そのひと言にルミラスはきょとんとした。彼女にとっては思いもよらない発言である。
 ハルカは振り返り、優しげな表情でルミラスの方を見る。
「ルミラスさんもお姉ちゃんの事、大切に思ってるんだよね?」
「な、何ですか! 私はただ1人の仲間として……!」
「え、仲間だから大切に思うのはおかしいの?」
 顔を真っ赤にして捲し立てるルミラスに、ハルカは首を傾げた。彼女の台詞の意味を勘違いしていたルミラスは一層恥ずかしくなる。このようなところをミューディーに見られたら、またからかわれる材料が増えていたろう。
「あたしが……その、お姉ちゃんに怪我させちゃった時さ」
 罪悪感を伴った顔でハルカは語る。彼女にとってあまり思い出したくない類の出来事であった。
「ルミラスさん。怒ってたよね」
「当たり前です。助けた兵士にあのような乱暴を働くなど……」
「でも、怪我したのがお姉ちゃんだったからあんなに怒ったんでしょ?」
「それは……」
 否定しようと口を開きかけるが、何かが胸に引っ掛かる。
「あの時のルミラスさん、すごく悲しそうに怒ってた。その後でお姉ちゃんに叩かれた時も」
 その出来事を思い出し、ルミラスも黙り込む。
「お姉ちゃんの事大好きだから、あたしが傷つけた時もあんな風に怒ったし、反対に叩かれた時もあんな顔したんだよね」
 ルミラスは反論しない。
 あまり認めたくはないが、ハルカの言葉に図星をつかれていた。それを自覚した瞬間、ハルカに自分の心を覗かれたような気がして何とも言えない気持ちになってしまった。
「あたしもお姉ちゃんの事好きになって分かったんだ。あたしがいなくなる事でお姉ちゃんが傷付くなら、ここに居た方がいいんだなって」
 それで、ファントムペインなどと呼ばれているこの部隊に入るというのか。
「だから、今は感謝してるんだ。ルミラスさんに」
 真っ直ぐな瞳で、ハルカは言った。
 その考え方に、ルミラスは呆然と少女を眺める。
 どうしてそんなに真っ直ぐな気持ちでいられるのだろう。そう考えたのが目の前の少女で2人目である事に、複雑な心情になるルミラス。
(この少女はフェンに似ている……)
 不器用で真っ直ぐで、見ていて危ういところもそっくりだった。だから余計にルミラスにとっては面白くない。
 自分はこんな風にはなれない。だからフェンの心のレンズに、自分は映る資格は無い。
「きっと、お姉ちゃんもあたしと同じ気持ちだと思うよ?」
「……同じ?」
「さっきはあんな風に怒ってたけど、お姉ちゃんはルミラスさんの事、嫌いになったりしないよ」
(ああ、やっぱり……)
 益々フェンと似たような事を言う少女に、ルミラスは自身の卑小さを感じてしまった。
 ハルカの真っ直ぐさが今のルミラスには眩しくて、太陽で目を傷めるように心が傷んだ。



―――――to be continue

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