猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

アカデミー・ライフ 第14話

『アカデミー・ライフ』

第14話 34 years ago -渓谷-



グラスシェール渓谷。
それはフラムエルクの東に位置する、ヨーク最大の谷。
巨大な滝と雄大な自然で有名なこの渓谷を越えれば、王都までの間に障害物は存在しない。
そのヨーク最後の砦ともいうべき渓谷に、今ジグリムの大艦隊が接近しつつあった。

「現在ポイント、B-248、R-873……航路、全て順調。このまま進めば明日にはフラムエルクに到達の見込みです」
「ふむ。どうやらこれでヨークも終わりだな……」
ジグリム飛行艦隊旗艦、バルレート。
その艦橋で、今回の出征の総司令官バグド・ディルバス大将は勝利を確信していた。
陽動によってヨークの本隊をおびき出し、その隙に東から侵攻し王都を陥落させる。
その作戦が完璧に成功しつつあるのだから、それも当然だった。
「まもなくグラスシェール渓谷上空にさしかかります」
「うむ。念のため索敵を怠るなよ………と言っても、敵にはまともな戦力など残ってはおらんだろうがな」
オペレーターの報告に対しても、余裕の表情でそう応える。
「報告によれば、王都に残る戦力は艦艇が数隻程度との事。それでも少しは抵抗してもらいたいものですな、これでは退屈でたまりません」
副官の青年が半ば本気で言う。
「ははは、たしかにな。まあ奴らが奇襲をしかけてくるならこの辺りだろう、期待して待つとしよ……」
ディルバスがそう言いかけた途端、
「前方の岩陰に敵艦の反応!! 数は……わずか1隻です!!」
その報告に艦橋全体に緊張、続いて嘲笑が満ちた。

「たった1隻で奇襲をかけるとはな……しかもあれで隠れているつもりとは、実に呆れた連中だ。一撃で沈めてやれ」
もちろんディルバスも例外ではなく、嘲りながらも砲撃を命じる。
「了解、砲撃用意……あ、敵艦、離脱していきます!!」
「ふん、気づいたか。よし、前方の船隊に追撃させろ、あいつらも退屈しているだろうからな」
「閣下、罠の可能性は無いでしょうか?」
「罠? ふん、もしそうでも我が軍は150隻の大軍だぞ。たかだか数隻の艦艇で何ができるというのだ」
副官の意見にそう応えると、指揮官用のシートに腰をおろすディルバス。
まるで狩りでも楽しむかのようなその表情は、先ほどよりも更に自信に満ちていた。

「敵、追撃してきます!! 数は60!! 2個船隊です!!」
プレーツの旗艦フレスフォルンの艦橋に、オペレーターの緊迫した声が響く。
「……予定どおりだな。 このまま距離を保ちつつ後退する」
報告と正反対の冷静な声で、プレーツが指令を出す。
自軍とは比較にならない程の大軍に追われているというのに、その顔は汗のひとつもかいてはいない。
「さて、頼みますよ、ロア提督」
誰にも聞こえないほどの小声でそう呟くと、モニターに写る渓谷を眺める。
その雄大さに一瞬とはいえ戦いの事を忘れそうになり、珍しく慌てて襟元を引き締めるプレーツだった。

一方、グラスシェール渓谷の中央付近。
険しい崖に隠れるようにして、6隻の艦艇が谷底に潜んでいた。
もちろん冷却処理によって、熱反応を消した状態である。
そのうちの1隻、ロア旗艦エルクアーツの艦橋。
レーダーに展開される光点の移動を見ながら、ロアとミナリー、それにフランは同時にうなずいた。
フレスフォルンを追撃する多数の光点。
そしてそのすぐ後方には、更に多数の光点がこちらに向かって接近してくる。

「よっしゃ、うまくいったな!! ジグリムの奴ら、完全に艦列が2つに分かれたぜ」
「ああ、さすがプレーツ、うまく敵を誘導してくれている。さて、あとはガルナの方だが……」
ロアがそう言ったとたん、待ちわびていた通信が艦橋にもたらされた。
「ガルナ様から通信です!! 『例の準備、全て完了』との事です!!」
「そうか!! 何とか間に合ったな、ミナリー」
「はいっ」
その報告にロアとミナリーが安堵の表情を浮かべる。
タイムリミットギリギリではあったが、これで全ての準備が整ったのだ。
「敵艦隊、更に接近!! 計算ではあと0.5リス(20分)後に、本艦の直上を通過します!!」
「よし、全艦発進準備!! 艦全体の冷却レベルは3をキープ、機関部のみセカンドモードで待機!!」
専用回線を通じて、ロアの命令が各艦に飛ぶ。
それに呼応するかのように、艦全体にメインエンジンの起動音が低く響き始めた……。

「!! レーダーに敵艦の反応、数は6隻!! ……!? た、谷底から急速上昇してきます!!」
「ふん、やはりまだ隠れていたか。よし、全艦砲撃準備………!? ま、待て!!」
余裕の表情で攻撃を指示しようとしたディルバスだったが、すぐにその表情が一変する。
敵の6隻の艦艇が、先行する2個船隊とディルバスの本隊との間に割り込んで来たのだった。
「ほ、砲撃不能!! 敵が少数すぎて味方にも命中してしまいます!!」
「!!! 先ほどの艦艇の狙いはこれか……!!」
完全に意表を突かれた司令官の顔に、冷たい汗が流れる。
追撃に熱中するあまり、知らないうちに奇襲ポイントへ向かって誘導されていた事。
そして同時に自軍の艦列にスペースを作らされていた事が、ディルバスの思考回路を急速に混乱させた。
「わ、我が船隊も反撃不能!!」
「敵艦艇、砲門が開きます!! し、司令官、指示を!!」
各船隊から悲鳴まじりの通信が立て続けに入ってくる。
司令官の混乱は艦隊全体に伝染し、各船隊の動きにまで影響を及ぼしたのだ。

その混乱をロアは見逃さなかった。
「撃て!!」
ジグリムの艦列に割り込んだまま、ロア率いる6隻の艦艇は一斉に攻撃を開始する。
同士討ちを恐れてまともな反撃が出来ない敵に対し、ヨーク軍は前後に無差別に砲撃をしかけ、次々に撃破していく。
特に背後を襲われる形となった先行の2個船隊の被害は大きく、たちまち10隻以上の艦が沈んでいった。
「ジグリム艦艇、すでに20隻以上を撃沈………さすがにそろそろ反撃がくるはずですね、提督?」
前面のメインモニターを見ながら、そう進言するミナリー。
艦の外を飛び交う光線の光が、その横顔を照らしている。
「ああ、そうだろうな。よし!!全艦、作戦第2段階へ!!」
参謀の言葉にうなずくと、ロアはすぐさま次の指令を出す。
優勢に見えてもこちらは7隻、敵の指令系統が混乱しているうちに勝負をつけねばならなかったのだ。

「クッ、ひるむな!! 敵は少数、全艦上昇して上から砲撃するのだ!!」
次々に沈む味方の艦艇を見て、ようやくディルバスがそう判断する。
この方法なら味方に被害を及ぼす事無く、ヨーク軍を全滅に追い込めるはずだった。
だが次の瞬間、オペレーターの緊迫した声が再び艦橋全体に響いた。
「敵艦隊、再び上昇開始!! わ、我が軍の直上に展開します!!」
「何!? うおっ!?」
突然の衝撃に危うく倒れそうになるディルバス。
ジグリム軍よりも速く、直上に移動したヨーク軍が爆雷の投下を開始したのだ。
しかもその攻撃は装兵機の輸送艇に集中しており、驚くべき命中率で撃ち落していく。
「い、いかん!! このままでは装兵機が……!! 輸送艇を渓谷に降ろせ、すぐに装兵機を発進させるのだ!!」
慌てながらもそう指令を出すディルバス。
もし彼がもっと冷静だったなら、上空のヨーク軍への反撃を優先したかもしれない。
いくら自軍が混乱しているとはいえ、ヨーク軍は7隻しかおらず、まともに戦えば全滅させる事は難しくなかったのだから。
だが彼はフラムエルク攻略用として温存しておいた装兵機を失う事を恐れた。
そしてそれこそ、ロアが待ちに待っていた瞬間だったのだ。

それは突然の事だった。
ジグリムの輸送艇団がグラスシェール渓谷に降下した瞬間、辺り一帯が凄まじい光に包まれたのだ。
更にその直後に爆音が轟き、その衝撃は渓谷全体を揺るがした。
「な、何だ!? 何が起こったのだ!!?」
「け、渓谷内で爆発です!! ど、どうやらこの付近一帯に爆薬がセットされていた模様!!」
ジグリム飛行艦隊旗艦バルレートの艦橋に怒号と悲鳴が交錯する。
その間にも連鎖爆発が起こり、輸送艇のみならず空中の艦隊にも被害が続出し始めた。

「ようし!! やったぜ、ロア!!」
渓谷上空に展開するヨーク軍の戦艦ベルネアで、ガルナが拳を突き上げる。
今回の作戦における彼の任務……渓谷内への爆薬の設置、そしてタイミングを計っての起爆。
それらを完璧にやり遂げたのだった。
「エルクアーツより入電!! ただちに作戦最終段階へ移行、との事です!!あ、それと……」
「何だ?」
「ええと……その……ロア提督が『お疲れ。あともう少しだから居眠りするなよ』と伝えてくれと……」
「………あのな……」
その通信内容に呆れ、次に苦笑するガルナ。
わずか半日あまりで爆薬の設置を完了させて疲れている仲間を、どうやらロアなりに励ましてくれたようだ。
「まったくあいつは………おい、全員聞いたな!? 疲れてるだろうが、もう少しだけ頑張れよ!!」
そう大声で言うとガルナは混乱状態にある敵軍に突撃を命じる。
「了解!!」
ベルネアの艦橋に兵士達の威勢のいい声が響く。
部下というものは上司の影響を強く受けるものである、という格言の、ちょうどいい見本だった。

視界すら遮るほどの爆煙に包まれる渓谷に向かって、7隻の艦艇が一斉に突っ込んでいく。
渓谷の戦いはいよいよ終わりの時が近づいていた。


-続く-

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