猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第1話

『ヨーク戦記』

第1話 9月、フラムエルクにて

 
 
「ただいま戻りました、参謀長」
ヨーク王都フラムエルクの中央司令室に入ってきた黒髪の青年は、デスクに高く積まれた書類の山に向かって、そう敬礼した。
いかにも女性の関心を惹きそうな端麗な顔つき、逆に同性には嫉視を買いそうなそれを、全身からあふれる穏やかな雰囲気が和らげている。
彼の名はプレーツ・ジン・ディスリード、24歳。
ヨークの飛行艦隊に所属する提督の1人であり、かのロアファミリーの一員である。
「あ、プレーツさん、お疲れさまでした」
書類の山から、少女の声で返事が返ってくる。
当然だが書類が喋ったわけではない、正確には書類の山の後ろにいた少女が返事をしたのだ。
その証拠に「んしょ」という声と共に山が横に寄せられると、水色の髪をポニーテールに束ねた少女の顔が現れる。
まだあどけなさの残る顔をしたその少女は、ミナリー・ジニア・エルフィス。
14歳にしてヨーク軍総参謀長を務める天才少女であり、彼女もまたロアファミリーの一員だった。

「もう、やめてくださいよ、その『参謀長』って言い方は……。それでどうでした、哨戒の方は?」
少し困ったようにミナリーが笑う。
この地位に就いてから半年も経っているのに、まだ慣れていないようだった。
「ああ、ごめん、ごめん。平和なものだよ、国内の様子は。この先もずっとこうだと良いんだけどね」
こちらも笑いながら謝ると、手短に報告を済ませるプレーツ。
「ほんとですね。ここしばらく大きな戦いも無いし………やっぱり平和が一番ですよね」
「先のグラスシェール空域会戦で、ジグリムもかなりの被害を出したからね。こっちから手を出さない限りは大丈夫だと思うよ、今のところ」

グラスシェール空域会戦。
それは半年前にヨークとジグリムの間に勃発した戦いの名称である。
グラスシェール渓谷付近の空域で行われたこの戦いは、ロア達の活躍でヨーク軍の完勝に終わった。
そしてこの戦いをきっかけに、ヨークのロアファミリーの名が世界に知れわたる事になったのである。

「う~~疲れた………。何の事件もないパトロールなんて退屈で死んじゃいそう………」
「また物騒な事を………そんな事言ってると、ばちが当たりますよ、エオリアさん」
「わかってるわよ、平和が大切だってのは………。でもさあ、ちょっとくらい事件があってもいいじゃないのよお………」
そんな会話をしながら、2人の若い男女が司令室に入ってくる。
引き締まった筋肉と少年らしさを残す顔つきをした青年が、ガリュード・ジン・ヴラッツェン。
背中まで伸ばした金色の髪と、まず美人と表現してもよい整った顔立ちの女性が、エオリア・ジニア・ウッドゲート。
共にヨークの騎士であり、同時にロアファミリーの一員でもある2人だった。

「あ、ガリュードさん、エオリアさん、お疲れさまです」
「お疲れ、2人とも。その様子じゃ、そっちも何もなかったみたいだね」
「はい、いたって平穏でしたよ。それよりエオリアさんの方が文句ばっかり言ってて困りました」
「ちょっと、ガリュードくん!! あのねえ………」
苦笑するガリュードに何か言い返そうとしたエオリアだったが、ふと目標を変えてミナリーの方に向き直った。
「う~~ミーナならわかってくれるわよね?何か事件が起こる事で緊張感を養おうっていう、私の深~~い考えを……」
「…………あ、あはは………ま、まあ、なんとなくは………」
一瞬返答に窮したミナリーだが、曖昧ながらもうなずいた。
半分はそれしか返事のしようがなかったからであるが、もう半分はエオリアが心から戦闘を求めているわけではないのを、よくわかっているからなのだ………が。
「でもおかしいなあ……今日は何か大きな事件が起きる予感がしてたのになあ……」
心から残念そうに首をひねるエオリアの姿に、ちょっぴり自信が無くなったミナリーだった。

「しかしまあ、すごい量の書類だね………」
ミナリーのデスクに積み上げられた書類の山に、ガリュードが唖然とする。
ヨーク軍の総参謀長ともなれば多忙なのは当たり前だろうが、それにしてもこれは多すぎる。
デスクワークとはあまり縁の無いガリュードから見ても、軽く通常の数倍はあるのがはっきりわかった。
「はい、ロア提督のぶんまで頑張らなくちゃいけないんで………。あ、でも大丈夫ですよ、ちゃんと今日中には片付けますから」
「ロア提督のぶん? あ、そうか、提督達は今アガルティアへ行ってるんだったっけ」
思い出したように呟くガリュード。
彼らの尊敬する司令官、ロア・ジン・クランクハイト提督は、現在隣国のアガルティアの首都シャングリアに滞在しているはずだった。
数日前から、アガルティアからの要請により「軍事顧問」として首都に招かれているのである。
ちなみにヨークの騎士であるガルナ・ジン・ノーマとフラン・ジン・リーベルも、護衛という名目で同行している。
「そっかあ……大変ねえ、ミーナも……何か手伝える事ってある?」
「あは、ありがとうございます、エオリアさん。でも平気ですよ、お仕事好きですから、わたし」
そう笑顔で言うと、ミナリーはサインを済ませた書類を何束かまとめて引き出しにしまう。
彼女の言葉は本心だった。
たしかにそれなりに大変な仕事ではあったが、戦場で敵を倒す為に頭を使う方がよっぽど辛い事なのだから……。

「でもガルナさんは良いとして、何でフランが同行者に選ばれたのかなあ?一番トラブル起こす確率が高いのにねえ?」
「………………」
エオリアの発言に何か言いたそうにした3人だったが、賢明にも実際に言語化する事はしなかった。
「……そういえばミーナは今回は同行しなかったんだね、なんでだい?」
さりげなく話題の方向を微妙に変えるプレーツ……こういう時、彼の落ち着いた口調は実に効果的だった。
「あ、はい。今回は国外ですし……それにこの時期に司令官と参謀長が両方とも国を留守にするのはちょっとまずいので……」
「ああ、そうか、たしかにそりゃまずいかもね。いくら今は平穏とはいえ、いつまた戦争が始まるかわからないんだし」
ガリュードが納得したようにうなずく。
「ふ~ん、でも本当は一緒に行きたかったんでしょ? ロア提督達が出発してからしばらく機嫌悪そうだったもんね、ミーナは」
「え!? ち、違いますっ!! わ、わたし、機嫌悪くなってなんかないですっ!!」
エオリアの冷やかしに、真っ赤になって抗弁するミナリー。
その様子があまりに面白かったのか、エオリアがにやにやと笑いながら更にからかう。
「あらあら、そうだっけ~~? そのわりには野生のウルゥス(熊)みたいな怖~~い顔してたけどね~~?」
「もう!!エオリアさんっ!! わたしだって、たまには怒るんですからねっ!!」
真っ赤な顔のまま、ミナリーは大声と共にデスクから立ち上がった。
すると………。
「………(ごにょごにょ)」
「………(ひそひそ)」
突然、司令室に響いたその声に、周りの職員やら士官やらが何事かという目で発生源を見ている。
「あ……ご、ごめんなさい…………」
周りの視線に気づいたらしく、小柄な身体を更に小さくしてぺこりと頭を下げるヨーク軍総参謀長。
軍のナンバー2ともいえる肩書きが泣きそうな程の威厳の無さである。
もっともそれが彼女の魅力だという意見もあり、重くなりがちな司令室の雰囲気を和ませているのは、たしかな事実なのだが。

「まったく……みんなお仕事頑張ってるんだから、邪魔しちゃダメよ、ミーナ♪」
「うう~~」

「イジメっ子だね………」
「ですね………」
10歳も歳の離れた女性2人の会話を聞きながら、プレーツとガリュードは顔を見合わせ、同時に苦笑した。
ロア提督達がいれば、もっと大騒ぎになっただろうな、と不謹慎な想像をしながら。
こんな時間が少しでも長く続くように、そう思いながら。

時は正統暦4050年、9月。
後世、「ゼ・オードの恐怖」に次ぐ悲劇として知られる事になる、「世界大戦」の勃発する1ヶ月程前の事である……。


-続く-

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