猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

アカデミー・ライフ 第19話

『アカデミー・ライフ』

第19話 34 years ago -星霜-

 
 
「……ル……ヴィ……、メル……ヴィ……、ちょっとメルヴィってば!!」

「え……っ?」
間近から聞こえてくる声に、はっと我に帰るメルヴィ。
慌てて自分の周りに視線を走らす。
古めいた家具に優しい雰囲気の部屋……。
そしてこちらを心配そうに見ている親友のミルカと、その祖父フラン。
『そっか……メルヴィ、ミルカちゃんのお家に遊びに来て……それで……』
その光景にメルヴィの頭の中が、ようやく現実の状況を理解する。
ここはリーベル家の居間。
そこでミルカの祖父であるフラン・リーベルの語る、34年前のロアファミリーの話を聞いていたのだった。

「も~~何度呼んでも返事がないんだもん、心配しちゃったよお」
「あ……ご、ごめんね、ミルカちゃん。ちょっとぼーっとしちゃって……」
心底ほっとした顔の親友に向かって、すまなさそうに謝るメルヴィ。
どうもフランの話に聞き入ってしまったらしい。
本当に不思議な体験だった。
34年前のヨーク、まるで自分がそこにいたかのような……そんな不思議な感覚。
飛行艦艇の機関音や、ロアファミリーたちの笑い声すら、まだ耳に残っている気がする。
「ねえ、ほんとにだいじょうぶ? 少し横になったほうがいいんじゃない?」
「ううん、もう平気だから。心配かけてごめんね、ミルカちゃん」
「そう?それならいいんだけど……あ、お茶冷めちゃったね。ちょっと待ってて、新しいの入れてくるから」
メルヴィの「ありがとう」という声を背中で受けながら、ミルカは台所へ向かう。
そして居間にはメルヴィとフランの2人が残された。

「……さて、年寄りの昔話はどうじゃったかな、メルヴィちゃん。少しはお茶のお供になったかな?」
ずず……と冷めたお茶を一口すすると、フランがにこりと笑う。
「はい!!……あ、で、でも「少しは」って意味じゃなくて、すごくステキなお話で……その……」
ちょっと言い方を間違えたらしく、慌てて説明するメルヴィ。
まだ少し頭がぼーっとしているようだ。
「ほほ、それはよかった。若い者にそう言ってもらえるとワシとしても嬉しいわい」
だがフランはそんな事を気にする風でもなく、嬉しそうに笑っていた。
年齢こそ違っても、目の前の写真と少しも変わらない優しい笑顔。
きっとこれがヨークの英雄の1人、フラン・リーベルの本当の顔なのだろう。

「でもステキだな……ロアファミリーの人たちって……。本当の家族みたいで……あったかくて……」
「家族か……そうじゃな……」
優しい笑顔で応えると、フランはゆっくりとうなずく。
「友人、仲間、戦友……そのどれにもあてはまる関係じゃが……やはり家族と呼ぶのが一番しっくりくる連中じゃったなあ……」
そうしみじみと呟きながら、写真をじっと眺めるフラン。
その笑顔が、ふと寂しそうな表情に変わったようにメルヴィには見えた。
「あの……どうかしたんですか?」
「……ん? 何がじゃね?」
「えっと……その……フランさん、今ちょっと寂しそうに見えたから……」
遠慮しながらも小声でそう言うメルヴィ。
ほんの一瞬の事だったが、その寂しそうな表情がどうしても気になったのだ。
「……いや、なに……この写真を撮ってから、もう34年も過ぎたんじゃな、と思ってなあ……」
呟くように言いながら、フランはそっと目を閉じた。
過ぎた日々を懐かしむかのように、記憶の中の誰かに思いをはせるように。
「ありきたりな言い方じゃが、まるで昨日の事のように思い出せるよ……あの頃の事は……。ロア提督がいて、ミーナ達がいて……本当に楽しかったなあ……」
何ともいえないような不思議な空気が部屋に満ちていくのを、メルヴィははっきりと感じた。
温かく、それでいて壊れやすさを感じる不思議な空気。
「この時間がずっと続くと、ワシは信じて疑わなかった……。おかしなものじゃよ……死と隣り合わせの戦争をしているとわかっていても、心のどこかでそれを信じていたんじゃからな……。そう、別れの瞬間までも……」
目を開いたフランの表情が先ほど見せたような、寂しげな表情に変わる。
同時に部屋の空気が、泣くように震えた。

「プレーツ・ジン・ディスリード、ミナリー・ジニア・エルフィス、エオリア・ジニア・ウッドゲート……それにガルナ・ジン・ノーマ……皆、今はもういない……。ワシなどが残って、あんないい連中が先にいなくなるとはなあ……」
写真の中の家族達を見ながら、フランは大きなため息をつく。
34年間の時間の重み……その全てがこめられたようなため息に、メルヴィは何も言えなかった。

「……と、すまんすまん……柄にもなく少し感傷的な気分になってしもうたわい……!?」
言いながらメルヴィの方に向き直ったフランの表情が、驚きのそれに変わる。
驚くのも無理はなかった、メルヴィの瞳から涙があふれていたのだ。
「あ、あれ……? ご、ごめんなさい……メルヴィ、涙が………」
自分が泣いてる事にようやく気づいたのか、慌ててメルヴィが涙を拭おうとする。
だが涙は止まる事無くあふれ続ける。
「う……うぐ……ふぇっ……」
自分でも不思議だった。
会った事もない、今日初めて名前を知った人たちの話なのに……涙が止まらない……。
前にもこんな事があった気がした……そう、アルフォリナ女王が亡くなったのを知った時……。
あの時も今と同じで……どうしようもなく悲しくて……涙がでてきて……。

「……う……ぐす……」
それでもなんとか涙を拭おうとするメルヴィ。
『メルヴィ。泣いてあげるのもいいけど、悲しんでばかりじゃ、天国へいけないのよ』
あの時、優しくそう言ってくれたユミールの言葉を思い出して、何度も涙を拭う。
悲しんでばかりいたらいけない……亡くなった人たちもそんな事は望んでいないはずだから。
「………すまんの、余計な事を話してしまって………」
そんなメルヴィを無言のまま見つめていたフランだったが、そう小声で呟くと上着のポケットに手をやる。
「……さ、これを使うといい……」
そこから取り出したハンカチを差し出した時だった、部屋の外から軽快な足音が近づいてきたのは。

「お待たせ~~。ごめんね、時間かかっちゃって。なかなかいいお菓子が見つからな………って、ど、どうしたのメルヴィ!!?」
「……あ……ミルカちゃん……ぐす……っ……」
新しいお茶を運んできたミルカがドアを開けた瞬間、驚くべき光景が目に飛び込んできた。
泣いているメルヴィ、そしてそんな彼女に向かって手を伸ばしているフラン。
その手には涙を拭う為のハンカチが握られていたのだが、角度が災いしてかミルカの目には映っていなかった。
と、なれば、この状況から導き出される答えは、おそらくそう多くはないだろう。

「お~~じ~~い~~ちゃ~~ん~~!!!」
「ひっ!?」
地の底から響いてくるような孫娘の声に、戦慄を覚えるフラン。
かつては軍人として多くの戦いを経験した彼にとっても、これほどの恐怖を感じたのは初めてだったかもしれない。
「ま、ま、待つんじゃ、ミルカや……!! ワ、ワシの話を聞くんじゃ……!!」
必死で説得しようとするフランだが、選んだセリフも最悪だった。
このセリフによって説得が成功した例などあるのだろうか。
「この変態!!! 人の親友になにしてんのよ~~っ!!!??」
「ぐおっ!!」
やはり、と言うべきか説得は失敗に終わり……次の瞬間、フランの額に鈍い衝撃が襲いかかる。
その衝撃の正体が、湯呑みだという事を確認しながら、ゆっくりと崩れ落ちていくフランだった……。


「それはおじいちゃんが悪い!! メルヴィにそんな話したら、泣くにきまってるでしょ!! この子、すごく優しい子なんだから!!」
「……うう……だから何度も謝っとるじゃないか……悲しませるつもりはなかったんじゃよ……」
額のたんこぶに、ミルカの手で薬をぬってもらいながら、すまなそうに謝るフラン。
ようやく誤解が解けたというのに、なおも謝らされているのが、少しばかり哀れかもしれない。
「あ、いいんです、そんな……。メルヴィこそ泣いたりなんかして、ごめんなさい……」
まだ少し赤い目をしたまま、メルヴィもぺこりと頭を下げる。
フランの手当てやら何やらで慌ただしかった間に、どうにか涙は止まってくれたようだ。
「もう、おじいちゃんってば、わたしに昔話をしてくれた時も最後は寂しそうな顔するんだから……。そんなに思い出すのが辛いなら、無理に話さなくてもいいのに……」
と、そんな事を呟くミルカ……つい先ほど、話を聞きたがるメルヴィの援護をしていた事などすっかり忘れている。
「うむ……そうかもしれんなあ……。たしかに別れの時を思い出すと、心に痛みを覚えるわい…………だが……」
「……だが?」
「このまま忘れてしまうには、あまりにも温かい思い出なんじゃよ……あいつらと過ごした時間は………」
優しい笑みを浮かべ、孫娘の顔を見るフラン。
続けてその視線がメルヴィの方へと移る。

「それに……たとえ人がいなくなっても想いは残り、そして受け継がれるものじゃ……。先年亡くなったアルフォリナ女王の想いを受け継いでくれた者達がいたように……」
「フランさん………」
まるで自分に向けられたかのようなその言葉に驚くメルヴィ。
もしかしたらフランさんは、ゼ・オードとの戦いの事も全部知っているのかもしれない……ふとそう感じたのだ。
だが、そんなメルヴィの内心を知ってか知らずか、フランはそれ以上は言わずに視線を写真に移した。
「だからワシも忘れるわけにはいかんのじゃ……次の世代にあいつらの事を伝える為にもな……」
写真の中の家族達をじっと見つめたまま、自分に言い聞かせるかのように語るフラン。
「……………」
その姿にメルヴィもミルカも一言もなく、ただじっと黙っていた。
死んだ者への想い、そして生き残った者としての責任……目の前の老雄が、祖父が、長い時間それを背負って生きてきたのが伝わってくる。
きっとロアも、ガリュードも同じ想いを胸に生きているのだろう……そう確信できた。

「じゃから、ミルカにメルヴィちゃん。2人にも憶えていてほしいんじゃ……34年前の家族の事を……戦乱の時代を生きた、あいつらの事を……」
目の前の少女達を優しい目で見ながら、フランは心からそう言った。
34年間の思いを伝えるように。
これから先の世代に、想いと記憶が受け継がれるように。
「うん……」
「はい……」
そう同時にうなずく、ミルカとメルヴィ。
メルヴィは今度は泣いていなかった。
たしかに悲しい気持ちもあったが、それよりも温かな気持ちの方が大きかったのだ。
「ありがとうな………あいつらに代わって礼を言わせてもらうわい……。 あ、そうじゃ……それともう一つ、肝心な事があった………」
「?」
「あいつらだけじゃなく、ワシの事も忘れんでくれよ? こんな素晴らしい事を言った老紳士がいた、とアカデミーの女生徒達によろしくな?」
そう言うとフランはニコリと笑った。
今までとは一変した陽気な声に、その場の空気がふっと緩む。

「はあ……珍しくいい事言ってると思ったのに……感心して損しちゃった……」
「………くすくす……あは……」
続けてミルカの呆れた声と、メルヴィの笑い声が部屋に響く。
いつしかその笑い声は2つになり、やがて3つになる。
『メルヴィ、ぜったい忘れないから……。クルルちゃんやゲンちゃん……それにお兄ちゃんにも、いつかきっと伝えるから……』
重なり合う笑い声の中、そう心に誓うメルヴィだった。


「ねえ、おじいちゃんって、メルヴィと会うの今日が初めてだよね?」
カチャカチャとカップやトレイを片付けながら、ミルカがそう問いかけたのは、メルヴィが帰ってから10分ほどしての事だった。
「ん? ああ、そうじゃが……それがどうかしたかの?」
「ううん、たいした事じゃないんだけど……。なんかおじいちゃん、メルヴィの事、前から知ってるみたいな感じがしたから」
もしかして前に会った事あるんじゃないの、と言いたそうなミルカ。
一方のフランはというと、一瞬だけ驚いた表情をした後、楽しそうに笑みを浮かべた。
「ほほ、考えすぎじゃよ……ただ、ロア提督の模型の修理を手伝ってくれたという、優しい少女の事なら知っとるけどなあ……」
「??? 何の話、それ?」
彼女は知らない……自分の親友がロア提督の知り合いである事も、彼と共にゼ・オードと戦った事も。
そして、掃除中に壊してしまった模型をめぐる、心温まる一幕も……。

「ミルカ、それにお父さん!! そろそろ夕飯の時間ですよ~~!!」
「あ、はーい、お母さん!! じゃあ行こ、おじいちゃん!!」
まだ不思議そうな顔をしていたミルカだが、台所から聞こえてくる夕飯の合図に、意識がそちら側に切り替わったようだ。
ニコニコと笑いながら、フランの手をせかすように引っ張る。
『やれやれ、まったくこの子は………』
そんな無邪気な様子に、思わず苦笑するフラン。
少なくとも今のミルカにとっては、夕飯がなによりも大事な事のようである。

「どうしたの?急がないと、ご飯冷めちゃうよ?」
「ああ、そうじゃな……さて、今日の夕飯は何かのう……?」
「この匂いはきっとトルティだよ!! 楽しみ~~♪」
嬉しそうなミルカに手を引かれながら、そっと後ろを振り返るフラン。
その優しそうな目が、ある一点で止まった。

『また今度な………』

そう心の中で言うと、フランは居間を出ていく。
前を歩く孫娘と、その先で待つ今の家族達のもとへ。
パタンと閉じたドアの向こう側で、写真の中の家族達は幸せそうに笑っていた……。


-続く-

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