猫々蹴球

ねこねこしゅーきゅー、と読むと大吉です。デレステブログになりつつありますが、アニメ感想と投稿SS、サッカーもありますヽ( ´▽`)ノ

ヨーク戦記 第2話

『ヨーク戦記』

第2話 大戦の序章



アガルティア王都シャングリアは人口80万を数える大都市である。
しかもただの大都市というだけでなく、歴史を感じさせる優雅な街並みと穏やかな風土から、観光地としてもまず1級と言えた。
その都に、とある1人の男が数日前から滞在していた。
やや茶色がかった黒髪と、暇があれば物珍しそうに辺りをきょろきょろと見まわす視線。
軍服を着ていなければ観光客に間違えられてもおかしくない……そんな男だった。
彼の名はロア・ジン・クランクハイト。
ヨーク軍総司令官にして、飛行艦隊司令官も兼ねる38歳の男だった。


「ジグリムへ出兵!? 本当ですか!?」
アガルティア軍元帥、ルフォイト・ジン・ハイルストームの執務室で、ロアは思わず大声を上げてしまった。
軍事顧問としての公務も終わり、帰国まで数日となったある日、観光中に突然呼び出されたあげくに予想外の一言を投げつけられたのだ。
「うむ、前回の会議で決定したのだ。世界の盟主として、あの国を放置する訳にはいかんという結論が出てな。全ては世界の平和の為だよ、提督」
ロアの驚きをよそに悠然と語るルフォイト。
「世界の為……ですか」
およそ感情のこもらぬ声で呟くロア。
おそらくジグリムの方も似たような事を主張するでしょうね、と言いたかったが、さすがにこらえた。
彼はこういう時に『世界の為』とかいう言葉を使われるのが嫌いだった。
本当に世界の平和を望んでるんだったら、まず外交なり何なりから始めるべきだろうに。

「すでに準備も完了して、あとは号令が下るのを待つだけだ。……まあ今まで黙っていた事は悪かったが、なんといっても極秘事項なのでな」
「それは理解できます。しかし何もここまで大掛かりな出兵をする事もないと思われますが……」
先ほど渡された資料に目を通して、さすがのロアもその規模に驚いた。
出兵計画によれば、飛行艦艇500隻に加え、アガルティア騎士団のほぼ全軍が出撃するというのだ。
これだけのスケールでの出兵は、ここ数年で間違いなく最大のものだろう。

「なあに、心配はいらんよ、補給体制も万全で行うつもりだ。それにヨークのロアファミリーとまではいかぬかもしれんが、我が軍にも優秀な将帥はいるからな」
ルフォイトの言葉に適当な返事をしながら、何やら考え込むロア。
彼は別にそんな事を不安にしている訳ではなかった。
この出兵を発端として、世界のバランスが大きく崩れるのではないか……そんな不安がロアにはあったのだ。
アガルティア対ジグリム、そんな単純な構図では済まなくなるような………。
そう、この大陸にはもう一つ軽視できない国があるのだった。

「無礼を承知で申しますが、もしもリンバーグがアガルティアに敵対したら……どうなさいます?」
少し迷ったが、ロアは自分の考えを伝えてみる事にした。
もしアガルティアとジグリムがぶつかり合い、共に大きな被害を受ければ、最も喜ぶのはリンバーグではないか。
それどころかジグリムがリンバーグと手を結ぶ可能性すら、皆無ではないのだから、と。
「………ロア提督はなかなか想像力が豊かですな。だがその心配は無用だな、リンバーグ公国は我がアガルティアとは親戚関係にある。
我らに敵対するなど、まずありえない事だよ」
一瞬考え込んだルフォイトだったが、すぐに笑顔を作り直す。
だがその笑顔はリンバーグを信じるというより、信じたがっているようにロアには見えた。
「ですが………」
なおも言いかけてロアは口を閉ざした。
よくよく考えてみればリンバーグだけでなく、ヨークもまた同じ立場なのだった。
ここでこれ以上下手な事を言うと、ヨークとアガルティアの信頼関係にすら亀裂を入れかねない。
「まあそう心配せんでくれ、ロア提督。貴官らが先のグラスシェール会戦で、たった7隻の艦艇で勇戦したのだ。我らもジグリムに強烈な一撃をくらわせてみせるさ」
「……………」
『要するにこの前の俺達の勝利がジグリムの戦力を過小評価させ、出兵のきっかけになってしまった訳か……』
ルフォイトにしてみれば純粋に覇気を口にしただけだろうが、憮然とせずにはいられないロアだった。


「………どうした?不機嫌そうな顔して」
滞在中の宿舎、シャングリアホテル。
そこに戻ってきたロアを出迎えたガルナ・ジン・ノーマの第一声がそれだった。
下士官時代からのロアの戦友である彼は、公式の席以外ではいつもこんな言葉使いである。
ちなみに年齢はロアより2つ年下の36歳。
ヨーク軍において、騎士と提督の2つの称号を持つ、バランスの取れた軍人であった。

「ハイルストーム元帥との間にトラブルでも起こしたんですか?」
心なしか楽しそうにそう言ったのが、フラン・ジン・リーベル、28歳。
ガリュードやエオリアと並ぶ剣腕を誇る、ヨークの騎士である。
もっとも、長身で筋肉質な外見から、騎士というよりは戦士の雰囲気を漂わせているが。
彼ら両名もまたロアファミリーの一員に名を連ねており、今回はロアの護衛の為にアガルティアまで同行してきたのだった。

「不機嫌にもなるさ……観光中に呼びつけられたあげく、あんな気の滅入る事を聞かされちゃあな……」
一つため息をつくと、ロアは先ほどの話について説明を始めた。
アガルティアのジグリム侵攻、更にそれによって生まれる可能性のある、最悪の未来図を……。
「そりゃあ、なんともまあ………」
「やれやれ、しばらく平和だと思ったら、また戦争か………」
説明が終わると、フランとガルナはそれぞれの表情で呆れたように呟く。
ガルナはともかく、トラブル好きのフランでさえうんざりするほどに、その話は衝撃的だったようだ。

「しかも今回は『ジグリムを討って世界を平和にする』、なんて事を考えてるから、更にタチが悪い……」
ロアが不機嫌そうに首を左右に振る。
「世界の為とかって公言する連中、提督は嫌いですもんね」
「別に全部が全部嫌いって訳じゃない。中には本当に世界の為になる事をしてる連中もいるのはわかってるよ」
フランの言葉に、ロアはささやかに訂正を加えた。
「ただ自分なら世界をどうにかできるって思い込んでる連中が嫌いなだけだ。そういう連中に限って、危険な考え方をしやすいからな。ましてやそれを戦争を起こす理由に使うなんて最悪だよ」
怒りすら感じさせるほどに、強烈な口調で吐き捨てるロア。
つきあいの長いガルナでさえ、これだけ怒っているロアを見るのはひさしぶりの事だった。

「……と、ここで愚痴ってても何もならない。とりあえずはヨークに帰って今後の事を考えよう」
自分の口調の激しさに嫌気がさしたようにロアが呟く。
こうなった以上、アガルティアに滞在していてもいい事は何も無いのだった。
「そうだな……一刻も早くミーナ達にもこの事を知らせておかないとな」
「ったく……。もうしばらく休暇を楽しめると思ってたのによ………」
心底悔しそうにフランが頭を掻く。
そんな彼にとってただ一つの救いは、エオリアにお土産として頼まれていたシャングリア名物のクッキーを買わずに帰れるという事だった。
それというのも、昨日渋々買いに行った時に彼が見たものは、100m以上にも及ぶ大行列だったのだから………。


……翌日、ロア達はシャングリアを離れ、ヨーク本国への帰途についた。
そしてそれに合わせるかのように、アガルティアによるジグリム討伐軍もまた遠征の途につく。
歴史の流れはゆっくりと、だが確実に激流への変化を遂げようとしていた………。


-続く-

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