猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

アカデミー・ライフ 第15話

『アカデミー・ライフ』

第15話 34 years ago -誤算-



「ただ今戻りました、ロア提督」
エルクアーツの艦橋に入ってきたプレーツが、そう敬礼する。
「ああ、ご苦労だった。それでどうだ、ジグリム軍は?」
「はい、敵はグラスシェール渓谷の後方まで後退。そこで戦力の再編成を行っている模様です、おそらく明日には再侵攻してくるかと」
「そうか……やはりこのまま引き揚げてはくれないか」
それほど驚いた様子もなくロアが呟く。
もちろんこのまま引き揚げてほしいというのが本音だったが、そううまくはいかないものだ。
「ったく……しつこいよな、ジグリムもよ。あれだけやられてまだ懲りてないのかよ」
舌打ちと共に言うと、デスクをガツンと蹴っ飛ばすフラン。
いつもならここでガルナあたりが文句を言うのだが、まだ戦いの疲れが抜けてないのか黙ったままである。

その戦い……渓谷の戦いが終わったのはちょうど昨日の今頃。
ジグリムの5個船隊をわずか7隻の艦艇で撃ち破るという、にわかには信じられない戦いだった。
渓谷内の爆発によって混乱したジグリム軍に突撃したヨーク軍。
しかし実際のところ、ロア達は突撃後すぐに離脱していた。
だが熱と煙で索敵機能が半減していたジグリムはそれに気づかず、無差別というべき応戦をしてしまう。
その後、ようやく混乱から回復した彼らが見た物は、無残な同士討ちで破壊された大量の艦艇だったのだ。

「それで敵の残存戦力ですが、飛行艦艇73隻、装兵機は20機余りと推測されます」
「半数の艦艇と8割の装兵機を失っても、まだあきらめてないとはな……たいした闘志というべきかな」
少し疲れた声で感心するガルナ。
というより、このまま国に帰ったら降格程度じゃすまないだろうからな、と内心で思うロアだが口には出さなかった。
「……そういえば……ミーナの姿が見えませんが、何かあったんですか、提督?」
「ん? ああ、彼女なら部屋で寝てるよ。さすがに疲れが出たんだろう」
渓谷の戦いの後、ミナリーは渓谷内のジグリム負傷兵の救出を提案し、率先してその作業に当たっていた。
敵にしてみれば『作戦を立てた本人が何を今更』、『ただの偽善だ』との誹謗もあったかもしれない。
だがその行動によって数百人の命が救われたのもまた事実である。
「そうですか………ミーナらしいですね」
「あいつの場合、甘いって言うんだよ、プレーツ。まだこっちが不利なのは変わらないんだぜ?」
フランの意見は前半はともかく後半は正しい。
かなりの被害を与えたとはいえ、敵はまだ10倍以上の戦力を残している。
しかもこの時、ヨーク軍にとって重大な計算違いが起こっていたのだった。

「……本隊からの連絡はまだか?」
2人の会話を横目で見ながら、ロアが通信士に問いかけるが、返答は悪い意味で予想どおりだった。
「まずいな………こりゃとんだ誤算だ」
そう言って舌打ちするロア。
彼の計算では今日中に本隊が帰還する事になっていた……だが未だその気配すらない。
もちろん通常航路ではあと3日はかかるのだが、ロアはヨーク全体の大気の気流を調べ、一つの航路を算出していた。
その航路ならば強い気流を利用して、はるかに短時間でフラムエルクに帰ってこれるはずなのだ。
「なにやってんだ、本隊は!! せっかく渓谷で時間を稼いだってのに、これじゃあ全部パーじゃねえかよ!!」
フランが怒声をあげるが、もっともな意見だった。
渓谷で奇襲をかけて時間を稼ぎ、その間に敵の予想より早く本隊を帰還させる。
それが今回の作戦だったのだから、本隊が来なくてはこれまでの全てが無駄になってしまう。
「航路データの転送はとっくに終わってるから、もう帰っていてもいいはずなんだがな……ガルナ、お前はどう思う?」
「一つ心配なのは司令官がエグゾギルムの奴だって事だぜ。あいつなら『こんな航路は危険だ』とか言って、却下する可能性があるからな」
「…………」
十分ありえる事だけに、誰一人反論できない……艦橋に重い沈黙が流れかけたその瞬間……。

「おはようございます……ふあ……」
入り口の方から、あくびまじりのミナリーの声が届く。
「ああ、ミナリーか。起きたばかりで悪いんだが、ちょっとまずい事に………!!?」
言いながら振り向いたロア達は思わず目を丸くした。
満面の笑みを浮かべたネコのイラスト、それが無数にプリントされたパジャマ姿のミナリーがそこに立っていたのだ。
「ええと………ミナリー? その、なんと言うか……服装について細かく言うつもりはないんだが、それはさすがに……」
「……?」
その言葉にミナリーの眠そうな顔が、ゆっくりと下を向いた……かと思ったら、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。
「…………きゃあ!! な、なんで、わたしパジャマなんですかっ!?」
『それはこっちが聞きたい』、その場の全員がそう思った。
もちろん単に寝ぼけてたから、が答えなのだが、混乱状態のミナリーが気づくはずもない。
「あ、あの……っ!! わ、わたし、着がえてきますっ!!」
ひとしきり慌てた後、ぱたぱたと走って出て行くミナリー。
ピンク色のパジャマが視界から消える……それと同時に艦橋に笑い声が弾けた。
「ははははは……!!! く、苦しい……どうしたんだ、ミーナのやつ……新手のギャグか……!?」
「め、めずらしいですね……ひいひい……エルフィス様があんな失敗するなんて……!!」
見ればロア達だけじゃなく、艦橋の兵士達までも大笑いをしている。
普段はほとんど失敗のないミナリーだけに、可笑しさも数倍だったらしい。

「ははは………ふう、笑ったらなんか少し気が楽になった……。よし……信じてみよう、本隊の到着を」
ようやく笑いが収まってきたロアが、そう決心したように呟く。
その眼光には先ほどまでの迷いは、すでに消え去っていた。
「ぜえぜえ……信じるって、あのエグゾギルム司令官をですか、提督?」
笑いで息を切らしながらも、そう不審がるフラン。
「いや、司令官については全然。俺が信じてるのは………」
そこで言葉を切ったロアだが、フランもガルナも誰一人聞き返そうとはしない。
彼らにとってその続きは言われるまでもなくわかる事だったのだ。


そして翌日。
予想どおりジグリム軍は再びフラムエルクへ向かって動き出す。
対するヨーク軍7隻は、グラスシェール渓谷から西へ3000リーク(4キロ半)の地点で待ち構えていた。
「敵、グラスシェール渓谷を通過!! 数は約70!! まもなく射程距離に入ります!!」
ロア旗艦エルクアーツに緊張が走る。
「来たか……よし、全艦行動開始!!」
ロアの指令にいっせいに後退を開始するヨーク軍。
一発も砲撃する事もなく、いかにも誘導するかのような後退に、ジグリムの船隊の速度が少しづつ低下していく。
「ふう、よかった……追撃してきませんね、提督」
「ああ、渓谷ではこの手で痛い目にあってるからな、敵さんも用心深くなってるようだ」
安堵の息をつくミナリーに応えながら、モニターに映る敵を眺めるロア。
実際のところ、彼も内心では冷や汗をかいていた。
前回とは違い、今回の後退はただのはったりにすぎず、伏兵などいるはずもなかったのだから。
もしこの時ジグリムが突撃などしてこようものなら、ヨーク軍はなすすべなく全滅していただろう。

「さて、いつまで騙せるか……頼むぞ、ガリュード、エオリア……」

そう呟くとロアは視線を空に移す。
戦闘にはふさわしくないほど澄みきった青空……それは未だ彼の待つものを映してはいなかった。


-続く-

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