猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

蓮の花さんの投稿SS30

『機動戦士ガンダムSEED DESTINY――“Phantom pain”』

《Phase:10――part.Ⅲ ~蒼の飛竜と黒の断罪者と最後の決意~》


 降雪の中を飛行していると、モニターに当たる白い欠片がじゃれついてくる妖精にも見える。
「追いかけてくる人とか、いないのかな?」
 シートの横に身を沈ませているハルカが、不安そうに聞いてくる。
 口元に余裕そうな笑みを浮かべたフェンがハルカの瞳を一瞥した。
「戦闘中だもん。そんな暇無いでしょ?」
 戦力を消耗し、ザフトの部隊に対抗するのに背一杯になるタイミングを、フェンはずっと見計らっていたのだ。
「それにあの船に残ってる乗り物で、コイツに追いつけるヤツはいないよ」
 速力、推力ならノワールやスローターダガーを凌ぐのがワイバーンである。
 わざわざ逃走手段としてMSを選んだのもそういった理由からだ。
「でも、お姉ちゃん……」
「何?」
 返事をしながら計器を操作する。
 ワイバーンに搭載されている索敵機器が最大限有効な範囲では、確認できる機影は無い。
「良かったのかな。こんな事して……」
「こんな事?」
「“だっそう”って言うんでしょ? こういうの」
「まぁ、そうだね」
 呆気らかんとした口調のフェン。
「あの、お姉ちゃん……」
「どうしたのハルカちゃん。さっきからお姉ちゃんお姉ちゃんって」
 ハルカにそう呼ばれるのが嬉しいのか、妙にニヤけている。
「そういう事っていけないんでしょう? 良かったの?」
「勿論いけない事だよ。でも、あたしはこうした方がいいって思った。理由はルミラスに言った通り」
 ハルカに自分と同じような思いをさせたくない。
 体調が思わしくないらしい妹に、早く新しい友達を紹介してあげたい。
 だが、それはハルカが自分の手元に居てくれる内でなくてはならない。
「あたしには、時間が無いのよ。でも……」
 強い意志を見せた後、ほんの少し悲しげに表情を曇らせるフェン。
「……ルミラスには悪い事しちゃったかな」
 自分に銃を向ける金髪の少女を思い出す。
 あの悲しそうな顔が瞼の裏に焼き付いている。
「お姉ちゃん……」
 ハルカが何か言おうとした時、不意に機体が傾いた。
「きゃ……!」
 フェンの膝上に倒れ込んでしまうハルカ。
「ご、ごめんなさい。大丈夫?」
「ハルカちゃんこそ大丈夫?」    
 原因は機体の推進装置を管理しているシステムのエラーによるものだった。
 どうやら、まだ問題が残っているらしい。
 機体姿勢を制御しつつ管制コンピューターにエラーを解除させる。
「全く、まだちゃんと調整出来てなかったんて……」
 呆れて溜息を付こうとしたその時、計器が高い音を立てた。
「え……」
 高速の弾丸がすぐ脇を通り過ぎていく。
 エラーを起こさなければ、間違いなく直撃していただろう。 
「これは……」
「お姉ちゃん、あれ!」
 ハルカが指差した後方監視モニターには、遠く離れた位置に黒い影が映っていた。
 識別信号を確認。その正体が判明する。
「……ノワール」
 地獄の底から蘇った悪魔と対峙した時のような表情でフェンが呻く。
(まさか、もう敵を片付けたっていうの? それともアイツだけ抜けてきた?)
 いずれにせよ。自分の計算違いである事に変わりない。
 だが、追ってくる相手がノワールというのは巡り合わせが悪過ぎる。他に追っ手がいないのはせめてもの救いだった。
 エラーは解除されたが、速度が落ちたせいでノワールに距離を詰められてしまう。
 背部の黒いウィングユニットに装着されたリニアガンが、不吉な輝きを放つ。
「まずい!」
 機体を翻し、回避態勢に入る。
「ハルカちゃん! しっかり掴まってて!」
 高速で撃ち出された弾丸を回避。シールドを掠め、灰色の空へと消えていく。
 回避運動の合間にノワールは更に距離を縮めてきた。両手に構えたビームガンを向けてくる。
 続け様に放たれる光の矢。
「ち……!」
 気付けば高度が下がっている事に今更ながら気付く。ノワールは上方からなおも光を降らせてきた。
 蒼い飛竜を仕留め損なった矢は白い大地に突き刺さり、純白の飛沫を舞い上がらせる。
(逃げ切れない!?)
 回避に手一杯のワイバーンにとうとうノワールが追いつく。
『どういうつもりだ。イーフウ少尉』
 永久凍土の如く物言いはスウェン特有のものだ。
 シールドに装備されたグレネードを1発後方に放つ。
 雪の大地に飛竜を下ろし、ライフルとシールドを構えて追撃者と相対した。
 爆発と破片を避け、黒いMSも雪に覆われた地面に降り立つ。
 蒼い翼を持つ飛竜と黒き翼を持つ断罪者が正面から対峙する。
 両者の間には無数の雪が舞っていた。
『最終警告だ。すぐ持ち場に戻れ』
「撃っといて今更、警告もないんじゃないの?」
 小馬鹿にしたような返事を返すフェン。声こそ平静を装っているが、実際は嫌な汗でノーマルスーツが肌に張り付き、気持ちが悪い。
『そうか』
 ノワールが再び銃口をワイバーンへと向ける。
(どうする?)
 フェンは胸中で自らに問いかけた。
 逃げ切れない以上は戦うしかない。
 だが、勝てるだろうか。シミュレーションでは1度として勝てなかった相手だ。   
「……お姉ちゃん」
 不安そうな声が隣から聞こえた。
 見れば、シートを掴むハルカの手が震えている。
「ハルカちゃん……」
 そうだった。
 自分には守らなければならない少女がおり、帰りを待たせている妹がいるのだ。こんな所で死ぬわけにはいかない。
 精一杯に笑みをハルカに向けるフェン。
「大丈夫。あたしが守ってあげる。ちょっと飛んだり跳ねたりするから、ハルカちゃんはしっかり掴まっててね?」
 見るからに怯えているハルカの前髪を、軽く撫でる。
「心配いらないよ。あたしを信じて」
「うん……」
 頷く少女を見て満足し、フェンはワイバーンの状態を確認する。
 武装はビームライフル、背部のウィングユニットの大型ビーム砲、頭部のバルカン砲、腰にマウントされたビームサーベル、シールドの裏に装備された武装が数点。
 MS1機を沈めるには充分過ぎる量ではある。しかし、あのノワールと1対1の状況では安心はできない。
 ノワールのビームガンは射程こそライフルに劣るが、出力はほぼ同等な上、連射性も高い。
(つまり近距離の撃ち合いはNG、か)   
 ワイバーンがノワールに勝っているのは武器の射程と推力のみ。
 距離を離しながら射撃戦を挑めば何とかなるだろうか。
(そうと決まれば)
 ワイバーンがライフルを構え、ビームを放つ。
 小細工無しの一撃はノワールに回避され、反撃のビームが飛来する。
 背部の蒼いウィングユニットを展開。機体正面をノワールに向けたまま後退し、再度ビームライフルを発射する。
 お互い、回避に重点を置いたビームの応酬を続けるが、ワイバーンはライフルを一丁、ノワールはライフルより連射に優れるビームガンを二丁使用しての射撃戦であるため、手数で不利なワイバーンが徐々に押されていく。
(別にそれでいい。重要なのは……)
 ノワールに勝つ事ではない。逃げる事が目的なのだ。倒すには至らなくとも、追撃不能になるほどダメージを与えればそれで良い。
(推進装置だけでも破壊できれば!)
 シールドを構え、迫る光弾から逃れようと急上昇を行う。
「うぅ……!」
 ハルカの呻きが聞こえたが、気にしている余裕は無い。操縦に加減を加えて勝てるような相手ではないのだ。
「舌を噛まないでね!」
 そう忠告するのが今のフェンには精一杯だった。
「大丈夫。あたしは大丈夫だからお姉ちゃん、負けないで!」
 だが、フェンの思っている以上にハルカは強い少女であるようだ。
 少女のつぶらな瞳にはフェンに対する信頼が見て取れる。
「ええ、負けるもんですか!」
 ならばその期待に答えるのが自分の役目だ。 
 下方から追撃しながら、なおも狙ってくるノワール。
 シールドを下に向けてビームを防ぎつつ、機体の推力は更に上げた。
『逃がすものか』
 冷淡な声と共にノワールも追撃速度を上げる。
 次の瞬間、ワイバーンの推進装置が沈黙した。
 故障したかに見えたが、そのままウィングを拡げて大きく宙返りを行い、速度を殺す様は獲物をはっきり捉えた猛禽にも見えた。
 ノワールはワイバーンの突然の行動に対応できず、そのまま蒼い飛竜を追い抜かしてしまう。
「もらい!」
 至近に見えるノワールの背中にライフルを向ける。例え直撃しなくとも、そこに見える黒いウィングユニットさえ破壊できれば勝ちだ。
 トリガースイッチを押し込む。
 ワイバーンのマニュピレーターが動き、ライフルのトリガーを引く。すると、ほとんど同じタイミングでノワールの背部から黒い影が伸びた。
 金属同士がぶつかる甲高い音が鳴り響く。
 ノワールを貫くはずだった光の矢は、在らぬ方向へと逸れて行った。 
「な……!」 
 驚愕に目を見開くフェン。
 同速度で進む両機を、黒い線が結んでいた。その正体はノワールの機体各所に装備されたアンカーランチャーである。
 ノワールの背中から伸びたアンカーがワイバーンの右腕を絡め取ったため、ライフルの銃口が逸れたのだ。
「……まず!」
 すぐに振り解こうとするものの、ノワール自身を支え切れるほどの硬度を持つワイヤーである。逆にノワールに引き摺られ、ワイバーンの推力が意味を成さなくなる。
 背中のアンカーをそのままに機体をワイバーンに向けるノワール。両手に持ったビームガンを捕えた獲物に向け、至近距離から光の雨を浴びせるつもりだ。
 シールドを構えても間に合わない。
(やられる……!)
 モニターを埋める光に、思わず目を閉じる。その際、咄嗟にハルカの目を手を覆ったのは自分でも間抜けだと思う。
 一瞬、フェンの網膜に妹の面影が映ったような気がした。
「……え?」
 光が収まる。
 だが、フェンもハルカも、そしてワイバーンも無傷である。唯一違うのはワイバーンの右腕に巻きついていたアンカーが、途中で切断されている事だ。 
 蒼と黒のMSを結んでいた不吉な糸が切れたたため、両者は互いに距離を取って雪の地面に降りる。
 センサーが新たな機影を確認。
 ディスプレイの一角が拡大され、接近してくる黒いMSが映し出された。
 よく見知ったゴーグルのようなカメラアイ。
 ライフルとシールドと、いくつものブースターを束ねたエールストライカーを背負ったその姿は、スローターダガーに間違いない。
「新手?」
 舌打ちしそうになるフェンだったが、通信機から聞こえた声に耳を疑う。
『フェン! 無事ですか!?』
「ええ、何とか……って、ルミラス!?」 
 つい先ほど、打ちひしがれたような顔で床に座り込んでいた少女が、MSに乗って追いかけてきたのだ。
 更に別の声が割り込み、フェンを混乱させる。
『カーチェ曹長か。さっきの射撃は何だ? ワイヤーをビームで切断などと……』
「それって……」
 つまりワイバーンがノワールに捕まった際、ルミラスのダガーが放ったビームがアンカーに命中したというわけである。
『下手をすればこちらに当たっていたぞ』
 忌々しげなスウェンに、ルミラスは毅然として言い放つ。
『当然でしょう。今のは中尉。あなたを狙って撃ったのです。外れはしましたが、結果オーライと言うべきでしょうか』
 もう1度耳を疑うフェン。
 今、ルミラスはとんでもない事を言ったような気がする。
 ダガーは速度を緩めないまま直進し、ノワールに向けてライフルを3連射。
 その場を飛び退いて逃れるノワール。標的を見失ったビームが白い大地に突き刺さる。
『カーチェ曹長。イーフウ少尉のみならず、君まで裏切るつもりか?』
『そのつもりがあるから、こうして中尉を狙っているのです!』
 続け様にビームを放つダガーに、ノワールは距離を置く。
 ダガーはそのままワイバーンの前に降り立ち、機体正面をノワールへ向ける。どう見てもワイバーンを庇っている状況だ。
『曹長、君は一体……』
「何考えてるのよ!」
 スウェンの台詞を横取りするように怒鳴るフェン。
「悩んでたくせにそんなあっさり裏切って! あそこにいる事はあなたの誇りだったんでしょ!? 自分からわざわざ危険な事に関わるなんて……」
 捲し立てるフェンに答えたのは笑い声だった。
 通信機の向こうからルミラスが、更に隣でハルカまでもが笑ってる。
「な、何が可笑しいの!」
『フェン。あなた、自分で分かってて言っているのですか?』
「お姉ちゃん、さっきルミラスさんに“一緒に行こう”とか言ってなかった?」
『戦場に身体ひとつで飛び出すような人に言われるとは思いませんでしたよ』
 この少女達にしては珍しく、同じ意見を言う。
「ちょっと、あたし真面目に……」
『分かっていますよ、フェン。そこがあなたの良い所です』
「あたしもお姉ちゃんのそういう所、好きだよ」
 更にダメ押しのような台詞を言ってくるルミラスとハルカに、とうとう黙り込んでしまうフェン。
『フェン、何をしたいか自分で考えろと仰いましたね。その答えを見つけたので、私はここに来ました』
「答え?」
 通信モニターにルミラスが映る。彼女の手には見覚えのある封筒が握られていた。
「それ……」
『あなたが大事に仕舞っていた妹さんからの手紙です』 
 フェンが去った後、何をしたいか考えたものの思い付かず、ふとこの手紙の事を思い出したらしい。
『大切な物なのでしょう? 置いていっていいんですか?』
 まさかとは思うが、それを届けるためにこのような行為に及んだというのか。   
「嘘でしょ……そんな理由で」 
『私にとっては、大事な事です』  
 モニター越しに見える彼女の表情にも声にも、迷いはなかった。
 フェンは状況も忘れて呆れ果てた。
「なんか、ルミラスらしくない」
『自分でもそう思いますが、おそらくあなたのせいです』
「あたしの!?」
 思わぬ冤罪に、シートから身体を浮かしかけるフェン。
『自覚していないようですが、あなたには人を変える力がある。そこにいる少女の例があります』
 ハルカと顔を見合わせた。
 確かにこの少女には、最初は拒絶されっぱなしではあったが。
『不覚にもその影響を私も受けてしまったようです。だからこのような暴挙にも出てしまった。あなたのせいです』
「ルミラス……」 
 言葉だけなら弾劾に聞こえるが、何だか嬉しそうな言い回しだ。
『ですからフェン、あなたには責任を取っていただきます』
「せ、責任って……」
 まるで家もしがらみも捨てたヒロインのような台詞を言われ、何となく恥ずかしくなるフェン。
「あ、知ってる。こういうの“駆け落ち”って言うんだよね」
「どこで知ったのそんな言葉!?」
 隣で不穏当な発言をする少女には、とりあえず黙っていてもらう。
『とにかく、私は既に中尉のノワールへ発砲してしまいました。後戻りは出来ませんし、後悔もしてません』
『そうか……』
 それまで沈黙を保っていたスウェンが、相変わらず冷淡な口調で呟く。
『これまでの会話内容を総合すると、つまり君達は手を組んで脱走するわけだ。装備品であるMSまで持ち出して……』
「何だかそういう事になったみたい……」
 右手で頭を抱えながら、フェン。
 珍しく饒舌になったかと思いきや、それきり黙り込んだスウェンは、ノワールに再び戦闘態勢を取らせた。



『ルミラス、本当にいいんだね?』
 通信機越しに聞こえてくるフェンの声。
 ノワールが雪を舞い上げながら突進し、両手のビームガンを構える。
「はい、その代わり私にも妹さんと“友達”になる機会を下さいね?」
 返事をしながら、ブースターの出力を上げてダガーをその場から跳躍させる。その直後、ノワールが放ったビームが通り過ぎた。
「フェン! 確かに彼は我が部隊でナンバー1です。しかし、あなたとてそれに次ぐ実力がありますし、私もいます」
『それは、頼もしいね!』
 語尾の勢いと共にワイバーンもダガーと反対方向へ跳ぶ。
 ワイバーンへ追撃のビームを連射するノワール。だが、まるで風に乗る木の葉のような動きで、フェンはそれらを回避した。
(すごい……)
 一瞬、その優雅さに見惚れるが、すぐに気を引き締める。ノワールは右手のビームガンでワイバーンを狙いながら、ルミラスに対しても左手で照準を定めてきたのだ。
 フェンほどではないが、ルミラスの操縦を受けたスローターダガーも雪の大地を疾走し、迫る殺意の光から逃れる。
『ルミラス、危ない!』
「……ち!」
 見れば、ノワールがウィングユニットからリニアガンを可動させていた。
 発射される高速の弾丸。ルミラスは慌てて機体の軌道を変える。ビームと違って直撃を免れても、被弾衝撃で行動不能になってしまう。 
 次の瞬間、スローターダガーの前面に白い壁が出現した。リニアガンが雪の地面に着弾したのだ。
「きゃ……!」
 モニターが雪の妖精で埋め尽くされる。
 機動に乱れが生じ、ルミラスは方向を見失った。
 視界が開いて最初に見えたのはノワールが銃口を向けてくる光景。
 初弾を辛うじてシールドで防いだものの、体勢が崩れたせいで第2射目への対応が間に合わない。
 しかし、ワイバーンがライフルでノワールを狙い撃ち、それ以上の攻撃がルミラスに及ぶ事はなかった。
 体勢を立て直し、再び行動可能になった頃にはノワールとワイバーンが離れた位置で射撃戦を展開しており、彼女は置いてきぼりにされた形となった。
「こんなところで……!」
 立ち往生などしていられない。
 ワイバーンにはフェンの他にハルカもいる。好き勝手に機体を振り回せるわけがない。
「私が行かないと!」
 自分が助けなくては。弱きを守る騎士らしく。

  

 射撃精度においてライフルがハンドガンより優れているのは常識と言って良い。
 ところがノワールはそのような常識など無視したように、驚異的な運動性でフェンの攻撃を掻い潜っていく。
「なんてスピード……! 馬鹿じゃないの?」
 不平を鳴らしながら、迫る黒き天使を前にフェンは蒼い飛竜を後退させた。
 ノワールは両手にビームガンを持ち、絶え間ない攻撃を浴びせてくる。
 避けきれない光弾をシールドで防ぐ。
 対ビームコーティングされた装甲板に3本のビームがぶつかり、光の飛沫を撒き散らした。
 反撃しようとシールドを退けてライフルを構えようとしたが、いつの間にか片手を自由にしていたノワールが、掌からアンカーを射出。
「しまっ……!」
 咄嗟に身体が反応し、ワイバーンに無理な急制動をかける。軽い金属音は、蒼い装甲を悪魔の尻尾が掠めた音だ。
「きゃ!」
 だが、急激な運動がコックピットを揺さ振ったため、シートにしがみ付いていたハルカがバランスを崩す。
 前のめりに倒れ、コンソールにぶつかる。
「大丈夫!?」
 悲鳴に近い声を上げ、慌てて助け起こすフェン。ハルカは顔面でパネルを1枚割ってしまい、こめかみ付近を切っていた。
「ハルカちゃん! 血! 血が! 血が!」
「お、お姉ちゃん、大丈夫だから」
 頬を伝う液体の存在を感じながらも、うろたえるフェンを落ち着かせるハルカ。
「あたしはいいから戦って!」
 ハルカの強がりも虚しく、フェンの意識が操縦から僅かに離れていた隙にノワールが肉迫してきた。
「く……!」
 振り下ろされるビームブレード。
 シールドで防げる攻撃ではない。
「この!」
 頭部バルカンを数射。
 ほんの一瞬だけノワールの動きが鈍ると、ワイバーンは機体を反転させる。
 これを見ていたルミラスは至近距離で敵に背を向けるワイバーンに悲鳴を上げかけたが、次の瞬間、その蒼い翼から銃身が現れるのを見て呆気に取られた。
 ノワールのリニアガン同様、ワイバーンのウィングユニットに装着されている大出力のビーム砲である。普通は機体前面まで展開させる大砲を、相手に背を向ける事で発射までのタイムラグを帳消しにしたのだ。
 ビームライフルよりも強力な光の奔流が吐き出される。ワイバーンに光の羽が2枚生えたようにも見えた。
 狙いなどつけていないが、至近距離の発砲ではノワールも回避せざる得ない。そのままブースター出力を全開にして距離を取れば勝機はある。それがフェンの咄嗟の作戦であった。
「……嘘!?」
 ところがノワールは動きを止めるどころか、まるで読んでいたかのように軌道を横にずらす。シミュレーションで見た、あの独特の動きだった。
 推力をそのままに、空中で真横に側転するノワール。その脇をワイバーンのビームが通り過ぎ、お返しとばかりにリニアガンを展開。冷たい銃口がワイバーンを捉えた。
 咄嗟の事で回避運動が間に合わない。
 数秒の出来事が、フェンには酷く長い時間に思えた。高速発射されるリニアガンの様子も、どこかスローモーションに映る。
『フェン!』
 はっきりとした声が耳に届くと同時に、真横からの衝撃がワイバーンを弾き飛ばす。
 悲鳴を上げ、ハルカが一層強くシートにしがみつく。
 直後に聞こえる破砕音。しかしワイバーンにダメージはなかった。
「ルミラス!?」
 横からワイバーンに体当たりしたスローターダガーが、代わりにリニアガンに直撃された。
 右半身を失い、錐揉み状態のまま落下していくダガー。応答が無いという事は気絶しているのか、或いは――。
「ルミラス!」
 ノワールに向けてライフルを乱射しつつ、下降してダガーを追いかける。
 必殺の一撃を回避されてか、ノワールも一旦距離を離した。
 白い地面に激突する寸前、ダガーを捕まえる事に成功し、そのままゆっくりと機体を降ろした。 
「ルミラス! 返事して!」
「ルミラスさん!」
 2人の呼び掛けに、ようやく返ってきた声は酷く辛そうだった。
『フェン……ご無事ですか?』
「それはこっちの台詞よ!、怪我してるんでしょ!? 大丈夫なの!?」
『問題……あり、ません。大した事は……』
「大した事なかったら、普通そんな声出さないよ! 馬鹿! なんて無茶な事……」  
『……情けない声、出さないで……下さい。それに……馬鹿とは失礼な。無茶は……あなたの代名詞、でしょう』
 最後の方は咳き込んでいて言葉になっていない。
「生きてるのは分かったから、それ以上喋っちゃダメ! いい!? すぐに助けるから、ちゃんと生きてるのよ!?」
 そう言って、今度はハルカの方を見る。その目には決意の色が浮かんでいた。 
「ハルカちゃん、降りて」
「え?」
 予期せぬ台詞に、ハルカは呆然とフェンを見返す。
「そんな心配そうな顔しないで。ルミラスを早く助ける。そのためには……」
 そう言ってモニターを拡大し、こちらに近付いてくるノワールを映し出す。
「アイツを倒さなくちゃいけないの」
 こちらを見るフェンの真っ直ぐな瞳で、ハルカは彼女の言わんとしている事を理解した。
 1対1で戦うためには、自分を乗せたままではいけないという事だ。
「寒い中で待たせちゃうけど、ごめんね? 傷の手当も後でちゃんとしてあげるから」
「分かったよ、お姉ちゃん。でも、無理しないでね?」
 力強く頷くハルカに、フェンは微笑みながら言った。
「当たり前でしょ? 無理するのはあたしの趣味じゃないもの」
「お姉ちゃん。それ本気で言ってる?」
「あ、どういう意味かな?」
 冗談混じりに軽く笑った後、ハッチを開けてハルカを降ろす。
「ルミラスの傍に居てあげて。その娘がまた無茶しようとしたら止めてね?」
「うん、任せて!」
 子供らしい大仰な動作で胸を叩くハルカを見て、フェンは満足そうに笑った。
 ブースターの風でハルカを吹き飛ばさないように距離を取り、ゆっくりとワイバーンを飛翔させる。
「あなたには迷惑かもしれないけど、もう少し付き合ってもらうからね。ワイバーン」
 機械に話しかけるなんてどうかしているな、と自覚しながらフェンは胸中で苦笑した。
 このMSも最新鋭機なはずなのに、このような逃亡劇に使われる羽目になってさぞ不本意だろうなどという同情も覚えてはいた。



 降りてみて気付いたが、いつのまにか雪は止んでいた。
 寒さに震えそうになるハルカは、しかし上空に走る光から目が離せない。
 灰色の空で、蒼い天使と黒い天使が華麗な舞踏を繰り広げている。生死を賭けた、不吉で美しい舞踏。
「お姉ちゃん……」
 不安げに呟く少女の言葉が、白い息になって流れていく。
 機械音が聞こえ、ハルカがそちらを見やるとダガーの胸のハッチが開いたところだった。
 慌てて駆け寄り、慣れない手つきで半壊したMSの装甲によじ登る。開いたハッチから金髪の少女が出てくる気配はない。
「ルミラスさん!?」  
 コックピットを覗き込む。
 奇妙な形に歪み、機器が滅茶苦茶になった操縦席に横たわるノーマルスーツが、緩慢な動作でヘルメットを脱いだ。
「騒々しい声を出さないでくれませんか? ハルカ」 
 眼鏡に半分罅が入り、額を切っている。
 他にも身体のあちこりに傷を負っており、声を出すのも辛そうだったが、意識ははっきりしているようだ。
「……大丈夫なの?」
「それは……私も聞きたいですね。あなたも頬で血が固まっていますが?」
 将来有望な2人な少女の顔に傷が付いてしまったという事実は嘆くべきであろうか。しかし、当の本人達には苦笑を浮かべる心理的余裕すらあった。
「お互い様って言うんだよ。こういうの」
「……でしょうね。これもフェンのせいです。彼女には必ず責任……」
 そこまで言いかけて咳き込むルミラス。
「ルミラスさん、お姉ちゃんに喋るなって言われたんだから」
 そう言って再び空を仰ぐ。
 2体のMSは一瞬毎に位置を変え、戦いは激しさを増していく。
 肩越しに振り返るとルミラスもその光景に目を奪われていた。同時に、その表情から一抹の不安が読み取れる。
「大丈夫。お姉ちゃん約束したもん。ちゃんと戻ってきて、傷の手当してくれるって」
 だから信じようと、その無垢な瞳は語っていた。
 ルミラスは身体の痛みに耐えつつ、黙って頷いた。
 2人が見上げる灰色の空で、ワイバーンとノワールの戦いはなおも続いている。  
 ビームガンの洗礼を、機体を翻して回避したワイバーンがライフルを放つ。それを更に回避しつつ、ノワールは距離を詰めた。
 足先からアンカーが射出されてワイバーンを捕らえようとしてくる。
「本当に……変なギミックが多いのね! アレは!」
 変則的な動きをするアンカーを避けたところへ、ビームが飛来する。シールドで防ぐと、今度は掌からアンカーが伸びてきた。
「まず!」
 ワイヤーがシールドに絡みつく。
 咄嗟にライフルを捨ててビームサーベルを抜き、切断した。
 危機は脱したが、ライフルを捨ててしまい、回収している余裕はない。唯一の勝機である射撃戦は封じられたも同然だ。
 ワイヤーをシールドに絡ませたまま、迫る光弾から逃れるワイバーン。
(どうする?)
 近距離戦は不利だが、だからといって背中のビーム砲を使わせてくれるような相手ではない。
 ライフルを失ったワイバーンに、ノワールは無慈悲な機動で迫ってくる。
「四の五の言ってる場合じゃないか!」
 ビームガンやアンカーランチャーを駆使して畳み掛けるノワール。
 無口なスウェンが“もう諦めろ”と冷酷に言っているようにフェンには思えた。
「冗談じゃないわよ!」
 頭部バルカンで弾幕を張り、フェンもワイバーンを前進させる。
 ノワールのビームガンが光を放つ。至近距離で発砲されたそれを、フェンは信じられない反応速度で機体姿勢を下げ、直撃を免れた。
「諦めるもんですか! 時間が無いのよ! あたしには!」
 病状が悪化したという妹。
 怪我をしたハルカとルミラス。
 約束を守らなくてはならない相手が、自分にはいるのだ。
 ビームサーベルを一閃。
 咄嗟に抜刀しようとしたノワールの右腕を切断した。
『ち……!』
 通信機から舌打ちが聞こえる。
 実際には胴体を両断するつもりだったが、ノワールの回避が僅かに速く、片腕のみに終わったフェンの方こそ舌打ちしたかった。
『だが……甘い!』 
 衝撃がコックピットを揺さ振る。
 ノワールの蹴りがワイバーンを弾き飛ばした。
 遠退く意識を必死で繋ぎ止めるフェン。ここで気を失ったら永遠の眠りに直結してしまう。
『……終わりだ!』
 静かな、だがはっきりとした死の宣告。
 ノワールがリニアガンを展開する光景が見えた瞬間、フェンの手が無意識に動いた。
「終わりじゃない!」
 発射される弾丸。
 更なる衝撃と耳障りな被弾警報。
「あ……!」
 声を上げたのは地上で見守っていたハルカだった。
 彼女の見上げる先で、フェンのワイバーンが、その蒼い羽の片方が無残に引き裂かれる。まるで太陽に蝋で固めた羽を溶かされたように、ワイバーンは失速した。
「お姉ちゃん!」
「……大丈夫。フェンは、負けません」
 痛みを堪えた声が聞こえ、ハルカは振り返る。
 とても怪我を負っているとは思えないルミラスの表情に、ハルカは戸惑いつつも頷いて再び空を見上げた。
 落下するワイバーンを追ってノワールも下降する。
 既にコックピットには機体の残量エネルギーが少なくなっていると、先ほどからずっと警報が鳴っている。
 残った片手でビームガンを持ち、最後のエネルギーで光の矢を放つ。
 ワイバーンの左脚が撃ち抜かれた。
 ライフルは無い。頭部バルカンも残弾は僅か。左脚まで失われ、そして何より機動性を生み出していたウィングユニットが片方失われてしまった。
 だがフェンの瞳には、まだ諦めの光は灯っていない。
「脚や羽が無くたってぇ!」
 自暴自棄とも取れるフェンの叫び声と共に、墜落寸前のワイバーンは片羽の状態でブースターを最大にし、落下スピードを緩めながらビームを回避した。
 ブースターの出力一旦下げ、雪の地面に右脚を接地させる。
 そのまま白い大地を蹴ると同時にブースターを一気に燃焼。
 ブースターと蹴りの反動によって急上昇していくワイバーン。
『……何?』
 真っ直ぐ向かってくるワイバーンに一瞬驚きながらも、スウェンは冷静にビームガンで照準する。
「遅い!」
 ワイバーンが頭部バルカンの残弾を惜しみなく発射する。ノワールの装甲にはさほどの効果は無かったが、手にしていたビームガンに穴を空け、使用不能にしてしまう。
 ビームブレードを抜き、ワイバーンを迎え撃つノワール。
 垂直方向にすれ違う両機。
 ノワールのブレードがワイバーンの右脚を切り落とした。それに対し、ワイバーンのサーベルは虚しく空を切る。
「……まだ!」 
 ノワールと上下を入れ替える瞬間、サーベルを捨ててシールドに巻きついていたノワールのアンカーを掴み、シールドを手放す。
 振り子の要領でワイヤーを操り、シールドをノワールにぶつけた。
 シールドの裏に装備されていたグレネードが爆発し、炎の花をノワールに咲かせる。
「もらった!」
 予備のサーベルを抜き、ノワールに切りかかるワイバーン。
 ノワールの方も背部のウィングを破損させながらも、迫るワイバーンにブレードを振るう。
「フェン!」 
「お姉ちゃん!」
 地上で固唾を飲んで見守っていた2人の少女の声が重なる。 
 彼女らの目の前で、蒼き飛竜と黒き断罪者の戦いが決着した。
 


「あ、戻ってきた」
 ボナパルトの甲板にストライクノワールが降り立つ。
 エネルギーを使い切り、片腕を失い、夥しい傷痕が刻まれた装甲に、整備班は青くなる者と激怒して赤くなる者に分かれた。
「おかえり、スウェン」
 コックピットから降り立った銀髪の青年を、ミューディーとシャムスが出迎える。
「皆言ってるぜ? 味方殺しだとさ」
「脱走兵が新型MSを奪って逃走したのよ? 撃墜して当たり前なのにね」
 肩をすくめて言う彼らだが、この手の汚れ仕事はファントムペインでは当たり前なので、さほど表情は曇っていない。
「しかし意外だったな。フェンはともかく、ルミラスの奴まで一緒に脱走なんてよ」
 シャムス・コーザの発言に対し、ミューディーが答える。
「惚れた弱味ってやつじゃない? それに、元々あの娘にここでの仕事は向いてなかったようだし」
「そうか?」
「そうよ。それより任務も一段落したし、久しぶりに飲みに行かない? もうすぐロアノーク隊と合流するみたいだから、それまでは派手な戦闘も無いでしょ」
「艦内クラブか? ここは酒の種類が少なくて好きじゃないんだけどな」
「文句言わないの」
 不服そうなシャムスを促し、3人は移動を始めた。
「……で、スウェン」
 口調を改め、物言わぬ同僚に向き直る。
「“首尾”はどうだったの?」
 何やら含みがあるらしい彼女の台詞に、スウェンは数瞬の無視の後、呟くように言った。
「目的は果たした。新型もダガーも撃墜した。機密が漏れる事はないだろう」
 相も変らぬ淡白な言葉。
 そこに込められた意味を、ミューディーがどこまで汲み取れたかは不明である。
「フーン。アンタも、案外甘いところあるのね」
「……何の話だ?」
「別に。さ、どうせ報告は後になるんでしょ? スウェンも着替えて一緒に来なよ」
 特に返事もなく去っていくスウェンに小さく鼻を鳴らし、ミューディーはふと付近の窓を見た。
 先ほどまで止んでいた雪がまた降り始めている。
 彼女の、シャドーに彩られた瞳にほんの僅かだけ憂いのような感情の光が横切ったのは、果たして気のせいなのだ。
「元気でやんなよ。ルミィ……」  
 その呟きは、誰にも聞かれる事はなかった。
 ミューディーは知る由も無いが、彼女が見つめていた方角にはまさにワイバーンとスローターダガーがあったのだ。
 両機とも、ほぼ機体の原型は留めていない。
 周辺の雪には微かに紅い染みが拡がっているが、次第に降雪が強くなり、ついには吹雪となったために覆い隠されてしまった。
 この吹雪ならば、いずれ鉄巨人の亡骸までも純白の中に隠してしまう事だろう。
 C.E 73。
 地球連合が開発した最新型MS『GAT-X105F――“ストライクワイバーン”』。
 ザフト軍最強のMS『ZGMF-X10A“フリーダム”』を模倣して作られたストライカーシリーズであるが、第81独立機動群――通称ファントムペインに配備されたものの、デストロイ輸送の護衛任務中に搭乗員共々行方不明になったと、公式記録には残された。
 


―――――to be continue

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2 Comments

ルミナ  

感想です。

こんばんは、ルミナです。
早速アップされていたので、読みました。
シャムスとミューディーが最高にいいです。
この2人好き(^^♪
後、スウェンもとってもいい感じになってきました。
これからもがんばってくださいね。

2007/09/14 (Fri) 00:34 | EDIT | REPLY |   

蓮の花  

遅くなりましたが(汗)

>ルミナさん
 感想、ありがとうございます(^^)

 スウェンもそうですが、シャムスやミューディーもスタゲ本編を見ていて興味が湧いたのですが、2人の性格や台詞回しは私の独断部分が含まれております(汗)
 ちなみにノワール、ブルデュエル、ヴェルデバスター、スローターダガーもプラモを買いましたが、まだノワールとヴェルデは積まれております(汗)
 

2007/10/08 (Mon) 11:11 | EDIT | REPLY |   

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